でろ一号

若葉萌え輝く光さわぐ枝 消えし親鳥柿の葉の奥

子育てかミミズをくわえて舞い上がる 畝(うね)りし土は雀の飼場

椋鳥(むくどり)か湯気立つ土に群がりて 起こせし畑しばしの宴

綿の中溶けるが如く吸い込まれ 根を通り過ぎ消える雨水

立ち枯れし家庭菜園雑草(くさ)繁く 一足毎に熱き土舞う

夏草を食べるが如く芋の蔓(つる) 畦を覆いて膝より深く

茜さす薄暮(はくぼ)の空を鷺(さぎ)一羽 鍬を洗いて我も帰らん

てらてらと燃えてなお増すピーマンの 彼岸間近にその色深し

コオロギも驚いたかや我もまた 鍬の手休めしばし佇む

盆過ぎて秋をしらせしコオロギや 日照り続きかその声淋し


でろ二号

彼岸花さわるでないと言われしは 畦に隠した飢饉の備え

名月にそえし草花摘み行けど 日照り続きか穂のない芒(すすき)

彼岸過ぎ滲みいる雨にうちふるえ 肩を寄せ合うキャベツの苗

畦に咲く氷雨に濡れしニラの花 思いし山よ薄雪草(うすゆきそう)よ

さわさわと葉は柔らかく根はあふれ 早くでたいかポットの苗は

幾百の咲く花白き豌豆(えんど)まめ 誰を待つのか蝶に似せて

豌豆(エメラルド)まめ湿りて弾(はじ)けころころと 笊にあふれし初夏の匂い

畦で聴く雲雀(ひばり)小綬鶏鴬(こじゅけいうぐいす)と のどかな昔牛馬(うしうま)いれば

巣があるか雲雀(ひばり)は高くちりちりと 我を見て鳴く頭の上で

梅雨の前群(む)れて芽吹いた青じその 伸びる勢(はや)さよ雑草(くさ)もかなわじ


でろ三号

霧煙る瓜の垣根に寄り添いて 何を話すか梅雨の雉鳩(きじばと)

瓜はここ茄子(なすび)はあちらトマト そこ決めるも愉(たの)し五月の空で

手間いらず虫もつかなく玉葱は 玉見てわかる肥(こえ)の種類が

根を見れば不思議なものよ葱だけは 上へ上へとなぜか伸びゆく

咲くオクラ色は違えどよく似たり いつか見た花南の島で

もいですぐ甘汁滲むもろこしの 茹でてなお増す黄金(こがね)の艶(つや)よ

穫りたてを食べる玉葱うまきこと 誰れぞ知るらむ大きな玉を

花の後土(あとつち)に届いたその先で なぜか隠れる落花生の実

霜に焼け凍る土にも冬野菜 春待つ思い人と同じか

葉も朽ちて色の変わりし大根に 種(たね)とる花かひときわ高く


でろ四号

瓜ふたつ物のたとえに言われしか 今朝も鈴成り胡瓜の垣根

ころころと朝陽を映しゆれ戯(あそ)ぶ 夕べの雨か里芋の葉に

搖ら揺らと背伸びしながら巻きつかん 目が見えるのか瓜の蔓(つる)ひげ

腰もぐり胸までいくか牛蒡根よ 掘る穴深く山芋に似て

鵯(ひよどり)め冬はキャベツ夏トマト 憎しその声食べる姿も

土起こし流れる汗もそのままに 鍬振る豆かビール持つ手に

嵐過ぎ倒れたままでなおも咲く 疲れ知らぬかピーマンだけは

キャベツ苗いくつ植えたか数えつつ 上衣(うわぎ)羽織れば百舌(もず)の高鳴き

ビールにはやはりこの味穫ってすぐ 茹でし枝豆梅雨あけ間近

いつ渡る群れて騒がし椋鳥(むく)よ 思いは遠く南の島か


でろ五号

箱根山熱き陽差しが峰越せば いられぬ畑今日も真夏日

冬さなか何より嬉し太陽と 土と戯れ日がな一日

漬物にこれは煮ものかこれおでん 店で迷いし大根の種(たね)

穂を摘(つま)み呟く翁(おきな)首傾ぐ 雀(すずめ)が来ない黄金(こがね)の稲田

雨の中重き鍬持ち土寄せば 蛙(かわづ)騒がし嵐の前に

古(いにしえ)の遺跡ありおりこの近く 壊れし土器か牛蒡根掘れば

永年(な が)きこと土に触れしか煤(くす)み荒れ 芽を摘む翁(おきな)その指太く

キャベツ苗庭先並べ水やれば 通行人(ひと)は問い行く何の花かと

気ずかずにそのまま食べしもろこしの 実を喰う虫も消毒(くすり)なきこそ

我は識る消毒(くすり)の中味その強さ 生活(くらし)の手段(ため)か農家の苦悩(なげき)


でろ六号

一粒が増えしその姿(さま)馬鈴(すず)の如(ごと) 日照りも嬉し落花生には

秋の夜買いし種(たね)説明(みて)蒔(ま)く思案 テレビは報(し)らす初雪紅葉(もみじ)

吹き荒(すさ)び鍬持つ手にも突風(かぜ)凍(いた)く 背を向け回想(おもう)辛(つら)き冬山

うだる夏起こせし雑草(くさ)を積み上げば 去年(こぞ)の落ち根か生姜(しょうが)の香ほり

秋の陽と風に誘われ野辺ゆかば 香ほる木犀(もくせい)萩(はぎ)栗(くり)あけび

葉に隠れ侵入者(だれ)を刺すのか茄子の蔕(へた) 丸い身体に鋭き棘(とげ)で

アブラムシ(むし)の気孔(いき)毒は使わず牛乳(ち)で詰らせる(退治) 高価(たか)くつきしか無農薬(あんしん)野菜

落花生(まめ)抜けば飛び出す畑鼠(ねずみ)目の前へ 鷹(たか)も鳶(とんび)も狙うは獲物(これ)か

蕪(かぶ)の種(たね)細かきことよ砂に似て こぼれて消えしつまむ指より

枝豆(まめ)の種(たね)蒔(ま)けば鳴き声柿の木で 烏(からす)見ており土をかけ足す


でろ七号

見遥(みはる)かす五月の田方平野(のべ)に人影(かげ)は無く 鳶(とんび)が輪を描き狩野川(かわ)を遡(たど)らん

リハビリの辛さも忘れ笑顔充(み)つ 桜吹雪が機能回復室(へや)に散り敷き

今日もまたすすむ護岸工事(こうじ)にケンケンと 気(け)高く哀れ雉(きじ)は鳴きおり

温泉(おゆ)の街浴衣(ゆかた)姿に肩並べ そぞろ歩くは松葉杖(つえ)がとれしか

狩野川(かわ)沿いに今日も松葉杖(つえ)突き彷徨(さま)えば 遠く雉(きじ)鳴く岸辺の観音竹(しげみ)

手術疵(きず)も癒え松葉(つえ)杖突(つ)き歩き彷徨(さまよ)えば 目に付く畑気になる家庭菜園(はたけ)

リハビリの辛さこらえて登る源氏山(やま) 鍬とは違う松葉杖(つえ)握る豆

狩野川(かわ)の河川敷(なか)地元の人(だれ)野菜を栽培(つくり)しか 太き孟宗竹(たけのこ)あまた突き抜く

お花見で医師も付添い仰臥患者(ふすひと)ぞ 笑顔見せしも今は空室(あき)おり

轟轟(ごうごう)と迸(はし)る激流(ながれ)よ甲斐の渓(たに) いで湯は効能書(うたう)疵(きず)骨(ほね)火傷(やけど)


でろ八号

湯治宿(とうじやど)狭き玄関(いりぐち)軒連らね また会えしかと常連客逹(きゃく)は訛(なま)りて

重きザック(荷)と共に通いしこの路線 松葉杖(つえ)を抱えて追憶車(たどる)窓(けしき)よ

幾年(いくとせ)の永きを重ね泡沫(うたかた)の 山のいで湯に垣間見(うつ)る人生模様(ひとかげ)

山峡のいで湯の宿は賑わいて 乙女もかしこ暮ゆる混浴(まざりゆ)

痛(や)む患部(ところ)こうして温泉(おゆ)に打たせしと 常連客(きゃく)は勧める我の疵みて

杣人(そまびと)は繁く通いしこの温泉(おゆ)に 生業(しごと)厳しか長逗留

遥けくも遠い昔に乱世の 疵を癒やしか甲斐の信玄(あるじ)も

旅の空弥生の霞たなびいて 一望鮮花しだれの桜

とうじばの響きも嬉し秘湯の湯 翁(おきな)媼(おうな)が手とり散歩(あるい)て

混浴(ゆ)で笑う果樹栽培(のうか)の嫁さん(ひと)のおおらかさ 此度(こたび)の休暇(ひま)は少し長しと


でろ九号

かろけくも物見遊山の気楽さよ 旅にしあらば雨の風情(ふぜい)も

願わくば輪廻(りんね)転生常ならむ 時代(とき)は巡れど湯の香変らじ

朝ぼらけ乾かぬタオル下げ行けば 湯殿は溢れる姦(かしま)し声に

暮れなずむ山の畑を香ぐわしき 煙這い下り朽葉(くちば)を燃せば

蝶の舞う畑長閑(のどか)に映れども つぶす青虫心は痛く

凍る夜(よ)も農薬(くすり)も効かず打つ手なし 翁(おきな)は嘆く粉蛾(こなが)にくしと

彼(か)の海の黄金も眩し茅(かや)越しに 頬張るむすび畦の陽だまり

老い深く荒れる畑見回りて 媼(おうな)は嘆く草もすさまじ

黄昏(たそがれ)る川面は朱(あけ)の富士写し 淀みに遠く鴨が戯れ

紅(くれない)も朱(あけ)も黄金も緋(ひ)も染めて 初日は照らす富士の高みを


でろ十号

冬枯れの野づらを行けばそこかしこ 野兎(うさぎ)戯る足跡乱れ

春を呼ぶめじろ生け垣飛び伝い 餌(えさ)台覗き今年もきたと

風もなく雲なく霧も霞なく ただただ清(すが)し初日穏やか

初春に輝く空の雲疾(はや)く 巡る歳月翔(か)けるが如し

新たまの岳(たけ)を黄金に染め出づる 初陽は清(すが)し去年(こぞ)の霧なく

老木の黒き幹より芽吹きたる 桜(はな)は残れり昨夜(よべ)の嵐に

つゆにぬれ色も鮮やか明暁(みょうぎょう)に トマトは熟れぬ梅雨明けまぢか

妻ときて辿る峠路天城越え 緑みどりに遠き日霞む

真夏日の天城峠は風みどり 夢にも思わじプロが歌声

野づらなる里は黄金の海なるか 畦にゆれ咲く秋桜(コスモス)一叢(ひとつ)


でろ十一号

遠き日の馬力にゆられ手折(たお)りしや 雑草(くさ)むす畦に咲く野萓草(のかんぞう)

いくつもの名作残せし遂道(ずいどう)よ ゆえに人訪うイベントあらば

いくたびかよける車に砂ぼこり 絶えて久しき廃道静か

ザンザンと迸(はし)る本(ほん)たに君何処(いずこ) 共に手をとり水汲みし日よ


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