会えない間に <1>
スタツアを終えて顔をあげると、今回のお迎えはハナヂ爆裂ギュンターと
彼の配下の部下たちだった。珍しくヴォルフラムは一緒じゃないらしい。
顔を見たかったのにちょっと残念だ。
久しぶりに戻った眞魔国はちょうど晩春を迎えていて
リンゴそっくりの果実が実る木には、満開の花が咲いていた。
それは王都に続く街道沿いにある街路樹や、果樹園いっぱいに咲き誇っていて
サクラをこよなく愛する日本人としては、なんともいえない絶景だ。
…でも見続けると眠くなるのは何故だろう?
おれは居眠りをしそうになりながらも、なんとか持ちこたえて王都に入った。
城に続く大通りにはたくさんの人たちがいて、おれを見るなり歩道に集まってきては
歓迎してくれる。
その中には、いつかの鍛冶屋の父子もいて元気そうな姿にほっとした。
大事な国民に笑顔で答えながら手を振っていると、不意にギュンターが何かを
思い出して自分の馬をおれの横に並べた。
「陛下、そういえばヒスクライフ氏からお手紙と共に、わが国に贈り物が届いております」
「え?手紙?嬉しいなあ」
久しぶりの異国の友人からの便りにわくわくする。(でも目で読むのには時間かかりそう)
グレタも帰国中の筈だし、ここは愛娘と一緒に贈り物を開封するべきだと馬のペースを
少し早めた。
が、いざ帰城してみると、ヴォルフと一緒にグレタまで外出中だという。
なんてことだ!一番会いたい2人が揃っていないなんて…!!
お父さんはしょんぼりです。
なんかこのごろ、うちの親父の気持ちが微妙に分かるようになってきた。
今度家に帰ったら、少しサービスしてやろう。
気を取り直して自室に戻り、執事が用意していた贈り物の箱を丁寧に開封してくれた。
中身は一流の職人が作っただろう造形物と、高そうな布地、そしてこれまた高そうな
筆記用具だった。
「うわ、高そうなものもらっちゃったな〜…何かお返ししないと…」
思わず庶民的発言をもらすおれに、ギュンターがすでに自国の腕の良い職人たちに
いくつかお返しの品を発注してくれてることを教えてくれた。
「どの職人もわが国が誇る一流の腕前ですから、その中から陛下がお選びください」
普段は鼻血ばかり垂れ流してるが、やっぱり優秀な臣下だ。
そして手紙には、ヒルドヤードの歓楽街が、少しずつ家族向けの観光地として
様変わりしてきてる様子や、グレタのカヴァルケードでの勉強ぶりと、先生方からの
良い評判について、いろいろ書いてくれていた。
特に愛娘の異国での様子について書いてあることが嬉しくて、何度も読み返してしまう。
おれも親父に負けず劣らずの親バカらしい。
そしてふとグレタやヴォルフにも、せっかくもらった贈り物を分けてやりたいと思って
品々を見返してみるが、ヴォルフには良くても、グレタが使えそうなものが無い。
「この布地…グレタには大人っぽすぎるよなあ…」
「陛下、ご心配にならなくともグレタ姫と、フォンビーレフェルト卿にも頂いております」
「え?なに!?ちょっとそういうことは先に言ってくれないと…!」
「は、す、すみませんでした」
「ああ、でもなんかいろいろもらっちゃって…いいのかな」
「ご心配にならずとも、お二人への贈り物は主に外交ですから」
「へ?外交?」
「そうですよ、国交と友好の証として」
…そうか、ロイヤルファミリーってそういうこと大事だよな。あれ?でも待てよ。
「てことは、ごめん。おれ割と国あけちゃってること多くて、今までよくいう公務みたいのって…
全然したことないんだけど。ふつうするもんなんだよね?」
今まで全然気にも留めていなかったが、どうなっていたんだろう?
気になってギュンターに聞くと、意外な答えが返ってきた。
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