漁師になりたい

 学習発表会で、6年生は、自分の夢の職業について調べたことを発表しました。

 実のところ、6年生の段階で、どの子も将来の職業を考えなさいというのは、本来は無理なことです。

しかし、多くの子が、真剣に自分の夢について調べ、当日に備えました。

 さらに、大人にも下級生にもわかるように台本を作り、しかも先生から「自然に話すように説明しなさい」などという難しい指示を受け、それを必死でこなした子ども達は、みんな6年生としては充分満点です。

 そんな中、私が最も感激したのが、「漁師になりたい」という発表をしたA君です。

 練習を含め、3回A君の発表を聞きました。

驚いたのは、3回すべて、内容が少しずつ違っていたことです。しかも、どんどんよくなっていきました。

 「今までは、こんな魚が水揚げされていたけれど、最近は…」「この魚の美味しい切り方は、3種類あるけれど、最後の一つは、まだ自分にはできない…」

 A君は用意した資料を見せながら話すのですが、どれも、資料の内容を越えてしまっています。

「3回とも言ってる内容が違ったね」と私が言うと、「言いたいことがいっぱいあって…」とA君は言います。

 よく聞いていると、家族や自分のまわりの人たちに美味しい魚を食べさせたいという願いが、彼の夢を支えているのがわかります。

また、知識だけでなく、実際に生活の中で包丁を握っていることも、よくわかりました。

 彼は、「実はマッサージ師にもなりたい」と言っています。

自分がマッサージすると、周りの人たちが気持ちがいいと喜んでくれるから、と言うのです。

 周りの人を喜ばせたい、しかも、それを頭の中の想像だけでなく、実際にやっている。

これが、A君の発表を輝かせていた理由でした。

 読書をすると心が豊かになるのは確かです。

でも、それだけでは、人間は成長はしません。

 周りの人を笑顔にしているという経験と自信が、夢を持ち、成長する、いちばん大事なことなのではないか、とA君を見ていて思いました。


 『速効よい子』へ戻る   ホームページ『季節の小箱』へ戻る