第2章へ

イノ・クレセント「大いなる大地と意思」より─

人は皆、大いなる流れの中で小さな存在として生きている。
はたしてそこに意味があるのかどうかはわからない・・・が、
そこにきっと意味があるのだと信じよう。

─だから、今を生きる者に捧げる。



 1章─鼓動 

      ─  記憶


 …キ……ン。
コンクリートの床に響く乾いた金属音。
コミューンは暗闇の中、コンテナにもたれかかると、静かに溜息をついた。
「…こんな割に合わない仕事、引き受けるんじゃなかったな。」
愚痴をこぼしながら拳銃に弾を込めると、素早い抜き足で
正面のコンテナ脇へと移動する。
つい先刻まで、もたれかかっていたコンテナの裏で、
数人の足音が聞こえる。
空薬莢の金属音だけで、そこまで場所が知られている。
コミューンとしても、好ましくない状況だった。
足音…感じられる気配から察するに、コミューンの近くまで寄ってきた敵は3人。
判断と行動は、順を追うもの。
そういった理論を無視して、コミューンは拳銃を構える。
ガ、ガシュ、ガシュッ…
拳銃をオートマチックに切り替えての3連射。
消音加工を施した拳銃は、極力単発で撃つのが好ましいのだが、
相手が3人とあっては、オートマチックで撃った方が確実だ。
 急所を撃ち抜かれた骸が3つ、コンクリートの床に倒れ伏す。
キン……キキ…ン。
乾いた金属音がふたたび闇に響く。
それと同時に、素早い抜き足でまた場所を変える。
 多対一の鉄則に従い、発砲した次の瞬間には移動する。
どうやら相手は暗視スコープなどの機器を使っていないらしい。
それはコミューンにとって救いだった。
闇に目が利く方であるコミューンにとって有利な条件である。
鉄則に従ったことの繰り返しで、1人、また1人と敵の数を減らしていく。

 30人ほど倒しただろうか。
辺りがしんと静まり返る。人の気配は…無い。
(しかし…静か過ぎる。まだ誰かが…いる。)
コミューンの感性がそう告げていた。
 断じて油断などしていなかった。細心の注意を払っていた。
しかしそれは、コミューンの意識しないところから飛んできた。
 パァン!!
…乾いた銃声。同時にコミューンの脇腹に激痛が走る。
被弾したようだった。致命傷に近かったのか、意識が遠くなる。
薄れゆく意識の中で、コミューンはつぶやいた。
「まだだ…まだ終われない。 …誓ったんだ。」
間もなく、コミューンの視界は暗闇になった。


      ─  始端曲


 カーテンの隙間から差し込む光が、眩しい。
コミューンは、個室の暖かなベッドの上で目を覚ました。
手に違和感を覚えて、コミューンは自分のてのひらに視線を移した。
手にはぬめった感触があった。 脂汗…
「夢・・・か。」
コミューンはつぶやき、大きくため息をついた。
昔の夢だった。そう遠くはない昔。
まだ、戦うことでしか自分を表現できなかった時代の夢。
もっとも、自己の表現力に乏しいのは今も同じなのだろうけど。
それでも、野良犬のように、飢えと共に生きていたときとは違う─
どこかぎこちなくはあるが、それでも充実している。
 AM6:00。この居住塔での巡回業務の開始まではあと1時間ある。
汗が気持ち悪いので、シャワーを浴びることにした。
 今のコミューンの仕事は、世界各地を転々とする派遣警備兵。
警備兵とは言っても、銃を抜いて戦うような場面には、まず遭遇しない。
重要設備の点検、整備などが仕事の大半を占めている。
今、コミューンが派遣されているのは、ラドミール居住区塔。
大気が汚染された下方区──大地から、その難を逃れてきた人々が住まう場所。
この居住塔は、そこそこ大きな規模のものではあるが、
周辺の下方区に住む、全ての人間までは受け入れることができない。
下方区・・・汚染大気に晒された大地から高度10000mに及ぶ支柱に支えられ、
幅、奥行き約400m四方の居住区画が2000mに及びそびえ立っている。
もっとも、その殆どは安定した空気を内部に送り込むための浄化プラントのある下方階が占めるわけだが。
居住塔に上がって来られるのは、そこそこ高い地位を持った人間に限られる。
そんな世界の現状を考えながら、
コミューンはその体を、人工の湯雨に委ねた。

 やや遅れてまた別の個室─
カーテンから差し込む光。簡素なインスタントコーヒーの香り。
上層居住区に住んでいられる限り、毎日訪れる静謐な朝。
その恵みを、リミテは存分に味わおうとする。
そのすべてに感謝の意を表す意味で、リミテは気持ちよさそうに伸びをした。
コーヒーを一口だけ飲むと、机の上に置かれた書類に目を通す。
コミューンと同じく、リミテもまたこの居住塔には仕事で来ている。
この居住区に派遣された査察官。それがリミテの仕事。
まだ若い女性ながら、査察官を任される有能な人材として地位を保っている。
大地にそびえ立つ居住塔は、ラドミール居住塔以外にも各地に多く存在し、
それらは1つのまとまった共同体を形成している。
その共同体としての波長を、それら各々が乱さないために、
各地に査察官が、定期的に派遣されるのだ。
 [住民たちの動向、市場の相場、他各資材流通の規模…]
調査すべき項目がいくつも書き込まれている。
これらをすべてこなすには、相当な気力が必要だ。
また一口、コーヒーを口に運ぶと、リミテはカップを机の上に置き、
シャワールームに入った。
 ちょうど扉を閉めるとき、リミテは違和感を覚えた。
「揺れた…?」
リミテは地震かと思ったが、揺れは来なかった。
先刻のは、扉を閉めたときの振動だったのだろう。
そう思いながら、リミテはシャワーのコックをひねった。
……水が出ない。
リミテの中で、先刻の違和感が確信に近いものに変わった。
シャワールームから出ると、急いで制服を着る。
制服を着終えるとほぼ同時に、先程感じた揺れがまたやってきた。
コーヒーカップがカタカタと音を立て、揺れはだんだんと大きくなっていった。
 ガシャァン!!
机からコーヒーカップが落ちる。
その音から数秒遅れて、リミテは急いで部屋を後にした。

 コミューンもまた、その揺れを感じていた。
一定の規則で落ちる湯雨が、その方向を微妙に変える。
湯雨の震えを感じ取る。
上向きに、目を閉じて浴びていた湯雨から顔をそらすと、
流れ落ちる湯雨を止め、ローブを羽織って部屋の窓際に立った。
「この揺れは向こう側からか…。」
向こう側…そう、ラドミール居住区塔はツインタワーの構成になっている。
コミューンのいる側の塔は西塔、向こう側は東塔となる。
コミューンはその光景をまじまじと、
内心では信じられないといった面持ちで見つめていた。
下界の汚れた空気が層となり、雲のようにかすみがかったその辺りに、
東塔が10〜20度ほど傾き、沈みかけている。
その傾きは、瞬間的にではないが確実に大きくなっていく。
窓越しでも聞こえる、金切り音にも似た鉄骨の悲鳴。
今からでは、誰かがどうこうできるものではない。
そう知ってか知らずか、コミューンは凝視し続けた。
そしてその傾きが臨界に達すると、
聞くに堪えない大きな鉄骨の悲鳴と共に、居住区塔の片割れは倒壊した。


      ─  声


 AM7:20、派遣警備兵100余名が、西塔居住スペースでは最下の
5階に位置する講堂に集められていた。その理由は改めて誰かが問う必要もなく、
1時間前に起こった悪夢、ラドミール居住区東塔の崩壊である。
悪夢とは言ってみても、コミューンの心情は未だに夢から脱せずにいた。
その10歩余り前の壇上で警備主任が、
事の概要と、これからの行動についての説明を行っていた。
あまり要領の良くない説明だ。要点と自分の意見が入り混じり、焦りばかりを誘う。
そんな説明を30分ほど聞くと、ようやく解散命令が出た。
コミューンをはじめ、警備兵たちは各自の部屋に戻り、必要装備を整え始めた。
事の概要は、こうだ─
AM6:13、居住区東塔で何かの爆発と思われる振動パターンを検出。
爆発が起こったと思われる場所は、東塔3階部分の機関室。
この爆発により南側の支柱が損傷し、塔全体のバランスが崩れ、
居住区東塔の上側から3/4ほどが断裂、落下。
落下した上側部分に下側部分が引き込まれる形で、AM6:15、居住区東塔は完全に倒壊。
この爆発予測点の調査、支柱を押しつぶす形で崩壊した
居住区下層部分における生存者の有無の確認を、
派遣警備兵のうち、登録番号の若い方から80名に任務として与える。
AM8:20、居住区西塔の1階、中央浄化区画に集合、状況開始とする。

 ─つまり、下方区に降りる。
そこは汚染大気の充満する不毛の地。上層区で暮らす者たちにとっては、
なるべく ─いや、なんとしても避けたいことだ。
浄化されないままの汚染大気を吸い込めば、免疫の弱い者ならば何に感染し、
何が発病するとも知れない。
生存者がいたとしても、下方区の環境に長く晒されれば、その時間だけ危険な状態となる。
ガスマスク、防護用ゴーグルは必須の装備として全員が準備した。
本当に爆発があったのだとすれば、爆発物が存在して、それがまだ残っているかもしれない。
爆発物が存在したのならば、それを仕掛けた者がいるかもしれない。
コミューンはそんな考えを巡らせ、警備用の携行小型拳銃をサックに入れると、
スーツケースから禍々しいフォルムの大型拳銃を取り出した。
ラタリナ・2985年モデル。グリップは手にフィットし、握りやすい。
しかし、そこから30cmほど伸びた銃身、フレーム。
それは、護身用と呼ぶには程遠い代物。
俗にLM85という略称で呼ばれている大口径拳銃。
LM85を腰のホルスターに収め、予備の弾倉をポーチにしまうと、
コミューンは部屋を出て1階・浄化区画に向かった。

AM8:10、既に1階浄化区画には60余名の警備兵が集まっていた。
当然のことであるが、皆、気乗りしない様子で時を待っている。
コミューンも当然気乗りなどはしないのだが、
あれで人が生きているかもしれないというのだから、仕方ない。
 ─しかし、ここは酷い匂いだ。妙な薬品類の匂い、下方区の大気の匂い、機械油の匂い・・・
どうやら、下方区に降りる前にマスクとゴーグルをしておいた方がよさそうだ。
コミューンは、皆より一寸早くマスクとゴーグルを装着した。
そして、酷い匂いの余韻を思い返す暇も無く、時はやってきた。

─行動開始。

3つの密閉扉をくぐると、そこは鉄骨むき出しの作業用通路だった。
通路の先にあったらせん階段を下りきると、目の前に巨大な支柱が現れ、
その支柱には、下へと通じるはしごが取り付けられていた。
底が見えない。汚染大気で霞んでいる。
─いや、むしろ取り払われない雲とでも言うべきか。
確認するまでもなく、ここを使って降りるのだろう。
下を見た途端、警備兵たちの表情が一寸硬直した。
そんな中、コミューンはいち早くはしごに手を伸ばし、下方区へと降り始めた。
その姿につられ、他の警備兵たちもコミューンに続く。
そんなコミューンの姿は、さぞや勇ましく映ったことだろう。
(人が生きているなら、その命をなんとしても助けたい。)
その一心で、ためらわずに下方区へと降りることができるのだと。
救助の意思ももちろんあったが、コミューンをためらいなく動かしたのは、
そんなことではない。
警備兵たちがためらったのは、不慣れな光景を目の当たりにしてのこと。
コミューンはただ、その逆だった─
「8年ぶり─ か。」
コミューンははしごを降りながらつぶやいた。

硝煙の匂い、草原を吹き抜ける風の匂い、無垢でちっぽけな笑顔、
岩に波の打ちつける音─
「───っ!!」
─夢。 しかも、唐突な白昼夢。
危うく離しかけるところだったはしごを持ち直すと、またはしごを降り始めた。
雲のようによどんでいた層を抜けると、下方が割と確認できる状態になった。
とは言っても、まだはしごの終端まで500m以上はある。
自由落下したら間違いなく死ぬ高さだ。急がず、迅速に降りていく。
 ようやくはしごの終端に到達し、コミューンたちは
泥状になり、ぬかるんだ地面に降り立った。
ほぼ全ての警備兵たちにとって、地上の土を踏みしめるのは初めての経験である。
その全員が降り立つ前に、コミューンは周囲を見渡した。
肉眼でやっと確認できるギリギリのところに、
倒壊した居住区東塔の残骸らしきものが確認できた。
それ以外には、特に目に付くようなものは無い。
そこには、コミューンが8年前まで見ていたものと、ほぼ変わらぬ光景が広がっていた。
黒と青と茶の混じった土、青のないそら、撫でるだけの微風。
そう、何も変わらない。そんな情景に浸っているときだった。
「おまえ・・・の・・ ?」
─!?  コミューンは振り向いた。
「何か、言ったか?」
コミューンは、一番近くにいた警備兵に問いかけたが、警備兵は首を横に振った。
コミューンは慌てて辺りを見回すが、目のあった警備兵は一様に首を振る。
「声が・・・」
声が、聞こえた─ 耳鳴りではなく、誰かの声だ。
何かを問いかけているようにも聞こえた。
先刻の白昼夢の続きだろうか? 地上の環境はそれほど影響が強いのか。
─いけない、気持ちがすっきりしなくなってきた。
コミューンは自分の頬を数回はたき、気持ちを整えた。

 間もなく全員が地上に降り立ち、行動の打ち合わせを行った。
10名を西塔前に待機させ、10名が機関室の割り出し、捜索。
残り60名は、倒壊した建物の全体捜索・救助活動を行う。
小隊編成で動くと、建物全体の把握に時間がかかるため、
一人一人が単独で捜索を行い、救援要請などの連絡は、簡易電波拠点を設置し、
必要時に行うということで決定された。
80名という少人数でこの捜索を行うのなら、妥当なところだろう。
コミューンも納得し、救助活動の編成に加わることとなった。
お互い確認を行い、70名の警備兵は、倒壊した建物に向かって行った。


      ─  CGW


 建物の中に入っても互いに連絡が取れるよう、簡易電波拠点を設置・起動し、
コミューンたちは各々散らばり、内部への侵入口を探した。
崩れた塔の外壁が何箇所も隙間を作っていたが、ライトで中を照らすと行き止まりで、
なかなか内部へと通じるまでの穴には至らない。
声を出しているとも知れない生存者の返答を待つが、特に何も返ってこない。
これだけの高さからの倒壊での生存は絶望的とも思われる。
入り口を探すことだけでも一苦労である。
コミューンは、動かせそうな瓦礫を見つけてはどけ、入り口が無いかどうか確認して回った。
10分ほど作業をしたところで、コミューンは足元に穴があるのを発見した。
縦に長い穴で、ライトで照らしても底が見えない。
人間も容易に入りこめそうな大きさだが、人間が通るには少し深すぎる穴・・・
その穴から降りる方法を模索していると、コミューンの通信機が鳴った。
「こちら建物1時方向付近。人が通れる程度の侵入口を発見。繰り返す・・・」
どうやら、より確実な入り口が見つかったようだ。
コミューンも見つけた穴の情報を他の警備兵たちに伝えて任せ、
とりあえず自分は、確実な方の入り口に回ることにした。

 ─なるほど、確かに人が通れるだけの余裕がある穴・・・というよりも、
通路に近い侵入口が見られた。入り口部分には警備兵が1人、位置確認のために
待機していた。その兵に、自分も入ることを告げると、
コミューンは奥へと進んだ。
30mほど進んだところで、明らかに元の形と角度を保ったままの壁と、
割れたガラス製の窓を発見した。
ガラス窓の下には、発光塗料の光がぼんやりと見える。
先の警備兵は、割れた窓から奥へと進んだと考えて間違いあるまい。
コミューンは、怪我をしないようにガラスを掃い、さらに奥へと進んだ。
内部は、コミューンのいた階と同じ、小さな居住用個室が並んでいる構造だった。
これならあるいは、極めて可能性が低くとも、生存者を確認できるかもしれない。
しかし、そんな期待はすぐに裏切られた。
個室の扉に、発光塗料で描かれた「×」印。
チェック済み。目標物を発見できず。 などのサインだ。
よく見ると、見える範囲の扉にはすべて描かれている。
念のため、1つ目の部屋を覗く。
─かろうじて人の容を保った骸が、部屋の隅で横たわっていた。
男性か女性か・・・それすらも確認できない。
表情のないその顔の前には、火のついたタバコが置かれていた。
先の警備兵が手短に弔ったのだろう。
コミューンも、目を閉じてほんの少しの黙祷をすると、さらに奥へと進んだ。
突き当たったところを右に曲がると、エレベーター不調時用の階段がそのまま残っていた。
上は瓦礫に埋もれている。下に向かうしか無さそうだ。
コミューンは足元を軽く小突いて、崩落の危険が無いことを確かめると、
階段をゆっくりと降りていった。
1つ下の階は、外側の瓦礫が壁を突き破って内部を埋めていた。
コミューンはこの階の捜索をあきらめ、また1つ下の階へと降りた。
降り立った階は、最初に通ってきた階とは違う構造になっており、
さらに下の階へ行くための階段は、瓦礫で埋まっていた。
となると、とりあえずはこの階の捜索で行ける範囲が一段落ということになる。
居住区西塔における、物資を保管するための倉庫が並んでいる階と同じ構造だ。
コミューンは、西塔の部屋配置を思い出しながら進んだ。
西塔と東塔の作りがまったく同じであるなら、この階は6階。
コミューン自身、資材を運ばされることは時々あったので覚えている。
頑丈な鉄扉の倉庫で、資材を持ちながら扉を開けることが非常に難しかった。
そんな鉄扉が、開かない状態になっていたら・・・コミューンの予感は的中した。
先に入っていた警備兵が、軸がずれて開かなくなった鉄扉を、
鉄骨の切れ端で必死にこじ開けようとしていた。
「ちょうどいい、手伝ってくれ。」
コミューンの予想していた通りの言葉が投げかけられた。
コミューンは一寸考えると、鉄扉の前から退くように言い、
鉄扉を固定している蝶番をじっくりと観察した。
「・・・こいつを取り外せばドアは開きそうだな。」
コミューンがそう言うと、その警備兵は意外とばかりに言い返した。
「取り外すって、蝶番は向こう側から、しかもドアが開いてないと無理だろう?」
その警備兵の言い分はもっともだった。 ─普通なら。
コミューンは、こういった事態を想定して、プラスチック爆弾をサックに入れていた。
コミューンがプラスチック爆弾と発雷管を取り出すと、その警備兵も納得した。
「・・・ここが崩れない程度に加減してくれよ。」
マスクの裏に苦笑いを浮かべながら、そうコミューンに言い放つ。
コミューンは鼻で笑うと、蝶番の取り付けられているあたりの壁に
プラスチック爆弾を設置し、発雷管を挿した。
準備ができたら、通信機を通して、爆破予告を全員に送信する。
そして、その警備兵と一緒に、40mほど離れたところで瓦礫の影に身を隠し、
レーザーポインタを取り出すと、そこから発せられる赤い光線を発雷管にあてた。
 ─ズガァ・・・ン!!
程よく加減された爆音が建物内に響きわたる。
とはいっても、一度崩壊している建物だ。爆破作業はこれっきりにしたい。
コミューンもその警備兵も、そう思った。
鉄扉は、一見すると変わらずそこにあったが、付け根の部分が爆発によってゆがんでいる。
コミューンは扉の下部を強く蹴ると、一歩退いた。
すると鉄扉は、本来あるべき場所から外れ、大きく傾いて静止した。
傾いた扉を2人がかりで撤去する。扉は思った以上に、簡単に外れた。
さっそく倉庫の中へ足を踏み入れると、そこには倒れた棚や、割れた薬品のビンが散乱していた。
マスクを取れば、おそらく激臭が鼻を刺すだろう。
ビンのラベルを見ていったところ、消毒薬から外傷治療薬、中には劇薬まである。
汚染大気よりもむしろ、こういったものを心配して完全防備で固めたとも言える。
この倉庫の中で人が生存しているとは思えないが、
それでも部屋をライトで照らしながら、コミューンたちは進んだ。
ガラス片の踏み潰される音が、コミューンたちの足元で響く。
破壊された水道管から流れ出る水の音も、一定の間隔で鳴り響く。
他に音はしない、静寂の部屋。
コミューンは5年前にも、同じような状況を経験している。
フリーの万事請負業務をこなしていた頃に経験した、暗闇の中での戦闘。
この空間に敵はいないし、それどころか味方がいる。
しかし、それでもコミューンは、そのときに似た緊張感を覚えていた。
 ─ガシャアン!!
コミューンたちは即座に音のした方に振り向いた。
振り向いたその先には、別の倉庫へと通じる鉄扉があった。
場所的な条件を考えると、薬ビンが大量に落ちて一斉に割れた音だろう。
棚の倒れるような音はしなかった。
・・・だとすれば、大量のビンが同時に割れるのは妙だ。
2人は互いの顔を一寸だけ見合わせると、同時に頷いた。
コミューンは鉄扉の取っ手に手をかけると、言った。
「生存者だと、いいがな。」
すると、相手の警備兵は言葉を返した。
「人間以外に何がいるってんだ・・・?」
コミューンは何も言葉を返さず、ゆっくりと扉を開けた。
中はやはり、こちら側の倉庫と同じ暗闇。
中の様子は伺えない。とりあえずライトで部屋全体の様子を見よう。
そう思い、コミューンは警備兵からライトを受け取った。
そのライトで中を照らして確認しようとしたそのときだった。
 ─カサカサッ・・・
「 ───っ!!」
2人はまた顔を見合わせた。
部屋の左端 ─ 明らかに人間のたてるような音ではない。
コミューンはポーチからフラッシュグレネードを取り出し、着火ピンを抜くと、
音のした方とは逆・・・部屋の右側に投げ込んだ。
 カーン、カラーン、カン・・・
乾いた金属音が響いた数秒後に、グレネードが炸裂し、すさまじい光を発し始める。
これによって、部屋の左側がまるごと照らし出される形となる。
そして、先ほどの物音の主が光の中に映し出される・・・
奥にあった階段から飛び降りる大きな爬虫類の姿。その体長、2m弱。
「ビーストリザード・・・!!」
コミューンの口から、相手の警備兵には覚えのない名称がこぼれた。
「肉食の凶暴なやつだ。下がって扉を閉めていろ!」
警備兵が問う前に、コミューンの手で後ろに追いやられる。
「─しかし!」
警備兵は前に出ようとするが、コミューンの力が思いのほか強く、押し戻される。
「─心配するな、俺はCGWだ。」
そう言うと、コミューンは自分から扉を閉めた。
重く響く鉄の音。扉の前では、顔の引きつった警備兵が呆然と立っていた。
コミューンの発言には、その警備兵の顔を引きつらせるだけの重みがあった。
─CGW。CancerGunsWarrier(キャンサーガンズウォーリア)。
現在の世界を統べているといっても過言ではない、ライノラ帝郷区。
とある理由により、唯一地上が汚染されていない区画である。
別名キャンサー。
CGWとは、そこの直属特別戦闘員のことを言う。それ以外には存在しない。
官制区を守る、特別警備兵─特警兵よりも上の存在と言われる。
そんな人間が、何故、こんな居住区で警備兵をしている?
疑問はいくらでも沸いて出たが、答えが出ない。
そんなことをいくら考えていても仕方が無いことに気付き、
警備兵は扉の前で待つことにした。

 ─ 部屋の内部。コミューンは、部屋の中央に立って目を閉じた。
ガラスの破片のおかげで、パキパキと足音が聞こえる。
これで、おおよその位置はつかめるが、ビーストリザードはコミューンの周囲を
ぐるぐると回り、様子をうかがっている。
ビーストリザードは、とにかく瞬間的な動きが速い。
おおよそな位置だけで発砲して手負いにすれば、向こうを興奮させるだけだ。
とはいっても、コミューンの中で、既に戦略は決まっていた。
LM85を腰のホルスターから取り出し、そのグリップを左手に握る。
安全装置を解除、初弾を装填する。
 ─ジャキン!!
拳銃のスライドが戻り、機械ギロチンの音が、静かな空間に鳴る。
ヒトの領域に踏み入った獣への、死の宣告─鋼の音。
それが、火蓋となった。
それと同時に、コミューンの目が見開かれる。黄金色の、狩人の目。
─見える。 暗い空間に慣れた目は、その空間を通常に近い状態へと導き、映す。
コミューンの目は、こちらに向かって飛び掛ってくる
ビーストリザードの姿をはっきりと捉えていた。
瞬発力のあるビーストリザードの動きが、その目にはっきりと映る。
コミューンは体の軸を移動─否、回転させ、ビーストリザードの突撃を受け流す。
受け流した次の瞬間には、コミューンの体は180°反転し、
銃口はビーストリザードに向けられる。─ほんの刹那の対峙であった。
 ─ガガァン!!  2発の銃声。
弾丸は2発ともビーストリザードの背中から胸部を抉って貫通した。
ビーストリザードの断末魔が鳴り、そしてそれはすぐに止んだ。
コミューンは断末魔を確認すると、獣の骸を一瞥し、己の額に銃を当てて簡単に弔った。
ヒトに牙を向ける存在とはいえ、命は命だ。
コミューンは、せめて自分が手にかけた者ぐらいは最後に敬意を払うことを信条としていた。
コミューンの目は、先ほどとはうって変わって、穏やかなものになっていた。


      ─  生還


 ─ふと、空気が動く気配を感じた。
先ほど閉じた扉の方からではなく、自分の吐息によるものでもない。
一度研ぎ澄ました感覚が、まだ体の内では完全には収まっていない。
その感覚を頼りに、空気の動いた元の場所を特定する。
一度はしまいかけたLM85を、再びその手に握り締める。
そして、それほど時間はかからず、その場所は特定できた。
ボックスケースタイプのホストコンピュータ。
主に倉庫の入庫/出庫などの情報が記録されいる類のものだ。
これが先刻感じた空気の流れの原因ならば、このコンピュータが稼動していることになる。
コミューンは、そのコンピュータをじっくりと観察した。
そして、電源コードが切れていることに気付いた。
─いや、切れたのではなく、切られたようだ。
鋭利な刃物で切ったような跡が残っている。
不自然さが残るこの部屋。おそらく倉庫の管理室だろう。
生存者がいないと仮定しても、調べる価値はありそうだ。
コミューンが辺りをライトで照らしながら周りをよく見ると、
予備電源装置を含む、コンピュータの残骸があちらこちらに転がっている。
コミューンは電子機器に関して詳しいわけではないが、
転がっている機器類を見る限りでは、コンピュータのほぼ全ての部品だと認識できた。
この部屋には、他にコンピュータのボックスケースと見られるものは無い。
・・・となると、このボックスケースの中身はほぼ空ということになる。
中に何かいるのか・・・?
コミューンは銃を構え、ボックスケースの扉・・・蓋となる部分をゆっくりと開けた。
 ─キン。
金属同士の交響音。
コミューンの左手に握られたLM85のフレームは、
また別の金属を受け止めて静止していた。
研ぎ澄まされた、美しい流線を描く銀色の刃。
その40cmほど先に、刀身に対して垂直に、取っ手が取り付けられている。
トンファー型の剣。それを握るのもまた、美しい流線形の、色白く細い手。
金属油に汚れた白いブラウス、締め切っていないロープ・ネクタイ。
奥の奥まで透き通っていく印象でいて、鋭く突き刺し貫くような青い瞳。
金色の長い髪。
コンピュータのボックスケースに入っていたのは、人間の女性だった。
コミューンがそう認識するのに、互いの凶器が交響してから約1秒を要した。
そして、認識するのとほぼ同時に、金髪の女性はボックスケースから飛び出した。
それは滑らかに舞う華のように─
例えるなら、それが一番この場面には合うだろう。
はっきりと見える。暗闇の中、光を纏ったような髪と、瞳と、その四肢が、縫う。
緩やかに、速く、速く、速く─ 舞う。
鋼と鋼の交錯、交響。 暗闇の中で、金属音が断続的に鳴り響く。
キン、キン、キキキン、ガキン、キン、キィン─
静かな金属音。銃のような禍々しく重い音とは異質なものだ。
コミューンはそれらの攻撃を、受け止めては、払う。
どうやら、この居住塔崩壊の爆破犯だとでも勘違いしているのだろう。
コミューンは、その「舞踊」に感心しつつも、この戦闘を中断する術を考えていた。
この女性が、倒壊した居住区東塔の生存者であることは、
その装いから容易に想像できた。
こうした戦闘術を持っているということは、彼女もまた警備兵なのか─
とにかく、そんなことを考えるのは後だ。今はこの状況をどうにかする必要がある。
会話をするだけの呼吸をとる時間が欲しい。
コミューンは戦いながら考えを巡らせ、その方法を思いついた。
思いつくと同時に実行に移す。
足を交差させ、クロスステップからの跳躍、体を大きく捻り、銃を振りかざす。
 ─ドガァァン!!!!
LM85のフレーム部分を使った、縦一文字の打撃─
金髪の女性は、その衝撃をすべて剣で受け止めていた。
その体はバランスを崩したり、よろめくことは無く、衝撃の全てを受け切っていた。
剣自体も、その衝撃に耐え切り、折れることはなかった。
しかし、受け止めた衝撃は強く、長い─
その衝撃を受け切るために要した時間は、1秒余り。
コミューンにとっては、十分な時間だった。
衝撃の反動を利用して、即座に剣の間合いから飛び退く。
「救助隊だ。剣をしまえ。」
そう言いながら、コミューンが銃をホルスターに収めると、
2人の対峙はあっさりと終わった。

 女性の瞳から、先ほどのような鋭さが消え失せていた。
「─ごめんなさい。救助の人だったなんて・・・銃声も聞えたものだから・・・」
女性は、申し訳なさそうにそうつぶやいた。
「いや、いいんだ。怪我をしたわけでもない。 理由は後々訊くとするよ。」
コミューンがそう返すと、女性が表情を明るくして名乗った。
「私は─リミテ。 リミテ・ランカハード。カーディル官制区の査察官です。」
カーディル管制区といえば、ライノラ帝郷区に次ぎ全体居住区の管理業務を行っている。
するとコミューンも表情を和らげ、名乗り返す。
「俺は、コミューン・ヘイドワード。ライノラ帝郷区からの派遣警備兵だ。
 派遣中にこんなことになるとは思ってもみなかったがな。」
そこで2人とも、お互いの戦闘能力が高かったことに納得した。
2人とも、普通の居住区から見れば、かなりの高官にあたるのだ。
コミューンはリミテと会話をしながら、手帳にリミテの名前と所属、
救助箇所を記していく。
すると、リミテは思い出したようにコミューンに言った。
「あ、そうそう─もう1人女の子がいるのよ。」
小走りでボックスケースに向かうリミテ。
コミューンは、ゆっくりとその後を追った。
会話していてまずわかったことは、リミテが非常に賢い女性だということ。
振動を感じた直後に部屋を飛び出し、この倉庫に向かった。
頑丈なボックスケースに詰め込まれたコンピュータの部品を取り払い、
部屋から持ち出した毛布を敷き、自分が中に入った。
怪我らしい怪我をしていないのが不思議なくらいだが、
そうすれば少なくとも命は助かるだろう。
見かけによらぬ大胆さを持ち合わせているようだ。
 先ほどはリミテしか見えなかったが、
今度はボックスケースの中がじっくりと観察できた。
リミテから聞いたとおり、中には敷き詰められた毛布、
リミテのものと思われるジャケットをかけられた少女の姿。
どうやら、気を失っているようだ─
そして、官制区刻印入りのアタッシュケース。
少女とアタッシュケースを、ボックスケースの中から出し、
アタッシュケースをリミテに手渡す。
コミューンにとっては、救助した女性に重い荷物を持たせるのは癪だったが、
査察官としての大切な荷物だ。それを自分がいつまでも持つわけには行かない。
CGWライセンスを提示すれば、その権限剥奪も容易だが、
それでは、リミテが自室からここまで持ってきた責任感に対し、申し訳が立たない。
床に毛布を敷き、そこに少女を仰向けに寝かせる。
赤みがかったショートヘア。年の頃は15、6歳といったところだろうか。
少女の顔を見た途端、コミューンは吐き気を催した。
「─うっ・・・ぐ・・・」
床に両手を着き、コミューンが唸る。
リミテは、尋常ではないその様子に驚いているようだ。
「ね、ねぇ─? ヘイドワード・・・さん?」
心配そうに声をかけ、背中に手を当ててくれる。
─走馬灯。一瞬のうちに網膜に蘇る大多数の記憶。
脳が、それに耐えられなくなる。
コミューンはマスクとゴーグルを外し、両目を押さえた。
リミテはもはや、どうして良いかわからないといった挙動を見せている。
コミューンは息を少しずつ整えると、一言だけつぶやいた。
「ティル・・・─ 」
リミテが今のつぶやきに気付いた様子はない。
コミューンはそう確認すると、何事もなかったかのように少女の状態をチェックした。
リミテが心配そうに口を挟もうとするが、手で制する。
脈や瞳孔は正常、打ち身や骨折なども見当たらない。
あとは内臓損傷などが無ければ大丈夫だろう。
少女の体を一通りチェックすると、コミューンはリミテに問いかけた。
「この子の─名前は?」
糸を手繰り寄せるような、慎重さを感じさせるコミューンの声調。
リミテは、それを感じ取っていた。
「ごめんなさい、わからないの。ここに来る途中で出会って、
 慌ててそのまま連れて来ちゃったし・・・ 何か持ってないかしら。」
少し申し訳なさそうに、リミテはそう言った。
少女の服装は、ネックリボン付きのトップスに、ストライプ模様のプリーツスカート。
ごくごく普通に、居住区で暮らしている女の子だろう。
よく見ると、腰にポーチをつけているようだ。
少女には申し訳ないが、2人は、少女の身元確認のため、その中身を見ることにした。
櫛、手鏡、ヘアスプレー、リップクリーム、飴玉、
手帳、銀製のハーモニカ、居住施設通行証─   これだ。
コミューンは、通行証に記されている名前を、そのまま手帳に記した。
パシア・バスティーユ、16歳。 2人部屋の使用登録がされている。
リミテもそれに気付いて、口を開く。
「私が会ったのは、この子だけよ・・・周りには誰もいなかったわ。残念だけど。
 気が付いたら、私のこと恨むでしょうね─」
申し訳なさそうな表情をするリミテに、コミューンは返す。
「考えたって仕方ないさ。助かる命が助かった、それだけだ─
 2人の身元確認も済んだことだし、ここを出て西塔に向かおう。」
コミューンがマスクとゴーグルを手渡すと、リミテはそれを受け取って頷いた。
少女にもマスクだけは付けておく。この空間の空気と外の空気とでは、まるで質が違う。
コミューンも、一度外したマスクとゴーグルを装着する─
「っ!! しまった─」
コミューンが、苦笑いを浮かべながらつぶやいた。
「・・・? ─どうしたの?」
リミテが不思議そうに問いかける。
扉の向こうに、警備兵を置いてきたままだ・・・時間にして約30分といったところか。
─ふてくされていた。
仕方ないので、パシアという少女を背負わせることにした。
この少女を救助したという名目の働きを譲ることで、なんとか納得してくれたようだ。

 出口に向かって歩いていると、階段のところで壁が崩れているのを発見した。
「・・・」×3
─沈黙。
「崩れてるな。」
「ええ。」
「通れないな。」
「ああ。」
誰が何を言ったかなど、どうでも良かった。誰もそんなことを覚えてはいない。
とりあえず通信機で外の警備兵と連絡を取り、待つことにした。
「あの爆破のせいだよ、きっと─」
警備兵が、口走る。
気まずい─
ふと、リミテが言葉を発した。
「ねえ、そういえば・・・ヘイドワードさんが倒したビーストリザードだけど、
 どこから入ってきたのかしら?」
リミテの言葉は、核心をついていた。やはり頭の回転が良い─
体長2m弱の生物が入り込むだけの通り道があれば、外に出られるかもしれない。
一行は、来た道を戻った。
「─ビンゴ。」
コミューンがつぶやくと、他の2人も頷いた。
倉庫奥の階段を上った先に、大きな縦穴が上に向かって伸びていた。
穴の出口と思しきところに、うっすらと光が見える。
その穴が外につながっていることを確信すると、通信機で警備兵を誘導した。
ザイルロープでの引き上げに少々手こずったものの、4人とも無事外に出ることができた。
後々確認してみると、先刻コミューンが発見した縦穴のようだった。
西塔に上るはしごを目の前にすると、リミテの表情がやや引きつった。
「さすがに、上りきる体力無いかも─」
─無理もない。朝方に塔の倒壊に巻き込まれた後、狭い空間での缶詰、
その挙句、警備兵であるコミューンとの戦闘。未だ食事も取っていないだろう。
上りきるだけの体力が残っている方がおかしい。
コミューンは、リミテを自分の体にザイルロープで固定すると、はしごを上り始めた。
顔が見えなくとも、その表情がコミューンには少しわかった。
あの申し訳なさそうな顔が、後ろにあるのだろう。
「あのな─」
コミューンがリミテに話しかける。
その上には、コミューンと同じように少女を背負ってはしごを上る警備兵の姿。
「先刻の、ヘイドワードさんっていう呼び方、やめてくれないか?
 上司にも下の名前で呼ばれるから、嫌な違和感があってな。
 俺も、あんたのことは下の名前で呼ぶからさ。それならいいだろう?」
自分の背中に負ぶったリミテに、コミューンはやさしくつぶやく。
「うん・・・ごめんなさい─」
リミテの力のない返事。
程なくして、コミューンの背中で寝息が聞えはじめる。
コミューンは、鼻で笑うと、はしごを上り続けた。

AM11:30、リミテ・ランカハード、パシア・バスティーユ、2名の救助を完了─



Left-hand Reloaded...「鼓動」HUMAN of humans'' created by Wiz's

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