自転車に乗れる日まで
私の勤める町では、6年生全員が選手として参加する陸上競技大会があります。
すべての子が出場するので、走るのが遅い子も、走る姿を見られたくない子も、みんな100m競争に出なくてはいけません。
大会当日は、家族もたくさん見に来ます。
そういう子が、あまりに可哀そうなので、2か月くらいかけて、練習させます。
2か月では、それほど成果は上げられませんが、とりあえず100mを走り切る体力をつけることと、美しく走るフォームを教えます。
フォーム作りは、一生を通しての宝になると考えてのことです。
今年の6年生は、一人一人が本当によく頑張りました。
練習を見ていると、1回1回、フォームに関して自分の課題を持って走っていました。
予定帳にも、今日の課題を進んで書いてくる子が何人もいました。
陸上大会当日、全員が自己ベストを出しました。
「もともと走るのは嫌いだし、練習も最初は嫌でした。
でも、自分のフォームがきれいになったり、タイムが上がっていくたびに、走るのが好きになりました。」
Aさんの書いた練習の振り返りの一部です。
人間は、好きなことなら自主的に取り組みます。
では、どんなことが好きなのかというと、自分が「上手にできること」です。
では、どうすれば、できるようになるかといえば、できないことを頑張ってできるようにすればいいのです。
転んでばかりで傷だらけになった、自転車に初めて乗ろうとした日に、自転車が大好きになることはありません。
自転車がすいすい乗れるようになった日から、自転車が大好きになれるのです。
1日目に乗れなかったから自転車に乗るのをあきらめてしまうのか、それとも、明日も傷だらけになって練習するのか。
できないことができるようになるまでの、ほんの少しの期間が、勝負の分かれ目です。
自転車は、ほとんどの人が乗れるので、誰でも乗れるようになるまで頑張ることができると思いがちですが、そうではない人もいるし、他のことに関して言えば、できるようになるまで頑張ることの方が少ないのが現実です。
子どもには、親がいます。
つらい練習期間、励ましたり、叱ったりして、頑張らせてくれる人です。
さらに、子どもは、大人よりも速く「自転車に乗れる」ようになります。
すべてのことに、これは当てはまります。
子どもが進んで勉強しないのは、「勉強ができる子になった」という実感がないからです。
Aさんは、みんなより速く走れるようになったわけではありません。
でも、自分は上手になったという実感があったから、走るのが以前より好きになったし、自分でも研究するようになったのです。
これは、学校で無理やり100m走の練習をやらされなかったら、起きなかったことです。
「自転車に乗れるようになるまで」無理やりにでも鍛えてやること、その先、自分で考えれば、もっと自転車が楽しくなることを伝えてやること、が、自主的に勉強する子を育てる方法です。