自分の鎧も脱ぐ
算数の坂道を登り直せば、算数は必ずできるようになります。
教室の6年生にも、機会あるたびにその話をしています。
でも、自分が算数ができないことを宣言したり、自分だけ下の学年の教科書や計算ドリルをやるというのは、なかなかできないことです。
夏休み前に、それぞれに必要な学習について指導しておきました。
夏休みなら、「こっそり」坂道を上り直すこともできるからです。
夏休みにがんばった子も多かったのですが、1ヶ月では「登り直す」のは大変です。
でも、夏休みが終わると、なかなかまとまった時間もとれません。
しかし、ここでやめてしまっては、元の黙阿弥になりかねません。
夏休みが終わった日、6年生全員で、1年生から5年生までの算数のテストをやってみました。
ここまでのがんばりで、今から、どの学年から登り直さなければいけないかをはっきりさせるためです。
私のクラスでは、テストの結果を、全員の前で発表しました。
2年生の問題からやり直した方がいい子から、6年生の教科書も完全に理解できているので応用問題に取り組んだ方がいい子まで、いろいろです。
この話をすると、それは残酷だとおっしゃる方もいます。
でも、ここで、「できないのにできたふりをしているという鎧」を脱がなければ、前には進めません。
小学校の学級というのは、子供たちが1日間の大半を過ごす場所です。
家族よりも長い時間いっしょにいる場合もあります。
そういう場所でいっしょに暮らす人たちの前では、1枚でも多くの鎧を脱ぎ捨てた方が、安心して暮らせるし、力を伸ばすこともできます。(そうでない場所では、実力以上に自分をよく見せることも、必要な場合があります。)
それに学級の中では、すべてを隠すことはできません。
体育の時間に走れば、誰が速くて誰が遅いか一目瞭然だからです。
運動が得意な子は、得意でない子に教えてやればいいし、運動は得意だけれど算数が苦手な子は、算数が得意な子に教わればいい。
自分はこれが苦手なんだ、と素直に言える集団の中にいる子は、伸びます。
また、「教える」行為は、「教わる」学習の何倍も力を伸ばせるよい方法でもあります。
さて、みんなの前で算数の実力を発表された私のクラスの子供たちは、どうしたかというと、1週間後に調べた結果、4分の3以上の子が、何らかのアクションを起こしていました。
A君は、2年生から5年生の算数の教科書を家の物置から探し出し、算数の時間に教室の机の上に積んでいます。
A君には、「今日の6年のこの問題は、3年生のこの問題につながっているんだよ」と教えながら授業を進めることができます。
古い計算ドリルを引っぱり出してきてやり直している子もいるし、新しい問題集を誕生日のプレゼントとして買ってもらった子もいます。
塾で相談したら、塾の先生が特別に、その学年の問題を作ってくれたという子もいました。
今年のクラスも、いっしょに暮らす仲間の前では、鎧を脱いだ方がいいということを、すでに、ある程度理解してくれているようです。
鎧を脱げる場所を作ってやれば、子ども達は、自分を素直に正面から見つめ、自分に必要なことに自ら取り組むようになると思います。