夢の職業
4月に子どもたちが自分の夢の職業について作文に書き、夏休みなどに、その職業を調べたりしました。
その年の一番人気はパティシエだったので、修学旅行ではお菓子に関係する人に講師をお願いしたいと思い、探しました。
偶然見つけた東京日本橋日月堂の安西さんのブログに私が感動し、「子どもたちに話をしてくれないか」とメールを送りました。
安西さんの仕事に対する誇り、探究心に心を打たれたからです。
最初は、安西さんに断られました。
しかし、しつこい私に安西さんも根負けし、修学旅行の日程に合わせて1時間お話が聞けることになりました。
一度引き受けることを決めると安西さんは、その1時間のために大変な準備をされ、私たちを待っていてくれました。
子供たちは感動し、その後も安西さんと子どもたちの交流は続いています。
会ったことのない人に感動し、こうして出会いの場を自ら作る、という経験は、私にとっても初めてのことで、私の人生の中でも安西さんは、とても大事な人になりました。
私を動かしたのは、子どもたちの「夢の職業」に対する熱い気持ちでした。
自分が夢見る職業について、夏休みをはじめ、いろいろな時間を作って、子どもたちは1年間熱心に調べていきました。
30年以上前から、こうした「夢の職業」についての活動を取り入れた指導をしています。
ひとつ夢の職業が見つかると、子どもたちは未来に希望を持ち、活発な活動を始めます。
でも、残念なことに、6年生になった時点で「夢の職業」を心に持っている子は年々少なくなっています。
目の前の受験などに目を奪われ、遠い未来を見る視力が落ちているようです。
また、原因のひとつに、子どもが大人の仕事を目の当たりにしていないことが考えれられます。
私が小さい頃は、家の周りに田んぼ、畑、小さな町工場がありました。
遠洋漁業の町ですので、漁師さんたちもたくさんいました。
商店街に行くと様々なお店があり、おもちゃ屋のおじさんと隣りの八百屋のおじさんは、全く「違う顔」をしていました。
身近な人たちばかりか、ラジオやテレビから流れてくる情報も刺激的でした。
国全体が高度成長の中にあり、新しい物は生活を一変してしまう夢のような製品ばかりで、それを作っている人にも憧れを持ちました。
今、子どもたちは、仕事をしている大人と接する機会がとても減りました。
食材は誰がどんなふうに作っているのか。工場の中では何が行われているのか。
そんなことを目の当たりにできる子はほとんどいないと思います。
大型ショッピングセンターにいくとあらゆるものが手に入りますが、どの品物も同じ人が売ってくれます。
生活を一変させる、全国の大人がそろって感動するような出来事も製品も、なかなか現れない時代です。
職業を持って仕事を毎日する、というのは、楽しいことです。
自分の考えが実現する。それによって世の中に幸せな人が増える。
その努力に見合った報酬が得られる。
こういう仕事の楽しさがすべて実現するという幸せな国の幸せな時代に生きているということを、今、大人が子どもに教えてやらなければいけません。
未来に希望を持てた子こそが、活き活きと今を生きられるのです。
機会あるごとに、世の中には数え切れないほどの職業があることを、お子さんに話してやってください。
今の日本なら、どんな職業も、自分と周りの人たちを幸せにすることができます。