宿題を早く終えてしまう

 保護者面談では、学校での子どもの様子をお伝えするのが第1の目的ですが、お父さん、お母さんから、子どものいろいろな話を聞けるので、大変楽しい時間でもあります。

 Aさんのお母さんが、面談で、こんなことをおっしゃいました。

 「うちの子は、書き取りの宿題を、4月の頃は1時間以上もかけてやっていたのに、最近は三十分もかけずにやっています。大丈夫でしょうか。」

 同じ宿題を、以前は1時間以上かけてやっていたのに、最近は半分以下の時間で終わってしまう。

 これには、二つのケースが考えられます。

 ひとつは、以前はまじめに取り組んでいたのに、最近いい加減にやるようになった。

 もうひとつは、ていねいにやったことで、技術が身に付き(この場合は早く書いても上手な字が書け)、短い時間で同じことができるようになった。

 このふたつは、現象はそっくりですが、中身は正反対です。

 Aさんの場合は、毎日私がAさんの書き取りの宿題を見ているので、はっきり申し上げることができました。

Aさんは後者です。

 Aさんは、私が書き取りの重要性を話した時から、お手本と同じ字を書こうと、一所懸命努力していました。

直された字は、きちんと書き直し、どんどん字が上手になっていきました。

 お母さんが「時間が短くなった」と心配した最近も、字の質は、さらに上がっています。

Aさんは、ていねいにゆっくり時間をかけて基礎を身につけたので、やがて、時間をかけなくても上手な字が書けるようになったのです。

 Aさんのように、字の覚え初めは、時間をかけて丁寧にやることが重要です。

 最初は、我慢をしてでも、ゆっくり丁寧に、そして、しっかり身に付くまで続けなければいけません。

一旦身に付いてしまえば、その後は、同じ質の字を、どんどん早く書けるようになります。

字に限らず、サッカーのボールコントロール、楽器の演奏…、体に覚えさせるものは、どれも、ここが肝心です。

 多くの子は、「ていねいにゆっくり」の段階で、失敗します。

放っておいても「ていねいにゆっくり」の段階を我慢して通過できる子はいますが、多くの子は失敗します。

 よく、「楽しければ」「好きなことなら」「好きになれば」子ども達は自然に学ぶ、という教員評論家もいますが、私は違うと思っています。

 「子ども達が我慢を意識せず続けられるように楽しく教える」という指導者もいますが、小学校4年生以上の子に、それが当てはまるとは、私には思えません。

子どもが楽しいと感じるのは、「それができるようになってから」だからです。

そして、成長するにしたがって、それができるようになるまでの時間はどんどん長くなるからです。

 できるようになるまで、我慢させてでも、ていねいにゆっくりやらせるのは、大人の役目です。お父さん、お母さんも、ご自身が「できるようになったこと」と「途中であきらめたこと」を思い出してみてください。

 「基本」ができるようになるまで、我慢してでも、ていねいにゆっくり続けたことはしっかり身に付き、大好きになっているはずです。


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