秋夜 《4》
眠らなくても疲れる事のない体になって、こうして君の側にいられるのは神の加護なのか?それとも罰か?
自分の代わりに君がライタ−や写真に話しかける姿を見るのは、嬉しくもあり悲しくもある。
実体がないだけで、心はあるのに、それが漠然としか通じない。
ただ静かに見守るだけの生活・・それが常・・。
生きていたとき、君のことが気になって、自分の気持ちが走り出すが怖くて、自分で自分を持て余した。
愛はお腹いっぱいしてくれることもない、明日を生きていく上で必要なものでもない、第一それは家族にだけ向けるものだと思っていた。
その俺が唯一愛した他人(ひと)。
君は俺にとってガラス細工の宝物だった。
まばゆく光り、見ているだけで幸せな気分にさせてくれた。
君だけは壊さずに、そっと飾っておきたかったのに、俺の手で粉々に砕いてしまった・・。
俺は君の人生の中で必要じゃなかった・・。
俺が全てを狂わせてしまった。
俺が・・・。
時々こうして自己嫌悪にさらされると、胸が張り裂けそうに痛くなる。
君が思うより俺は君に何もしてあげられなかった。
今も月明かりの中、安らかに眠る君に添い寝して、髪を撫でる。
お腹が重くて横にしか向けない君を後ろから抱え込み、ふくよかなお腹に手をあてると命の音が聞こえる。
この命が俺の出来なかった幸せを理得に与えている。
俺が半分分け与えた命。
君と過ごしたただ一度の夜、唇を重ねながら、俺の迷いは理性を抑え続けた。
俺は犯罪者で、工作員で、育った環境も、何もかもが違うんだ・・。
理得・・濡れたような瞳で俺を見るな・・。
愛していると言わせないでくれ。
理得・・。
それでも君は俺の迷いを溶いた。
「あなたは同じ人間よ」
君の温もりがそう言って俺を包んだから・・。
一枚一枚服を脱がせる度、俺の手は震えた。
ネオンの明かりに浮かびあげる白い肌に触れたとき、ビクッと身体を硬直させ、目を閉じたね。
押さえ続けた分、君が欲しくて、何度も何度も君を求めた。
あの時に宿った命が目の前にあると、どうしてもあの日を思い出す。
俺が唯一国も、任務も、家族さえも忘れた日。
君を抱いた感触は今も忘れない。
今、君に直接会えるとしたら、夢の中だけだ。
でも夢の中に現れると、君は喜ぶが所詮は夢、消えてしまう時の事を思うとあまりそう現れる訳にもいかない、それにもう伝えるべき事は全て伝えた。
後は君との密約を守るだけ・・。
あの日君に告げたことがいいことだったのか、悪いことだったのか、今も分からない。
ただ、夢の中でかき抱いた君の身体が愛しくて、重ねた唇が暖かくて、思わず意識を飛ばしてしまった。
それと入れ替わりで君の想いが聞こえてあわてて消えたのだが、きっと君は驚いただろう、瞬間そんな瞳をした。
それでも消えてしまった自分を探す君。
愛しいのは一緒なのに、ままならない空間がそこにある。
その空間を同じに生きる男、須藤龍。
彼は、同じように君を愛する者。
常に君の側にいて君を守る者、そして今の君にもっとも必要な者。
それは分かっているが、床に座って、片膝を立て、部屋の隅でその姿を見るに付け、目を瞑りたくなるのは事実。
手に取るように彼の気持ちが分かるのが辛いのか、彼が君の身体に触れるのが辛いのか・・きっと両方だろう・・。
どうして彼なんだ・・。
全ては繋がっているのか?
俺には分からない、分かりたくもない。
全てを巻き込んで動き出した歯車はもう誰にも止められない。