まねをする
A君は、予定帳の宿題を、ずっとさぼっていました。
4月からほとんど書いてありません。
ちょうど、前期と後期の区切りにもなりますので、これまでの予定帳を書かなければ、トイレ以外の休み時間なしという「厳罰」が与えられました。
他にも、A君同様にサボっていた子が何人もいましたので、みんな休み時間がほしくて、必死に足りない分の予定帳を、休み時間や家で書き始めました。
とりあえず書いてあれば合格ですので、みんな、「教科と単元名」を(国語…一つの花、という具合に)書いて、私のところに持ってきて、次々に休み時間を獲得していきました。
ところが何日経ってもA君が予定帳を持ってきません。
他の子よりサボっていた日数が多いから時間がかかるのだろう、と最初思っていたのですが、あまりにも時間がかかりすぎます。
そう思っていたある日、A君が「先生、今日の分を先に見て」と予定帳を持ってきました。
そこには、今日の分の予定が、最上級のレベルで書かれていました。A君、初めての予定帳の花丸です。
「みんな、終わっているのに、何をのんびりしているの」とA君に言うと、「これを写しているんだけど、大変」と言って、Bさんの予定帳を私に見せました。
A君は、Bさんの予定帳を、Bさんに直接交渉して借りて、それを4月分から写していたのです。
Bさんの予定帳は、「6年生のものを越えるくらい素晴らしい」と何度もクラスの子に話しています。
A君は、どうせやり直しをするなら、Bさんのものをまねしよう、と思ったのでしょう。
そして、Bさんのものを写しているうちに、どういう予定帳がいいのかが、わかったようです。
それで、自分でも花丸の予定帳が書けたというわけです。
学ぶ上で、まねをすることから始めることはとても重要です。
学習に限らず、芸術、スポーツ…、あらゆるものが、真似をすることからスタートします。
そして、やがて、自分のものとして、身につけ、オリジナルに発展します。
友達のものを写すというのは、一見ずるいように思えますが、自分もこんなふうになりたいと思う気持ちがあふれていれば、とてもいいことだと、私は思います。
A君がどうやってやる気を起こしたのかは、まだわかりません。
でも、A君は、ピンチをチャンスに変えました。A君の顔が、とても前向きな顔になってきたのは、自分でできるようになるまで、徹底的にまねをしたからだと思います。
さて、掲載した予定帳は、花丸のものばかりですので、みんながこういう予定帳を書いていると思われるかもしれませんが、花丸をもらえる子は、クラスの中の一部の子です。
花丸の予定帳を書き続けるには、気力も必要なのです。