式、図、言葉の3点セット
5年生の算数「単位量当たりの考え方」の授業です。
「1990年、日本では1年間に114400000万kgの二酸化炭素が出ました。
当時の人口は12361万人です。1人当たりの二酸化炭素の出た量を求めなさい」
A君一人を除いて、全員が、さっと114400000÷12361という式を書きました。
そこで、「この式が正しいとわかる図、または絵を描きなさい」と指示しました。
全員が、最初、頭を抱えましたが、そのうち、Bさんが、人間を3人描き、それぞれに吹き出しをつけ、吹き出しの中に小さな丸を10個ずつ描きました。
3つの吹き出しはつながっています。他に、3人の子も、これに近い絵を描いていました。
Bさんの絵は、この問題が単位量当たりの考えであることを上手に表現できています。
残念ながら、他の子は、この絵がぴんと来ていませんでした。
式を立てられなかったA君には、次の問題を出しました。
「りんごが6個あります。3人で同じ数ずつ食べます。一人分はいくつでしょう。」
これならわかると、A君は、式と絵をすらすらと描きました。
「二酸化炭素の問題は、このリンゴの問題と同じ仕組みでしょう」と私が言うと、何人かがパッと理解できました。
その後、まだわからない子には、くわしく説明しました。
この授業からは、2つのことがわかります。
ひとつは、式はわかるのに、その式になる仕組みをきちんと説明できない子が大変多いことです。
もうひとつは、A君のように、理論を理解していても、数字が大きくなったり、二酸化炭素のように目に見えないものになったりすると、わからなくなってしまう子がいることです。
特効薬は、まだ私には見つけられませんが、こういう点が弱点にならないように、子どもたちには、算数の問題を解く時は、いつでも、式(数字)、図(絵などのイメージ)、言葉(文で自分のしたことを説明する)の3点セットをそろえなさいと言っています。
こうすることで、Bさんのように、いつでも問題の本質をとらえ、最もシンプルな形にして問題が解けるようになります。
お子さんが算数の宿題をやっている時、式だけではなく、どんな図になるか、その式の仕組みを言葉で説明できるかを、一緒に考えてやってみてください。
読者の方からのお便り*****************
「人間を3人描き、それぞれに吹き出しをつけ、吹き出しの中に小さな丸を10個ずつ描きました。3つの吹き出しはつながっています。」という部分が私にはわかりかねました。
人間が3人というのと吹き出しの中の小さな丸が10個ずつなのもイメージで実際の数とは違っているのでしょうか?
***************************************
低学年では、「リンゴが6こありました。3人で分けます…」という問題を図(絵)にする時に、りんごは、しっかりと6こ、人間は、しっかりと3人描きます。
しかも、最初は、りんごはりんごらしく、人間は人間らしく描く必要があります。
問題文とイメージが直接つながることが大事だからです。
しかし、理解が進むと、まず、りんごを表すのに、わざわざりんごを描かず、ただの○で代用できるようになってきます。
絵から図へ抽象化していくのです。ここが、イメージ化のとても大事なことのひとつです。
さらに理解が進むと数も抽象化(省略)することができるようになります。
ご質問のあった問題は、「1990年、日本では1年間に114400000万kgの二酸化炭素が出ました。当時の人口は12361万人です。1人当たりの二酸化炭素の出た量を求めなさい」です。
問題を解くために12361万人の人間を描くわけにはいきません。
Aさんは、12361万人の人間を3人に省略し、114400000万kgの二酸化炭素を30つぶの小さな丸に省略したわけです。
図(絵)は、低学年から高学年に向かって、このように少しずつ省略できるようになることで、より複雑な思考ができるようになっています。
抽象化・省略をあせる必要はありません。
もし、図(絵)が、少しでも抽象化・省略ができるようになったと思えた時に、うんと褒めてやってください。
褒められたことが刺激になって、さらに一歩進んだ抽象化・省略をしようという気持ちになることが最も重要です。
読者の方からのお便り*****************
3年生までずっと図を描かせてきたので、文章題は間違えないのですが、たまに単位を書き忘れることがあります。
角のテストでも2問「°」を忘れて90点でした。どうしたらこのようなミスはなくなるのでしょう。
***************************************
ここは、「言葉」が役に立ちます。
いつも式、図、言葉の3点セットを意識して問題を解き、(面倒ではありますが)、言葉での説明を書く習慣を身に付けると、テストの時も、心の中で自然に「言葉で説明」するようになります。
「ここが○○センチメートルで、こちらが△△センチメートルだから…」
「分度器の60度をさしているように見えるけれど、これは90度より大きい角だから…」
というように、心の中ではっきりと言葉にできていると、単位のつけ忘れは、少なくなるはずです。
式だけ書けば百点をとれるところを、図でも文でも書くという作業は、とても面倒です。
でも、この「面倒」は、やる甲斐のある面倒だと思います。
時間に余裕のある時だけでもよいので、ぜひ、繰り返し行い、最終的には、「脳内の習慣」にしてほしいと思います。