氷華 《3》
こうしてまりあちゃんを迎えに行くのは、僕の最後の罪滅ぼしかもしれない。
彼女から拓麻くんを奪い取ったあの男に、僕は情報を得る為に金を渡し、取引をした。
それが結果的にどうこうした訳じゃないが、あの時の自分の感情が今も許せない気がしてならない。
横柄で、わがままで、高慢で・・自分の事しか見えなくて・・。
でも、今の自分も好きとはいえないか・・。
楽になりたくて、医者とは思えない道を進んでいるんだから・・。
でも、楽になるのは迷いがなくなったその気持ちだけ。
待っているのは、やはり地獄なのか・・。
考えるのは止めにしたのに、時々頭がゆっくりと逆回転をし始める。
それはまだ生きてる証か・・生きる事への最後のあがきか・・。
そんな時は理得の笑顔を思い浮かべる。
すべてを受け入れる理得の笑顔。
僕も受け入れて欲しい。
その為に選んだ道だ。
それが本心だけど、彼女の笑顔は僕を浄化こそするが、満たしはしない。
満たされるのは1人だけ。
それは愛で結ばれた者。
僕ではない・・。
母が僕を置き去りにしたのは、愛を分けられなかったから。
それと同じ。
残された者は敗者となって、彷徨う。
僕は敗者になって彷徨うのが分かっているのに、自らその道を行こうとしている。
馬鹿な男だ。
でも・・生きて理得のいない世界を彷徨うより、愛していない妹と家族を創るより、その道が一番僕に相応しい気がするんだ。
とにかく同じ場所に、同じ条件の場所に、僕もいたい。
ふふ・・これじゃあ、あの時とかわらないじゃないか・・。
横柄で、わがままで、高慢で・・自分の事しか見えなくて・・。
やっぱり僕は僕のまま。
僕は結局、自分を許せないまま、死んでいくしかないのか・・。
雑然とした思考は止まることがなく、僕のぼんやりとした頭の中を好きなように飛び回る。
自分勝手な虫たちがここぞとばかりに言いたい放題だ。
でも実はそれを悠然と高見の見物をしてるもう1人の僕がいるのを僕は最近知ってしまった。
それはもう全てを見限った僕。
彼は今の陰の僕の支配者。
彼は密かに理得を狙っている。
死んで手に入れられないなら、生きている今、誰にも手を出されない今、理得をこの手に、この腕に、この身体に、全て満たされるまで何度でもかき抱き、貪ってしまいたと思っている彼。
その彼は理得のお腹の新しい命や、理得の命さえも気にしていない。
自分の愛欲だけしか考えていない。
悪魔のような奴。
それが僕の中にいる。
天使の羽をもぎ取って、地の底へ道連れにしよう・・・そう囁く声が聞こえる。
めちゃくちゃにした理得をあいつの前に差し出して、2人を苦しませてやりたい。
苦しむ姿を見て、冷ややかに微笑むんだ・・愛なんて、くそ食らえだ・・。
そんな事を考えている彼、・・それも僕なんだ・・。