好循環のスタート地点
究極の目標は、楽をして生きる。これは、どの生物も同じです。
食べて、寝て、子孫を残す。この3つのことが安心してできる環境があれば、生き物は努力する必要はありません。
生き物が進化してきたのは、安心できない環境に置かれたので、仕方なく変化に対応していったからです。
今の日本の子どもたちは、「安心の中」にいます。
だから、努力する必要はないし、大人がそれを責めることもできません。
ただ、人間は、遠い未来のことまで考える能力を備えているので、未来のことを考えると、多少の進化をしていなければならないことを知っています。
だから、大人は、子どもたちに努力を強います。
子どもたちは、まだ、未来のことがわからないことが多いので、努力することに反発します。
そこで、最近は、子どもに興味を持たせる学習法がいちばん良い、という風潮になっています。
たしかに、人間は、好きなことは一所懸命やります。
好きなことしかしない、と言った方がよいくらいです。
そして、本当に好きになったことは、他人から見ると「なぜ、そんなに面倒なことを…」と思うことでも、少しも面倒に思わずやってしまいます。
そうして、知らぬうちに面倒なことをたくさんすると、スキルが上がり「できる」ようになります。
「できる」ようになると、気持ちがいいし、周りからの高評価も加わり、さらに好きになります。
好きになると、さらに多くの面倒なことも面倒ではなくなり、夢中なって取り組みます。夢中になればなるほど、さらにスキルが上がり…。
好き→やる→できる→好き→やる→できる→好き→やる→できる…。
この好循環に身を置けたら、人は、どんどん進化していきます。
では、この好循環のスタートは、本当に「好き」からなのでしょうか。
先日、私の考えたタイピングの練習を授業に取り入れたら、子どもたちは「面白い」と言って、夢中で取り組みました。
「うちでも練習する」と何人もの子が、張り切っていました。
これは、「好き」から始まる好循環の例です。
しかし、普通は、こんなことは滅多に起きません。
子どもたちには、好循環の話をして、「好き」から始まることは滅多にないということを教えました。
もし、ここで、それを教えなければ、「好き」の種を誰かが探して与えてくれるのを待つようになり、そういう自分に気づかずに、「最近、面白いことがない」と文句を言うだけの大人になってしまうでしょう。
好循環のいちばん大きな入り口は「やる」です。
4月から、私は、平仮名を上手に書くことを厳しく指導してきました。
中には「5年生になっても平仮名が上手になるんですね、目から鱗です」と言ってくれたお母さんもいらっしゃいましたが、最初は、「なぜ今更、平仮名を…」というお父さん、お母さんが多かったです。
子どもたちも同様に思ったでしょうが、先生が怖くて逆らうことができず、仕方なく平仮名を真剣に毎日書いてきました。
年末に1年を振り返らせると、「字が上手になってうれしい。」という子がたくさんいました。
その子たちは、毎日1ページの書き取りの宿題を、自主的に2ページ、3ページとやるようになっています。
漢字テストの成績も上がっています。
もちろん、好循環のスタートが「好き」の場合もあります。
でも、それは、すごくラッキーな出来事であることを、子どもたちに教えてください。
好循環のスタートの基本は「やる」です。
「やる」には、時には「鬼」になって強制的にやらせることが必要です。
何のために、どんな時に、親や教師は「鬼」にならなければいけないのか。
その軸がぶれないことが、子育てでは重要だと思います。