暗闇の旅人
 
 広大な宇宙の永遠の中の一点。
目を閉じて、心を澄ませると、かすかに気配が感じられることに気がつきませんか。
それは昼でもなく、夜でもない、あいまいな時間。
妖精が目を覚まし、動き始める不思議な時間。
いつか聞いたことがある。遠いむかしの物語。

宇宙の暗闇の中で、アルルの王子と小さな地の精の老人が会っていた。
アルルの王子は、誰の目にも見えないものを探していた。大事なものを失って、長い時間がたったけど、アルルの王子は気がついたのだ。
何が大事で、何が大事でないのか。

「ご主人様、一体どこへ行きなさるんで」
「ククブスよ。私にはジーン・ウールが必要なのだ。私は彼女を求めて旅に出る。追いかけていくのだ。たとえ宇宙の地平線の彼方までもな。」
「お止め下さい、ご主人様。そんなことをなさったら、この世界の均衡が壊れまする。」
「この世界は変化し続けていくのだ、それが正しいあり方よ。この世に常なるものは何一つとしてないのだ。」
「ジーン・ウールさまの心はすでに、あなた様には向きますまいに。」
「お前には、確信というものがないのか。私にはある。私は己の心の声に従って生きていこうと思うのだ。定まった運命などはない。すべて自分の熱意と行動で変えてみせる。」
「あなた様は暗闇の王子。光の娘を求めてどうなさるんで。」
「お前には分かるまいが、闇と混沌のなかからすべてが生まれたのだ。暗闇と混沌から秩序が生まれ、秩序から光が生まれ、光から生命が生まれた。ジーン・ウールは、光の娘だ。いとしい我が愛するものだ。よいか。私も肉体を持つ。霊の世界から肉体に降りて行くのだ。 ククブスよ。お前も共に降りてゆき我を助けよ。」

ククブスが驚いたのなんの。
「な・な・なんと!・・ご主人様・・考えても下さいませ。たとえ同じ時代に生まれあわそうとも、肉体をもって地上に生まれたとたん、前世の記憶は消えてなくなるんですぜ。」
「ならば、お前に秘密を授けてやろう。前世の記憶を維持して生まれ変わることの出来る秘術をな。」

ククブスの耳が動いた。・・・そうであるならばな・・・。


 アルルの王子は、ククブスに秘術を伝授すると、あの世からこの世へある時代を目指して旅立っていった。

「ふん。甘い男だ。お前が存在するためのすべての可能性は、私が握っているぞ」
ククブスが不適な笑いを浮かべました。

アルルの王子は語りました。
「トートは自らの向上よりも、地球という星の進化を助けるためにこの星に残ることを決めたのだ。何度か肉体を持ち生まれ変わるたびに、トートもいつか忘れていくはずだ。アルルの界へ戻るすべも、我々の真実の名前もな。」

そう。
今は誰も知る人がいない。長い時間がたち忘れ去られた言葉がある「失われた言葉」。
その言葉を使えるものは、心清きもの。いまだかって悪しき心を持ったことのないもの。それはジーン・ウールそしてトート。

 ぼんやりと辺りの風景が見えてきた。風が通りわたっていった。
ククブスは、高い山岳の切り立った崖の上にいた。
下を見下ろすと、足がすくんだ。眼下は、ただ霞んだ雲に覆われていて何も見えなかった。
この崖から飛び降りると、その瞬間すべての記憶は消え、やがて三次元の地上に肉体を持ち生まれ変わっていくのです。

ククブスは、前世の記憶を保持して、この地上に生まれ変わることが出来るのでしょうか。
そして、アルルの王子は・・・。

ククブス。この小さな男は、一体何をたくらんでいるのでしょう。


クリスタル・スカル

人間の頭骨に似して作られた水晶。
作られた時代も、道具も、作り主も定かでない。
しかし、聖なるアークと同じように時代の権力者は手に入れることを求めました。
クリスタル・スカルは、宇宙そのものを表していると信じられたからなのです。
クリスタル・スカルには、所有する人が望むものを与えられるという不思議な力が、込められていました。死を望めば死が与えられ、生きることを望めば生きる力と癒しが与えられました。
アトランティスの最後の時、13のクリスタル・スカルが作られ世界中に散っていきました。目に見えないあらゆる情報がクリスタル・スカルのなかに込められていると考えられています。

人間でない存在に作られたクリスタル・スカルと、人間によって作られたクリスタル・スカルがあると信じられています。あるクリスタル・スカルを人間の顔に復元すると、女性の顔になるのだそうです。おそらく女性の神官だったことでしょう。
・・・ジーン・ウールの頭骨を・・というよりは、ジーン・ウールがある時代に命を狙われていたということは、充分考えられます。

時代は、闇の黒魔術師が大いなる大陸の支配者だった。
しかし、どんな闇の時代でも光の灯火は守られていきました。後代にまで光を灯し続けていくことがジーン・ウールの使命であり、カルマでもあったのです。再びアトランティスで光の娘が生まれたとき、同時に守護するものもまた生まれました。

 

 川のせせらぎが聞こえる。
白セキレイが、お気に入りの枝にとまって川面を眺めている。この小さな紳士は、岩のくぼみに舞い降りた。彼は頭を水中につっこみ、ぶるぶると念入りに水浴びをした。それから、川岸の高い枝のてっぺんでさえずった。
耳を澄ますと、四方からさまざまな鳥の声が聞こえ始める。早朝、タディラの山裾に住む鳥たちは、どうやら同時に目覚めるらしい。

忙しそうに風にそよぐトネリコの木の葉の間から、白セキレイは見慣れないものを見つけた。
髪を乱し、早歩きしている若い人間の女性だ。腕には白い布にくるまった包みを大事そうに抱えている。本当にセキレイ族は好奇心旺盛です。彼は思わずこの人間の女性の後をついて行くことにしたのです。

若い女性は、疲れていました。それでも這うように北を目指して歩いていました。やがて、もう一歩も歩けないと悟ったとき、彼女は道を外れて山の中に入っていきました。もう、体力が残っていないようでした。彼女はまだ産褥の体でした。生まれたばかりの我が子を抱いてここまで逃げてきたのです。
彼女はくずおれ、神の御名に祈りました。 そして、我が子の傍らで動かなくなりました。

「た、大変だ!」白セキレイは大変だ、大変だと大声で鳴きながら空を飛び回りました。
起きたばかりの鳥たちも、何だ何だと騒いでいます。山の動物たちもあまりの喧しさに集まってきました。
若い母親の魂は、我が子のそばに寄り添っていました。
・・風よ吹くな。太陽よやさしくこの子を照らしておくれ・・・母親は、死にかかっていました。
死の瀬戸際においてもなお、我が子を救うすべを考えていました。これは、母の愛のなせる業だったのでしょうか。動物の中の1頭の鹿がタディラ山の山裾に住むオギマをここまで誘い出してこようと、思いついたのです。
オギマの前に飛び出てきた鹿を見て、山人のオギマは弓を手に赤ん坊のところまで追ってきました。
そして、冷たくなった母親と、今にも死にそうな赤んぼうを見つけたのです。
一体この母親に何があったのでしょう。そして生まれてすぐ母親を失ったこの子は生きていけるのでしょうか。


 

 その頃、戦争がありました。時の支配者は、闇の黒魔術師でした。彼は神のように言いました。何が善で何が悪であるのか、そして空から雨を降らせました。その雨は、大地を潤し作物を実らせもしない鉛の雨でした。闇の黒魔術師は、巧妙に恐怖心でもって、人々の心を支配していきました。


 オギマは母親を弔い、かぼそげに泣く赤ん坊を抱いて山を下りることにしました。
この山人は、はっと回りを見回しました。気がつくと、先ほど追ってきた鹿やウサギや地リスや、頭上の木の枝には小鳥たちまでも、心配そうに見つめていたからです。
「つくづく不思議なことがあるものだ。この赤ん坊は、一体どんな星の下に生まれたのだろう。」
風がさやさやと通り抜けていきました。

 オギマには5人の子供がいました。それがもうじき6人目が生まれそうだという案配です。
子供達は全員が男の子で、オギマも女房も次の子はぜひ女の子が欲しいと思っていました。ちょうどオギマが鹿を追っているころ、女房のムエッタは急に産気づき、元気な男の子を産みました。
そして、夕暮れが迫るころ、オギマが小さな赤ん坊を抱えて戻ってきました。
有り難いことに、ムエッタのお乳はあふれるほど良く出たので、右のおっぱいは我が子、左のおっぱいはオギマが連れ帰った子に吸わせました。冷たかった赤ん坊は、最初は本当にこのまま死んでしまうのかとさえ思いましたが、暖かい胸とお乳のよい匂いで生き返ったようでした。ムエッタは、神様が願いを叶えてくれたのだと喜びました。

6番目の男の子の名前はレナンキュペパ、鹿が助けた女の子の名前はラビナツァラと名付けました。
この二人の子は元気に育ち、まるで双子の兄妹のように仲良しでした。ラビナツァラはとても可愛くて、誰でもラビナツァラが大好きです。渋い顔のオギマでさえ、ラビナツァラの笑顔につられて笑います。
レナンキュペパもラビナツァラも森が好きです。それにラビナツァラは鳥や森の動物たちとお話が出来るのです。
ラビナツァラがいなくなり、ムエッタがあわてて探すと、裏山でラビナツァラとレナンキュペパが鹿や地リスたちに遊んでもらっているのです。
そんなわけで、オギマは狩りがしにくくなったとぼやいています。

 そうして、いつしか月日がたちました。
不思議なことに森は大きく成長し、深い深い木立の入り口は、茨やイラクサの厚い壁に閉ざされて誰も入ることが出来ませんでした。それでも森の恵みは、動物たちやオギマの家族を養って充分ありました。
タディラの森やオギマの家族は、闇の黒魔術師ゴルドゥスの支配から免れていたのでしょうか。
まさにそうだったのです。でも、彼は気がつきました。
タディラから射す強い光が、自分の未来に不吉な影を差しているのを見たのです。


 

 
 タディラの森は、まるで森自体が何かの意志を持っているかのようでした。森に住む動物たちは、小さいものも大きいものも仲良く助け合って生きていました。動物だけではありません。森の樹木や草花たち、小さな地衣類でさえ、ひとつの柔らかく優しい振動を感じていました。
その振動は、とても心地よくて森の仲間たちの心を幸せに満たしてくれました。

深い森の中に泉がありました。泉は樹木に囲まれて透き通っていました。この泉の水は甘く冷たくて美味しい泉でした。森の動物たちは、疲れたとき苦しいとき、この泉のそばで休みました。冷たい泉に足を浸しました。そして心ゆくまで泉の水を飲みました。そして元気を取り戻していきました。

レナンキュペパには、不思議な能力がありました。
ラビナツァラが動物たちと話が出来るのと同じように、レナンキュペパは、植物が出す振動と力を感じることが出来ました。レナンキュペパは、雄しべや花を掌にのせたり、舌の上に置くだけで、その植物のもつ効力や特性を感じることが出来ました。それはまるで、植物の方から進んでレナンキュペパに自分の秘密を打ち明けているかのようでした。レナンキュペパはいつも森の中を好きなようにさまよいました。そして小さな小屋を建て、その中でいろいろな実験をしました。ある植物はレナンキュペパへ活力を与えたし、ある植物は彼に苦痛と嘔吐や発熱を与えました。そのうち彼は、植物たちの有用な放射や振動を取り出す術を取得していきました。

闇の黒魔術師ゴルドゥスが、タディラの森の詮索を始めたことは、空を飛ぶ鳥たちがラビナツァラに教えたのでオギマの知るところとなったのです。5人の兄たちは、それは勇敢で戦うことに二の足を踏むことはありませんでしたが、オギマやムエッタはもう年寄りになっていました。

オギマの家族たちは、茨やイラクサをかき分け自ら森を切り開き、森から出て行きました。そして闇の黒魔術師ゴルドゥスと対決するためにゴルドゥスの住む城へと向かっていきました。それはまるでこの地上に神々の軍隊が出現したと言っても過言ではないくらいです。なぜというと、オギマの家族の後から先から森の動物たちも一緒に行進を始めたからです。森の動物たちは、大事な森を守りたい一心なのです。

タディラの森は、森に住むものたちに仲間を愛する心と、戦う勇気を与えてくれました。
ここで、レナンキュペパの登場です。レナンキュペパは道々病気の人々を癒していきました。レナンキュペパには、その病気に何が必要なのかが分かったので、対処することが出来たのです。

オギマは不思議な感覚にとらわれていました。何かが違ってしまったと思いました。

・・何だろう・・
・・・こうではない・・もっと別な何かだ・・・

その思いはタディラの森を出て、森から遠ざかっていったとき、胸の中で生まれ大きく育っていきました。


 不思議な感覚をもったのは、オギマだけではありませんでした。森から離れるに従い、小さな動物たちは大きい動物たちが何を考えているのか分からなくなりました。すると、今まで感じたことのない怖れや怯えのために、この小さな動物たちは真っ先に隊列を離れ、森へ戻って行ってしまったのです。
タディラの森の上に、何か不思議な力がじわじわと覆い始めていました。

ラビナツァラとレナンキュペパは、その状況の変化を見逃しませんでした。
オギマに自分たちが偵察に行って来るから、ここで待っていて欲しいと伝えました。
「そうであるなら、私たちが行こう」
一番上の兄と二番目の兄が偵察に出かけ、帰ってきませんでした。
「次は私たちが行って来よう」
三番目の兄と四番目の兄が偵察に出かけ、帰ってきませんでした。
「仕方がない。私が行って来よう」
オギマが五番目の兄と二人で出かけ、やはり帰ってきませんでした。
「母さん。僕に任せてくれ。父さんと兄さん達を必ず連れ帰るよ」
「そうよ。私たち二人でね」 ラビナツァラとレナンキュペパが母さんを抱きしめて言いました。
二人は森の動物たちと別れて行こうと思ったのですが、熊のダンと鹿のグェン地リスのチモだけはどうしても一緒に行くのだとききません。それで二人と三匹の仲間は連れだって出発することになりました。

ラビナツァラは、とても美しい娘になっていました。
黒く柔らかい髪が、長く腰のあたりまでありました。その長い髪を編んで、くるくると頭に巻いていました。両親や兄たちのあふれるほどの愛情を一心に受けて育ち、明るい笑顔と輝くようなオーラを全身から放っていました。

二人と三匹の一行は立ち止まりました。西の空が暗くなってきました。天気はよいはずなのに不思議です。雲が次第に空を覆い尽くそうとしています。冷たい風が吹いてきます。まるで氷の山の上を渡ってきた風のような冷たさです。やがて本当に硬い氷の粒が、地面に叩きつけるように降ってきました。ゴルドゥスの魔術に違いありません。
チモは勇気のある地リスです。小さな動物たちのなかでもピカイチで、頭もとてもいいのです。そんなチモでもこの氷の雨はお手上げです。ダンのお腹の下に逃げ込みます。ダンの厚い毛皮は氷の雨などへっちゃらです。グェンも頑張っています。ラビナツァラとレナンキュペパは厚いマントにすっぽりとくるまってじっとしていました。氷の粒は次第にやんでいきました。
前途多難な旅のようです。それでも二人と三匹の一行は、どうやらこうやら城に近づいてきました。

ゴルドゥスが支配する領土一体は、近隣諸国のなかでも群を抜いて大きいものでした。
領土は戦争によって拡大していきましたが、経済感覚も優れたものを持っていました。ゴルドゥスは穏やかに近隣国と交易を始めるのです。最初は相手を儲けさせ、最後は自分が大儲けするというものでした。柔の部分と剛の部分を両方持っていました。そんなゴルドゥスの、人格が変わってしまったのがいつのことだったのか、誰も知りません。

領土の真ん中の小高いところに城がありました。城内には大勢の人がいました。でも少し変です。誰も他人のことには無関心です。せかせかと働き自分の要求は相手に伝えるのですが、相手が何を言いたいのか、何を必要としているのか考えることや思いやることを忘れてしまったようです。だから、時々街のあちこちで諍いが起きました。そして、人々は面白がって見物しようと集まってきました。
そんな時、ゴルドゥスの番兵たちは、誰が使える人間で、誰が反逆者になりうるのかを観察し、ゴルドゥスに報告するのでした。

そんな場面にラビナツァラが現れたとき、不思議なことが起こりました。人々が互いに眼と眼を合わせたのです。今まで忘れていた何かが心の中で通い合うのを感じました。
レナンキュペパは人々の変化を見、ラビナツァラのキラキラと輝く笑顔を見ました。ラビナツァラの全身から暖かいエネルギーがあふれ出ていたのです。その暖かいエネルギーは、眼から眼へ、人から人へアッと言う間に伝染して広まっていきました。人々がゴルドゥスの魔術から解放された瞬間でした。闘うのに武器などいらなかったのです。

しかしその時、城のなかから黒いマントと黒い面を着けたゴルドゥスの手下が、ラビナツァラとレナンキュペパを引っ捕らえていきました。そして、二人は冷たく光の射さない牢屋に押し込まれました。
城では毎日処刑が行われていました。ゴルドゥスは領民の命をその手につかんでいたのです。
意のままにね。


 暗い牢屋のなかでラビナツァラとレナンキュペパはゴルドゥスと会いました。
ゴルドゥスは、痩せた背の高い男でした。口元は一文字に固く、深くくぼんだ眼窩から強い光が射していました。

「ほう」
ゴルドゥスは、驚いたようにラビナツァラを見ました。見覚えのある面影がそこにはありました。
ゴルドゥスは近づき、ラビナツァラの顔に触れようと手を伸ばしましたが、触れることは出来ませんでした。
パチンと火花が飛び、あわてて手を引きました。ゴルドゥスはじっとラビナツァラを見つめました。

「ラビナツァラよ。お前のすべては私のものだ」
そして、鋭い視線をレナンキュペパに残しながら去りました。

「なぜかしら。どこかで会ったような気がするわ」
ラビナツァラがつぶやきました。


その頃、ゴルドゥスの城から少し離れたところに3匹の仲間が 集まって相談していました。アッと言う間にラビナツァラとレナンキュペパが捕まってしまったんですからね。間に合わなかったんです。
ご主人様の危機を救えないなんて、どうしようもない奴らだなんて思わないで下さいね。現代の動物たちよりも、ずっと知能は高いんです。
ダンはしかめっ面して歩き回っています。何か良い智恵が浮かぶかも知れません。
空からすぃーっと、森の仲間が飛んできました。白セキレイのキキです。
「どうしたんだい」
「ラビナツァラとレナンキュペパが捕まってしまったんだよ」
「それは、大変だ。よし、僕が様子を探ってきてやるよ」
キキは三匹の返事を聞きもしないで、まっしぐらに城へ飛んでいってしまいました。

キキは城の周りを飛び回って、高い塔のてっぺんで鳴きました。
「おーい。ラビナツァラやーい。ピーグチュグチュグチュピーグチュグチュグチュ」
「いたら、合図をしてくれよー。ピーグルグルグルピーグルグルグル」
キキは城の周りで鳴いたのですが、口笛の合図はありませんでした。それから城の庭に降りて探検です。オギマはいないか。ラビナツァラはいないか。レナンキュペパはいないか。
そして部屋の窓辺に止まって、あっちこっち覗いて回りました。
あまりにも広い城だから、全部の部屋を覗くのも大変です。

キキが三匹のところに戻ってきました。
「高い塔の部屋から低い部屋まで探したがいなかったハァハァ・・」お疲れさまキキ。
「そうか。では地下室にいる可能性があるね。よし。僕に任せてくれ」
地リスのチモです。穴掘りならお手のものです。
この城の周りには大勢の地リスたちが住んでいましたから、チモは応援を頼み加勢を得て城の地下に近づいていきました。

ゴトン。
城の地下室への通路が開きました。大仕事でした。仲間というのは良いものです。
「チモ。困ったことがあったら、いつでも言ってくれ」近隣の地リスのリーダーのサビが胸をたたいて言ってくれました。
「サビ、タディラの森のラビナツァラとレナンキュペパを探しているんだ。一緒に探してくれるかい」
「おう。まかせな」 とっても頼りになるサビです。

サビは仲間の数10匹と地下室をくまなく探してくれました。
オギマがいました。5人の 兄たちもいました。でもラビナツァラとレナンキュペパがいませんでした。
ほとんど諦めかけたとき、一番奥にもうひとつ部屋があることが分かりました。そしてチモはサビ達のお陰でラビナツァラとレナンキュペパと会うことが出来たのです。

「ラビナツァラ!」
「チモー☆」
ひしっと抱き合う1人と1匹でありました。


 ラビナツァラ達がチモやサビの力を借りて、城から脱出できたのは本当に偶然のたまものだったのでしょうか。城は堅固で見回りも頻繁で した。おいそれと脱出できるとは、考えられなかったのです。しかし、とても不思議なことが起きました。

 ラビナツァラはどうしたら良いのかと考えました。すると、心の奥で「壁に手を当てよ」と言われたように感じました。ラビナツァラが壁に手を当てると、壁の中にトンネルのような道が現れました。
「不思議だわ。ここにトンネルが開いたわ」
「助かるぞ!さあ皆で脱出しよう」チモやサビの仲間達も一緒です。
それから、5人の兄たちも救い出すことが出来ました。壁は、みんなが集まり壁の中にはいると、何事もなかったようにすうっと消えて見えなくなりました。ラビナツァラは、不思議な力と感覚を感じました。それはラビナツァラには懐かしい感じでした。

金の鈴鳴らせ、銀の鈴鳴らせ
霧の中で鳴らせ
金の玉走らせ、銀の玉走らせ
霧の中で走らせ
金の玉ぶつかり、銀の玉ぶつかり
霧の中でぶつかり
金の玉と銀の玉は一緒になった

二つの玉は一緒になって地上に落ちた
二つの玉は一緒になって雨となった

金の鈴と銀の鈴はいなくなり、空間が生まれた

空間は広がり、空間はつながり、空となった

広い海と、広い空がこの世に生まれた
空と海の間に光があった

光は、空と海が生まれる前からそこにあった

歌えよ歌え、歓びの歌を
回れよ回れ、小川のように、泉のように
輪になって回れ、輪になって踊れ
金の鈴鳴らせ、銀の鈴鳴らせ
霧の中で鳴らせ

歌声が、きらきらとさらさらと聞こえました。


 サビとサビの仲間たちは故郷の草原へ、ラビナツァラとレナンキュペパと5人の兄たち、それと3匹の旅の仲間は、気がつくとタディラらの森に帰っていました。
しかし、レナンキュペパが見回すとオギマがいませんでした。いつ、どうした理由でオギマが消えてしまったのか誰にもわかりません。

ラビナツァラは、じっとオギマに思いを凝らしてみました。すると、オギマはゴルドゥスに捕らえられていました。オギマはラビナツァラの壁の中の道に入ることが出来なかったのです。
ゴルドゥスの顔が見えます。彼はオギマを見ていましたが、視線は宙をさまよい、やがてぴたっとラビナツァラを捕らえました。

「ラビナツァラ。父親の命を助けたかったら、戻ってこい。さもないとこの者の命はないぞ」
すらりと刀を抜き放ち、オギマの喉に刃を当てました。
「いま行くわ」
一瞬の間にラビナツァラの姿が消えました。

「かかったぞ!餌に食いついた。追いかけてこい、どこまでもな。ははははは・・」

そこは、ゴルドゥスの城ではありませんでした。
窓から見えるのは、闇の中に瞬く星星星・・そして、そこは宇宙の暗闇。


ゴルドゥスを追って、ラビナツァラはアルルの果てまでやってきました。不思議なことに、追えば追うほどラビナツァラには、ゴルドゥスの道が見えるのでした。巨大な天体が天空をよぎります。不思議な光景です。「引き返せ。これ以上行ってはならない」心の声が聞こえます。しかしラビナツァラは深い闇に飲み込まれ、奥に奥に下へ下へと吸い込まれていきました。「引き返せ。引き返せ」なおも心の声は叫んでいます。
ラビナツァラはもがき振り返り戻ろうとしましたが、もはや深い闇が続くばかりでした。

「よく来た。おまえの父親はここにいる。さあ、こちらだ。  こちらだ。 ラビナツァラ・・」

「エレシュキガルの王子よ。私の役目は終わりました。ここから出して下せえ」声が聞こえます。

「ククブスよ。この界に入ったものは、誰一人として出て行くことは出来ないのだ。もうしばらくゆっくりしていけ」
「げ・げぇーー!」

ラビナツァラは、エレシュキガルの王子の声を追っていきました。2時間たったとき「どこだ!」と叫びました。暗黒は厚くたちこめ、光はありませんでした。闇は前も後ろも見ることを許しませんでした。ラビナツァラはなおも進みました。

18時間がたったとき、北風が起こりいたるところを吹き荒れました。暗黒は厚くたちこめ、光はありませんでした。ラビナツァラはなおも進みました。

暗闇の中を歩き始めて、まる一日がたったときアルルの界が明るくなってきました。見渡すと、まるでそこは水晶の森でした。すべてが水晶でできていました。森の樹木には果実も実っていました。リンゴのような丸く大きな実や、葡萄の房もたわわに実って垂れ下がっていました。水晶の森からは、良い香りすら漂っていました。足下には、透き通った薔薇の花が咲き、花心には蜜を求めて透明な虫たちが飛んできていました。

月の光がオギマの顔を照らしました。それはオギマでしたが、オギマではありません。ラビナツァラには初めて見る顔です。おや?どこかで会ったことがあるような気がします。

ゴルドゥスが言います。「ここはアルルの界だ。ラビナツァラよく戻ってきた。ここは正当にお前の住むべき世界だ」冷たい風が吹き、ラビナツァラの心が凍りました。

さあ、大変!
いつか、ラビナツァラはアルルの界から出られるのでしょうか。

でも、今日の夢はこれでおしまい。ジーン・ウールの不思議な話はまた明日。


宇宙