ドリルを何度もやる理由

 計算ドリルは、工具のドリルから名前が来ているそうです。

何度も同じことを繰り返して目的を達成するという働きが似ています。

 子どもたちには、計算ドリルを繰り返してやる理由を、「脳の話」と称して伝えています。

脳の話といっても、子供用に考えたものですから、脳科学の先生のお話とは違います。

 本物の脳の話は、池谷裕二さんの著書が、大変面白く分かりやすいので、ぜひ、1冊お求めください。

 こんなふうに子どもたちに話しています。

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 脳は、ふた(扉)付きの小さな箱(部屋)が、数えきれないほどたくさん集まってできています。

勉強したことは、一つの箱にひとつずつ、大切にしまわれます。

 「1+1は2」という簡単なものも、「円の面積は、半径×半径×円周率」という少し面倒なものも、同じように大事に、それぞれの箱の中に入ります。

 「自分の名前は○○だ」という勉強ではないものも、箱の中に入ります。

 箱に入れたものは、なくなってしまわないように、ふたがされます。

 誰かが「1+1は?」と聞くと、その質問が耳から入り、その音で箱がノックされて、ふたが開き、「2」という答えがすぐに出てきます。

「君の名前は?」と聞かれて、すぐに答えられないという人はいないでしょう。

これは、ふたがぱっと開くからです。毎日人に名前を呼ばれたりするので、毎日ふたが開いたり閉まったりしていて、開きやすくなっているのです。

 でも、突然「円の面積は?」と聞かれると、すぐに「半径×半径×円周率」と答えられないことがあります。

これは、ふたのちょうつがいが少し錆びついてきて、開きにくくなっているからです。

 そのまま箱を長い間開けずにおくと、もっと錆びついてまったく開かなくなることもあります。

ふたがいつまでもスムースに開くようにするためには、時々、開けてやればいいでしょう。

 そこで、今日勉強したことを、夜、一度、ドリルで練習してください。

そうすると、一度ふたが開いて、ふたが動きやすくなります。

2、3日したら、もう一度ドリルをやってふたを開けてみましょう。

さらに、土曜日になったら、1週間分の勉強をドリルで確かめましょう。

これで、かなりスムースにふたが開くようになったはずです。

 夏休みや冬休み、春休みになったら、4回目のドリルをやってみましょう。

ここまでやると、大事なはこは、何年先でもスムースにふたが開くようになるようです。

 たくさん勉強して、脳の箱が全部埋め尽くされてしまったら、どうなると思いますか。

勉強しすぎても無駄になるのではないか、と心配ですか。でも、大丈夫です。

 ある日、たくさん勉強して、空いている脳の箱がなくなってしまったとします。

すると、君の体が「あっ、たいへんだ。脳の空箱が足りなくなった。

急いで新しい箱を作ろう」と、寝ている間に新しい箱を作ってくれます。

 箱の材料は、今日食べた食べ物の栄養です。

栄養をたっぷりとバランスよく摂っておくと、丈夫でしっかりした箱ができて、勉強したことをしっかりと覚えられるようになります。

もし、好き嫌いをして食事を残したりすると、脳の箱は弱くなります。

 時には、勉強はあまりしなかったけれど、体がくたくたになるまで運動をする日もあると思います。

そんな日は、君の体が「大変だ。

このままでは明日も疲れてしまう。

寝ている間に筋肉を強くしておこう」と、食べた物の栄養で筋肉を作ります。

だから、一所懸命、外で遊んだり運動した人は、次の日、体が強くなるのです。

 では、テレビゲームをだらだらと続けたり、テレビを一人きりで見たりして、勉強も運動も全力でやらなかった日は、どうなるでしょう。

脳の空箱はまだ余ったままだし、筋肉も余裕があるので、せっかく食べた物の栄養は、脳の箱にも筋肉にもならず、便となって体の外に出て行ったり、必要以上の脂肪になって体を重くします。

 だから、たくさん食べて、毎日、全力で勉強して、全力で体を動かした子だけが、いろいろなことのできる大人になるのです。

今日は、全力を出して、ぐっすり眠れそうですか。

 脳には、もう一つ秘密があります。

 それは、脳の箱(部屋)が、ひも(廊下)でつながっているのです。

 ○○君。あれ、返事はどうしたのですか。

 では、△△君。いいですね、すぐに「はい」という良い返事ができました。

 これは、「自分の名前は○○だ」という箱と「名前を呼ばれたら、はいと返事をした方がよい」という箱がひもでつながっていて、○○君と呼ばれると、「自分の名前は○○だ」という箱がノックされると同時に、その信号がひもを伝わって「名前を呼ばれたら、はいと返事をした方がよい」という箱もノックして、二つの箱のふたがほぼ同時に開くから、できることなのです。

 もし、この二つの箱がつながっていなければ、その人は、ずっと「はい」という返事をしないでしょう。

もし、つながっていても、そのひもがとても細かったら、「はい」と言うまでに時間がかかります。

 すぐに返事をしてくれる人と、全然返事をしてくれない人と、どちらが好きですか。

すぐに返事ができる人は、頭も心も良い人に見えますね。

 さて、このひもには、もう一つ重要な役目があります。

 算数の時間に、一つの解き方しか思いつかない人と、たくさんの解き方を思いつく人がいますね。

これは、ひものつながり方の違いから来ています。

 ひとつの箱からたくさんのひもが出て、いろいろな箱につながっている人は、一つの問題に対して、たくさんの箱のふたが開くので、たくさんのやり方を思いつきます。

箱のつながり方が少しだと、答えも少ししかでてきません。

 この二つのことから考えると、脳の箱をつなぐひもは、太ければ太いほど、つながり方が複雑であるほど、頭のよい人だということになります。

 昔、アインシュタインという天才科学者がいました。

あまりに頭がよいので、この人の脳がどうなっていたのか、今、世界中の科学者が研究しているそうです。

 驚いたことに、アインシュタインの脳の箱の数は、普通の人より少なかったそうです。

でも、その箱をつなぐひもが、普通の人の何倍も太くて複雑にできていたそうです。ここからも、脳のひもの大事さがわかります。

 一人で一所懸命勉強すると、脳の箱はどんどん増えていきます。

でも、一人きりで勉強するだけでは、脳のひもはなかなかつながっていきません。

 ところが、学校でたくさんの人といっしょに勉強すると脳のひもは、複雑につながっていきます。

自分と友達とでは、同じ知識の箱でも、つながり方が違うので、話をしているうちに「こんなつながり方があるのか」という発見をたくさんして、自分の脳のひものつながり方が増えていくのです。

 だから、いちばん頭のよくなる勉強法は、

家で、一人でいる時は、集中して、じっくり調べたり考えたりする

学校に来た時は、自分の意見をたくさん言って、友達の意見を真剣に聞く

という二つのことを続けることです。

 もちろん、家族とのおしゃべりも、脳の箱を増やし、脳のひもを太く複雑にする大事な勉強法です。

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読者の方からのお便り******

勉強は 繰り返し繰り返しやるのがいいことはわかっていましたが、今日の説明は、何故いいのか、具体的で簡単明瞭でとても感心しました。

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読者の方からのお便り******

いま脳に関係する機器の担当をしています。

普通に説明しても難しくて理解できない人が多いですが、こうじさんの説明を取り入れればそういった人たちの理解が深まると思います。

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