なぜ学校に行くのか
読者の方からのお便り******
先日、妻の6ヶ月検診が終わったところです。子どもは順調に育っています。
それで、将来的な質問なのですが、もし、産まれてきた子どもに「なぜ、学校に行かなければならないの?」と聞かれたら、何と答えればよいでしょうか?
私なりの「答え」というのは、なんとなくあるのですが、是非、プロのご意見をうかがいたく、お手紙させていただきました。
ちょっと気の早い質問かもしれませんが、よろしくお願いします。
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私からの返信**************
おめでとうございます。
気が早いなんてことは、ありません。
お子さんの未来を考え続けることは、一番大事な親の役目のひとつです。
お子さんの未来に思いをはせることが、お子さんを愛で包むことになるのです。
もっと先のこと、もっとたくさんの未来を、お母さんといっしょに語り合ってください。
その語り合いが、子育てで一番大事なことです。
では、「なぜ学校に行くのか」…学校に行く理由は、たったひとつです。
幸せになるためです。
ですから、学校に行く理由を考えるためにどうしても必要なのは、幸せとはどういうことかを決めることです。
幸せになりたくないという人には、学校はどうでもいい場所です。
クラスの子供たちに訊くと、いつも全員が幸せになりたいと応えます。
だったら学校へ来るのは意味があるよと、幸せや学校について話をします。
幸せの定義がはっきりしていれば、学校に行く理由もはっきりしてきます。
幸せの形は人それぞれでしょうが、めざすものがはっきりしていれば、自分が今していることを価値付けできるのです。
お金をもうける、大好きな人と結婚する…、幸せの形はそれぞれで、それについて、他人がどうこう言えるものではありません。
また、人生の道のりの中で、幸せの定義も変わってくるでしょう。
私も、これまでいろいろなことを考えてきたので、38年間に出会った子供たちに、一貫して同じ話をしているわけではありません。
今、私の中でいちばん新しい幸せの定義は
○まわりの人が、みんなにこにこしている
○あなたに会えてよかったと、心から素直に言える人がたくさんいる
○あなたに会えてよかったと、言ってもらえる
です。
こういう幸せを手に入れるために、学校は必要な場所です。
学校では、二つのことを手に入れることができます。
1 体系的な知識
日本の公立学校のシステムは、世界でも有数のすばらしいものです。
人類が獲得してきた何百年分の知恵や知識をたった数年で獲得できるようにプログラムされています。
まじめに取り組めば、大きな能力を簡単に身に着けることができます。
困っている人を助けるためには、力が必要です。
重い荷物を持ってあげるためには筋肉が必要だし、道に迷っている人を助けるには、情報力が必要です。
よく「学校など必要ない。
社会に出たら経験がものをいう。」という人がいますが、その人は自分が小学校の教室で勉強したという事実をまったく忘れています。
小学校で、読み書きそろばんを体系的に教わったから、その後の経験が身につくのです。
小学校で体得する基礎学力がなければ、その後のどんな経験も深く身に着けることはできません。
いくら経験しても、それを深い場所で身に着けていなければ、人を助けることはできないのです。
2 たくさんの人とのつながり
学校のもうひとつのいいところは、集団生活をするということです。
社会に出ると、ほとんどの人が、これほど多くの人と「生(なま)」で交わることはなくなります。
互いが本音、本性を出せる時に多くの人と付き合えるのは、とても重要なことです。
その点で、学校は今の日本に欠くことのできないものだと思います。
自分でも「生」の部分を出して、ぶつかったり受け入れたりしながら、世界には、こんなにいろいろな人がいるんだ、この人を幸せにするにはこんなふうにすればいいんだと、自然に学んで行きます。
子供どうしの喧嘩、先生に叱られた…そんな時に、子供の目の前で、相手の親や先生にくってかかるお父さん、お母さんもいますが、これでは、子供のせっかく成長のチャンスをみすみす取り逃がしてしまいます。
こういう時は、子供に、どうすればいいか、アドバイスをしてください。
ご自分の経験を語り、喧嘩に勝つ方法、怒っている先生をうまくかわす方法などを伝授しましょう。
もちろん、相手の親、先生に事情を聞いたり抗議をしたりすることは大切です。
ただ、絶対に、そうしたことを子供に悟られてはいけません。
子供に知られないように、裏で手を回してください。
お父さん、お母さんのアドバイスを聞いて、問題を自分で解決した…。
お子さんの記憶の中にそんなふうに残れば、お子さんは生きていく自信をひとつ深めます。
もし、小学生の時に、「何か問題が起こっても、僕のお父さんやお母さんがいつも出てきて守ってくれる」などと思うようになったら、子供は一生独り立ちできません。
人を幸せにするために自分の力を伸ばす。人を幸せにするために、いろいろな人がいることを知る。
この二つのことを身に着けるために、日本の学校は最高の場所です。
まわりの人がみんな幸せになったら、自分も不幸ではいられなくなります。
なぜなら、自分がそこにいるから、自分のまわりの人がみんな幸せになったのですから。
これを子供の年齢に合わせて、お話してやってください。
学校へ行くとね、いろいろなことをたくさん教わるよ。
字の書き方を教えてくれるよ。
字が上手になると、相手の人が喜ぶ手紙が書けるよ。
今はね、パソコンで手紙を書く人が多いから、自分の丁寧な字で手紙を書いて送ったら、パソコンの手紙より何倍も大事に読んでもらえるし、喜んでもらえるよ。
算数の勉強も楽しいよ。算数の勉強をしっかりやると、論理的思考という力がついて、お話が上手になるんだよ。
自分の伝えたいことが友達にうまく伝えられるようになるよ。
算数の勉強をしっかりやって、社会の勉強もしっかりやれば、道に迷って困っている人に上手に道を教えられるようになるよ。
きっと、すごく喜んでもらえるね。
算数の勉強をしっかりやって、国語の音読の勉強もしっかりやると、自分の気持ちをみんなにわかってもらえるようになるよ。
お互いの本当の気持ちがわかりあえたら、毎日温かな気持ちで過ごせるよ。
音楽や体育、図工では、いろいろな技を教えてもらえるよ。
同じように技を覚えた人たちと、楽しいことがたくさんできるようになるんだよ。
技を知らない人同士が遊ぶより、技を知っている人同士が遊ぶほうが、何十倍も楽しいんだよ。
学校にはたくさんの友達がいるよ。
いろいろな人がいるから、好きになったり嫌いになったりするけど、どの人とも仲良くしたいなって思って学校に行くと、いつの間にか友だちが増えて、いつのまにか世界中の人が君の味方になってくれるんだよ。
それに、人間というのは、一人一人の頭の中って百科事典よりもたくさんの情報が入っているし、一人一人の心って宇宙よりも大きいから、仲良しの人が一人増えるたびに、君の世界はうんと大きくなっていくんだ。
大人になっても友達は増えるけど、学校で友達をふやすほど簡単じゃないんだよ。
だから、毎日学校へ元気で行く人は、学校を嫌がっている人の何倍も、友達という宝物を手に入れることができるんだよ。
これは一例です。
お父さん、お母さんが経験した学校のよさをそのままお子さんに話してあげれば、それで十分だと思います。
こんなふうに話したという例を教えてください。
また、もし、「こう話したら、こんなふうに言い返された」というお悩みがありましたら、お知らせください。
さらに切り返す方法をいっしょに考えましょう。
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