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面倒がったゑびっさん

ある邑(むら)での話だが、男たちは出かせぎに出て一人もいない。みんな正月をそこそこにして働きに出ていった。邑にいるのは女たちと年寄りばかりだ。その女たちだって、いそがしく稼(かせ)がなければならない。

どんど焼は1月14日する厄払いの小正月の行事じゃ。

女たちはどんど焼を相談した。110日に隣邑のゑびっさんにはみんなお参りしてきたようなので、14日のどんど焼はおしめ縄を焼くだけにして差義長(さぎちょう おんべこんべのこと)は省くことにした。孟宗竹のおんべこんべの3本は商売繁盛、家運隆昌、子孫繁栄の象徴なのじゃがなぁ。

それは、2里半もある邑まで5〜6間ある孟宗竹を採りにいく暇はほしいし面倒でもあったのじゃ。

母親たちが忙しいのなら、どんど焼は子供の行事だから、物騒な世の中なので子供たちだけに任せられない。それに甘やかせて育てた子供たちを頼りにできないほど信用できなかったのじゃ。

いやそれだけじゃないぞ。子供たちは2里半も離れた邑から5〜6間ある孟宗竹をかついでくる気力も体力もなかった、ということじゃ。

その子供たちは、手分けをして邑中からしめ縄や古いお札は集めた。

でも、積極的に集めなかったので塞神(さえのかみ)とも呼ばれる道祖神さまをお守りし、年神様をお迎えする部屋をつくることはできなかったのじゃ。

それでもと年寄りの忠告もあって笹竹を用意して立てた。

暇をほしがり、面倒がった大人たちに道祖神さまはお怒りになって、悪霊や災悪を防ぐのをおやめになった。

お参りしてもらったゑびっさんまでも商売繁盛・漁業や交通安全・家運隆昌・子孫繁栄・正しき導きを減らしてしまわれた。

年寄りが道祖神さまにお参りして尋ねると「ワシらも悪霊や災悪を防ぐのは面倒になったからやめた」と答えられた。目先の欲だけをかき、しようと思えば出来るのに面倒がって商売繁盛、家運隆昌、子孫繁栄を放り出した人間どものために働くわけにはいかぬ、とお怒りだったそうな。

女たちが目先の欲をかき、面倒がったために亭主たちは出稼ぎ先で失敗するやら事故を起こすやら散々な思いをすることになってしまった。

忙しさにかまけたり面倒がっていると決して碌なことは無いものじゃな。

季節折々の行事の中にはいろんな教え、子供の躾けのこころが隠されているものだ。無駄と思うなかに大きな宝があるものじゃ。ゑびっさんも道祖神さまも己の胎(はら)の中にあるのじゃ。

そのことに気がついた邑人たちは面倒がらず節句折々の行事を子供たちと楽しんだそうな。