人生はエスカレーター
人生は上り坂。大変だけれど、がんばって歩き続ければ、高い場所に行ける。
子ども達には、いつも、そう言ってきました。
先日読んだ本には「人生はエスカレーター」と書いてありました。
その著者は、続けて、「そのエスカレーターは下りだから、止まっているだけでは現状維持どころか、落ちていく」と言っています。
人生はエスカレーター。
ただの上り坂ではない。
確かに、その通りだと思いました。
でも、子ども達を見てきて、子どもの時代は、上りのエスカレーターだと、私はいつも感じています。
子ども達は、基本的に、毎日、健やかに楽しく暮らしていれば、それなりに成長し、大人に近づいていくからです。
ただし、そこには、上り坂だからこその、ちょっとした落とし穴があります。
それは、大人に近づくに従って、エスカレーターの速度が落ちていくのに、それに気づきにくいということです。
0〜2歳、歯の生え始めまでは、かなり速い上りエスカレーターです。
3〜6歳、乳歯の抜け始めまでは、少しペースは落ちますが、それでも、驚異的な速さの上りです。
6〜10歳。10歳は、ここまでに逆上がりができないと以後大変になる年齢です。
かなり速度は落ちますが、それでも上りは感じられます。
10〜14歳、男女とも生理が始まり安定するまでです。
まだ身長も伸び、上りには違いありませんが、速度はとてもゆるやかです。
14歳〜18歳、進んでいるのかどうかわからない速さになりますが、まだエスカレーターは上りです。
18歳を越えると、エスカレーターは止まります。
そして、30歳でエスカレーターは、逆向きに進み始めます。
下りエスカレーターになってしまうのです。
これがわかっていると、今日、なぜ、がんばるのかが意識できるようになります。
0〜2才の子は、勉強する必要はありません。
脳の吸収力が素晴らしいので、ただ生きているだけで、どんどん新しいものを吸収します。
親は、その知識欲の邪魔をしないことだけに気を配れば、完璧です。
その後の4年も、勉強は不要です。ただ、知識を求める世界が広がっていきますので、危険も伴いますから、親の方も、ちょっとした度胸が必要かもしれません。
6才から10歳も、もちろん、子どもです。
でも、これまでとは「違う」子どもです。
0才から4才までの4年間は、興味のあることに片っ端から手を出し、好き放題していれば、どんどん脳は成長します。
「日常」のすべてが、脳への刺激となるからです。
もし、6才から10歳の4年間も、同様に過ごしたと想像してください。
0才から4才までの成長と同じ割合の成長が認められるとは、とうてい思えません。
0才の時には刺激的だった日常が、ただの日常になり、そこに新しいものがなくなることも原因ですが、私は、乳歯が抜けるのと同じくらい衝撃的なできごととして、脳の力が鈍るのだと考えています。
6才までは東京で暮らし、その後の4年間はアフリカのサバンナの中で暮らす、くらいに、日常の劇的変化があれば、脳も新たに活性化するのでしょうが、現実的には無理です。
6才からの子どもは、日常の中で、少しスピードの落ちたエスカレーターという脳を持って暮らすのです。
それを補完し、これまでどおりに力を伸ばしてやろうとするのが、学校というシステムです。
まず、小学校に入ったばかりの子は、新しい環境に、どきどきわくわくします。
この、どきどき、わくわくが、脳が活性化している証拠です。大人でも、全く新しい世界に飛び込む時は、どきどきわくわくし、いろいろなことに敏感になって、脳が活性化していることに気づきます。
ですから、お父さん、お母さんは、お子さんが小学校に入学したら、まず、その、どきどきわくわくが、楽しく、よいものであることを教えてあげましょう。
「今日、学校でこんなことがあったよ」とお子さんが話し始めたら、その話をしっかりふくらめて返し、どきどきわくわくを倍増させてください。
そうすれば、次の日も、お子さんは、どきどきわくわくしながら学校に行くので、学校で脳が活性化し、学校で教わることも、どんどん身に付いていくのです。
ただ、学校は「サバンナ」には、なり得ません。
残念ながら学校の「賞味期限」は6年よりもうんと短いのです。学校の新鮮さは、主にお父さん、お母さんの声かけと、教員の努力によって引き延ばされますが、それにも限界があります。
でも、面白くなくなったから学校に行かない、というわけにはいきません。ただでさえ、速度の遅くなったエスカレーターの脳で、さらに高度なことを学ばなければ、一人前の日本人として生きてはいけないからです。
日本は、人口密度が高く、資源の少ない国です。
日本人の頭脳が、最高の資源といってもいいのだと思います。そういう国で生きていくには、高度なことを学び、身につけていく必要があります。
少ない資源から多くのものを効率よく生みだす力を持ち、日本のみならず世界の人々を幸せにする方法を考え、せまい土地の中で仲良く暮らす心を持つ。
今の日本に生まれてしまったからには、こんな人に育たなければ、お子さんは多くの幸せをつかめないでしょう。
話が大きくなってきましたが、そういうわけで、学校に飽きてしまっても学習をし続ける工夫や力が小学生には必要です。
やはり必要なのは、新鮮さを少しでも失わないことです。
そのためには、低学年のうちは、予習はしない方が良いでしょう。
よく早くから学習塾などに行って、予習をしてきてしまう子がいますが、低学年のうちは、予習の本来の意味がわからないので、「それ、塾でやったから、知ってる」などといって、これから先生が提示するものに、わくわくしない子がとても多いのを感じます。
学習塾で予習をしてしまっては、学習塾に余分にお金を使い、その分、学校で勉強しなくなるのですから、学習塾代のコストパフォーマンスはとても低くなります。
低学年の家庭学習は、復習に力を入れ、基礎的な読み書き計算を徹底的に身につける方が、それ以後、力を伸ばすために役立ちます。
さて、身につけなければいけない力の一つめは、座って話を聞く力です。
低学年でこれができる子とできない子では、大きく差が開きます。
この力は、入学前の1、2年間で身につけることが必要です。
といっても、大変なことではありません。お父さん、お母さんがお子さんに大事な話をする時に、しっかり座らせて聞かせればいいのです。
食事の時に、落ち着いて座って食べさせる躾は、実はこのことにつながるとても重要な躾です。
力の二つめは、小さな進歩を喜ぶ力です。
「新しく習った漢字が上手に書けた」「九九カードが昨日より10秒早く言えた」
こうした日々の勉強の中で、一見、ほんの小さな事に思えることも、「自分は進歩したんだ」と心から喜べる子は、毎日新鮮な脳で、学校の勉強に取り組むことができます。
この力は、入学後でも、お父さん、お母さんの協力で身につけることができます。
お子さんの様子をじっくり見て、どんなに小さな事でも、昨日より進歩したことをお子さんといっしょに喜んでやればいいのです。
座ってじっくり話が聞ける子、小さな進歩を心から喜べる子は、小学校の勉強でつまづくことはありません。
ただ、6年間、これだけで充分かというと、そうもいきません。
卒業後には、中学・高校という、上りエスカレーターの速度がさらに落ちた6年間が待っているからです。
学習にいちばん必要なのは、新鮮な驚きです。
これは、生涯変わることはありません。
ですから、小学校の低学年のうちは、まったく予習は必要ではありません。
でも、中学生くらいになると、エスカレーターの速度は極度に落ち始め、それに反比例するように、学ぶべき学習内容は、どんどん増え、複雑になっていきます。
そこで、小学校の低学年のように、ただ毎日わくわくしながら、真っ白な頭で学校に行くわけにはいかなくなります。
中学校に入ったら、予習中心の学習をお勧めします。
中学生になったら、小さな子のように「それ、もう、知ってる」なんて授業中にのんびりしていることはできません。
中学校の1時間の授業で入ってくる情報は、とても多いので、ちょっとやそっとの予習では、すべてを網羅できないからです。
予習をやっておくと、逆に脳に余裕ができて、先生の話がより深く分かるでしょう。
そこが、中学校の予習のねらい目です。予習すればするほど、情報が新しく入ってくるのです。
私は、その準備のために、数年前から、「予定帳を書く」ことを高学年の宿題に出すことにしました。
翌日の授業の内容や、自分の課題を子どもが自分で考えて書いて、毎朝、提出します。
予習とまでは行きませんが、こうすることで、授業に対する脳の準備をする習慣をつけるのです。
子どもは、わずかの期間に、驚くほど進化し、変化します。
神経質になりすぎる必要はありませんが、子どもの進化、変化を見つけたら、それに合わせた子育てを少しだけ工夫することで、お子さんの力は、より大きく伸びると思います。
読者の方からの質問**********
エスカレーターから落ちてしまった子はどうすればいいですか
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ご安心ください。このエスカレーターは、昔よく言われた「エスカレーター式の学校」というような意味のエスカレーターではありません。
このエスカレーターから落ちることはありません。
このエスカレーターは、乗ったり降りたりできない自分の足そのものだからです。
読者の方の感想****************
30代になると下りですね。子どものほうが、どんどん毎日上っているのが分かります。
だから楽しみです。
でも、下りながらの30代からも、のんびり楽しみたいです。子どもの上りを見ながら楽しみます。
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私も、このお母さんを見習って、人生を楽しめるようにがんばろうと思いました。