消えない名前

 台風の次の日の朝は、学校内を見回りです。

被害はありませんでしたが、外に置いてあったいろいろな物が飛ばされています。

1年生の朝顔、3年生のオクラ、5年生のバケツ稲など、あの強風の中がんばっていたのでしょう。

 1年生が朝顔の世話をするために、ペットボトルをジョウロ代わりに使っています。

そのペットボトルが何本も、遠くまで飛ばされています。

運動場の泥にまみれ、汚れています。

 朝顔育ても終わったことだし、もし必要でも、新しいペットボトルを用意してもらえばよい、と、ごみ袋に集め始めました。

集めながらふと見ると、1本だけ、泥汚れの下に名前が見えました。

指でこすって泥を落とすと、名前がはっきりとわかりました。

 最近は、ジョウロらしく水が出るように、専用のキャップも売っており、そのキャップが外れて近くに落ちていたのですが、そのキャップにも、同じ丁寧な字で、しっかりと名前が書いてありました。

 朝顔の種を植える前に書いてもらっでしょうから、書いてからずいぶん経っているのに、お父さんかお母さんが書いた名前は、はっきりと残っていました。

それで、このペットボトルだけは、キャップを取り付け、汚れを落として、朝顔の鉢の横に戻しました。

 小学校に入学する時、また、上の学年に上がる春休み、子どもの持ち物に名前を書くのはとても大変ですね。

1年生用の個人持ち算数教材セットの細かい部品一つ一つに名前を書くのはとても大変です。

 今は、名前シールも売っているので、貼り付けるだけでいいのですが、それでもけっこうな時間と根気がいります。

私も妻も、文句を言いながら、書いたりはったりした時のことをよく覚えています。

とても大変な持ち物への記名ですが、実はこれがとても子育てには重要です。

 理由の一つ目は、名前を意識することが、子どもが一人の人間として生きる最初の儀式だからです。

人からきちんと名前を呼ばれたり、自分の持ち物に書いてある名前を見ることで、人は、自分が独立した一人の人間であることを知ります。

同時に、誰もが自分と同じように独立した人間であることを学びます。

 自分も含めて、人は一人一人違うのだということがわかった時、他人にやさしくなれます。

それがわからない子は、いつまでも人に甘え、人に迷惑をかけます。

また、学校で苗字も呼ばれることで、家族への認識も高まります。

 理由の二つ目は、記名が親の愛情のバロメーターになるからです。

自分の持ち物、どれ一つとっても、お父さんやお母さんの丁寧な字で自分の名前が書いてある。

これほどひたひたと知らず知らずのうちに心に染みる愛情は、なかなか他にはありません。

 子育てに限らず、愛情の深さは、その人を思う時間に比例するのだと思います。

その人のことを考えている時間、その人のために何かをしている時間が、そのまま愛情の深さになります。

ただし、それを相手が喜ばない場合は、ただのストーカーですが、親がストーカーと呼ばれる心配はありません。

 理由に挙げた2つのことは、もちろん、どちらも子どもたちには今はわかりません。

しかし、本人が気づかなくても、こうして少しずつ少しずつ、でも確実にふりかけた愛のシャワーは、お子さんを素敵な人にしていきます。

 お父さん、お母さん。ご自身は、小さな頃、親からどんな愛情のシャワーをかけてもらっていましたか。

そして、今、お子さんにどんな愛情のシャワーをかけてあげようと思いますか。


 『速効よい子』へ戻る   ホームページ『季節の小箱』へ戻る