夢を始める
6年生の国語の教科書に、伝統的な文学に触れる例として、狂言の脚本が載っています。
文学作品として深く読み解くよりも、狂言などの存在に興味を持ち、自ら、より親しんでいこうとする気持ちを作ってやることが重要です。
年末の授業では、範読CDの口調を、できるだけ真似て読んでみることにしました。
狂言ですので、聴いている人の笑いを誘えたら高得点がとれるというゲーム形式にしました。
ゲームとはいうものの、これはハードルが高い授業です。
中には、がんばって、真似しようとする子もいましたが、ほとんどの子が撃沈。
普通の朗読と変わらない音読をして終わりました。
ところが、この中で、AさんとBさんの一組だけは、大変上手に朗読し、みんなを沸かせました。
AさんもBさんも明るく、学級委員や委員会長をやっている女子ですが、授業では積極的に発表することは稀な人たちです。
二人とも、1年間、すべての授業を合わせても、全員の前で発言するのは、十回に満たないかもしれません。
その二人が(演じたといってよいほど)大胆に朗読したので驚きました。
今年は、年間を通じて、総合学習で、夢の叶え方という学習をしてきました。
「夢を見るというのはどういうことか」
「夢を叶えると幸せになれるのか」
「世の中にはどんな職業があるのか」
「夢を叶えるのに必要な力は何か」
「自分の力はどうやって見つけるのか」
「おもてなしと夢の関係」
などを毎週、学んでいきました。
目的は、「夢の職業を一つ選んで、それに向かって頑張りましょう」ということではないので、子どもたちは、こんなふうにしてみんなと一緒に幸せになりたいという夢を、今、たくさん持っています。
AさんとBさんの現在の夢は似ています。
Aさんは、自分を見た人がみんな幸せになってくれる女優、Bさんは演劇を裏で支える人になりたいと思っているようです。
この二人の朗読が、今までの二人からは聞いたことのない、やる気にあふれたものだったのです。
それを聞きながら、「この子たちは、自分の夢を本気で考えているのだ」と嬉しくなりました。
この二人が組んで何かをするというのも、あまり見たことがないので、このコンビが実現したのも、夢のおかげかもしれません。
夢を持ったら、その道を歩くために、日常の小さなことを変えていく、という話が、彼女たちには理解できたようです。
小学生のうちは、まだ、自分の正体もわからないので、夢を一つに絞る必要は、ほとんどの子にはないはずです。
ですから、「将来何になりたいのか」と自分を追い込ませるより、いろいろなことに手を出していいから、興味を持ったことにすぐに挑戦したり、日常のほんの小さなことを変えてみたりすることの大切さに気づかせる方が大事です。
いくら夢に見ても、それに向かって行動を始めなければ、夢はいつまでも遠い場所で輝いているだけです。