1+1=2じゃなくたって…
6年生の算数です。
「単位量当たりの大きさ」という勉強です。
「平均」という考え方を知り、平均を計算で出せるように、教科書は、こんな問題で始まります。
とも子さんとけんじ君が缶拾いをしました。けんじ君は、1日目…8こ、2日目…5こ、3日目…5こ、4日目…6こ拾いました。けんじ君は1日平均何個拾ったと言えるでしょう。
そこで、授業では、とも子さんは、5日目まで拾っていたので、「もし、けんじ君が5日目にも拾っていたら、5日目はいったい何個拾っていたでしょう」という問題に変えました。
答えはもちろん、(8+5+5+6)÷4=6で、6こです。
あらかじめ学習塾で勉強してきた子が、うれしそうに手を挙げ、この答えを発表します。
初めてこの勉強に出会った子は、「あ、そうか」という子、(発表した子が何を言ってるかわからなくて)ぽかんとしている子、「やっぱり塾へ言ってる方が頭がいいんだろう、どうせ自分はできないし…」などと考えていそうな子に分かれます。
「え?6?」と言ったきり、私は黙ります。
「塾の子」は困ります。他の子も困ります。
でもやがてざわざわし始め、手を挙げる子がでてきます。
・けんじ君は、最初の日にがんばった後、疲れて5に減った。
4日目に再度がんばったので、また5日目は疲れたはずだから、4日目から3こ減って、5日目は3こ。
「そうだよね。けんじ君、5日目までは頑張れなかったかも」と私が答えると、一斉に多くの子が手をあげ始めます。
・いや、けんじ君は、3日目、4日目と調子を上げてきている。もし5日目にやったら、初日の8個に戻るかも。
・最高を出したくて、9こねらいかもしれないよ。
・逆だよ。5日目に1こ拾えばとも子さんに並ぶから、2こでやめるんじゃないの。
・1こでやめて、なかよくとも子さんと同じにするかも。
・けんじ君はとも子さんが好きだから、とも子さんに合計数で勝たせるためにわざわざ5日目を休んだんだよ。だから、拾いに行っても0こで帰ってくるはずだよ。
なかなかいい調子で次から次へといろいろな意見が出てきます。
・とも子さんはけんじ君に恋してるから、けんじ君が少し具合が悪いのがわかったら、とも子さんが自分の拾った分を全部けんじ君にあげちゃうはずだから、5日目は25こ
などと無茶なのも出てきました。
けんじ君の5日目は実際にはありません。
そこを予想するのに、たったひとつのルールでしか、ものを考えられなかったら、実際に起こることに対処できない人間になってしまうでしょう。
この後、平均についてくわしく勉強し、最後に、
「平均という考え方は理解できたかな。
しっかり理解して、さっと計算できるようにしておきなさい。
でも、平均が考え方のすべてじゃないからね。
みんなが考えたように、未来はいろいろなことが起こる可能性に満ちているんだ。
平均というのは、その中のひとつの考え方なんだよ。
今日は、たくさんの未来の予想の仕方が出てきたね。
こんなにたくさん考えられるみんなは天才かも」と言って、授業を終わりました。
算数では、テストで書く正解はひとつしかない場合が多いのですが、それを人より早く出して安心している子は、それ以上伸びません。
もちろん、数学の理論をきちんと身につけることは大事です。
それは、最も起こりうる確率の高い物事を簡単に求める人類の知恵だからです。
でも、その確率が100%ではないことを知っておくのも、人生には必要です。
子どもが言う「でたらめに思える一言」の中に、子どもの思考を広げる種が含まれているかもしれません。
それを認めることで、子どもの才能は大きく広がります。
また、そう考えながら子どもの話を聞いていると、大人も自然に思考が広がります。
「脳の話」でいうと、箱と箱を繋ぐ紐が広がるということです。
時々そんな気持ちで、家でも、お子さんの話に耳を傾けてみませんか。
大人が「聞く耳」を持ては、お子さんは必ずよい方向に向かいます。