2004.12月
もうじきまた一年が暮れてゆきます。
ということで大晦日から連想される物語をひとつ。
舞台は18世紀初頭、ドイツのポーランド・チェコ国境付近ラウジッツ地方。 付近一帯に住むヴェンド(ソルブ)人の少年クラバートは仲間の少年二人と浮浪生活を送っていた。 ある晩、不思議な夢を見た。 ・・・・・11羽のカラスが一本の止まり木に止まっている。 よく見ると木の左端が一カ所だけ空いている。耳を澄ますと彼を呼ぶ声。 「クラバート、シュヴァルツコルムの水車場に来い」と。・・・・・ 夢は次の晩も続く。 不思議に思ったクラバートは水車場を探し当てて行ってみる。 するとそこにあったのは魔法使いの親方が支配する、世間とは隔絶された世界だった。 彼はそこに12番目の仲間として迎え入れられ、表向きは水車小屋の粉ひき職人として見習い期間を過ごすことになる。 1年目を終える大晦日の晩、一番頼りにしていた職人頭のトンダが謎の死を遂げた。 クラバートのショックも癒えぬうちに、1つ空いた12番目には新たな見習いがやってくる。 その一方でクラバートは年季明けとなり見習いから正式な職人に格上げされる。 たった一年の修行の短さに驚くクラバート。実は水車場での1年は実世界の3年に相当するのだ。 そして彼はこの日から晴れて魔法の授業を受けられる身分となったのである。 2年目。 魔術をぐんぐん吸収し、魂だけ身体から抜け出すことも覚えたクラバート。 復活祭の前の晩、外出した彼は澄んだ歌声の少女に恋をした。 今は亡き職人頭のトンダの言葉が思い出される。 「女の子を好きになっても決してそれを親方に悟られてはいけないよ。女の子は死ななくちゃならなくなるから」 それはトンダ自身が経験したことだった。 クラバートは自分一人の胸の中に用心深く秘めておく。 2年目の大晦日、また一人犠牲者が出た。 優秀な、そして面倒見のいいミヒャエルだった。 クラバートは敵討ちを心に誓う。 3年目。 新たな12人目としてやって来たのは昔のヴェンド人の仲間ローボシュだった。 クラバートはかつて自分がそうしてもらったように慣れないローボシュの面倒をみる。 人望もあり魔法の覚えがよいクラバートを親方は後継者にしようと目を掛ける。 しかしクラバートは親方の意志のみで生死の決定がなされるこの理不尽な狭い世界に矛盾を感じ始めていた。 そしてついに親方が毎年大晦日、大親方に職人を自分の身代わりとして捧げていたことを知る。 トンダやミヒャエルは生け贄だったのだ。 やがて職人仲間ユーローの助けでクラバートは、権力を与えられて後継者になるよりも、殺されたトンダやミヒャエルのかたきを討って、恋した女の子と自由に生きる道を選択したいと願うようになる。 幸運にも優秀なクラバートは今では姿を見せず声だけを耳元でささやく術を習得していた。 女の子と心で通信する。彼女も彼を好いている。 親方との対決の準備は整いつつあった。 こうして3年目のクリスマスが過ぎてゆく。 大晦日には後継者の口を断ったクラバートが犠牲になるのは明白だ。 彼が助かる道は1つ。 自分が愛した女の子に自分を探し出して解放してもらうしかない。 しかし失敗したら彼女の命もない。それは彼女も察している。 だから無理強いはしない。果たして救いに来てくれるだろうか。 3年目の大晦日。 女の子はやって来た。そして親方に申し出てくれた。 「私の好きなクラバートを自由にして下さい」と。 「どれがおまえの大事なクラバートかわかったら連れて行っていいぞ」と答える親方。 目の前には12人の職人が変身した12羽のカラスが同じ格好で並んでいる。 少女は目隠しをされている。 でも少女は大好きなクラバートの前で迷わず立ち止まる。 「この人です」 少女が勝った。職人は全員自由だ。 そして代わりに負けた親方が今夜命を落とさねばならない。 「どうやって君は仲間の職人の中から僕をを捜し出したの?」 「あなたが不安になっているのを感じ取ったのよ。私のことが心配で不安になっているのを」 作者プロイスラーは1923年ボヘミアのライヒェンベルク(リベレツ)に生まれました。 大戦後、オーバーバイエルンに住んで教師をしながら児童文学を書いています。 彼が少年の頃読んだ「クラバート伝説」のチェコ語版に再び出会ったことがきっかけで、それをベースに自分自身のクラバートの執筆を始めました。 物語は明るく楽しいとは全く無縁で、どちらかといえば重苦しさがたちこめ、復活祭・精霊降臨祭・クリスマス等、キリスト教の行事も絡めたりで神聖な雰囲気さえも出ています。 以前初めて読んだ頃、おめでたい私は、じっと息を潜めているとなぜか自分が、少女の唄う透き通った歌声に耳をそばだてているクラバートになりきれてしまいました。 使われる魔法もごく古典的なものばかりで古いおとぎ話のような感じがして好感が持てます。 またこの本の魅力はクラバートの心理描写にもあります。 彼のやりきれなさ、切なさ、恋する気持ちのどれもが希望へと繋がって自由を得られるのです。 「一人の若者が、当初はただの好奇心から、そして後にこの道を選べば楽な結構な生活が確保できるという期待から、邪悪な権力と関係を結びその中に巻き込まれるが、結局自分自身の意志の力と一人の誠実な友の助力と一人の娘の最後の犠牲をも覚悟した愛とによって落とし穴から自分を救うことに成功するという物語です」 訳者 中村浩三 氏の後書きより さて、このKrabat、チェコのアニメーション作家カレル・ゼマンによって映画化されたのはご存じですか? チェコアニメってレベルが高くて評判がいいんですよね。 そんなわけで今年中1になった息子にクリスマスプレゼントとして贈ろうかなとDVDをオーダーしたのが今回のアップのきっかけです。 あぁ、あんた達は相変わらず何て幼いんだって?! いいんですよぉ、将来ラウジッツ地方を訪れることでもあったら思い出してくれれば。 |
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「魂だけ抜ける術、注射の時に使いたい」 by海南