本当は、誰でも上手に書ける

 字を上手に書けるかと聞くと、多くの子が「自分は字が下手だ」と言います。

確かに、自信を持てる字を書いている子は少ないですね。

 でも、この質問は「字を上手に書いているか」ではなく、「字を上手に書けるか」です。

実は、本当は、みんな字を「上手に書ける」のです。

 例えば、一流シェフの料理の盛り付け。素人では、どんなにまねをしても、それに近いものはできない、と思えます。

でも、たくさん練習をして、失敗したらやり直して、と、時間をかければ、何とか、それに近いものができるのではないでしょうか。

 決定的な違いは、できあがるまでの時間です。

 一流シェフは、さっと盛り付けてしまいます。

でも、素人がそれをやろうとすると、プロの何十倍もの時間が必要になります。

 文字も同じです。

文字の形をじっくり研究し、ゆっくり丁寧に書き、失敗したら、何度も消して書き直す。

こうすれば、必ず上手な字は書けます。

 ところが、字が未だ上手でない子が、上手な子と同じ時間(例えば書き取り1ページを15分)で書こうとして書けないから、自分は字が上手に書けないと思い込むのです。

上手な子が15分で書けてしまう「書き取りノート」1ページを、3時間かけて書いてみましょう。

自分の字が、びっくりするほど上手なことに驚きます。

 これを何日か、楽しむことができた子は、すぐに上達を始めます。

 6年生のAさんは、4月から丁寧に練習を始め、7月には、大人でも簡単には書けないような美しい字を書けるようになっていました。

Aさんの4月の頃の書き取り帳は、消しゴムで何度も消した跡があり紙もボロボロになっていました。

4月の頃は、本当に1ページに3時間かかっていたとお母さんが言っています。

 「時間をかければ上手に書ける」ということに気づかない子、気づいてもやらない子は、一生、字は上手になりません。

 他のことも、すべて同じです。

 自転車の漕ぎ出しは、とても足の力を要します。

 エンジンの回転数を上げて、たくさんのガソリンを消費し、エンジンに無理をさせなければ、自動車は停車位置から走り出しません。

 どんなことも、始めたばかりの時は、大きな力(時間と我慢)が必要なのです。

 でも、それさえ乗り越えてしまえば、(自転車や車なら、スピードに乗りさえすれば)、後は、少しの力だけで、最高の実力を発揮できるようになるのです。

 その「大きな力」を出すためには、周りの大人の協力や強制が必要なこともあるでしょう。

しかし、たとえ最初に大人の力を借りたとしても、練習して上手になることを知った子は、他のことでも、希望を持って頑張るようになります。

 できないことを、時間と我慢でやり遂げてみる。

確かに大変なことですが、その見返りは、途方もなく大きいのです。


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