青のベルト 緑のベルト


 「お腹が出ている私のようなおじさんも青のベルト緑のベルト、2本をしめていればスマートに見える…何のことか、わかりますか」

 1年間担任した6年生への最後の話です。

もちろんこれだけでは誰にもわかりません。

 黒板の「青いベルト」のところに「宿題、こわい人」と書きました。

すると、数人の子が「わかった」と挙手しました。

「サボる人には宿題が必要」正解です。

 こわい先生が宿題を出せば、勉強が嫌いな子も仕方なく勉強をしてくる。

だから、とりあえずは勉強ができるようになる。

食べすぎでおなかが出ていてもベルトで絞めておけばスマートなウエストに見える、というわけです。

 でも、そういう子は、こわい先生がいなくなったり、宿題が出なくなったりしたら、途端に勉強をしなくなる。

ベルトを外した瞬間、おなかはぽんと出てきます。

 「今年は、書き取りの宿題を途中でやめました。宿題だった頃は全員がきちんと提出していました。

やめた途端に多くの人が出さなくなりました。

でも、いまだに十数人の人は毎日書き取りをやって提出しています。

その人たちはみんな大人の字が書けるようになりました。

予定帳をしっかり続けた人は、世界中のどの6年生が見てもびっくりする内容の予定帳を書けるようになりました。

青いベルトがなければ生きていけない人は、残念ながら夢を実現させる力はありません。」

 「緑のベルトは、競争と評価、書き取りや予定帳でいうと点数表や花丸です。

青いベルトが外れても、こつこつ自分の力で勉強して、書き取りを毎日続け、予定帳もていねいに書き続けた人は立派です。

でも、一度自分を見直してください。

書き取りや予定帳を書くことそのものが楽しくてやり続けたのか。

そうではないのか。

花丸をもらいたい、あの人より花丸の数や先生にもらえる点数を増やしたいと思った人は、書くことそのものがうれしかったというより、ほめられたり、人に勝ったりするのがうれしくて、続けた人です。

これが緑のベルトです。」

 「半年前、このクラスから宿題がなくなりました。

青いベルトがはずれました。

それでも、宿題があった頃のように毎日しっかりと勉強を続けた人がたくさんいます。

でも、その人たちもまだ緑のベルトをしていました。

あと少しで君たちは、この教室を卒業します。

そうしたら、予定帳の花丸も書き取り帳のスタンプも、点数表もなくなります。

緑のベルトが外れるのです。

緑のベルトが外れても、これまでどおりやっていく自信がありますか。字がうまくなってうれしいなあ、予定帳がどんどんかっこよくなっていってうれしいなあ、と思いながら毎日続けた人は、それを書くことそのものがうれしくてやった人です。

そういう人は、もう自然に緑のベルトが外れていた人です。

この2本のベルトが無くてもこれまでどおり勉強を続けられる人だけが夢を実現できるのです。」

 強制も競争もなく、他人からの褒め言葉さえ無くなった時でも、それを続けて行ける人が夢を実現します。

大事なのは、自分のしていること、そのものを楽しんでいるかどうか、ということです。

 人生の成功をつかんだ人は、口をそろえて、好きなことを夢中になってやった、と言います。

そこに嘘偽りは無いでしょう。でも、それを小学生にそのまま言ってはいけません。

 小学生は、まだ、世の中にどんな楽しいことがあるのかをほとんど知りません。

まだ、楽しいことをやり抜く能力もありません。

 好きなことを夢中になってやりなさい、と言えるのは、18歳以降の人間に対してだけだと、私は思っています。

小学生自身が「これが好き、これが得意」と言うから、その能力、個性を伸ばしましょうという人がいますが、それは間違っていると私は思います。

 18歳までは、最初は好きだろうと嫌いだろうと、目の前にあるものは全部必死に取り組むべきです。

何にでも挑戦させるべきです。

日本の学校教育のシステムのなかにあるものは、無駄なものが一切ありませんから、学校できちんと用意されたものは、すべて子どもの力になります。

 小学生に教えなければいけないのは、好き嫌いをはっきりさせることではなく、目の前にあることに挑戦することの楽しさです。

小学校高学年でも、ちょっとの期間我慢すれば、たいていのことはできるようになり、それを自分で実感できます。人間はみんな、自分が進歩しているのを実感するのが大好きです。

それを実感すると、今まで多少嫌だったことも好きになります。

 最初は2本のベルトをまいてあげればいいでしょう。

そして本人が進歩を実感したら、そのベルトを大人が上手に外してやればいいのです。

 そうやって、目の前のどんなことも楽しむことを覚え、そうする中で力をつけていけば、18歳になった時に、本当に自分が大好きで自分に合っていることを選択し、それ以後、夢の実現に向けて歩いていくことができるでしょう。

 人生の一番よい時期に、最も力を発揮し、夢を実現させる。

そういう人間になってほしいと願い、毎年子どもたちを指導しています。


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