いっしょに歌う
三十八年間の中で、最も歌の上手な6年生の卒業式です。
彼らは、4年生、5年生と、音楽専門の先生が学級担任になり、この2年間で、美しい歌声と安定したピッチのハーモニーを獲得しました。
その子たちを、そのまま受け持たせてもらって、何も指導しないのに、最後の年を美しい歌声の溢れる教室で過ごすことができ、私は幸運でした。
また、この1年は、学年全員を「音楽部」「美術部」「文学部」「体育部」に分けて、学年行事などの活動をさせてきました。
その中で、音楽部では、1曲ごとに子どもの中でプロデューサーチームを作り、曲の選定や分析、指揮、伴奏、練習計画などをすべて任せました。
最初は戸惑っていましたが、3学期には、教師の指示がなくても、子どもたちが積極的に合唱曲を磨いていく姿が見られ、頼もしく感じました。
子どもたちが頑張り、6年生をお祝いする全校集会のために1曲、卒業式のために4曲の合唱曲を用意できました。
その中の1曲に、ゆずの「栄光の架け橋」があります。
この歌は、音域も広く、合唱曲にするには難しいので、子どもが選んできた時に、「辞めた方がよい」と助言したのですが、子どもたちは「やる」と決めました。
先日、あるお母さんから、「子どもが家で、栄光の架け橋の練習をしているので、一緒に歌ってしまいます。大好きな曲です」というコメントをいただきました。
それを読んで、この歌をやめさせなくて良かったと思いました。
親子で同じ歌を歌う、同じ歌が好き、というのは、とても大事なことだからです。
私が子どもの頃には、今ほど情報が発達していなかったので、巷に流れる歌の数は、今と比べものにならないほど少ないものでした。
ですから、「大人も子どもも知っている歌」というのが、今と比べて、大変多かったように思います。
例えば、当時、年末のレコード大賞や紅白歌合戦で歌われる歌の多くは、家族みんなが知っている歌でした。
でも、今は、親は知っていても子は知らない、子は知っていても親は知らない、そんな歌が多いのではないでしょうか。
以前、散歩の話を紹介しましたが、人間は、同じことをして体のリズムを合わせることで、心の関わりが深まります。
同じ歌を歌うというのは、一緒に散歩するのと同様、体、呼吸のリズムを合わせる行為です。
親子で知っている歌が多かった時代の方が、親子の絆が深かったような気がするのは、このためです。
今、親子で一緒に歌える曲は、何曲ありますか。
「そんなの、数えきれない」と、ぜひ、答えていただきたいところです。