H10.8.20

ウォーキング・メモ

 


・骨盤歩

 骨盤歩とは、骨盤つまり腰を回転させることで、歩幅を大きくする歩き方であるが、この骨盤で歩くという呼び方自体、有用なイメージを喚起する。股関節から下を無意識に動かし、腰の回転だけで、つまり股関節部を支点にして、いざるように進むという感覚を持つことで、下肢部分をリラックスさせ、振り出しを鋭くさせる。歩く速度を上げるには、歩幅を大きくすることと、振り出しを早くすることが必要であるが、そのためには、股関節と下肢に不要な力みがあってはならない。骨盤で歩くというイメージがそれを容易にする。腰を回して歩くには、腕の振りが不可欠である。肩は回さず腕だけを振る、肘を振る感じだと調節しやすい。腕の振りによって速度の調節もできる。早くする場合は肘を曲げて振る。制限したい場合、例えば下り坂などでスピードが出すぎてしまう場合など、腕を棒のように伸ばして振れば、速さを押さえることが出来る。

・慣性歩

 慣性歩というのは、重力と慣性を推進力として有効に使うということで、むやみに、足で地面をけるとか、足掻くとかでなく、支点(接地足)と重心(腰の位置)の微妙なずれによる推力と、振り子のように下肢を前へ振り出すことで得られる慣性力をタイミング良く、バランス良く、利用する感覚を会得することなのである。そのことを意識しながら、つなぎ目のない、スムーズな移動を心がけることが肝要である。関節の屈伸運動というより、車輪の回転運動をイメージしたほうが良い。また、重力を生かすためには、身体の重心の位置を高くする必要がある。腹とお尻を引き締め、頭をできるだけ高く保つ、頭のてっぺんを糸で吊されているようなイメージで立つとよい。
単に立ち続けることは誠に容易なことである。だが、それは人が意識しないだけなのであって、本来希有の状態なのである。まったく人と同じ形状、重さに作られたロボットを風が吹いても、人に触られても倒れずに立ち続けられるように、プログラムすることを考えたら、そんなことは不可能だということがすぐ理解できるだろう。人の脳と筋肉には自動化されたプログラムとして、それが埋め込まれているのである。そして、その本来的に不安定な状態こそが、歩き(二本足歩行)の原動力なのである。身長の約半分位の高さにある重心に、体重に見合うだけの質量を保持してバランスのとれた状態から、ほんの一寸した動きによってバランスを崩し、再びバランスを取り戻すというサイクルが水平移動である歩きを生み出すのである。つまり、歩きのエネルギーのほとんどはこのポテンシャルエナジーなのであって、筋力はほんの少ししか貢献していない。極端に言えば、人は立ち続ける限り歩き続けることが出来るとさえ言える。

・ローリング

 ローリングというのは、足底の接地点の移動のことで、外側かかとから内側親指に抜ける、踏みしめるような感じの、はじめ縦方向そして横方向の足の裏の回転運動である。足の裏でけるような動き、足底に摩擦を感じるような動き、これらは不適切な動きである。車が正常に動くとき、単に接地点が移動して行くだけのように見える。摩擦力は当然働いてはいるが、スリップするのはまずい。地面をける、という意識は足底におくのではなく、足を引き上げる前に膝を伸ばすという意識で十分である。足底を回っている車輪の一部に擬するのも、良いかもしれない。足が地面から離れるとき、親指が自然にはがれるように離れていけば良い。着地する足形は少しつま先オープンが良い。着地するかかとの外側から、抜けて行く親指を結ぶ線が進行方向線に平行になるようにするのがよい。このようにオープンにすることで、腰の回転を容易にし、同時に足が自然のうちにのローリングするようになる。足の着地する位置が中心線から外側へ大きくはずれるがに股歩きや、内側に重なる内股歩きは良くない。歩行中心線をおよそ6センチ幅のラインと想定してその両側にかかとの内側が接するぐらいが良いと思う。歩幅をかせぐ上では中心線に近い方が理屈にかなっている。力強さと安定のためには少し離した方がよい。
歩きでのトラブルは足の裏が最も多いし、ダメージも大きい。足の裏に余計な圧迫、摩擦、力、などが加わるのを極力さけなければならない。また、足の裏に気になる感覚が生じたら、歩きの途中であっても調べ、出来るのならば解消しておくことが、最善である。汗などによる靴の中の湿気もトラブルの原因となる。ウォーカーにとって、靴と靴下は第2の皮膚であり、強化された足の裏の皮であるべきなのだ。自分だけに合う靴を探し出す努力には、しすぎるということはない。期待どうりか、裏切られるか、当人の心がけ次第である。ただし、第1の皮があまりにヤワならば、いかにぴったりの靴であっても第2の皮膚として機能のしようがない。

・経済速度

 人により違うが、エネルギー消費の最も少ない速度がある。つまり速すぎるのは勿論のこと、遅すぎるのもエネルギーを余分に消費する。歩くことをしばらく続けるとそれがどの位の速さかが、自然と体得できる。ふつう80m/分から90m/分 位と思われる。経験を増せば当然速くなる。10km、20km、と長い距離を歩く場合は、この速さで歩く。有酸素運動として日常的に歩く場合は、これでは負荷が少なすぎる。その場合には、心拍数、呼吸状態などを目安にしてメニューを設計する。途中、ジョギング、上り坂、階段などをはさむのが有効である。100mの距離を正確に計っておき、ゆっくり歩きから目一杯の早歩きまで、色々に歩いてみて、かかった時間と歩数を記録してみることは、あなたの歩きの分析に非常に役に立つ。これにより、ある速度の時の歩幅と単位時間歩数をデータとして算出する。たとえば、100mを1分5秒かかって、130歩で歩いたとすると、分速92m(時速5.5km)、歩幅78cm、1分間120歩というぐあいである。もう少し速く歩いたとき、分速100m(時速6km)、歩幅80cm、1分間125歩などとなる。歩きを続けていれば当然進歩するので、時々やってみる必要がある。片脚の重さは体重の約20%とすると、65kgの人では、13kgになる。脚を振り出すということは、ボーリングのボール(ちなみに13ポンドのボールは6kg弱)を持った腕が振り出されるようなものであって、かなりの重量物を重力と振り子の原理を利用して後ろから前へ放り投げることなのだ。しかし、この重力と振り子の原理内であれば、これに加える筋力はさほど大きなものはいらない。速く歩くということは、歩幅を拡げ、分間歩数を上げるということであるが、この原理内であれば、脚の振り出しを速くすることは、とりもなおさず歩幅を拡げることになる。データ上、速度を上げたとき、歩幅の伸びと分間歩数の伸びが、ほぼ一様ならばこの原理内にあり、効率よい歩きといえる。歩幅には当然限界がある。速度をだんだん上げていくと、歩幅はのびず、分間歩数だけを伸ばさなければならなくなる。こうなると速度は上がらず、苦痛が一気に増す。歩きの限界速度はこのすぐ先である。競歩ではこの上限を訓練によってさらに上に持っていっている。歩きでは両足が地面に接している瞬間が必ずあるが、走り、ジョギング、ランニングでは、両足が宙に浮く瞬間が必ずある。したがって走りの場合は歩幅の限界が拡がる。歩くより小走りした方が楽なときがある。およそ時速8km(分速133m)以上では走った方がエネルギー消費量が少なくなると云われている。

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