小さな恋の歌で音痴が直る

読者の方からのお便り******************************************

 今日は先生にちょっと相談。

私は昔から歌が下手でそれがコンプレックスになっているところがあって…先生みたく上手に歌えたら気持ちいいんだろうなと思うものの、自分はなかなかうまく歌えないんです。

声がこもって声になってしまうのと、顎関節症なため口がおもうようにあかないんですよね。

でも練習すれば何とかなるのかな… 

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 お子さんは、音楽が好きですか。音楽の授業が好きですか。

 お父さん、お母さん、歌は好きですか。お子さんと一緒に歌っていますか。

 もし歌っていないとしたら、どんな理由からですか。

 歌うことで困っていることはありませんか。

 入学したばかりの子は、みんな音楽の授業が大好きです。

でも、学年が上がっていく毎に、音楽の授業に興味を失くす子も増えてきます。

その一番の原因は、自分は音痴だと思い込んでしまうことのようです。

 三十八年間、音楽の授業をしてきましたが、それでわかったことは、音痴の子どもは、ほぼ0であるということです。

声の出し方などを身につければ、みんな上手に歌えるようになります。

多くの子が、授業で音痴が治ったと喜んでいましたが、本当は最初から音痴ではなかったのです。

 自分が音痴だと思っている人は多いようです。

子ども達の中にも、歌うことに自信がなくて自分が音痴だと思っていた子がたくさんいます。

でも、何百人もの中で本当に音をとるのが難しかったのは、たった一人でした。

その子は後に検査したら耳の具合が悪いことがわかりました。

他の子は、みんなしっかり歌えました。

耳の具合が悪かったA君は、それでも歌が大好きで、集会では五百人の全校児童の前で、ソロのパートを歌いました。

すごくていねいに歌えて、今でもその光景が心に浮かびます。

私の教員免許状は「国語」で、音楽は専門外です。

ピアノも弾けません。

でも歌を作ったり歌ったりすることが大好きです。

子どもたちにも、音楽が好きになってほしいと思い、授業を研究してきました。

 誰もが楽しく歌えるように色々と挑戦してきましたが、その途中で、歌うだけで音痴が直る(実際は、自分は音痴だと思い込んでいた子が、そうでないことに気づく)歌を発見しました。

モンゴル800の「小さな恋の歌」です。

この歌はシングルカットされていませんが、多くのアーティストがカバーしているので、耳にしている方も多いと思います。

5年生の授業で初めて子どもに歌ってもらったのですが、この歌を歌うと、みんな歌がうまくなってしまうのです。

(音楽の専門の先生に聞けば、他にも同様の歌があると思いますので、この歌が性に合わなかったら、音楽の先生に訊いてみてください。)

 「小さな恋の歌」。

まず、この歌を聴いてください。

モンゴル800というバンドの歌です。

「ハナミズキ」、「残酷な天使のテーゼ」とともに、平成時代に歌われたカラオケトップ3になったことでも話題になりました。

最初、歌詞とメロディが気持ちよくて好きになったのですが、この歌が私の音楽の授業を変えてしまいました。

 5年生の授業で初めて子どもに歌ってもらったのですが、この歌を歌うと、みんな歌がうまくなってしまうのです。

歌うだけで歌がうまくなるという歌はたくさんあるだろうし、音楽の専門の先生は、そういう歌をたくさん知っていて教えるのでしょうが、私はこれからこの歌で子供たちに歌がうまくなる気持ちよさを教えようと決めました。

6年生も一所懸命歌ってくれます。

他の先生が音楽の授業を担当する他の学級でも歌ってもらうことにしました。

慣れない人にはちょっとやかましいアレンジですが、メロディも歌詞も、とってもいい歌です。

 さて、なぜこの歌を歌うと歌が上手になるかというと、

○ とても広い音域で歌われている。

○ Bのメロディが、低い音から高い音へ自然に上っていく

○ そして何より、いい歌なので、何回も歌いたくなる

からです。

 歌ってみると、かなり難しい歌だとわかります。

初めて自分で歌った時は、その難しさに、びっくりしました。

うまく声が出る部分と、低すぎたり高すぎたりして声が出ない部分があると思います。

 この歌は、4つのメロディでできています。

それぞれをAのメロディ、Bのメロディ…略してAメロ、Bメロ…と呼ぶことにします。

Aメロは、「広い宇宙の…」、Bメロは、「響くは遠く…」、Cメロは「ほら、あなたにとって…」、Dメロは「夢ならば醒めないで…」と呼ぶことにします。

 どこがいちばん歌いやすかったでしょうか。

まず、これが一番重要です。

いちばん歌いやすいと感じたところが、いちばんよい声の出ているところです。

ここを大事にして、うまく歌える場所を広げていこうとすれば、自分の声がどんどん好きになっていきます。

 Aメロが歌いやすい人は、Cメロは音が高すぎて出にくいかもしれません。

小学生はほとんどの子がそうです。

少し前までの小学生は、Aメロでは低すぎたのですが、最近、子どもの声がどんどん低くなっていっていて、今のこの多くは、Aメロの低さがちょうどよいみたいです。

…正確には、子供たちはモンゴル800の1オクターブ上を歌っています。

 小学生は、Aメロは普通の声、そのまま歌っていけば、Cメロに入ってからは裏声を出さなければいけません。

ところが、何も指示せずに歌わせると、彼らは、Cメロで突然1オクターブ落として、低い声で歌います。

ここが一つのポイントです。

Cメロになっても、裏声を使って高い音で歌わせます。

これで音痴だと自分で思っていた子が治ります。

 成人女性も、小学生と近い声域の方が多いので、お母さんもお子さんと一緒に歌ってみると効果がわかるかもしれません。

 音痴だと自分で思っていた子には、共通したことがありました。

それは裏声を使わないことです。

人の喉は声域が限られていて、すべての歌をそのままの声で歌うことができません。

でも、歌いたい歌を我慢するわけにはいかないので、はりきって歌ってしまいます。

 高い声がうまく出ないのに張り切って地声で歌うと、声が上がり切らないで、音が外れます。

その一瞬だけ外れるならいいのですが、その外れた音のまま、歌の音が低くなってからも歌ってしまうことが多いようです。

すると歌全体の音がずれて、音痴と呼ばれてしまうのです。

 でもそれは簡単に治せます。

高い音を無理しないで、裏声で出せばいいのです。

 森山直太郎さん、平井堅さん…裏声を自在に扱って歌を豊かにしている歌手がたくさん出てきたおかげで、男子が裏声を出すのを恥ずかしがらなくなったので、ありがたいです。

 裏声と低い声を、あ〜、あ〜、と交互に出す練習をすると早く使えるようになります。

最初は小さな声にしてください。体を作る前に無理して大声を出すと、喉は取り返しがつかないほど痛みます。

 ちょっとだけでも裏声が出せるようになったら、Bメロを歌ってみましょう。

低い声から歌い始めて、自分がどこから裏声にすればいいか、探りながら歌います。

その変換点を見つけたら、もう大丈夫です。

音痴だと思っていた人は、自分が音痴ではないと確信が持てるようになります。

まだ大きな声で歌わないでください。小さな優しい声で、正しい音で歌えたことを楽しんでみましょう。

 とはいっても、小さな声で歌っているだけでは、楽しくないし、歌も上達しません。

では、大きな声で歌う方法です。

 喉はとってもデリケートな部品で、一度壊すと元に戻りません。

正しい声の出し方を身につけてから大きな声を出さないと、すぐに壊れてしまいます。

ここからは、少し時間がかかるかもしれませんが、じっくりやって、一生すてきな声でいてほしいと思います。

 どうしても覚えなければいけないのは、腹式呼吸です。

 腹式呼吸というと、お腹で息を吸うというイメージがありますが、息の入るのはもちろん肺です。

普段の呼吸だと肺の1/3までしか酸素が入らないのですが、腹式呼吸だと肺の隅々にまで酸素が入るそうです。

「酸素は脳の栄養だから、腹式呼吸をすると普通の3倍頭がよくなる」と子どもには言います。

音楽に興味がなくても、それで俄然やる気を出す子も出てきます。

 まず腹式呼吸がわからない子には、それを感じてもらうために、仰向けに寝て、「眠っていいよ」と言います。

授業中にそんなことを言われても緊張して大変ですが、しばらくじっと待っていると、だんだんリラックスしてくる子が増えてきます。

 そうすると、息を吸っている時はお腹が膨らみ、吐いているときはお腹がへこむことがわかります。

これが腹式呼吸の感覚です。

これが、立って意識的にできれば完成です。

 いきなり立ってやってみるのは大変です。

順を追って、少しずつ立つ姿勢に近づきましょう。

 まず、寝たまま、腹式呼吸を感じてください。

わかってきたら、ちょっとだけ意識して、その呼吸に合わせてお腹を動かしてみましょう。

あせらず、ちょっとだけ力を入れてください。

寝る前にこれを30秒くらいやると、数日で感覚がつかめてきます。

そうしたら、歌はもうすぐ自信を持って歌えるようになります。

 仰向けの状態で、意識してお腹を動かせるようになったら、今度は座ってみましょう。

ゆかにリラックスして座ります。

 (体育座りというのが日本全国で通用する言葉かわかりませんが)体育座りをして、手を後ろのゆかにつけます。

真横から見ると、手の先から足の先までが、体全体でMと書いたようになります。

ちょうど、朝、上半身は起こしたけど、なかなかそのまま起きる気がしなくて、もう少し寝ようかなあと悩んでいる感じです。

あくまでもリラックスしてください。

 その姿勢でお腹が自在に動くようになったら、今度は立ちます。

ここまでスムースにできる子どもは天才です。

ここが一番大事なのでのんびりやってください。

 少しだけでも動きがわかってきたら、大きく強く動かす練習に入りましよう。

長く息を吐く練習と強く息を吐く練習です。

私の持っているテキストには火をつけたろうそくで練習することになっていますが、教室ではできないので、リコーダーや鉛筆を使います。

 まず長く吐く練習ですが、リコーダーを使います。

一つの音を何秒間のばせるか、競争をします。「ラ」の音が気持ちいいと思います。

 強く吹きすぎるとすぐに息がなくなってしまいます。

吐く息が少な過ぎると音がふらふらします。

細くて安定した音を出しましょう。

子どもに練習させるとリコーダーの音も美しくなります。

 子供たちは最初、10秒くらいしか続きませんが、しだいに20秒を越える子が出てきます。

私もいっしょにやりますが、この年になっても自己最高記録が出ると単純にうれしくなってしまいます。

この練習は、まだ腹式呼吸に自信が持てなくても、始めてください。

お腹と背中の皮がくっつくくらいまで吐ききることによって、それまでできなかった腹式呼吸ができることがあります。

 次に、一度に強く吐く練習です。

鉛筆を机の上に立てて、「は」と大きな口をあけて息を吹きかけ鉛筆を倒します。

少しでも遠くから倒せた人の勝ちです。

こちらは、腹式呼吸にある程度自信を持ってからやってください。

 鉛筆とリコーダーを使った練習、お子さんと競争してみると楽しいかもしれません。

同じことを体を使ってすると、二人の心のつながりは急速に深まっていきます。

 基本練習というのは、単純で続きにくいものです。

昔は根性でそこを乗り越えるのが当たり前のような時代もありましたが、できることなら楽しくやらせましょう。

 私は子供たちにゲームを考えて取り入れるようにさせています。

自分を楽しませながら力を伸ばしていくのが、いちばん力のつく方法だと思うからです。

 ただ、間違いやすいのは、子どもにゲームを与えてしまうことです。

ゲームや楽しみ方を与えられることに慣れすぎた人間は、檻の中の生活になれた動物のように餌を待つばかりの怠惰な生き方しかできなくなります。

怠惰に生きたのでは、日本では幸せになれません。自分で自分を幸せにできない人は、人を幸せにすることもできません。

 子どもたちには、ゲームの例を見せますが、目的はあくまでも「自分で自分を楽しませる方法を、自分で考える力」を育てることです。

大人は子どもに餌を与えつづけるのではなく、餌のとり方を教えなければいけません。

 さて、では歌の練習の最後です。響きのある声を目指しましょう。

 トライアングルという楽器を思い浮かべてください。

太い鉄の棒を三角形に曲げて、紐でつるし、鉄の棒で叩く楽器です。

小学校の1年生の教室にもあります。

 よい声を響かせるために、いつもこの楽器をイメージしてください。

三角形の下の辺がお腹だとして、全体が人間の上半身だと思ってください。

 トライアングルは紐でつるし、そっとたたくときれいな音が響きます。

力が必要なのは、叩く瞬間だけです。

 もし、紐を持たずに、トライアングルをぎゅっと握り締めて叩いたら、いくら強く叩いても、音は鳴りません。

 歌の声もこれと同じです。息を吐き出すためにお腹に少し力を入れます。

あとは、喉をはじめ、体中から力を抜いてリラックスします。

 言うのは簡単ですが、やってみると難しいかもしれません。

ここに力を入れましょう、と言われたら楽ですが、ここの力を抜きましょう、というのは、意外に難しいのです。

特に歌の場合、喉の力を抜くというのがとても難しいと思います。

力を抜こうとその場所(喉)のことを考えると、余計にそこに力が入るものです。

 でも大丈夫です。

ここまでの練習を続けてきたら、簡単に喉の力が抜けます。

お腹のことを考えればいいのです。お腹に力を入れることに考えを集中させると、自然に喉の力は抜けます。

喉のことを忘れてしまえばいいわけです。

 ついでに口のことも、一度忘れてください。

小さな頃、音楽の先生に口を大きく開けなさいと言われましたか。

それは、練習のある段階では必要ですが、今は忘れてください。

口をあけようとすると、顔や喉に力が入ってしまいます。

 これまでどおり、お腹のことを考えて、「小さな恋の歌」を歌ってみましょう。

今日は、自分の声がトライアングルのように胸や顔や頭に響いていることを感じたり、想像したり、楽しんだりしてみましょう。

 Aメロは口の形や顎の降ろし方に意識を向け、Cメロになったらお腹に意識を向けさせると、子どもも歌い方に集中できて、上達も早くなります。

 ここまでのことをていねいに続けていけば、歌はどんどんうまくなります。

 もっとがんばれる子には、もうひとつ教えてください。

 ハミングが、声をよくするとってもよい練習になります。

「ム〜〜〜」と口を閉じて音を出す方法です。

 くちびるを閉じます。上下の歯は合わせないですき間をあけます。

その時に、力が入らないように注意します。

この形で「ム〜〜〜」と声を出します。

口や鼻の周りがむず痒くなりましたか。

その痒さが、トライアングルのようにきれいに響いている証拠です。

 むず痒さを感じたら、そのむず痒さが鼻から目の間の方に登っていくように音の出し方を工夫してください。

少しでも上に上っていったと感じられたら、この練習はよい方向に向かっています。

そのまま頭のてっぺんの方まで振動のしているのが感じられたら、もう今までとは見違えるようなよい声で歌えるようになっているはずです。

頭のてっぺんの振動までは、一夕一朝にはできないと思いますので、根気強く続けてください。

 歌がうまくなる細かいテクニックはまだありますが、ここまでがんばってやれたら、歌に自信が持てるようになるはずです。

リラックスしたトライアングルのお腹にぽんと力を入れて歌う。

このイメージをいつも持って歌いつづければ、聞いている人も気持ちのよい歌を歌えるようになるはずです。イメージはトライアングルです。

 歌に自信が持てると、授業中の発表も積極的になります。

そうすると顔もどんどんよくなっていきます。

顔がよくなると、歌がうまくなります。

歌がうまくなると、さらに自信が持てて、生活や人生の好循環が始まります。

読者の方からのお便り******************************************

音楽って本当に私にとっては元気の源なので、誰がなんと言おうと、思おうときっとずっと好きだし、必要なものだと思います。

そんな音楽に娘も出会って欲しいと思っています。

いつか娘と同じ歌が好きになれたらな〜。

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 ぜひ、親子で歌ってほしいと思います。


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