いじめるひまがない 1

 いじめについて、6年生の道徳の授業をしました。

 1時間目は、いじめアンケートの結果について意見を出し合いました。

「今年、いじめられたことはありますか」この質問に37人中、4人がある、と答えました。

 それを見た子どもたちからは、「いじめはひどいことだ」「いじめをしてはいけない」という一般的な意見が出てきました。

 実はこの4件のいじめは、意見の食い違いや、ちょっとした言葉の軽率な使い方が誤解を生んだもので、いじめと呼べるまでには膨らまないものだと調査済みでした。

でも、それを私は黙っていました。

別の意見を待っていたからです。

 授業も終わりに近づき、こういう話し合いは全国どこでも行われているんだろうなあ、と思っていた時、Aさんが意見を言いました。

 「私はこのクラスが大好き。なのにいじめがあったなんて悲しすぎる。このまま卒業したくない。」

 Aさんはこのクラスの活動を献身的に行う子でした。

自分のこともしっかりやって、その上でクラスのことまで一所懸命取り組む。

一日中働いている子です。

Aさんのような子がこのクラスにはたくさんいます。

そういう子たちがAさんに続いて次々に意見を言い出しました。

このクラスが好きだから悲しい。

 チームを愛して一日中忙しく働きまわる。

この子たちにはいじめというものを考えている暇などないのでしょう。

この子たちの声を聞いて、1時間で終えるはずのいじめの授業を、次週も続けることにしました。

 2週目の授業は「プロレスごっこ」(静岡県教育出版社発行「心ゆたかに〜6年生〜」掲載)を読みました。

 力の強い子が力の弱い子にふざけてプロレスの技をかけて遊ぶ。

それが次第にエスカレートして、周りの子もはやしたてたり技をかけたりする。

技をかけられた子は学校に行くのが憂鬱になるという話です。

 この話の感想を言い合うところから授業は始まりました。

 子どもたちは口々にいじめは嫌なもの、悪いことと言います。

改めていじめのひどさを感じたのでしょう。

 ではどうすれば、いじめはなくなるのかという私の問いに「人の気持ちを考えた思いやりのある行動をする」「やられた方も勇気を持って嫌だという」というような意見がたくさん出されました。

 そこで、実はこの話をいくら読んでもいじめはなくならない、いじめがなくすには、この2つの話を読まなければいけない、と同じ本から「ライアンの願い」「私の体を五等分に〜池内清消防指令補の手記より〜」というページを示しました。

 「ライアン〜」は、中学生で血液製剤からエイズに感染した主人公が、中学校から登校を拒否されるのですが、高校は彼を受け入れ、幸せな3年間を送って亡くなったという話です。

「私の体を〜」は、阪神の震災で救助活動にあたった消防の方の手記です。

 編集者は、この2つの話をいじめの教材として採用したのではないでしょう。

子どもたちは、一読後、この話をいじめにつなげることができず、首を傾げました。

 「いじめをなくすために、この話から学ぶことは大切だ。どうしてか1週間考えておいで。」

ここで2週目の授業を終えました。

 子どもたちは1週間真剣に考えてくれたようです。

お父さん、お母さんにも相談したという子もいました。

このクラスは、私の投げ掛ける問題を子どもといっしょになって考えてくれるお父さんお母さんんがたくさんいて、うれしくなってきます。

「学校がライアンを登校させなかったのはいじめだ。いじめは子供同士だけじゃない。」

「相手のことをよく理解しないのがいじめだ。」

「ライアンの願い」を読んだ子どもたちの意見はここに集中しました。

確かにそのとおりです。

 「私の体を五等分に〜池内清消防指令補の手記より〜」の読解にはみんな苦しんだようです。

でも、がんばって「必死になって救助活動をする消防隊員に、もっとはやくやれと文句を言った人がいるけど、そういうこともいじめである」と何とかいじめと結び付けてきた子がいます。

本当によく考えてくれます。

 確かにそれもそうです。

でも私がこの話を取り上げた意図は違います。

 私の意見を言おうかなと思った時に、ある女の子が発言しました。

 「前に先生が、忙しいと悪いことをしなくなるっていったけど、ライアンを受け入れた高校の人たちはエイズの勉強をしたり、設備を整えるのに一所懸命だった。

池内さんは体がぼろぼろになるくらい活動を続けた。

高校の人たちも池内さんも、人をいじめる暇がありません。」

 ずっと以前、私がぽろっとこぼした言葉を彼女は覚えていてくれました。

子どもの脳には、大人の言った言葉がすべて仕舞い込まれています。

 彼女の言うとおりです。

よいことをしたいと忙しい毎日を送っている人には、いじめなどをしている暇がないのです。

人を助けたい、こればかり思っている人の心の中には、いじめという言葉そのものが存在しません。

 いじめをなくそうと言っている限り、いじめという言葉は心から消えません。

心から消えないものは、この世界から消えないのです。

 いじめという言葉がチーム全員の心の中から消えてしまえば、いじめはなくなります。

全員がいつも青い空の方を向いて、人のために忙しくしていれば、このクラスからいじめはなくなるのです。

 これでいじめの授業は終わりです、と言いたいところですが、実は肝心なことがひとつ抜けています。

いつも青空を方を向いていられるためには、どうしても必要なことがあるからです。

それはなんだと思う?来週までに考えてきて。

そう言って、この日の授業を終わりました。

 いじめは生存競争です。

生存競争は私たち地球の生物のDNAにしっかりと組み込まれています。

 2つの食べ物に10の生き物が群がれば、殺し合いが起こります。

10の食べ物に2の生き物しかいなければ、殺し合いは起きません。

それは今の状況に満足しているからです。

今の自分は幸せであるという確信があるからです。

 今の自分に自信がなくて、いつ相手から蹴落とされるかもしれないとおびえている者は、相手を蹴落とそうと考えます。

でも、自分に自信があって、今の自分を心から幸せだと思っている者は、他人を蹴落とすということを思いつきません。

いじめをなくすのに必要なのは、いつも全員が青空の方に向いて生きていること。

そのために、一人ひとりが自分に自信を持ち、自分が幸せな状況にあると感じることなのです。

 子どもの中で(時には大人の中で)起こるいじめは、現在の日本では食べ物の取り合いで起こることはありません。

でも、いじめは生存競争です。食べ物の代わり愛(愛されること)を求める生存競争です。

 自分は愛されている。

自分は愛されるに足る人間だという実感があれば、人をいじめることは思いつきません。

この思いが強ければ、人を助けたくなるでしょう。

いじめてくる人を「かわいそうな人」とさえ思うでしょう。

 こんなふうになるためにいちばん簡単なのは、まわりの人から「愛している」と言われ続けることです。

子どもにとっていちばん身近なのは、お父さん、お母さん。

お父さんとお母さんから、毎日、「あなたは大事な人」「あなたがいてお父さんとお母さんは幸せだよ」「大好きだよ」と言われ続ければ、子どもは10の食べ物を持つ2の生き物になれます。

 子どもたちは、この生存競争の話に大きくうなづいてくれました。
でも、授業で「親から愛されていると言われなさい」と私が言っても意味がありません。

そこでこんな課題を出してみました。

 出した課題は「すばらしい自分と紙に書いて、自分のすばらしいところを50個書きなさい。すばらしい順に1位から50位まで順位をつけてね」

 これは、若い先生から教わったものです。

 1位から50位までのわくを書いたシートを配りました。

まずタイトル「すばらしいわたし」と書かせ、その横に自分の名前を書かせます。

すぐに自分のいいところを書き始める子、え〜っと言ったきり、何も書けない子がいます。

1位の大きな枠から順番に書く子もいれば、なぜか30位あたりの小さな枠にいちばん始めに書く子がいます。

「やさしい」と性格をおおざっぱにしか書けない子と、「掃除をまじめにやる」と具体的な自分を書く子がいます。

 書く時間が少なかったので、残りは宿題にしました。

実はこれも作戦です。

親がいっしょに考えてくれるという期待ができるクラスだからです。

 このシートを完成させることで自分に自信が持てるようになる。

しかもそれはいちばん身近なお父さん、お母さんが認めてくれたこと。

シートを完成させる上でこれほどいいことはありません。

自分を見つめる、大事な人に認められる、一石二鳥です。

 どんなシートができあがってくるのか、楽しみに1週間待ちました。

 1週間後、子どもたちのシートには、たくさんの自分のいいところが書いてありました。

50個全部書けた子が半分くらい、その中の半分の子は、お父さん、お母さんに手伝ってもらったと言っていました。

 大人がやってみても、50個書くのはすごく大変だと思います。

途中で「自分はいいところがあんまりないのだ」とくじけそうにもなるかもしれません。

 これを1回目からすらすら書けた子は、今まで本当に家で温かく育ててもらって、生きているのに自信がある子です。

とっても素晴らしいことです。

でも、今、全部書けなくてもいいんです。

大人でさえ難しいシートなのですから。

 さて、書いてきたシートを使って、もうひとつ、することがあります。

 「自分のシートを机の上に広げて置きなさい。

席を立ち、友達のシートを読ませてもらおう。確かにその人はそこがいいところだ、と思ったところに赤い星を書いてあげよう。」

 25分間、子どもたちは友達のものを読み続け、星を書いていきました。

シート全体が真っ赤になる子、あるところに集中的に赤い星がつく子といろいろいましたが、みんなたくさん星をもらったようです。

 「自分に自信持てた?」みんな、にやっと笑いましたが、大きくうなづく子はいませんでした。

まあ、たったこれだけのことで人生を貫く自信なんて持てるわけがありません。

いつか、躓いた時、この方法があるって思い出してもらえたら、うれしいと思います。

 さて、では、この授業の仕上げです。

子どもたちにはもう一度席を立ってもらいます。

 この授業の最後は話し合いではありません。

 1つは歌を歌うこと、もうひとつはどぶ掃除です。

 歌は「We are the world」英語の歌に初めて挑戦です。

 さびのところだけ、歌詞の下に、できるだけ英語に聞こえるような振り仮名を私がつけました。

歌詞のプリントには、この歌ができたいきさつと参加アーティストを書きました。

 子どもたちはマイケルジャクソンくらいしか知りません。

一人、スティービーワンダーの歌を生で聴いたことがある子がいました。(うらやましい(笑))

家にプリントを持って帰ったら、お父さんやお母さんがアーティストのことをたくさん知っていたとうれしそうでした。

 さびがなんとなくうたえるようになりました。

これからレコーディング風景のビデオを見せ、希望する子どもたちには気に入ったアーティストの部分を覚えてもらうことにします。

今のところ一番人気はブルーススプリングスティーンです。

 もう一つのどぶ掃除は、学校の側溝です。

3年前、5年生が「運動場が水浸しになるのはこの溝が埋まっているせいだ」と発見して、そうじを始めた溝です。

残念ながら、彼らは溝を完全にきれいにすることがかなわずに卒業して行きました。

以前から子どもたちにその話をしていたのですが、それをとても気にしてくれている子がいたので、今回、先輩がやり遂げられなかったことを自分たちがやろう、ということになりました。

 なかなか手強い溝でしたが、とうとうたまっていた土砂をすべて取り除きました。

これで、1年生が歩く通路が水びたしになることはないでしょう。

 人のために忙しく働くこと、それができるために自分に自信を持つこと、この二つを覚えて卒業していく彼らが、これから自分の作るチームのみんなにそれを伝えていってくれれば、いつかこの国からいじめはなくなります。

 いつか、それが世界中に広がって、人がみんな食べ物にも愛にも満たされて、生存競争という遺伝子を捨て去れるほど人類が進化するといいなあと思って、この授業を終わります。

 子どもたちが「すばらしい私トップ50」を書いた時の感想です。

○思ったより「絵が得意」に赤丸がたくさんついていて驚いたし、うれしかったです。細かいところ(ランクが下のほう)にも赤丸がついていて、みんなが私のことをよく見ていてくれているなあと思いました。次にやるときは、すらすら50個書きたいです。

○30位くらいの所にも意外にみんながそうだと思ってくれていてびっくりしました。
A子さんは50位までほとんどのところにみんなが赤丸をつけていてすごいと思いました。

○自分のいいところを書くと聞いてとてもびっくりしました。自分のいいところを書くなんて初めてだったし、書いたものがみんなに認められるか心配でした。でもやってみたら、けっこういい所を書けたので、自分自身を信じているんだなと感じました。みんなで見合う時も心配でした。認められなかったらどうしよう、ちょっと書きすぎちゃったかなと思いました。でも、みんなが認めてくれるところがあってよかったです。友達のものを見るとなるほどたしかにそうだと思うところがたくさんありました。だからこのクラスはほとんどの人が自分自身を信じているのだなと思いました。このことを通じていじめがなくなるといいと思います。

○人のよいところなら書けるけど自分のよい所は書きにくいなあと思った。私の素晴らしいところなんて少ないと思っていたけれど、思っていたよりたくさんあった。自分のここがすばらしいと思うところをクラスのみんなが少しでも知ってくれてうれしかった。
みんなが知らない私の素晴らしいところの方が多かったので、そこが伸ばせるところなら伸ばしたいと思った。

○赤丸のついているところが、自分の思っていた場所と全然違いました。書き始めはすらすらと書けたけど、だんだんかけなくなって親に考えてもらったりしたので、もっと自分の素晴らしいところをふやして、すぐに素晴らしい私50を言えるようにしたいと思います。

○「友達が多い」と書いたらみんなが赤丸をつけてくれました。僕には友達が多いとみんなが思ってくれているのでこれからも友達同士で助け合おうと思いました。

○「50こ書いて来い」と言われた時、面倒くさいと思っていた。授業の前までなかなか書けなかった。友達に「どのようなことを書けばいいの」と聞くと「委員会がんばってるじゃん」とか「小さい子になつかれやすいじゃん」とか、自分では思いつかないようなことを出してくれた。個中48個に赤丸がついていた。みんなに認めてもらった気がしてうれしかった。前よりも自分に自信が出てきた。

○親に聞いて書いたところに赤丸があり、自分では思ってもいないのに、みんなはいいと思ってくれていることがわかった。自分で絶対いいところだと思って書いたところにも赤丸がたくさんあってうれしかった。

○50個書くのはすごく大変で自分だけでは半分しか書けなかったので家族に聞いたけど3つしか増えませんでした。でも、もう一度、よく考えたらたくさん見つかりました。埋まらなかった部分は友達に聞いたりしました。自分で「なぜ思いつかなかったんだろう」ということを友達が教えてくれました。

○自分では少ししか書けなかったので、いろいろな人に聞いたら、その人たちのほうが私のよいところを知っていたので、うれしかったです。

○30位くらいから書くのが難しくなった。次は50個すらすら書けるようにしたい。
次は勉強のことも自信を持って書けるようにする。

○僕がいつも気をつけて必ず実行している「あいさつ」と「正しい鉛筆の持ち方」にひとつも赤丸がついていなかったのでショック。B子さんは自分の素晴らしいところが人にもたくさん認められているところがすごいと思った。

○みんなに教えていないところにもたくさん赤丸がついていて、みんな自分のことをよく知ってくれているんだとわかった。

○6年生になる時に、友達をたくさん作りたいと思い努力してきたことをみんなが認めてくれた。

○45こしか書けなかったけど、自分ではよく書けたと思った。前に親に言われたところを書いたら、赤丸が
ついていて、自分で気がついていないよいところを親や友達が見つけてくれていることがわかってうれしかった。

 家族団欒の時間にやってみませんか。


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