個性を生かす
ある全校集会で、Aさんは、「お礼の言葉」を言う役になりました。
その時、Aさんのお母さんから、こう言われました。
「Aは、どうして全校集会でピアノ伴奏をやらせてもらえないのですか。学校では個性を尊重しないのですか。」
個性というのは、とても大事な言葉です。
個性があるから社会が成り立つのであり、個性があるから夢も叶うのです。
でも、大事な言葉であるがゆえに、周りの大人が、個性という言葉の意味を取り違えると、子どもの未来を狭くしたり、つぶしたりしてしまいかねません。
たとえば、B君が野球で4割打者だったなら、B君はとてもよい打者です。
その上、B君が3回に1回、守備でミスをするような人なら、普通、B君の個性は、「攻撃の人」ということになります。
しかし、B君のいるチームの他の8人の選手が、みんな、6割打てる打者で、しかも、2回に1回、守備でミスをするような人たちだったらどうでしょう。
そのチームにいる間は、B君は「守備の人」として、個性を輝かせるのです。
このように、個性というのは、今いるチームの性質によって、正反対にもなってしまいます。
サッカーで初めてドイツでプロ選手になった奥寺さんは、日本の誇るフォワードでしたが、ブンデスリーガでは、守備の名手として活躍しました。
奥寺選手がチームから求められたのは、彼の持つ高い守備能力だったのです。
もし、それに気づかず、ディフェンダーのポジションは嫌だと言っていたら、日本人初のブンデスリーガでの成功はなかったかもしれません。
この話をすると、時々、間違えられるのですが、自分の主張をするな、という話ではありません。
周りを冷静に見なさいという話です。
子どもたちは、無人島で生きるのではありません。
日本で夢を叶えるには、チームでがんばったり、いろいろな人とのつながりを大事にすることが重要です。
チームで発揮できる力こそ「個性」だと言ってもいいのかもしれません。
Aさんはピアノのとても上手な子でした。
でも、その全校集会での歌の伴奏は、他の子でもできるものでした。
Aさんはピアノが上手であると同時に、相手の心に届く話し方ができるという能力がありました。
相手の心に届く話し方という点で、Aさんを越える子は一人もいません。
Aさんが、この集会で使うべきは、そちらの能力だったのです。
親は、子どもがどんなことにがんばってきたのか、どんなことが得意なのかをよく知っています。
でも、今、子どもが置かれている「社会状況」は、わかりにくいものです。
その点では、先生や友達をはじめとする、お子さんの周りの人の方が、お子さんを取り巻く「社会状況」がよく見えます。
また、「個性」は、一人にひとつではありません。
今年1年、今まで以上に周りの人の声に耳を傾け、お子さんの個性を、たくさん、正確にとらえてみてください。
そうすることで、お子さんの未来が大きく門を開くことは間違いありません。