体験しよう

 クラスに「テレビ禁止令」を出しました。

このクラスにいる1年間、テレビおよびテレビゲームは一切禁止です。

 先生が怖くて何でも言うことを聞いてきた子供たちも、さすがにこれは抵抗しました。

そこで、「では、3日後の月曜日に一度だけ、抗議するチャンスをあげよう。その抗議に私が納得できたら、テレビ禁止令は撤回します」と言いました。

 2日間の休日をはさんで月曜日。一所懸命テレビのよさを考えてきた子、家でテレビを見る(時間等の)約束を確認してきた子、中には、手作りの人形を持ってきて「これをあげるから、テレビ禁止にしないでください」という子もいました。

残念ですが袖の下では私は動きません。

 手を上げて発言したA君の話に驚きました。

「テレビのない生活の苦しさを先生にわかってもらうために、僕は土日テレビを見ないで過ごしたんだけど…」

 それを聞いて、私はうれしくなりました。

とにかく何かをやってみる。A君のこの生き方は素晴らしいからです。

 人はものを考える時、必ず体験した記憶を必要とします。

脳の箱の中に記憶があるから、それをつないで新しいことを考え出せるのです。

 大人はたっぷり体験の記憶を持っているので、その場に行ってそれをしなくても、考えたり、判断できることも少なくありません。

でも、子どもはその体験や記憶が少なくて、その場で考えなさいと言っても、無理なことが多いのです。

だから、子どもに考えさせたい時は、まず体験させることが大事です。

 それをつい忘れて、体験していないことを考えさせて、「君はそんなこともわからないのか」と子どもを責めたことが若い頃あり、ちょっと反省しています。

 A君のように、まず何はともあれ体験してみよう、と考える人に育てたいと思います。

 A君の話を聞いて、「私もテレビの画面を見ないで音だけ聞いてみた」と発言した子もいます。

この子達は、お父さん、お母さん、5年生までの先生に、しっかり育てられているなあと感心しました。

 子どもの脳を成長させるには、経験させ、肌で感じる、手を動かすということを重ねていくことがとても重要です。

考えなさい、と言う前に、この子はこのことについて体験しているのだろうか、と確認してみてください。

 さて、子どもたちの抗議の結果、このクラスの「テレビ禁止令」はどうなったと思いますか。


 『速効よい子』へ戻る   ホームページ『季節の小箱』へ戻る