長編小説 |
1 | あなたから逃れられない | 1985 | 集英社文庫 | ★★★ |
タイトル及び物語の冒頭を読んだだけだと,単なるよくあるサスペンス・ロマンのような印象を受けてしまいますが,中盤から意外な様相を呈してきます.ただ最も初期の作品だけあって,いろいろな要素がからみあった複雑な事件の描写が中途半端で,結局作者が何を主題にしたかったのか解りにくくなってしまっているような気がするのですが... 解説は森瑶子氏. | ||||
2 | 彼女が愛した男 | 1986 | 角川文庫 | ★★★ |
前半は軽井沢の山荘を舞台にした人質事件,後半は人質と犯人との間に芽生える愛情をテーマにしたそれこそよくある陳腐なストーリーで退屈しながら読み進んでいきましたが,物語のラストで明らかにされる真相で「流石」と思いました.よくある話をただのB級サスペンスで終らせていないあたり,見事だと思います. | ||||
3 | 蠍のいる森 | 1987 | 集英社文庫 | ★★★★★ |
初期の作品の中では最も好きな作品のひとつです.どこにもいそうな登場人物たちの間で,異常な事件が発生する『小池ワールド』はこの3作目において確立されたと言っていいと思います.実はこの文庫本長い間入手が難しくて,初版発行から10年後の97年になってやっと手に入れたもんで,そ〜いった意味でも愛着の深い1册なのでした.解説は関口苑生氏. | ||||
4 | 仮面のマドンナ | 1987 | 角川文庫 | ★★★ |
作者4作目の書き下ろしミステリー.結末については最初「?」と感じましたが,読み返してみて「やはりこんなもんかな?」と... 登場してくる矢内原滝子には実在のモデルがいるとの事ですが,かなりコワイです.あと,登場人物のひとり佐伯五郎に関する記述が,最初の方では「両親は湯河原で小さなマーケットを経営している」とあるのに,最後の方では「静岡県の実家が経営するマーケット」となっているのは,単なるミスなのかしらん? | ||||
5 6 |
彼方の悪魔 | 1987 | 中公文庫 | ★★★★ |
作者得意の異常心理物+医学サスペンスの傑作です.こ〜ゆ〜作品読むと,作家ってタイヘンだな〜って思ってしまいます.とにかくこの人すご〜く勉強したんだと思います...病気の... 第18節の猫の心理描写がすご〜く気にいってます.解説は由良三郎氏. | ||||
7 8 |
墓地を見おろす家 | 1988 | 角川文庫 角川ホラー文庫 |
★★★★ |
建物が主役のホラーというと,映画『ヘルハウス』や『悪魔の棲む家』なんかを思い出しますが,東京近郊のマンションを舞台にしたこの作品,身近な出来事に感じられるだけとてもコワイです.ラストも秀逸だと思います.この手のモノ書かせたらこの方やはり最高だと思います.解説は三橋曉氏(角川ホラー文庫). |
9 10 |
プワゾンの匂う女 | 1988 | 徳間文庫 光文社文庫 |
★★★★★ |
作者の代表作としてまず挙げられる作品.代表作の名に恥じない大傑作サイコ・サスペンスだと思います.すご〜く異常な話でありながら,実際にありそうな話だと思います.しかし...死ぬまでに一度は人を殺してみたいと思う反面,とてもそんな事はできませんわ...と,二重人格はここから始まっているのです.解説は笠井潔氏(徳間文庫),新津きよみ氏(光文社文庫). | ||||
11 12 |
間違われた女 | 1988 | 祥伝社ノン・ポシェット 祥伝社文庫(新装版) |
★★★ |
作者自身が『あとがき』で説明している通り,エロトマニー…「純粋な愛の狂気」と言われる一種のパラノイア症状を題材としたミステリー.二重の殺意の交錯を描くことによって単なるストーカーものに終らせていないあたりさすがだとは思いますが... 作品の出来自体は後の長編に比べて「いまひとつ」といった気がします. | ||||
13 14 |
殺意の爪 | 1989 | 光文社文庫 徳間文庫 |
★★★★ |
かなり異常心理入った冒頭の殺人場面から,一転してヒロインを中心に本格的謎解き推理が展開する,作者の新境地を開いた作品であるとも言えると思います.途中で何となく犯人が見えてきてしまうのはご愛嬌? 解説は宮部みゆき氏(光文社文庫),山前譲氏(徳間文庫). | ||||
15 16 |
闇のカルテット | 1989 | 双葉文庫 双葉文庫(新装版) |
★★★★★ |
記憶喪失の男とあやまって殺人を犯してしまった女の犯罪と愛を描いた一大傑作.読み終わった後,出てくる人物がホモ・セクシュアルのオヤジを除いてみんな『いい人』に思えてしまう一風変わった作品ですが,作者によると「読者には,読後の余韻を味わってもらいたい.ただし,読後の余韻をどう処理するかについては,読者諸氏にお任せする.作者はそこまでは責任を負わない.」そ〜です.解説は結城信孝氏. |
17 | 死者はまどろむ | 1989 | 集英社文庫 | ★★★★ |
『墓地を見おろす家』に続いて書かれた長編モダン・ホラー.やはりこの手の作品にこそ,この作者の持ち味が最大限に生かされると思います.救いのないラストがすご〜くコワイです.解説は坂東眞砂子氏. | ||||
18 19 |
無伴奏 | 1990 | 集英社文庫 新潮文庫 |
★★★ |
ミステリーというより優れた青春小説として評価されるべき作品,60年代末〜70年代初頭の雰囲気はうまく表現されていると思います.解説は佐々木譲氏(集英社文庫),石田衣良氏(新潮文庫). | ||||
20 21 |
柩の中の猫 | 1990 | 新潮文庫 集英社文庫 |
★★★ |
猫と少女を中心にひき起こされる事件と悲劇を第三者の眼を通して描いた心理サスペンス.あまりにも悲劇的な真相が明らかにされるまでの,それぞれの登場人物の描写がなかなか... 解説は皆川博子氏(新潮文庫).集英社文庫版には,解説に代えて作者による『過ぎてきた道ー文庫版あとがき』が収録されてます. | ||||
22 23 |
唐沢家の四本の百合 | 1991 | 中公文庫 徳間文庫 |
★★★ |
すご〜く面白い小説だと思いますが,やはりどちらかというと純文学作品として評価されるべきか... ミステリーとして評価すると... 解説は郷原宏氏. | ||||
24 25 |
懐かしい骨 | 1992 | 双葉文庫 双葉文庫(新装版) |
★★★ |
20数年前の母親の犯罪に対する,兄妹の推理と捜査? 素材は面白いのですが,最終的に「いったい何だったの?」と思わせてしまう,この作者には珍しく消化不良的な結末が少々残念でした.解説は山前譲氏. |
26 | 夜ごとの闇の奥底で | 1993 | 新潮文庫 | ★★★★★ |
ここのところしばらくミステリー離れというか,純文学指向に陥っていた作者が放つサイコ・サスペンスの傑作.主人公兄妹を始め正確欠陥・異常心理のオンパレードのよ〜な登場人物の面々の描写が見事です.そしてハラハラさせつつも静かに進行していくストーリーの展開とあっけない幕切れが見事だと思います.解説は吉野仁氏. | ||||
27 | ナルキッソスの鏡 | 1993 | 集英社文庫 | ★★★★ |
猟奇殺人とトランスヴェスティズムを縦糸と横糸に使用して織り成すサイコ・サスペンスの傑作.殺人鬼の娘の正体が無気味です.女装倒錯者の青年があまりにもあっけなく殺されてしまうのには,肩すかしをくったような感じがして少し意外というか残念というか... 解説は香山二三郎氏. | ||||
28 29 |
死に向かうアダージョ | 1994 | 双葉文庫 双葉文庫(新装版) |
★★★ |
作者が『あとがき』の中で述べている通り,ミステリーの構成を取ってはいますが,作者が書きたかったテーマは別のところに存在しているような気がします.すでに単なるミステリーに飽き足らなくなっていたのでしょうか? この翌年に書かれた『恋』で直木賞を受賞する事を考えると... | ||||
30 31 |
恋 | 1995 | 双葉文庫 | ★★★★★ |
前言撤回,やはりこの方は超一流のミステリー作家だと思うし,解説の阿刀田高さんもお書きになっている通り,「小説はすべてミステリーである」と思います.結論,小池真理子さんこそ,私にとっては現時点で最高の小説家なのです. 実は私ひねくれているもんで,直木賞受賞作であること,そして物語の背景が連合赤軍時代(そんな時代あるのか?)であることなどから,あまり期待しないで読み始めたのですが,その期待は裏切られ(?),ま〜ったく退屈することなく,一気に文庫本で500ページ以上を読みきってしまいました.物語の中心となる夫妻の秘密については,何となく途中から予測できましたが,それにしてもすごく良くできたミステリーだったと思います. |
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32 | 欲望 | 1997 | 新潮文庫 | ★★★ |
直木賞受賞作『恋』に続く長篇恋愛小説.とにかくこの人,本当に文章がうまいというか,読みはじめたら一気に読ませてしまう作家だと思います.解説の池上冬樹さんもお書きになってますが,私にとっても「至福の時間を約束させてくれる作家」のひとりなのです.ただ前作に比べて,物語の内容がよくありそうで意外性に乏しいのと,あと私,三島由紀夫って作家のナルシズムってどうも苦手なもんで.... 第5回島清恋愛文学賞受賞作. |
33 | 美神(ミューズ) | 1997 | 講談社文庫 | ★★★ |
美少女『阿沙子』を主人公に,彼女を巡る男たちの姿を描いた連作集.官能的な美少女はそれだけで罪作りな存在ではありますが,裏返せばそれは「男のくだらなさ」でもあるのです.... | ||||
34 | 蜜月 | 1998 | 新潮文庫 | ★★★ |
前年の『美神(ミューズ)』とは逆に,42歳で急逝した天才洋画家『辻堂 環』を巡る女たちを描いた連作集.『美神(ミューズ)』と一対を成す作品であるとも言えますが,結局のところ感じさせられるのは,やはり「男とゆ〜もののくだらなさ」だったりして.... | ||||
35 36 |
律子慕情 | 1998 | 集英社文庫 集英社文庫(改訂版) |
★★★★ |
これも作者の分身とも思われる『律子』を主人公とした連作集.この作者,ここのところ連作づいてますね? 少女の魂の軌跡を描いている連作集であるという点で『美神(ミューズ)』と似通っておりますが,少々 SF 的な要素の入ったこちらの方が私の好みではあります.... でも,もし自分に『死者と話せる能力』があったとしたら....,やたらといじめられたりおこられたりしそうで怖いのです.... これも日頃の行いが悪いせいだよ,やだね.... | ||||
37 38 |
水の翼 | 1998 | 幻冬舎文庫 新潮文庫 |
★★★★ |
『無伴奏』に続く '70年頃の仙台を舞台にした青春小説ともとれる作品ですが,ありきたりの恋愛小説もしくは青春小説に終らせていないところは流石.やはり,この時代を過ごして来た世代にとっては,三島由紀夫事件とか浅間山荘事件とかって,かなりのインパクトのある歴史的事実だったと思うのですが,それにしても三島由紀夫ってそれほど評価されるべき人物なのかね....? 私,生き方としては,三島よりも太宰治の方に共感しているもんで....? | ||||
39 | 冬の伽藍 | 1999 | 講談社文庫 | ★★★★ |
第1章がヒロイン・悠子の視点から,第2章は手紙のやり取り,第3章は友人・摂子の視点から,と効果的に視点を変えて描かれる大恋愛長編.第1章の事件に至るまでの描写は,作者お得意のサスペンス・タッチで描かれていますし,事件の後日談として語られる第3章は,ある意味極上のミステリーとなっております.でも,やはり結末は.... これしかないんだろうね? って感じ.キャラとして,気になるというか許せない気になるのが友人の摂子で,『女の友情』の薄気味悪さみたいなモノを感じてしまいます.解説は,唯川恵氏. | ||||
40 | イノセント | 1999 | 新潮文庫 | ★★★★★ |
写真=ハナブサ・リュウ氏とのコラポレーション・ブック.長篇としてはちょっと短いですが,実際この手の小説って,これくらいの長さがちょうどいいかも.... 見事なまでに退廃的な官能小説の傑作だと思います. | ||||
41 | 蔵の中 | 2000 | 祥伝社文庫 | ★★★★ |
祥伝社文庫15周年記念特別書き下ろし作品.読みはじめたところ,「何かよくありそうな話やな〜」と思っていたのですが,最終節に至って「さすがサイコ・サスペンスの第一人者!」と感心させられました.「よくある話」をただの「よくある話」にしない作者の力量に感心させられます. |
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ノスタルジア | 2000 | 双葉文庫 講談社文庫 |
★★★ |
短篇集『水無月の墓』や連作『律子慕情』の流れを汲む『異界小説』であると同時に,『恋』や『欲望』以来の一連の恋愛小説としても位置付けられる作品.以前のサイコ・サスペンスとは少々風情の違うこれらの作品群ですが,たとえばこの作品の18節以降に見られる急展開はあくまでミステリーであるという点で,その根源はやはり同じであることが伺えます.また,『水の翼』以降に感じられる三島文学からの影響の元においても,確固としたオリジナリティーが感じられるのは,やはりこの作者一流の感性によるものだと思います.但し,個人的には以前のサイコ・サスペンスが好きだったので,あまりこの傾向に走ってもらいたくないような気がいたしますが.... 解説は,東雅夫氏. | ||||
44 | 浪漫的恋愛 | 2000 | 新潮文庫 | ★★★ |
『月狂ひ』改題.『恋』・『欲望』の流れを汲む恋愛小説の大作.結局この人,ミステリーから恋愛小説に作風を移しても,しっかり異常心理入っているので,私個人としましては,かなりハマってしまうのでした.解説は,稲葉真弓氏. | ||||
45 | 薔薇いろのメランコリア | 2001 | 角川文庫 | ★★★ |
シチュエーションは全然違うんだけど,読み始めた当初は,サガンの『悲しみよこんにちは』を思い出してしまいました.ま,あの作品にしても,これにしても,多分男性作家じゃ書けない小説だよね.... 解説は,小川洋子氏. | ||||
46 | 狂王の庭 | 2002 | 角川文庫 | ★★★ |
ふ〜ん,今度は凄いの書いたね〜 だんだん『文豪』じみてきて,以前のような軽い洒脱さが希薄になっているのが残念なよ〜な気がするものの,読みごたえのあるこの『大恋愛長篇』を一気に読ませてしまうのは流石だと思います.ところで,結局,主な登場人物のうち最も不幸だったのは誰でしょう? | ||||
47 | 虚無のオペラ | 2003 | 文春文庫 | ★★★★ |
『恋情と性愛』そして『老いと死』というおも〜いテーマに真正面から取り組んだ力作だと思います.この作者,かなり自分の『老いと死』を身近に感じてきたせいか,ここんところ,こんな作品多いような.... でも,男と女ってどちらが自分の『老いと死』を強迫的に感じるもんだろかね? 実は Della も精神年齢的にはいつまでも子供なんだけど,最近『肉体の老い』に怯えているのです.解説は,高樹のぶ子氏. | ||||
48 | レモン・インセスト | 2003 | 光文社文庫 | ★★★ |
「禁断の恋をテーマに,純粋な愛の行方を描く,美しい物語」だそ〜ですが,前半のストーリーの展開は,流石ミステリ作家としての面目を躍如するサスペンス・タッチで,読者をぐいぐい物語に引き込む力強さに溢れています.しかし,残念ながらこういった話の場合こ〜いったラストは,いわゆるひとつの『お約束』なのですが,他に何とか持っていくことができなかったのか? この作者の力量からすれば,それも可能だったと思えるのですが.... |
49 | 瑠璃の海 | 2003 | 集英社文庫 | ★★★★★ |
でらちゃんひねくれているもんで,だいたいハッピーエンドで終わるお話には,続編作って主人公の幸福滅茶苦茶にしてやりたくなるのですが,こういう手があったのね? 失意のどん底に堕ちた主人公が最高の幸福を掴むまでを描いた,究極のハッピーエンド小説.おそれいりました.解説は,鵜飼哲夫氏. | ||||
50 | エリカ | 2005 | 中公文庫 | ★★★★ |
『現代の愛の不毛に迫る長篇』だそうですが,単なる恋愛小説で終わらせないあたり,やはりこの人本質的にはミステリ作家なんだな〜って思います. | ||||
51 | 愛するということ | 2005 | 幻冬舎文庫 | ★★★★ |
『エリカ』の湯浅竹彦と宮本洸一もそうでしたが,この作品でも野呂貴明と柿村陽三という主人公をめぐるキャラの対比が作品を生々しく魅力的なものにしている(?)と思います.さて性欲と性愛の違いとは? | ||||
52 | 虹の彼方 | 2006 | 集英社文庫 | ★★★★★ |
第19回柴田錬三郎賞受賞作品.670ページを一気に読ませてしまう究極の恋愛小説.こういうの読むと,恋愛はやはり一種の狂気であり,ミステリーであると納得させられてしまいます.解説は,伊集院静氏. | ||||
53 | 美しい時間 | 2006 | 文春文庫 | ★★★★ |
村上龍氏との共著.『ネスカフェプレジデント25周年記念・美しい時間キャンペーン』のために書き下ろされた小池氏の『時の銀河』と村上氏の『冬の花火』の2篇の中編小説が収録され,『まえがき』を小池氏,『あとがき』を村上氏がそれぞれ書いています.『時の銀河』について,やはり人間の持つ感情の中で一番冷酷なのが恋愛感情なんでしょうね? 村上氏が小池氏を競作のパートナーに選んだ理由として,「あ.こういうのは男であるおれには思いつくのは無理だな」と思わせるものが彼女の作品には必ずあったとしてますが,まさにその通りだったんだろうと思います. | ||||
54 | 青山娼館 | 2006 | 角川文庫 | ★★★★★ |
性と生,性と愛,性と恋,そして性と死を真正面から見つめて書かれた作品だと思います.ここまで書いちゃえるのはやはり女性だから? 後半のたたみかけるような展開はやはりミステリーだと思います.描かれているキャラクターもそれぞれ魅力的に描かれていて,読者の共感を誘います. | ||||
55 | 望みは何と訊かれたら | 2007 | 新潮文庫 | ★★★★★ |
作者30代の時に書かれた『無伴奏』,40代の『恋』,そして50代のこの作品と,1970年代前半,渾沌の時代を背景にした一連の作品には,やはり Della ちゃんにとっても一番懐かしい時代なので,すごく思い入れ感じてしまうのです.ただ, GID MtF(性同一性障害者)の Della ちゃんとしては,この作品の主人公に対して,女性としてはすご〜く共感できるのですが,男性としては全く共感できません.やはり女と男って全く別の生き物なんだろね? 解説は,重松清氏. | ||||
56 | 午後の音楽 | 2008 | 集英社文庫 | ★★★ |
全編メールの会話による斬新な恋愛小説.感情表現の手段として,メールは現代生活において書かせないものとなっていますが,日常生活でこんな長文のメールのやり取りって,ビジネスレターでもない限りあまりする人っていないと思う... シチュエーションにおいて PC と携帯を使い分けているあたりは相変わらず芸の細かいところ.でも流石に絵文字は使っておりません.恋愛感情を音楽に例えたり, The Beatles の音楽に死の香を感じてしまうという感性は,やはりこの世代ならではだと思います. |
57 | ストロベリー・フィールズ | 2009 | 中公文庫 | ★★★★ |
文庫本で650ページ近くに及ぶ大長編.もともとミステリー作家時代に『短編の名手』として評されていたこの作家の恋愛小説時代に入ってからの長篇は,ひとつのパターンとして(もちろん別のパターンも存在します)静かに始まり最初は穏やかな描写が続く内に,急遽突然の嵐のように物語が急変直下し,穏やかに集結するというものがあるのですが,この作品はその代表的なもので,後半に入ってからの物語の展開は読者に一気に読み切ってしまわせる魅力に満ちています.解説は,稲葉真弓氏. | ||||
58 | 熱い風 | 2009 | 集英社文庫 | ★★★ |
『私』という一人称にyって語られる,恋人の死の真相を求めて異国をさすらう女性の物語.恋愛小説でありながらミステリー,という作者の本領を発揮した作品だと思います.解説は,温水ゆかり氏. | ||||
59 | 存在の美しい哀しみ | 2010 | 文春文庫 | ★★★★ |
『家族』をモチーフに,後藤家と芹沢家それぞれの『家族』の一員からの視点で描かれた7編の連作による長篇小説.家族ってもともと,男女間の恋愛が形成するユニットでありながら,家族を形成する男女はその時から有る意味で恋愛を捨てなければならないという矛盾をはらんだものだと思うのですが,そういう意味で家族の中に流れる痛々しい感情を適格に表現しているのがこのタイトルだと思います.解説は,大矢博子氏. | ||||
60 | 無花果の森 | 2011 | 新潮文庫 | ★★★★★ |
映画化された,2011年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞作.失踪者と逃亡者のラブ・ストーリですが, DV と薬物依存というでらちゃんにとってはすご〜く身近で関心の深いモノをモチーフとしているので,登場人物への感情移入がとてもしやすかったです.また,老齢の女流画家と還暦まぎわのおかまといった脇を固めるキャラクターも魅力的に描かれていて,一気に読めてしまいました.最近小説離れしているでらちゃんにとって,読書意欲をそそられる数少ない作家のおひとりです.解説は,青木千恵氏. | ||||
61 | 沈黙のひと | 2012 | 文春文庫 | ★★★★★ |
2013年度吉川英治文学賞受賞作.エッセイからスタートして推理小説・恋愛小説の大家となった作者が,新しいテーマに取り組んだ意欲作ですが,それにしても重くなりがちなテーマをサラッと読みやすく料理してしまっている作者の筆力には今さらながら感心させられます.でも,身内に作家がいなくてよかった(笑).解説は,持田叙子氏. | ||||
62 | 二重生活 | 2012 | 角川文庫 | ★★★★★ |
作者久々のミステリーですが,殺人事件も警察も出てきません.でも,ごく平凡な普通の女性である主人公の行動を通して,あたりまえの人間の嫉妬妄想や心の闇を見事に描いたこの作品は超一級のミステリーだと思います.解説は野崎歓氏. | ||||
63 | モンローが死んだ日 | 2015 | 新潮文庫 | ★★★★★ |
精神科医療にまつわるミステリー.私にとってはすごく身近なテーマなので,本当に興味深く読ませていただきました(笑).ネタばれになってしまうので詳しくは書けませんが,日本の精神医療の実態を知るものにとっては,この作品の最後の方に書かれていることはとても納得できることなのです.解説は最相葉月氏. | ||||
64 | 死の島 | 2018 | 文春文庫 | ★★★★★ |
でらちゃんは以前『本の虫』で,毎日お出かけしていた時は電車の中でもず〜っと本を読んでいたのですが,今回のコロナ騒ぎで家に引きこもるようになって,ネコと一緒に夜寝て朝寝て昼寝する生活に慣れてしまうと全く本が読めなくなって.コミックでさえ1ページで眠くなってしまうようになってしまいました.それで,このサイトの![]() ![]() |
65 | 神よ憐れみたまえ | 2021 | 新潮社 | ★★★★★ |
この方の作品には駄作というものが全くなくてそれはそれでとても凄いことなのですが,このサイトを更新しようとして見返したところ,2011年以降の長編小説すべてに★5つつけていたことに気づいて,唖然としております.また,最近とみに本が読めなくなって,1ページ読んだだけで眠くなってしまい困っているのですが,この方の作品だけは一気に読んでしまうことができるのはとても不思議なことなのです.というわけで,本をたくさん読んでいた頃は小説は文庫本しか購入しないようにしていたのですが,本をあまり買わなくなったのと,この方の作品に関しては文庫本化が待ちきれなくなって,この作品からはついに単行本を購入するようになってしまいました,さて.この書下ろし大長編小説ですが,期待通りの素晴らしい作品で,570ページを一気に全く眠くなることもなく読み終えてしまうことができました.エッセイから始まって,ミステリー,怪奇小説.恋愛小説とジャンルの幅を広げていった作者ですが,愛する人たちの別離が続く中で,恋から性へ,生から死へと視点を移しながら人生を見つめている姿が垣間見られるような作品だと思います.そして相変わらず綺麗な文章です. | ||||
66 | アナベル・リイ | 2022 | 角川書店 | ★★★★★ |
このサイトで度々絶賛している通り,この方の作品にはジャンルを問わずに駄作が皆無で何を読んでも十分楽しめる,という点で稀有な存在だと思うのですが,個人的にはやはり何といってもとりわけ幻想怪奇小説に属する作品に展開される真理子さんワールドがたまらなく魅力的なのであります.で,この本の帯には「耽美にして妖艶 幻想怪奇小説の到達点」とあったので,これまでのどの作品よりも期待に大きく胸を膨らませて読み始めたのですが,もちろんその期待は全く裏切られることなく,真理子さんワールドの魅力を堪能させていただきました.内容については触れることができませんが,とにかくおススメの一冊です. |