(課題テーマ:豊かさと潤いを感じられる行政サービスの提供について) 清水市における 地域スポーツクラブの可能性
◇ 何が問題か?
清水では、文部省の指導に先んじて、学校開放が進み、スポーツ少年団(育成会)と地域の各種スポーツ団体を車の両輪として、学校施設を中心としたスポーツ活動が盛んに行われています。中でもサッカーは、そのシンボルとしてまちの活性化にも貢献しています。しかし、それだけスポーツが盛んであるといえる清水においても、サッカーをはじめとするスポーツ環境は、市民の誰もがいつでも、適切な指導を受け、安全でかつ身近な施設で楽しめる状況にあるとはいえません。
今、考えられる最も大きな問題点としては、生涯にわたって自分の能力や年齢にあったレベルでスポーツを楽しみたい、というニーズを満たすような活動になっていない点だと言えます。少年期のスポーツは、勝利至上主義への傾倒の色が濃く、身体的障害を招くような激しい練習や親や指導者の過度の期待が子どもにのしかかりスポーツを楽しむどころではありません。また、学校スポーツを基本としているため、教員を中心とした指導者の意欲や指導力にばらつきがあったり、学校制度上の制約が柔軟な活動を妨げている場合があります。
具体的な例としては、清水で最も人気が高いスポーツであるサッカーの例が挙げられます。清水サッカー協会の登録会員数を見ると(資料1)、第3種会員(中学生)に比べて第2種会員(社会人を含む高校生年代)は6割程度しかいません。このことはつまり、中学校を卒業すると同時に4割の少年がサッカーを辞めているということを意味しています。
高校はハンドボール部やラグビー部など選択肢の幅が広いので他のスポーツに移るというケースも多く、一概に悪いことだとはいえません。しかし、本年度、高校単位ではない地域を単位とするチームの対抗戦(市民大会18歳以下の部)に、高校のサッカー部に所属していない選手が多数出場し、その多くが地域のチームで活動したいという希望をもっていることが判りました(資料2)。
未成年の社会人が高校の部活動に参加することはできません。また、高校に在学中でも、清商や清水東といった敷居の高い名門サッカー部に入部することは、並みの選手では勇気が要ります。ほどほどに楽しみたい選手にとっては、拘束時間が長く内容的にも厳しい練習に耐え、かつ試合に出場する見込みがないとなれば参加する気持ちが萎えてしまうのも無理もありません。
加えて、成人についても様々な問題があります。地域や会社などの社会的基盤をもたないグループは継続性に乏しく、リーダーや中心となるメンバーの都合で泡のように生まれては消えていきます。このような組織は、少数の恵まれたものを除いて、定期的に会場を確保することが難しいため、スポーツの重要な要素である定期的な活動の機会が保証されません。
また、それ以上に重要なのは、各年齢層がバラバラに活動を行っているため、一貫した指導を期待することができないということです。例えば、小学校ではそのスポーツの楽しさと基本を、中学校では基本の応用を、高校で体力と戦術を鍛えるというように各年齢ごとの目標がはっきりしていれば、指導者にしても選手にしても、その年代ごとの目標に対する達成度で評価することができます。しかし、現状ではそのような縦の繋がりがないため、各年代における試合成績の善し悪し、つまり、試合に勝ったか、負けたかという結果においてのみ選手と指導者が評価されています。現状のように学校スポーツを基礎としている限り、このような状況を打開するための縦の繋がりをつくることはできません。
そこで、生涯にわたってスポーツをすることができるクラブが必要になってくると思われます。このようなスポーツクラブは、年齢や体力など個人差に合わせて、一人一人のニーズにあったスポーツ環境を創り出すことができます。また、クラブとして一貫した意志を持つということは、学校スポーツのように特定の指導者の考え方や能力に依存することなく、クラブを組織する人々の集合体としての意志を持つことになります。このことによって、指導者やリーダーが変わっても質が変化することのない、継続的なスポーツ活動を行うことができます。
◇ 清水にふさわしい理想的なスポーツクラブの姿
ところで、このようなスポーツクラブは、清水ではどのようにイメージすることができるでしょうか。生涯にわたってスポーツを楽しむことが目的ですから、その活動は住民の日常の中に溶け込まなければなりません。
つまり、定期的に活動を行えること、市場(ニーズ)規模にあわせて参加を希望する人の大半を受け入れるだけの機会が確保できること、会場が生活圏内にあることなどの条件を満たさなければならないということです。スポーツの種類にもよりますが、潜在的競技者も含めて十分な競技人口を持つと考えられる種目、例えばサッカー、野球(ソフトボール)、バスケットボール、バレーボール、剣道、水泳などは、小学校区または中学校区を単位とした地域ごとのクラブ化が可能だと思われます。
なぜ、小学校区あるいは中学校区を単位とした地域ごとのクラブである必要性があるのかというと、いくつかの理由があります。日本の社会体育専用の施設は住民の欲求に答えるだけの量がありませんし、将来的にそれが整備される見通しもありません。例えばスポーツ先進国のドイツでは、スポーツ施設を住民一人当たり3uつくることを目標に施設を整備しましたが、清水市の人口で換算するとサッカーグラウンド100面分を整備しなければなりません。このようなことは、財政的な理由を挙げるまでもなく不可能です。
しかし、日本には身近に学校という施設があります。特に本市では、学校の体育施設が社会体育に活発に利用されています。また、学校の土台となる学区は、人口や住民の生活圏を元に決められていますから、前述の条件にぴったり一致します。加えて、学区は自治会区とも重なり、住民同士の連帯を得るという点からも非常にメリットがあります。このようなことから、学校施設を拠点とした地域スポーツクラブの可能性を検討すべきだと考えます。
◇ より具体的なイメージについて
それでは本市では、地域スポーツクラブとしてどのような組織が考えられるのでしょうか。ドイツのスポーツクラブは国や州の財源を投資した独自の施設を持ち、他種目のスポーツをする機会を主体的に提供する独立した非営利の団体です。このような形態をとるためには多数の施設を整備することが必要ですし、運営のための人件費なども必要になります。非営利とはいえ採算のとれる運営を行うとなると、特定の人気種目に偏ることが予想され、また、参加費もそれなりに高くなり一般参加者が疎外される恐れがあります。これらの点をクリアするとすれば、行政が多額の補助金を支出せざるを得ず、結論として実現可能性が少ないといえるでしょう。
そこで清水においては、スポーツ競技者(参加者)が主体的に運営する種目別地域スポーツクラブのうち、一定の条件を満たしたものを公共的団体として認定するとともに、グラウンド利用者協議会のような連絡会で緩やかに結びつけ、行政がうまく関わりながらも住民の主体性を伸ばすような方法を提案します。
◇ 地域スポーツクラブの条件
もし、このようなクラブを認定すると仮定するとき考えられる条件としては、特定の宗教・宗派を支持しないこと、特定の政党などを支持しないこと、営利を目的としないことといった教育施設を利用するときの3原則以外に、
(1) 一のホームグラウンド又はホーム体育館などを定めること(一種目につき一地域一団体)
(2) 性別・年齢を問わず、地域の住民で参加を希望する者を受け入れること
(3)市が認める有資格者の競技指導者が一人以上いること
(4) 組織を代表し運営する役員会などを競技の指導者とは別に設けること
(5)規約・予算書・決算書を備え、監査する者がいること
などが挙げられます。
(1)については、一の地域で同一種目の団体を複数認めた場合、指導者や一部の中心的な人々の考え方の違いによって小規模のクラブが乱立し、長期的な展望に立ったクラブ運営に支障をきたすことが予想されます。また、社会的な認知度を高めるためにも一のクラブとした方が効果的です。
(2)については、生涯にわたるスポーツをする機会を保障するという目的から当然の条件になります。(3)についても、適切な指導が確保されるうえで、やはり当然の条件です。
(4)は、現状に対する反省という面で重要です。多くのスポーツ団体は、少数の競技指導者に責任と権限が集中しています。競技の指導はもとより、グラウンドの調整や対外的な交渉まで一人で仕切っている場合がよく見られますが、その指導者が優秀であればあるほど、何らかの事情でその指導者がいなくなれば、その団体の活動は尻つぼみになっていきます。したがって、組織の長期的な運営方針を決定し、それを継続的に実現していく機関を指導者とは別に設けなければならないと思われます。
◇育成及び支援の方法
団体の条件は以上の通りですが、次に行政が行うべき支援策を考えてみたいと思います。
(1)地域の学校体育施設の優先利用
(2) 内申書など教育課程での評価
(3)指導者への謝金基準の設定
(4) クラブ運営にかかるマニュアルの作成と指導・助言
(5) スポーツ教室や競技大会などの大会運営の委託
(6)地域の学校施設(社会体育施設)の管理委託
はじめに(1)については、学校のカリキュラムや教育委員会などの行事に次ぐ重要な活動として、定期的な活動が保障されるように配慮しなければなりません。また、(2)と併せて学校教育との連携が必要になってきます。
(3)については、実際に謝金を支払うのはクラブですが、報酬の高騰やクラブ間でのバラツキを防ぎクラブの計画的な財政運営を保護するとともに、ボランティア指導者が謝金を受け取ることを公的に認めるために必要なものです。このときの謝金は、どんなに小額であろうとも、指導者が責任をもって質の高い指導をするために必要な経費、つまり交通費や保険料であるとか、トレーニングウェアやその他指導に必要な道具を維持する経費として定めるべきだと思います。一定水準を満たしたボランティア指導者が、長期にわたってコンスタントに指導することを助けるための謝金ですから、資格・能力や役務の対価として支払うのではなく、このような経費を受け良好な環境で活動するための必要条件として資格があるのだという考え方をとらなければなりません。
(4)については、競技指導者育成の点では指導者養成大学などの方策がとられていますが、組織運営の専門家の育成はあまり行われていません。団体を公的に認定する以上、一定水準の運営レベルを確保しなければならず、特に初期の段階ではマニュアルや指導・助言が重要になってきます。これは行政と体育協会及びその加盟団体が協力して行う必要があります。
(5)については、現在、地区体育協会が担当しているバレーボール大会などをその地域の当該種目クラブに運営を委託したり、普及活動の一環としてスポーツ教室を委託するなどが挙げられます。団体運営に関する補助金等は、前述したように、団体の自主自立を阻害する可能性があるので交付せず、行政がスポーツを振興するために必要だと思われる具体的な事業を、委託料や交付金で委託する方法が望ましいと思われます。
また今回想定しているクラブは、各種目単位のクラブであるために、種目間をつなぎスポーツ全体を調整するシステムを考える必要があります。現在のように自治会役員の一つのようなかたちで、確固たる情熱を持たない人材で構成されている現在の地区体協には荷が重すぎます。
そこで、(6)で提案しているように、最も現実的なテーマであり、すべての種目別クラブが避けて通れない問題である施設利用の調整を目的とした利用者会議にクラブを統合する役割を持たせます。施設利用はどの種目別団体にとっても最も重要な関心事の一つですから、利用者会議が強い影響力を持つことは確実です。
より具体的な調整能力を与えるとすれば、課外の学校施設の管理を利用者会議に委託する方法も考えられます。この場合の委託は、金銭的な援助が目的ではありませんから、非金銭的な契約とし、必要な事務用品・光熱水費等は現物支給すれば足ります。現実に小学校のグラウンドなどは、少年団の育成会がこのような役割を果たしているケースが少なくありませんから、実現可能性は低くないといえます。
◇サッカーが果たす役割
以上、清水の特性にあった地域スポーツクラブについて考察を加えてきたわけですが、初期段階においては他市・他県に似たようなケースが少ないこともあり、先駆的な役割を誰かが果たす必要があります。そして、この地においてその役割を担えるのはサッカーしかありません。
元来、清水で学校施設の開放が先進的に進められたのは、サッカースポーツ少年団とその育成会の力によるところが大きかったというのは周知のとおりです。自腹を切ってナイター設備を整備するなど先駆的な役割を果たすと同時に、草サッカー大会に見られるように、ボランティアでの大会運営能力は他に類をみません。また、このような組織づくりがおこなわれてから30年以上が経過し、地域のリーダーも育っており、また、当初の少年団の子供たちが社会を支える年代になっていることも注目されます。
その頂点たるJリーグは、サッカーのみならずすべてのスポーツ文化の振興を目標としています。一方、本市のサッカー協会ではおよそ小学校区を単位とした組織づくりに取り組もうとしています。先般行ったアンケート調査(資料3)によると、各地域のサッカーのリーダーは、地域ごとのサッカークラブの組織づくりについて指導者やスタッフの負担が増えるという懸念以上に、「より多くの人が楽しむことができる」とか「指導者や運営スタッフが育つ」といったプラス面に目を向けています。また、実現には学校や自治会の協力や地域住民の理解が必要だとも指摘しています。
スポーツ先進国のスポーツクラブの多くはサッカーをその中心においています。その国の歴史的経緯と関係が深いのはいうまでもありませんが、それ以上に競技スポーツとして、団体スポーツとして、世界的な共通語ともいえるスポーツとして、その他様々な観点から、サッカーが他の様々なスポーツの基本となり得る普遍的な要素を多く持っているからだといえるのではないでしょうか?スポーツ健康都市宣言具現化のための地域スポーツクラブを、サッカーを先頭にして整備するということこそ、サッカーのまち清水にふさわしいといえます。
◇地域スポーツクラブがもたらす課題
最後にここで取り上げたシステムの課題についても、触れておく必要があるでしょう。今回取り上げたシステムは、過去と現在の課題を解決することに重点を置いているため、実現にあたって新たな課題が生じることも事実です。
一つには、一地域につき一種目一団体としているために、参加者から選択の自由を奪っている点です。参加者は、基本的に自分の好みによって参加する団体を選べません。仮に別の団体があったとしても、武道系競技またはスイミング、テニスのように商業スポーツとして自前の施設をもっている場合を除き、地域の拠点的施設である学校施設を使用できない不便な団体であることは間違いありません。
しかし、前述のように複数の団体を認めてしまえば、生涯にわたる一貫した指導体制は到底確立できないでしょう。ここで想定しているクラブは、民主的な運営を最も基本的な要素としており、参加者は団体を選択する権利の代わりに自分の意見を主張する権利があります。日本的風土では一概に機能する保証はありませんが、行政が支援するにふさわしいシステムとしては、あらゆる希望を満たすための限りない選択肢の創出よりもむしろ、公共性の強い普遍的なシステムの方が優れているといえます。
次に挙げられる課題としては、このようなクラブは大衆スポーツを基盤とするために、より高度なスポーツ活動を望む者を疎外するのではないか、という点です。地域のスポーツクラブは、勝利至上主義やプロ志向とは、縁のないものでなければなりません。したがって、活動内容はもちろん、試合会場などの活動範囲や練習日数・時間などもより多くの人が参加しやすいように制限され、より高度な技術の向上を目指す者のとってはもの足りないものとなるでしょう。
そのため清水市○○協会や○×連盟といった市域全体を対象とした種目別競技団体は、より高いレベルを目指す人々のために選抜チームをつくったり練習の機会を提供する必要があります。また、市営体育館やナショナルトレセンは、このような活動のために使用されるべきだと考えます。より高いレベルを目指す者と楽しみたい者が同じ土俵で競わなくてはならないという現状を解決する方法は、これ以外に考えられません。
最後に挙げる課題は、地域スポーツクラブと学校・行政の調和です。これが最も難しいといえます。地域スポーツクラブがどんなに重要でも、学校本来の目的や領域を侵すことはできません。施設を手荒く使ったり、教員や事務職員に過剰な負担をかけたりするようでは、実現は不可能です。
そのためには、施設をクラブがどれだけ自主的に、自律的に活用できるかにかかっています。便利さだけを求めて、面倒なことは行政まかせのような団体はふるいにかけられるべきであり、行政としても初めから無理のある団体を創出すべきではないと考えます。そのためにも(ここが重要な点ですが)意欲と能力のある団体で、行政が考える公共的な目的と調和し得る団体を始めに支援し、その跡を他の団体が続いていくような戦略をとるべきでしょう。
以上で地域スポーツクラブの目指すところと、その課題や方法がすべて明らかにされたことと思います。本市は、今までスポーツ健康都市として、またサッカーのまち清水として、全国でも先頭にたって進んできたように、今後も先駆的な役割を果たすべきではないかと思います。そのためにこのように地域スポーツクラブ制度を一考すべきではないでしょうか?
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