心の材料  ありがとう

 「ありがとうと人から言われたら、君は何と返事をしますか」

 「どういたしまして、と言います」

 「では、どういたしましての前につけるのは、はい、ですか、いいえ、ですか」

 教室でこんな質問をしてみます。「どういたしまして」は、高学年の学級なら、すぐに出てきます。

でも、「はい」か「いいえ」は、自信を持っていえる子は少ないようです。

 「ありがとう」の語源は「有り難い」…こんなことは滅多に起こらないという意味です。

「あなたが私にしてくれたことは、滅多にないめずらしいことです」と言って相手に感謝するのです。

だから、返事は「いいえ」です。

「そんなことはありませんよ。みんながしていることです。」と答えます。

 これを知ると子供たちは、きちんと「いいえ」と答えられるようになります。

今は、「はい」でも「いいえ」でも気持ちが伝わるので、どっちでもいいといえばいいのですが、外国の人に日本語を教える先生は、きちんとここを「いいえ」と教えているのではないでしょうか。

 先日、子どもたちと総合学習で地下道の掃除をしました。

午後3時ごろ、6年生の男子5人と1時間くらいやりました。

 多くの人が通りましたが、その中で3人の方が「ありがとう」と声をかけてくださいました。

一人は自転車に乗った中年の女性。

もう一人は仕事を引退なさっていると思われる年齢の散歩中の男性。もう一人は若いお母さんでした。

 赤ちゃんを乳母車に乗せてゆっくり楽しそうに歩いてきたその若いお母さんは、子どもたちににっこり笑って「ありがとう」と言ってくれました。

乳母車は古い形で、子連れ狼みたいな形のものです。

 赤ちゃんは眠っていたようです。

でも、このお母さんの「ありがとう」の声は、きっと赤ちゃんに届いています。

このお母さんは、こうして歩きながら、「ありがとう」やすてきなあいさつをたくさんしているでしょう。

そのたびにこの赤ちゃんの脳に、お母さんのやさしい声で温かな言葉が染み込んでいくのです。

 脳はやがて、お母さんの言葉を材料にして心を作っていくでしょう。

この赤ちゃんは、やさしい声と温かな言葉を材料にしてできあがった心を持った人になるのです。

 人間は、お母さんのお腹の中にいる時から、声を感じて生きています。

そして、生まれ、1年しないうちに、言葉で考え始めます。

だから心は声と言葉でできあがります。

 14歳までの脳は、まだ100%完成していません。

完成はもうすぐですが、まだ間に合います。

お父さんとお母さんのやさしい声と温かな言葉で、お子さんの心を完成させてください。


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