声変わりを恥ずかしがる

 6年生も修学旅行に行く時期ともなると、10歳の節目を遥かに越え、急激に大人に変わっていきます。

 体の特徴で最も目立つのは、男子の声変わりです。

(女子も声変わりしますが、あまり目立ちません。声変わりをしている時期に声が出ないのを、風邪などと勘違いすることがあるので、気をつけて大事に扱ってください。無理をさせると一生、取り返しのつかない声になります。)

 今、担任している学年では、男子四十一人中七人が、私と同じ大人の声の高さで話しています。

これは、人より早い順調な成長なのですから、喜ばしいことなのですが、周りと違うことを嫌う日本人の特性なのか、本人たちは、あまり嬉しそうではありません。

 声変わりで、特に恥ずかしがるのが、歌です。

放っておくと、声変わりをした男子は、全く歌わずに、誤魔化すようになります。

何回も6年生を担任して、そういう場面を沢山見てきましたが、これは、本当にもったいないことです。

 周りと調和していこうとする日本人の特性は大事にすべきもので、何でもかんでも自分の主張をせよ、というのは考え物だと私は思いますが、この声変わりについては、恥ずかしがらず、堂々としてほしいといつも思っています。

 声変わりをした男子が入ると、合唱に厚みが出るし、小学校の他の学年では出せない歌声になります。

みんなと違って嫌だなあ、と思っている声は、実はみんなでやっている合唱のレベルを上げるための大事な道具なのです。

 音楽指導の上手な先生は、声変わりをした小学生の男子が自信を持って歌えるようにしてしまいます。

音楽を指導するだけではなく、音楽で指導して、子どもの心の成長を促したり、救ったりできる先生は、本当に実力のある先生です。

 「みんな違って、みんないい」という金子みすゞの詩を多くの人が大事にしていますが、実際に、本人が「だめなこと」と思っていることを「よい道具に変えて」やらなければ、この言葉も絵に描いた餅です。

 行動が遅い、話すのが下手…、

 家庭内でも、兄弟と比べて、自分はだめだなあ、と思っているところがあるかもしれません。

ほんの小さなことでもいいので、「だめだと思っていることは、案外、かけがえのない道具になるのだ」ということを、実践で教えてやるのも、大人の仕事ですね。


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