エラリー・クイーン

作品1(長篇)


ローマ帽子の謎
The Roman Hat Mystery

1929

創元推理文庫

★★★★
 『国名シリーズ』第1作にして,エラリー・クイーン名義で発表された作者のデビュー作.動機に関してちょっと後付けの感があるのと,『偶然』を利用しているように感じられる点は否めないものの,作者の分身である登場人物をして「話を純粋に理づめにしていくと,与えられた方程式のなかで,ひとつを除いて,あらゆる可能性をきわめつくした後,あとに残ったたったひとつの仮定は,どんなにありそうもないことに見えようとも,正しいものでなくてはならない」と言わせしめる論理構築はこの初作で既にほぼ完成の域に達していると思います.もちろん,おなじみの "Q.E.D." もこの作品で既に使われておりますです.
フランス白粉の謎
The French Powder Mystery

1930

創元推理文庫

★★★★
 国名シリーズ第2作.解説によると,当初専門誌に紹介されたときは,「五分の一にも足らぬ抄訳ともいえぬもので,そのうえ犯人までは違っているという,はなはだ珍訳であった」そ〜です. Della はこのシリーズ,35年ぶりくらいに再読しているわけなんですが,読んでいくうちに何となくわかってしまうこの作品の犯人に関しては,もしこれがシリーズ第1作だったとしたら反則だが,第2作だから許される,という印象を受けてますが,麻薬取引をからめた複雑なストーリー構成や,その連絡方法等,かなり読みごたえのある作品です.「人間というやつはね....概して,ものはなくさないもんだ.なくしたと思うだけでね....」な〜るほど.
オランダ靴の謎
The Dutch Shoe Mystery

1931

創元推理文庫

★★★★★
 同じく第3作.病院内での殺人という事でやたらと登場人物=容疑者が多いストーリーなんですが,その中で,動機のある(怪しい)人物が犯人である場合とない場合,動機のない(怪しくない)人物が犯人である場合とない場合,それぞれの可能性を個別に論理的に検証していっても,永久に犯人にはたどりつけないという見事な作品.ラストの『書類』の提示は,現代の日本では「そんな馬鹿な」って事になりますが,1930年代という時代,そしてアメリカという広大な国ではありえた話かも.... 解説によると,「粗訳珍訳の拙速ずくめで,クイーン紹介が相次いで行われた.しかも一語一句をゆるがせにせず読者に挑戦している作者の意図を裏切った訳文であった」ため,作者クイーンの日本における評価は遅れたみたいです.はあ....
Xの悲劇
The Tragwdy of X

1932

創元推理文庫

★★★★★
 バーナビー・ロス名義で刊行された『ドルリー・レーン四部作』の第1作. Della はやはり中学生の頃,この創元推理文庫の『おじさんマーク』を読みあさったクチなんですが,35年ぶりに読み返してみたところ,犯人とか大筋のストーリーとかは覚えているものの,犯人の動機となった物語の背景とか,細かいところはやはり忘れてました.この作品,『四部作』の中では,作風が最もクイーン名義で発表されていた作品に近かったらしい(原書で読んだわけではないので,「らしい」としか言えません)ですが,元シェークスピア俳優で聾の名探偵レーン氏の推理に関しては,四部作中トップの理論構成を持った作品であると思います.
ギリシア棺の謎
The Greek Coffin Mystery

1932

創元推理文庫

★★★
 国名シリーズ第4作にして,作者最大の長篇ですが,今回は時代設定を前3作以前,エラリー・クイーン氏が大学を出たばかりの頃遭遇した事件としており,非公式犯罪捜査官として歩き出したクイーン氏が何度かのミスを犯しながらも事件を解決していくストーリーとなっています.で,読んでいて,前半クイーン氏が悪戦苦闘している部分は面白く読めるのですが,後半クイーン氏の論理が整然と事件を解決していく段になると,何故か物語の冗長さが感じられてしまいました.脅迫文書やレオナルド・ダ・ヴィンチの作品の真贋についての叙述や,真犯人をひっかけるトリック等,よくできているだけに惜しい気がしました.作者は,この作品の前後に『オランダ靴の謎』,『エジプト十字架の謎』,『Xの悲劇』,『Yの悲劇』,と傑作を量産しているのですが,お疲れだったのでしょうね.... でも,エラリー・クイーン・ファンクラブの会員による長篇の人気投票では,これらの傑作群を押さえて見事1位を獲得しているそ〜です.
Yの悲劇
The Tragwdy of Y

1932

創元推理文庫

★★★★★
 『推理小説ベスト○○』とかって企画では,必ずトップの方に顔を出す,推理小説史上不朽の名作です. Della としては,物語の論理構成という点では『X』の方が上のようにも思えるのですが,『意外な結末』というミステリ・ファンが一番要求する要素で,特にクイーン・ファンの多い日本では支持されている作品だと思います.でも,ところどころまわりくどい説明があったり,作者がミスを犯している点も指摘されています(例・ミルクは腐ります).この作品も前作同様,ロス名義で刊行されましたが,文中でしっかり「シャーロック・ホームズの風貌とポワロの味,それにエラリー・クイーンの推理方法」などと自画自賛しております.
エジプト十字架の謎
The Egyptian Cross Mystery

1932

創元推理文庫

★★★★★
 Della が小学生の頃,学校の図書館でジュブナイル版を見つけて,初めて読んだクイーン氏の作品です.それまで,ミステリーってドイル,ルブラン,乱歩しか読んだことなかったんですが,これ読んだのがきっかけで,ミステリーにはまっていくこととなり,中学生になって『おじさんマーク』読みあさりました.とても思い入れの深い作品です.今回また読みなおしてみたのですが,ストーリーも犯人もわかっているのにも関わらず,面白く一気に読んでしまいました.やはり国名シリーズの中では『オランダ靴』と並んで双壁をなす作品だと思います.特に猟奇連続殺人を描いていてスリリングながらからっとしている前半と後半の追跡劇のサスペンスの対比は見事で.論理性では『オランダ靴』ですが,ストーリー性ではこちらが最高作だと思います.

Zの悲劇
The Tragwdy of Z

1933

創元推理文庫

★★★
 やはり以前読んだ時は,前2作の印象があまりに強烈だったものですから,どうしても比較してしまって少々ストーリー的にも分かりづらいところがあったりして,駄作の感がしてしまっていたのですが,今回読み直してみて,結構良くできたミステリであるという再評価ができるようになりました.特に,関係者一同を集めて,消去法により犯人を追い詰めていく場面は推理小説の醍醐味だと思います.しかしながら,『意外な犯人』を確定する論理構築は良くできているものの,『犯人の動機』については後付けの感がまぬがれず,はたしてこれはフェアなのか?という疑問は残ります.
アメリカ銃の謎
The American Gun Mystery

1933

創元推理文庫

★★★
 若き日のクイーン氏が頭の良い犯人に翻弄された『ギリシア棺の謎』のアンチテーゼのような作品で,犯人を知っていると言っておきながら,「ぼくは知っていて,しかも知っていないんです」と言い,結果的に第2の殺人が起きてしまい,それでいて,「探偵作家たちのいい気な慣習として,登場人物がまわりで次から次へと死んで行くのに,探偵をのんきにすわれらせてだじゃれをとばせておくのを,エラリーがいつも,どんなに腹を立てているか,私はよく知っていた」などという記述があり,ある意味作家の自己批判ともとれ,興味深い作品です.『日本のクイーン』有栖川有栖氏が『好きな作品』としてどっかで取り上げられていましたが,作中のトリックにつき,凶器の隠し場所については秀逸ですが,真犯人の正体については凡庸な気がします.何よりも,ロデオというものに関する知識を持ち合わせていない日本人にとっては,分かりにくい作品です.
レーン最後の事件
Drury Lane's Last Case

1933

創元推理文庫

★★★
 冒頭から特に殺人が起こる訳でもないのに,なんだかややこしくて不可解な事件が展開していくので,注意して読んでないと訳がわからなくなります.多分中学生の頃読んだ時は,途中で訳がわからなくなってしまったためでしょう,どんなストーリーだったかほとんど忘れていました.作者としては,この最終作を書きたいが故の,新しいキャラを設定しての四部作だったと思うのですが,残念ながら力を入れて書いているわりには,それほどのものではないという印象を受けます.双子トリックは「ああやはり」という感じだし,全色盲については「あれ?」と思わせるような記述がありますし,「感動的なラスト」,はたしてそうでしょうか?
シャム双子の謎
The Siamese Twin Mystery

1933

創元推理文庫

★★★★
 「いろんな意味で,これは普通の物語ではない」という作者の『まえがき』がいつの間にか,「これは普通尋常の物語ではない」に脚色されてますが,今となっては単なる普通の物語? クローズド・サークルにおける連続殺人というミステリ・マニアの大好きなシチュエーションで,『普通』か『尋常』かそうでないかは抜きにして,本当に面白く読める作品です.個人的には国名シリーズの中では,作品の優劣という事を抜きにして,最も『好き』な作品です.ところで,次作の中で「『読者への挑戦』の欠訣が取りざたされておりますが,本っっっっ当に忘れていたとは,やはり思えないのですが....
チャイナ橙の謎
The Chinese Orange Mystery

1934

創元推理文庫

★★★★
 この作品の興味を引くところは,身元不明の被害者,そしてすべてが『さかさま』になっている犯行現場,という謎につきるのですが,被害者の服装についての謎に関しては,日本の読者にはなじみの薄いものなので,ちょっとわかりにくいかも.... 中盤のエラリーのセリフ,「この問題には,僕の気に入らぬ点がひとつだけあります.偶然の一致という点ですがね.僕は偶然というやつがきらいでしてね」作者の自己批判? 中島河太郎氏の解説に切手収集熱についてのコメントがありますが,これって現在ではどうなのかね? 一部の熱心な蒐集家はいるのでしょうが,ブームというほどのものはとっくに去ってしまったように感じられます.
スペイン岬の謎
The Spanish Cape Mystery

1935

創元推理文庫

★★★★
 被害者の服装から部屋の中まで全部『さかさま』だった前作の次はなんと全裸のジゴロの死体.男性の全裸死体に関しては妙な『先駆者』意識を作者も持っていたらしいですが,この『全裸の死体』と『3人の客人』についての謎はシリーズ中白眉だと思います.真犯人については,ちょっとルール違反すれすれのような感はありますが,決して違反ではありません.作中のエラリーの台詞「完全犯罪というのは,目撃者がいない,どこかの暗い路地で,知らぬ人間を,ゆきあたりばったりに殺すことです」.まさにその通りだと思います.
中途の家
Halfway House

1936

創元推理文庫

★★★★
 ニューヨークとフィラデルフィアの二つの都市で二重生活をおくっていた男が,中間のトレントンにあるあばら家で殺害された事件を巡って,「はたして男はどちらの人格として殺されたのか?」が最大の謎として提供されるミステリー.人生がめんどくさい Della としては,二重生活なんて拷問に近いもののような気がするのですが,そんな事はこの際どうでもよろしい? 保険金にまつわる話が出てきた際にな〜んとなく犯人はわかってしまったのですが,それはそれとして,こういう奇妙なシチュエーションを作り出して,読者に飽きを与えず一気に読ませてしまうのが,この作者の大いに得意とするところだと思います.

ニッポン樫鳥の謎
The Door Between

1937

創元推理文庫

★★★
 1936年の『中途の家』発表後,当初 "Japanese Fan Mystery" というタイトルで発表されたものの,単行本化に際して "The Door Between" と改題されたという経緯をもつ作品.日本創元社では「作品の系列からいっても,登場人物から見ても,国名シリーズに加えてしかるべきものと思われる」との判断でこのタイトルに落ち着いたらしいです.ただ, Della の受けた印象としては,ストーリ自体に『国名シリーズ』のような陰惨な事件を扱っていてもカラっとした印象を与えられる作風ではなく,どちらかというとロス名義の四部作に通じるやりきれない暗さの方が感じられました.ラストについてもちょっと肩透かしを食わされた感じですし,エラリーの台詞「証拠は,すでにわれわれが真実だと信じているものに単に衣装を着せることにすぎませんよ.信じるに十分の意志さえ与えられれば,だれだって,なんだって証明できます」言い過ぎでしょ?
悪魔の報復
The Devil to Pay

1938

創元推理文庫

★★★
 ハリウッドを舞台に繰り広げられる,容疑者だらけの殺人事件が発生する,わりとわかりやすそうでいて,実はややこしい物語ですが,真犯人はそれほど意外ではなかったよ〜な気もします.それよりもむしろ,いつもと違った状況で,ニューヨーク市警警視の父親の庇護が得られないエラリー・クイーン氏の悪戦苦闘ぶりが楽しい作品です.
ハートの4
The Four of Hearts

1938

創元推理文庫

★★★
 前作の続編ともいえる「ハリウッドもの」ですが,訳者が違うため,前作では警視だったギリュッキ氏が警部に降格されています(笑).ストーリーは,本文中の記述を借りて書けば,「思いつきはりっぱで実行は下手」な犯罪なのですが,探偵エラリー・クイーンは「動機と機会」に着目し,「犯罪-殺人-は,他の人間的な行為がそうであるように,他の命令によって起こる」とした後,被害者は「未来に起こるにきまっている何かの事実によって殺されたのかもしれない」と推理し,最終的に犯人は「感傷家ではなく,もとより頭が異常だったのです.計画的に人を殺す人間はみんなどこか狂っているんです」と結論付けています.
ドラゴンの歯
The Dragon's Teeth

1939

創元推理文庫

★★★★
 やはり訳者が違うため,この作品ではクイーン警視まで警部に降格されています(笑).ストーリーは探偵事務所を開いたエラリー・クイーン氏が,財界の大立物から『将来事件を依頼する』という奇妙な依頼を受け,多額の契約金を受け取りますが,依頼者が死亡したため遺産相続を巡って起こる殺人事件で,エラリー氏の共同経営者ボー・ランメルと依頼人の姪とのラブ・ストーリと平行して書かれています.非常にスリルとサスペンスに満ちたストーリーで,読者に一気読みをさせてしまう魅力をもった作品だと思いますが,初期の本格指向から明らかに作風が変ってきていることを感じさせられました.また,この作品でも『オランダ靴』と同じ『書類』が証拠として使われておりますが,これにはちょっと「???」でした.
災厄の町
Calamity Town

1942

ハヤカワ・ミステリ文庫

★★★★★
 この作者の作品を,国名シリーズとレーン四部作の1929〜35年を第1期,本格推理から女性小説的な要素を持つ作品へのアプローチと映画のシナリオの小説化が行われた1936〜41年を第2期とした場合,第3期のスタートを告げる記念すべき作品であると同時に,作者の作品群の中でも一時期を画した異色の『ライツヴィル・シリーズ』第1作.松竹映画『配達されない三通の手紙』の原作としても知られています.
生者と死者と(改題:靴に棲む老婆)
There Was an Old Woman

1943

創元推理文庫

★★★★★
 『エジプト十字架の謎』同様,でらちゃんにとっては小学生の頃ジュブナイルで読み,クイーン初体験となったたいへん思い入れの深い作品です.それにしても,この作者,「気○が○」が好きですよね.但し,ミステリに「○ち○い」が出てくる場合,それは容疑者からはずしても良いとゆ〜のが一般的なテーゼとなります.ハードボイルドなんかだと,アル中の探偵はときどき出てきますが,やはり犯人ではあまりありえないのと同様です.また,この時期のミステリって,何故かマザーグース出てくるのが一種の流行みたいになっておりましたが,この作品では単なるモチーフではなく,犯人の犯行予定変更の重要なカギとなっているのが,他の作品群と一線を画したところだと思います.ラストで,エラリーの秘書「ニッキー・ポーター」の名が出てきます.