第1章へ第3章へ 人は、生きる─ 大地だろうが、空だろうが、そこに望むものがあるのなら。 2章─鳴動 ─ 真相 水面に、夕日が映る。 心地の良い風が、夕凪から時折変化して、髪をそっとなでる。 橙色の雲と、紫色の雲が重なり合い、空に微妙な変化を刻んでいく・・・ 陸風が、黄金色に染まった草原を鳴らす。 湿った海風から、完全に陸風に替わったとき、 コミューンと少女の髪がなびく。 赤みがかったショートヘアの少女。 瞳の色は、幻想的なものを印象付ける薄い紅。 その目は、遠く変化する空の色をじっと見つめていた─ 「すまない─」 コミューンがそうつぶやくと、少女はやさしく微笑んで、返す。 「どうして・・・謝るの?」 コミューンもまた、空色の変化を見つめて返す。 「怪我─させてしまった。 それと・・・心配をかけた─」 少女が、コミューンの肩にそっと寄り添う。 その腕には、白い包帯が巻かれている。 コミューンが顔をうかがい見ると、心地良さそうにその顔を肩に預けてくる。 「─いいじゃない。 私たち、こうして生きてるもの。」 吸い込まれそうな笑顔で、少女は答える。 コミューンは、困ったように笑い、つぶやく。 「とてつもなく不器用で、戦うことでしか、自分を表現─できないんだ。 結果的に助けてやれたけど・・・それじゃ、ダメなんだ。」 コミューンが胸の内の辛さを口にしたのは、初めてだった。 少女は、一瞬だけ驚いたような表情を浮かべ、また笑顔をコミューンに贈る。 「お兄ちゃんは、戦う人。私は、それを解ってあげる人。 それで、いいんじゃない─?」 夢の中でのフラッシュバック。 コミューンは、自室のソファーの上で目覚めた。 ─また、過去の夢。 コミューンの目は、虚ろに何もない空間を見つめる。 少女がもたれかかっていたその肩の感触を確かめると、 コミューンは大きなため息をついた。 ─ふと、花のような香りがコミューンの嗅覚を撫でるように刺激する。 心地よい薔薇の香水の香り。 よく見ると、コミューンの体にジャケットがかけられている。 リミテの着ていたものだ。右胸の部分に、官制区刻印バッジが取り付けられている。 そのジャケットの持ち主は、コミューンのベッドでぐっすりと眠っている。 AM4:50。まだ早朝だ。 コミューンは、リミテのジャケットをハンガーに掛けると、 ブラインドで間仕切りをし、シャワールームに入った。 落ちる湯雨の滴が、はっきりと目に映り、それは次第にコミューンの体を包む。 逞しく、傷だらけの体。 映像を一切映さない、盲いた右目を、アンバランスに垂れ下がった前髪が覆い隠す。 コミューンはうつむいたままゆっくりと目を閉じ、 その閉じた目で湯雨を仰ぎ見るようにその場に跪いた。 雨は、コミューンの体を打ちつける。 打ち続ける。 雨は、痛い。 雨は、いつだって痛い。 雨の止まぬ空に、この願いが、この想いが届けばと思う。 ちっぽけなボクを見ていてくれた、最愛の人。 鋼色の空に、その想いは消させることはない。 そう、誓ったんだ─ コミューンが心の内に詠う詩。 後になって判ったことだが、生存者は、リミテたちの他に3名。 建物の内部ではなく、外側の鉄柱部分で保護されたそうだ。 落下時に、外に放り出された等等の理由だろう。 いずれも意識不明の重体だそうだ。 パシアという少女は、意識を取り戻したものの、 それと同時に頭痛を訴えたため、別の階にある医療区画で検査・治療中だ。 それと、やはりと言っては何だが、警備兵の約半数に相当する44名が、 下方区の大気によって発症してしまった。現在も医療区画で治療を受けている。 東西のツインタワーとは若干離れた場所に位置するラドミール第2居住区塔の方から、 応援の警備兵と医師団が駆け付け、多忙な様子で西塔内を駆け回っている。 リミテとコミューンは、今のところ身体異常は見つかっていない。 そういう事情もあって、西塔では部屋数が足りない状態であるため、 コミューンはリミテを自室へと案内することとなった。 リミテが現在唯一、参考人と呼べる存在であることと、 リミテ自身が査察官という立場で、居住区の監視下に置かれるならば、 信用のおける身分の人間のもとで。 と希望したためである。 当初はリミテがソファーを使うと言ったのだが、 女性にベッドで眠らせないというのも癪だったため、 半ば無理やり、コミューンがソファーを先に占領する形となり、ベッドを使わざるを得なくした。 結果的に、リミテは安眠できている様子なので、良かったといえば良かったのだろう。 調査部隊の成果報告では、東塔の3階部分は爆発によって 大破した状態で発見され、その残骸が徹底調査されたということだ。 居住区塔を機能させるための機関に使われていた燃料系統によるものではなく、 残骸のうち多数からヘキソゲン・・・つまり爆発物の一種である物質が、 爆発の痕跡として見つかった。人為的なものであることは間違いないという。 リミテが起き次第、これらの事実を踏まえて、東塔側の情報を訊くことになるだろう。 コミューンは一通り考え終わると、シャワーを浴び終え、 部屋着を着てシャワールームを出た。 ふと、苦い香りが鼻を突く。インスタントコーヒーの香りだ。 ブラインドの向こう側から香ってくる、朝を印象付けるコーヒーの香り。 気付けば、すでにAM6:00を回っている。 コミューンは、ブラインド越しに声を掛ける。 「開けても─いいか?」 爽快な笑顔が、向こうから透けて見えるようだった。 「ええ、どうぞ─」 リミテの声が、ブラインド越しに返ってくる。 ブラインドを開けると、コーヒーカップが2つ置かれたテーブルに向かって、 リミテが座っていた。 テーブルの上に置かれた手帳を閉じると、こちらを見て言う。 「おはよう。 シャワー・・・長かったのね。」 コミューンは軽く頷くと、ソファーに腰掛けた。 「まるで朝のお祈りでもしてたみたいね?」 からかうような口調で、コーヒーを差し出しながら、リミテが問いかける。 当たらずとも遠からず。 「まあ、似たようなものだな─」 コミューンはそう答えると、コーヒーカップを受け取った。 確かに、あれだけ長い時間シャワーを浴びていれば、傍目には不自然だ。 シャワーを浴びる以外の目的があったと推測するのは冗談半分だとしても妥当だろう。 しかし何故、「祈る」という言葉が思いつくのだろうか? コミューンは、考えながらコーヒーを口に運ぶ。 「私はね、お祈りするのよ。 毎朝─」 唐突に、リミテが語り始める。 リミテがカーテンを開けると、眩しい陽光が差し込んでくる。 光が、まるで風のようにリミテの髪を撫でる。 大きく息を吸えば、静謐な空気が香ってくるようだ。 また訪れた、静謐な朝。リミテは心から感謝の気持ちを表情にあらわす─ 「私たちがここに住んでいること自体、おこがましいことなのよ。 本当なら大地を、あの汚れた大地を踏みしめて生きなければならないのに─ そう悩んでいたって、この朝は毎日来てしまうから・・・ だからせめて、この朝にお祈りするの。この光が、いつか世界全部を照らせるように。」 美しい、願いだ─ コミューンは、心からそう感じた。 コミューンが、ほんの少しだけ笑顔を見せたことを確かめると、 リミテは制服とタオルを持った。 「シャワー、使わせてもらうね。その後にすぐに始めていいから。」 そう言うと、リミテはブラインドを閉め、シャワールームに入った。 そう、7時から事情聴取が始まる。 コミューンはコーヒーを飲み干すと、制服に着替え始めた。 床に響く靴音─ 上層階の床は、さすがに下層階のものとは違う。おそらく大理石の床だろう。 ここは、ラドミール居住区西塔50階層─いわば塔の管理区画だ。 コミューンとリミテは、管理室へ向かっていた。 コミューンの着ている制服は警備兵のものではなく、CGWとしてのものだった。 黒装束にも似たコートに、銀の装飾。 コートの上から締める深紅のループ・タイ。 背中には、剣をイメージした十字架。ライノラ帝郷区の紋章である。 一方のリミテは、官制区査察官の制服。先日と同じものだ。 純白のブラウスに、ループ・タイ。紺のジャケットを着ている。 下層階では完全に浮き立つ格好の2人が、大理石の床を進む。 管理室に入ってからは、実に速やかに事が進んだ。 管理長官と副管理長官、コミューンとリミテ、他数名の書記官での事情聴取。 リミテが、聞かれるであろう事をあらかじめ予測し、簡潔にまとめていた。 異常を感じたきっかけである、水道管の機能不良、 コンピュータのボックスケースに到達するまでの経緯─ コミューンと居住区長官が驚かされたのは、ここから先だった。 リミテたちが下方区に落下してから約10分後、リミテは倉庫に人らしい気配を感じた。 リミテは最初、救援かと思ったが、救援にしては手際の良すぎる早さだ。 ボックスケース内で息を潜め、聞き耳を立てていると、この居住区爆破について 話し合っている様子だった。そして、リミテははっきりと聞き取った。 「・・・しかし、うまい具合に崩壊しましたね。エレメフ大佐─」 犯行グループと見て間違いないだろう。そして、その手がかりとなる名前─ 大佐と呼ばれるだけの人物ならば、官制区に保管されているファイルに 該当するものがあるだろう。そこから調べて、明らかにしていく。そのはずだった。 「カルナ─エレメフ・・・!!」 つぶやき程度の音量だったが、はっきりと憎しみの念が込められた一言。 犯行グループが近くまで来ていたのなら、リミテが突然襲い掛かってきたことも頷ける。 コミューンは一呼吸置いて、ほんの少しだけ気持ちを落ち着けると、口を開いた。 「カルナ・エレメフ大佐、エイン帝郷区直属の戦闘員。歳は確か25だ。 ライノラ帝郷区総統リューハ・エレメフの弟で、テロ活動により現在も指名手配中。 特徴的な容姿としてはは緑の長髪に金色の目、長身の男だ。 ・・・─他に知りたいことは?」 驚いた様子で、恐る恐るリミテが問う。 「あえて言えば、どうしてそんなに詳しいのかしら・・・?」 問に対しコミューンは、即答した。 「リューハ総統に一通り聞かされた。他には?」 そのカルナとコミューンが、どんな関係にあるのか─ そこが疑問だったが、リミテにも長官たちにも、問いただす気は起こらなかった。 そう、コミューンは何か個人的な理由で、カルナという男を憎んでいるに違いない。 リミテはそう確信できるほどの印象を持った。 とにかく、今は人為的な爆破であることと、その首謀者が判っただけで、 当初の目的であった情報はほぼ揃った。 無理にこれ以上追求する必要も無いだろう。長官たちも、そのつもりのようだった。 もう少し落ち着いてから、それとなく聞いてみよう─ そう思い、リミテは複雑な表情を浮かべると、部屋を後にした。 コミューンも、一礼だけするとリミテに続いた。 リミテの目には、50階層のテラス窓から見える青空よりも、 下層の暗雲が映っていた。まだ、時刻は朝9時半を回ったところだった─ ─ 淡紅 靴音が、響く─ 先ほどとは違った、荒々しさを含む靴音。コミューンの心境は、複雑なものだった。 昨日の時点でここにいたのなら、少なくともまだラドミール区内にはいるはずだ。 今から追えば或いは・・・ そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にかエレベータの前に着いていた。 エレベータは現在10階層。 ずいぶんと待つことになりそうだ。 ふと階段の方を見やると、リミテが壁にもたれかかってこちらを窺っていた。 コミューンを待っていたのだろうか、どこか心配そうな目だった。 コミューンがリミテの方を見ると、リミテはほんの少しだけ微笑んで、 階段の方に振り返り、ゆっくりと階段を下りはじめた。 コミューンは、リミテと一緒に階段を使って降りることにした。 50階層から49階層への階段は、青い絨毯が敷かれている大層なものだったが、 そこから下に行くにつれ、段々と貧相なものになっていった。 沈黙したまま、階段を何段下りただろうか。 リミテが、そっとコミューンに切り出した。 「ねえ─パシアちゃんの様子を見ていかない?」 39階層─気付けば、もう医療区画のある階層だった。 リミテは、少し困ったように笑い、コミューンの様子をうかがう。 コミューンは、ほんの1回だけ大きく息を吐いた。 「─わかった、わかったよ。一緒に行けばいいんだろう?」 少し荒げにコミューンが言葉を返して歩き出す。 リミテには、コミューンの顔が少し照れくさそうな表情をしているように見えた。 コミューンに聞えないよう、少しだけ鼻で笑うと、コミューンの後を追った。 2人はそのまま浄化プラントを通って消毒をし、医療区画内部へと入った。 ─白。辺り一面の白。 光の量自体はそれほどあるわけではないのに、 思わず眼を細めてしまうほどの純白ですべてを纏った部屋。 白衣の医師たちは、コミューンたちを一瞥するとすぐに作業に戻った。 作業に戻った医師のうち1人を呼びとめ、パシアという少女の病室を訪ねる。 よりにもよって、一番奥の病室らしい。 この空間を長く歩くのは、気の進むことではない。 リミテは、特に表情を変えることなく辺りをチェックしている。 こんなところでも査察官ぶりが発揮されているのは、微笑ましいことなのだろうか? そんなことを考えながらも、リミテに声をかけ、最奥の病室へと向かった。 どこまでも白い廊下に、黒装束が浮き立つ。 横を歩くリミテよりも遥かに際立って浮き立つ。 傍目には、死神が歩くように映るかもしれない。それほど浮き立っていた。 「 ・・・あっ」 驚いたような様子で、リミテが口走る。 コミューンがリミテを見ると、リミテはいつもの申し訳なさそうな笑顔を見せる。 「居住区長官に渡しておかないといけないディスク─持って来ちゃった・・・ ごめんなさい、すぐに戻るから─ 先に行ってお話でもしてて、コミューン。」 コミューンは、浮かんだ疑問を率直に言葉にする。 「─ディスク?」 何のディスクなのか、何のためなのか。 「この居住区塔の査察データよ。私が壊しちゃったコンピュータの中身も入ってるし。」 そう言うと、パタパタと小走りに来た道を戻るリミテ。 データの保管までしているとは、流石査察官だといえる。 その後姿が見えなくなるのを小さく微笑みながら確認すると、 コミューンは1人、奥の病室へと向かった。 純白の上にガラスを貼り付けた、軽そうなドア。 コミューンは2回、やさしくそのドアをノックした。 「・・・はーい。」 幼く、無垢な女の子の声が、ドアの向こう側から響き、届く。 ドアの取っ手を持とうとしたコミューンの手が、一瞬止まる。 ほんの少しだけ眼を閉じると、コミューンはそのまま取っ手を引いてドアを開けた。 真っ白なカーテンをバックグラウンドに、白い患者服を着た少女が ベッドから身を起こしてこちらを見ていた。 赤みがかったショートヘアの少女。 瞳の色は、幻想的なものを印象付ける薄い紅。 コミューンは、少女の顔をじっと見つめる。 「あの・・・?」 少女が不安そうにコミューンの顔を見上げて言う。 「あ・・・ああ、すまない。自己紹介がまだだったな。 コミューン・ヘイドワードだ。まあ、君は気を失っていたから知らないか─」 コミューンがそう言って少女にやさしく微笑むと、 少女も言葉を返して言う。 「ううん、お医者さんから聞いてるよ。私を助けてくれた警備兵の人・・・だよね? 私はパシア。パシア・バスティーユっていいます。"パシア"で良いですよ。」 コミューンは、またやさしく微笑んで切り出す。 「俺の方も、コミューンと呼んでくれ。ところで、頭の方はもう大丈夫なのかい?パシア。」 パシアはその問い掛けに、笑って答えて言う。 「うん、お医者さんが検査では異常なかったって。長時間気を失ってたせいらしいよ。」 吸い込まれそうな笑顔を見せるパシア。 コミューンが胸の奥に抱き、押し込めておいた面影が、 そのままの形でパシアに重ねられる。 ほんの何分か、パシアとたわいも無い会話を交していると、 リミテが用を済ませて病室に入ってきた。 リミテは、コミューンの表情が今まで見たことがないくらい 穏やかで優しいものに変わっていることにすぐ気付いた。 先ほどの憎悪を現した表情を見たせいか、いささか不自然ささえ感じた。 優しいというよりもむしろ、いつくしむ、煙でできた人形を扱うような、 そこに本来存在しないものをありがたみ、蜘蛛の糸を手繰り寄せるような、 毒気の抜けきった表情。 リミテは会話の邪魔をすることを少しためらったが、コミューンに声を掛けた。 「お話中お邪魔しますよー。あらあら、ずいぶん仲良くなってるじゃない。」 リミテが笑顔で会話に割り入ってくる。 「あっ─あのときのお姉さんだ。 リミテさんっていうんだよね? あのときは助けてくれて、ありがとうございました。」 パシアが、笑顔でリミテを歓迎する。 リミテは、あの申し訳なさそうな笑顔で答える。 「ううん、いいのよ。あの状況で助けない方がどうかしてるもの。 それで ─ ・・・お兄さんのこと─」 そう、救助の後で身元照会の結果わかったことだが、パシアには兄がいる。 パシアが16歳の研修学生で、兄のアンリが23歳のラドミール専属警備兵─ 兄のアンリは塔が崩壊したとき、仕事で塔内巡回をしていたという。 救助リストにその名前は記載されていない。 行方不明─いや、おそらく生きてはいまい。 パシアは表情を曇らせ、それでも無理をして笑顔を取り繕う。 「うん─聞いてる・・・ あっ─、リミテさんは気にしないでいいんだよ?」 リミテの表情をうかがいながら、パシアはそっと答える。 すると、黙ったままうつむいてしまう。 毛布を握る手に、力が込められているのがわかる。 ─ぽたり、ぽたりと、毛布に水滴が落ちる。 我慢しようと思えば思うほど、止め処なくあふれ、こぼれ落ちる涙。 とても声にならないような小さなつぶやき。 「お兄ちゃん・・・」 パシアの言葉にならない言葉と同時に、コミューンの胸が激しく痛みだす。 静かに泣き崩れるパシアを、愛しい面影を持つ少女の有様を目の当たりにして、 コミューンの中の何かが弾けた。 リミテは、何が起こったのかわからなかった。 いや、認識できなかったと言うべきか、驚きで頭がいっぱいだった。 「 ─あっ」 パシアの泣き声がほんの少しだけ止まり、その表情を変える。 驚きと、疑問と─安堵の表情。 気付けば、コミューンはパシアを強く抱きしめていた─ その存在を確かめるように、やさしく、力強く。 赤みがかったその髪を、そっと撫で下ろす。 コミューンにとってそれは嘘のように、触り慣れた感触だった。 コミューンの指が、耳のすぐ後ろをそっとくすぐる。 コミューンの意図を察してか、兄を思い出したのか、或いはその両方か─ パシアはコミューンの胸元に顔を埋めると、また泣き始めた。 本当に、兄にすがりつく妹のように。 リミテは、取り残された形でその光景を見守った。 その表情は、少しずつ優しい笑顔に変わっていく。 コミューンがいきなりパシアを抱きしめたときは驚いたリミテだったが、 結果だけを見てみれば、最も有効な選択であったのだろうと、納得できた。 ただ、それを予測して取った行動ではないのだろう。 確信に近い疑問がリミテの脳裏に描かれる。 しかし、今それを訊くのは止めておこう。今この抱擁を止める理由はない。 リミテは自分にそう言い聞かせると、そっと病室を出た。 「お兄ちゃんはね、あたしが寂しいとき、いつもこうして撫でてくれたの。 なんだか、本当にお兄ちゃんといるみたい─ 」 泣き止んだパシアが、コミューンの胸元でささやく。 「─そうか? 俺もだよ、パシア。」 コミューンは、やさしく微笑みかけるとそうつぶやく。 「コミューンも・・・?」 不思議そうに、パシアが見つめてくる。 「─ああ。 俺にも、妹がいたんだ。」 そう言いながら、コミューンは手でそっとパシアの頬に触れる。 「あはは、変なの。」 唐突に、パシアがじゃれたように笑う。 「ん─?」 コミューンが疑問符を投げかけると、すぐにパシアが答えて言う。 「コミューン、前髪伸ばしすぎだよ。 それじゃあ右目が見えないでしょ?変なの。」 コミューンの、右目を隠すように伸ばした前髪。 事実、隠すために伸ばしているのだが。 コミューンは、パシアの前でその前髪を上げて見せる。 話を聞いていたのか、リミテが興味ありげに病室をのぞき見る。 そんなことにはお構いなしに、パシアが声をあげる。 「わあ─ きれい・・・宝石みたい。 右と左で、眼の色違うんだね。」 コミューンの左目は黄金色で、それに対する右目は淡い紅。 どう見ても、不自然な調和。 リミテは、すぐに気がついた。 コミューンの右目は、パシアのそれと同じ色をしている。 2人とも、瞳の色は幻想的な淡紅。 「こっちの目はな─見えないんだよ。」 リミテも今初めて知る事実を、コミューンは告白した。 片目の視力だけで、先日ほどの戦闘能力を発揮できるものなのか─ リミテの驚きは増していく一方だった。 コミューンの言葉を聞いて、パシアがコミューンの目蓋をそっと撫でる。 その感触を確かめると、無邪気に笑った。 コミューンも、それにつられて笑う。 それを見て軽いため息をつくと、リミテもまた、やさしく笑った。 3人が打ち解けあった、そのときだった。 ズズン・・・!! 大きな揺れが、病室を─いや、居住区塔を襲う。 「─っ!!」 リミテが大きく息を呑む。 「─いやああ!!」 パシアが、また泣き出しそうにして悲鳴を上げる。 コミューンは、黙ってパシアの背中を抱く。 揺れが続き、リミテがバランスを崩して床に手を着く。 「リミテ─ 大丈夫か?」 コミューンが問いかけると、苦笑いを浮かべながらリミテが頷く。 ─ 無駄な時間を費やすことはできない。 コミューンもリミテもそう確信すると、パシアを起こしにかかる。 点滴の針を抜き、傷口に包帯を巻きつけると、 コミューンがパシアを背負い、リミテがその荷物を持つ。 お互い確認しあうと、2人は同じ方向─医療区画の出口へと向かって走り出した。 ─ 疾風 そこらじゅうから聞える悲鳴。慌てふためく医師たち。 そんな中、真っ白な廊下を走る。 走馬灯の内部を走っているような感覚。 パシアの目に留まるものすべてが、一瞬で後方に消えてゆく。 「うわあ・・・」 コミューンの背で、パシアが驚愕の声を上げる。 心なしか目が痛み、呼吸も苦しくなってくる。 「パシアちゃん─私の顔を見てごらん。」 リミテの声が耳に響く。 パシアは首をひねり、横を─リミテの顔を、ゆっくりと見る。 ふと、呼吸が楽になる。なるほど、横を向いていればとりあえず目は痛くない。 パシアはリミテの意を理解し、そのまま顔の向きを保持する。 トクン、トクン─ 横を向いたままにしていると、耳元で音が聞える。 低く、調律の取れた─音というよりもむしろ、振動そのもの。 やさしい旋律で、パシアの鼓膜を揺らすコミューンの鼓動。 パシアを安心させるには、十分な音色だった。 パシアの微妙な変化に気付いたコミューンは、少しだけ笑った。 「─リミテ、下へは間に合わない。上に出るぞ。エレベータは使えないだろうし・・・ 階段は何段飛ばしで行ける?」 ふと、コミューンがリミテに問う。 上に出るということは、屋上を目指すと考えていいだろう。 「4段か・・・5段。 今の体の調子だと4段ってとこかしら。」 やはり、並ならぬ身体能力─ コミューンは、心底そう思った。 思ったが、口にした。 「そうか─じゃあ、階段の手前で俺につかまれ。」 浄化プラントを抜けて医療区画の出口へ、出口から十と数歩で階段の前へ。 1番奥の部屋から階段まで、30秒もかからずに到達した。 ─その階段が視界に入る前に、コミューンはリミテの腰に手を回す。 自分が言った、4段よりも多く段を飛ばして上る気だろうか? ほんの少しだけ顔を赤らめながら、リミテはコミューンの肩に腕を回す。 コミューンの歩幅、歩数に合わせて駆ける。 3歩、3歩、2歩、1歩・・・跳躍 ─否。 「 ・・・─ 迅。」 言葉とともに練った気の爆発、そして─ 飛翔。 リミテとパシアに襲い掛かる浮遊感。 コミューンが踏んだのは、2歩。 25段ある階段を─上りきっていた。 その勢い余って、コミューンたちは壁に激突する─ ことはなかった。 壁の手前で宙返り─そして、コミューンの足と壁とが接触。 ─刹那、再度、練気の爆発。 空中サーカスでも見ているような錯覚。また1歩、1歩─ 軽やかでいて力強いステップの旋律が、リミテとパシアを揺らす。 「 ───っ!!」 2人とも、声を上げることもできないほど硬直していた。 そんな飛翔を続けること40回─50階層の管理区画へ到着していた。 例えるなら、疾風。突然吹き荒れ、突然に止む疾風。 コミューンの絶技を目の当たりにし、リミテもパシアも呆然とする。 「もたもたするな、この上に出るぞ─ はあっ、はあっ・・・」 コミューンが、息が上がった状態で2人に呼びかける。 あれだけの無茶な跳躍をすれば、疲れて当然だろう─ 今度は、リミテがコミューンの肩を支える。 51階層への階段の前には、重い鉄扉。 これを開けるには、セキュリティカードが必要だ。 査察官と言えど、ここのカードは持ち合わせていない。 今から長官に掛け合ってカードを・・・いや、そんなことをしている暇はない。 リミテが焦って考えていると、横からコミューンが言葉を発する。 「これを─。」 コミューンが差し出したのは、CGWライセンス。 クラスター結晶でコーティングされた、かなり高度なものだ。 十字の紋章と、ホログラムで映し出されるコミューンの顔。 その右隅に、カードリーダ用のタグが内蔵されているのが見える。 「コミューン─あなた、これって・・・」 「いいから─通せ。」 コミューンがリミテの言葉をさえぎって指示する。 ─ズズン!! 先ほどよりも大きな揺れが襲い掛かる。 コミューンの素性は、また後でゆっくりと聞けばいい。 ─そう判断し、リミテは頷いてカードを扉の脇にあるカードリーダに通す。 ライノラ帝郷区の権力を知らしめるかのごとく、鉄扉は素直にその口を開ける。 ─いとも簡単に。 現れたのは、鉄骨剥き出しの階段。 下層で見たそれとは異なり、金属としての光沢を保ったままのものだ。 リミテはコミューンにライセンスカードを返すと、 コミューンの肩を支えたまま階段を登り始める。 金属製の階段が、乾いた音を響かせる。 揺れによってバランスを崩さないように、慎重に、足早に、歩く─ 「コミューン・・・大丈夫なの?」 桃花の香りとともに、リミテの声がコミューンの耳に届く。 優しい香りに、凛とした青い目、柔らかい感触、穏やかな声─ コミューンは、浸ろうとした自分に嘲笑する。 「大丈夫だよ─ 少し、温存させてくれ。」 答えた表情がほんの少しの笑顔であることを確認すると、 リミテも笑顔を返し、歩く。 不思議と、塔が傾いている気配はない。平衡感覚がそう伝える。 しかし揺れは大きく、一定のリズムでそれは押し寄せる。 ついには階段を登り切り、51階層に到達する。 どの階層でも見ない、倉庫とも制御室ともつかない作りの区画。 リミテたちが隠れたようなタイプのボックスケースがいくつも置かれている。 その奥に、屋上への扉らしきものを見つける。 3人は、その扉に向かって歩き、扉を開け放った。 ─刹那、強風にあおられる。 太陽の光が上から照りつける。 ─高度にして12000mといったところか。 この強風は仕方が無いといえよう。 3人は、風に飛ばされないよう屋上へと出る。 コミューンは、自分の背に乗せていたパシアを降ろし、その手をつないで誘導する。 小さく、柔らかな手。 パシアの手を握った途端に、コミューンの表情が1段階和らぐ。 リミテは、その変化を見て取っていた。 振動が、まだ続く─しかし、いつまでたっても塔が傾いたり沈んだりする様子は無い。 ─ならば、この揺れは何なのか? その答えは、コミューンとパシアが見つけ出した。 遠方に立ち昇る何本もの黒煙。 ほどなくして、やや近くに黒煙が立ち昇る。さらにまた近く、近く─ 何本もの黒煙が連なり、こちらを目指している。 ─ズズン・・・!! また大きな振動。 これは─居住区塔の破壊では・・・ない。 立ち昇る煙が描く進路と同じ方向、形状に伸びているものがある。 カーディル管制地区へと続く、連絡通路。─それが爆破されているのだ。 リミテの所属している官制区塔もそこに在る。 つまりは、そういうこと。 この居住区塔を・・・否、ラドミール居住地区は孤立させられたことになる。 険しい表情のコミューンの横に立ち、リミテもまた、遅れて同じことを察した。 カルナたちの狙いは何だ─? コミューンは考えを巡らせる。 そこを、リミテに遮られる形となった。 リミテの手がコミューンの肩に乗せられる。 「・・・戻りましょう、コミューン。この塔が爆破されていないのなら、 私たちにはまだやれることがあるはずよ。」 ─そう、その通りだ。無事であろう住民たちに避難勧告を出し、 周辺の徹底警備・調査を行う。 その段取りをするのにどれだけの時間を要するかもわからない。 なるべく急いで実行に移すべきだ。 コミューンは、リミテ、パシアと共に51階層の屋内へと戻る─ 刹那。コミューンの感性を刺激する気配。 コミューンの右手がリミテの胸元へ、左手が己の懐へと伸びる。 パシアの身体を左足でそっと蹴り上げる。 右手には、リミテの懐から抜き取られた拳銃が握られる。 左手には、禍々しいフォルムのLM85。 リミテもパシアも、驚愕に目を丸くする。 リミテの傍ら─コミューンがクロスステップで跳ねる。 パシアの身体は、リミテの正面に放り出される。 リミテがそれを認識するとほぼ同時に、リミテの背中に衝撃が襲いかかる。 「 ─きゃあっ!!」 コミューンの回し蹴りがリミテの身体をも吹き飛ばす。 パシアを抱く形となり、2人とも屋内へと転がり込む。 パシアが怪我をしないように腕に抱え込み、後転をする形で受け身を取るリミテ。 信じがたい行動に出たコミューンを確認するため、出入り口の方を振り向く。 リミテが見たのは、さらに信じがたい光景だった。 穿たれるコンクリートの床─先ほどまで自分たちがいた場所。 その場所から縫うように抜け出る漆黒の疾風。 市街地迷彩を着た男たちが十人余り─ その手には無骨なスタイルのサブマシンガン。 展開しながら疾風の主・・・コミューンに向かって発砲する。 ドタタタタタゥン─!! 何の冗談か、通常、警備兵が使うような銃の破壊力ではない。 次々と破砕される水道管、タンク、フェンス。 それでも漆黒の風は、舞う─ リミテの目は、その戦いに釘付けの状態になっていた。 どこまでも舞い続ける黒い風は、どこか切なくも映る。 パシアもようやく事態を認識したのか、 コミューンと正体不明の男たちとの戦いに目を向ける。 コミューンもこちらの視線に気付いたのか、目が合う。 リミテかパシアか、あるいはその両方の目を見てか─コミューンの動きに変化が生じる。 風が止む─ ゆらりと、コミューンがカカシのように立ち尽くす。 手のひらを上に向け、その手に持った拳銃を天に捧げるかのごとく─ 鋼の咆哮が、コミューンを襲う。 それと同時に、コミューンの黄金色の目が、暗い光を放つ。 風が消える。 漆黒の風は、忽然と視界から姿を消す。 真っ先に変化に気付いたのは、パシアだった─ 男たちの足元に、漆黒の影。 手を交差させ、2人の男の頭蓋に銃口を向けて、小さく、つぶやくように叫ぶ。 「クレストオブ・・・クルツ─!!」 それは鋼の機械によるギロチンの交響─ 死を象徴するが如く、無常に鋼と鋼は互いを開き、そして閉じる。 銃を急所に突きつけるコミューンの虚像が、幾重にも重なって浮かび上がる。 ─瞬夢。 カシャァン─!! ・・・キン、キキン・・・キィン─ 撃ち尽くされた空薬莢が、一斉にコミューンの周囲に降り注ぐ。 パシアやリミテの目には一瞬に映ったそれは、コミューンにとっては集中力の極限だった。 コミューンの視界─否、感覚の領域に捉えられた敵は14人。 そのうち一番近い2人に、銃口を向ける。 左に62度、上に30度・・・右に45度、上に29度─ 鋼のギロチンを、降ろす。 銃声がその耳に届く前に、残る12人を正確に認識する。 その方向を正確に数値化、腕へと即座に伝える。 未だ機関部から排出されない空薬莢を、左右互いの銃同士で絡め取り、上方へと放る。 次に、次弾装填。 次の敵たちに銃口を向ける・・・その慣性力を使って無理やり弾を機関部へ送り込む。 下がったままのスライドを、親指で押し込むと、次のギロチンが唸りを上げる。 2人、また2人と、次々にその銃口に捉えては穿ち貫く。 超音速の絶技。 クレスト・オブ・クルツ─それは、超高速の短銃射撃術である。 短銃の機動性を十二分に生かす、瞬時に行われる標的認識。 その速射力を極限にまで引き出す、拳銃機関部の高速操作。 Crest of Kurz[短銃の絶頂期]の名を負うにふさわしい絶技─ ズダァァン─!! 撃ち放った分の銃声が、一斉に耳に届く。途切れ目の無い、つながった爆発音。 それと同時に、コミューンが瞬夢から目覚める。 2挺の拳銃を風車のように構え、立ち尽くす。 糸を切って落としたように、男たちが一斉に崩れ落ちる。 物言わぬ骸が14体。その中央には、返り血の一滴も浴びない死神の形容。 背中の十字架が、死者への弔いとでも言うつもりなのか、 何も語らず、コミューンは骸に背を向けてリミテたちのもとへ歩み寄る。 2人とも、コミューンの異様な姿に戸惑ったものの、後ずさりはしなかった。 コミューンはリミテの前に立ち、先程リミテから奪い取った拳銃を差し出す。 リミテがそれを受け取ると、コミューンの表情が一変したのが見て取れた。 「乱暴をして─すまない。」 それは叱られた少年のように、弱々しい表情。 リミテとパシアに向けられた、謝罪の言葉。 それに対してどう答えて良いか・・・迷いに迷った挙句、 リミテは困ったような笑顔で答えた。 パシアもその表情を見て、困ったように笑った。 「どうしよう─やること、増えちゃったわね。」 リミテの言葉に安心したのか、コミューンも答えて言う。 「ああ、そうだな。 ─今夜もぐっすり眠れそうだよ。」 骸に向かって嫌味をつぶやきながら、その顔に苦笑いを浮かべた。 AM11:30─ ラドミール地区、孤立 ─ ─ 遺物 ─ドガン!! コミューンの背中を、ゴム弾が直撃する。 致命までは行かないものの、それなりの痛みを伴う模擬訓練用の弾丸。 「 ─っ!!」 その衝撃が全身に響く。 油断などしていない。全神経を研ぎ澄まし、集中していたはずだ。 ─それなのに、弾丸の飛んでくる方向・・・射手の居所さえもつかめない。 銃による戦闘の間合いでは、触覚はあてにならない。 味覚、嗅覚は、風に運ばれてきたそれを捉えるものだから、 それもまた触覚と同じく、あてにはできない。 聴覚で捉えようにも、相手が音を立ててくれないのでは意味がない。 風に溶けるように駆ける相手。 光を完全に遮断した部屋・・・その暗闇の中では、視覚などもっての他だ。 となると、直感─すなわち、第六感に頼るしかないわけだが・・・ どういうわけか、相手が殺気の1つも出さない。 感じ取れない。 あの時と同じだ。 これが訓練ではなく実戦であれば、もう自分の命は無いだろう。 許せなかった。 2度もこの境地に立たされながら、何もできない自分が憎らしく思えた。 思い出せ─ あのとき、何が足りなかった? 何が俺を撃たせた? コミューンは自身に問いかける。 油断はしていない。6感すべてに問いかけても、人と認識できるものは無い。 「・・・─人?」 暗闇の中、コミューンは1人つぶやく。 人間は、その状況に応じてその体、精神を様々な状態に変化させる。 闇に溶け、風として地を駆ける。 殺気を断ったまま攻撃をすることも、可能ではないか。 だが、銃は違う─もとより銃に存在意義など無い。 銃はただ、射手の指から送られる単純な指示によってその機能を発揮する。 その指示によってギロチンを振り下ろし、鋼と鋼の交響を奏でる。 殺す、何かを傷つける─そのためだけに、存在する銃。 彼を─探せ。 銃それ自体に宿る気を探る─言葉に言い換えて表現するならば、「狙気」。 無生物を理解し読み取り、生物に語りかける無為の力。 それが─第7感。 ─感じる。傍らに存在する凶器の魄動。 その矛先20mほどの距離に、同じく凶器の魄動。 こちらの狙気は、相手に牙を向ける野獣そのもの。 一方あちらの放つ狙気は、優美に輝く神獣のそれである。 そんなイメージを実体化すると、それが装飾銃の類であることが理解できる。 己の銃を理解し、意義を持ちえぬ物体に理由を与える。 銃とのリンク。 ギロチンを作動させる撃鉄を、振り下ろす。 ─ガガガンッ!! 回避行動を読んでの3連射。 そのうちの一発に手ごたえを感じる。 どうやら、相手の銃のフレームによって打ち落とされたようだ。 弾丸に手ごたえがあるということなど、今の今まで知りはしなかったのだが。 ─夢から1段階覚醒した気分。 「─感覚を掴んだか。 流石だ。」 声を合図に、部屋の明かりがつく。 装飾銃を手にした男がコミューンの目に映る。 サファイアを思わせる、青い長髪と黄金色の瞳。 真っ白な生地に銀の装飾を施したコート。 ライノラ帝郷区総統のリューハ・エレメフ・キャンサーその人だ。 「では、正式にCGW試験の手続きをしておくとするよ。 ─これは餞別代わりだ。 健闘を祈るよ。」 手渡された白銀の拳銃には、優雅に舞う龍の装飾が施されていた。 オートマチック・・・?本体のそれは回転式拳銃のそれだが、弾倉での装填のようだ。 かなり繊細に設計されているようで、ガタつきらしいガタつきは一切無い。 手を離すと、その軽さが冗談のように重々しく、シリンダー機関部のギロチンが閉ざされる。 スライド横に、パテントが彫られている。 [Cancer M-224 R'vin T000] キャンサーモデル224 レヴィニー T000ということは、1挺限りの試作モデルだ。 レヴィン・・・旧ラタリナ語で「悲哀」を意味する。 これを託したリューハの行動には、どんな意図があったのだろう。 それは、今でもはっきりとした答えがわからない。 「まあ、そのとき感じた神獣にも似たイメージに、俺の精神と 似た部分があったのは確かだし、それを知って・・・ってのが妥当な答えだろうか。」 ボックスケースの中身を調べながら、コミューンが語る。 コミューンはリミテたちが気付かぬ間に起こった襲撃に対処し、 気付いたときには、リミテたちは窮地から助けられていた。 それだけの感覚と行動能力を身に着けたコミューンの体験談。 それは通常では考えようもなく果てしない、人智を超えた領域の話。 「ふふ・・・私も教えてもらおうかしら、手取り足取り。」 笑顔を完全に取り戻したリミテが冗談のような口調で言う。 第7感云々は教えてどうなるものでもないが、発頸の類である練気は、 リミテほどの実力者であれば十分習得が可能だ。 そう思ったコミューンは、率直な答えを返す。 「段飛ばしや高速体術なら教えてもいいかな─」 「─本当!?」 ・・・即答だった。 気付けば、リミテがかつてないほど目を輝かせてコミューンのすぐ傍にいた。 興味津々だったのだろう、その言葉を待ちわびていたと言わんばかりの笑顔だ。 「またゆっくり時間が取れるときな。今はこの階層の無断査察を済ませないと─」 少し困ったような笑顔でコミューンが答えると、 リミテもまた困ったような笑顔を見せ、他のボックスケースを調べる。 今、コミューンとリミテは、51階層内に大量に置かれた ボックスケースの中身を調べている。 パシアは屋上─もちろん男たちの亡骸が見えない場所だが、そこで空を眺めている。 こんな広い空は、そうそうお目にかかれるものではない。 遮るものが何も無い、一面の青。嗅いだことも無い、清浄で爽快な空気。 ただ上を仰ぎ見ては、時折笑う。 目を閉じて、めいっぱい息を吸う。 ─この世界が、香る。静謐な空気に混じる、血と、硝煙と、鉄の香り。 それが、この世界の香りなのだ。 風の行き交うこの場所で、パシアは銀製のハーモニカを取り出す。 兄のアンリからプレゼントされたハーモニカ。 [offers the dearest(最愛の人に捧げる)]と彫られた純銀のフレーム。 今や兄の形見となってしまったそれを、大事に両手で持ち、口に当てる。 広い、広い空へ─ パシアはゆっくりと奏で始める。 アンリへ贈る、鎮魂の曲。 空に近いこの場所で、奏で贈る─ いつくしみ深き 友なる神は 罪科憂いを 取り去り給う 心の嘆きを 包まず述べて などかは下ろさぬ 負える重荷を─ その昔、家族のぬくもりの中で覚えた慈愛の詩。 古くから存在する、旧世界の遺物たる鎮魂曲。 薄い雲が風に流され、空を如何様にも変化させてゆく。 そんな空の下で、奏で続ける─ 天国に近い、この場所で。 その旋律を聴き取っていたコミューンとリミテは、どこか心安らいでいた。 2人とも穏やかな笑顔で作業を続ける─ なんと心癒されることか。 1人の少女が空の下で奏でるこの旋律に。 「ねえ、コミューン─」 リミテが、やさしく話しかける。 「ん・・・?」 コミューンもまた、穏やかに答える。 すると、リミテは少しだけ表情を硬くして、静かに話し始めた。 「パシアちゃんのことなんだけど・・・特別重要な研修生でも無いみたいなのね。」 コミューンは相づちをうって答える。 それを確認すると、リミテは続きを言う。 「専属警備兵だったお兄さんが生きて戻らなければ、パシアちゃんはもう─」 リミテもコミューンも、同時に表情が険しくなる。 そう、リミテの言うとおりだ。 世界に数限りあるものとして建造された高層施設は、本来であれば 世界の後々を担うために欠かせない、重要な職務に就く者だけが住まうことを許される。 その施設の秩序を守るために配備される警備兵も然り。 そこをやや緩和して、重要な職務に就く者と、その縁者のみが居住を許される。 ラドミール地区の居住区塔も、その例外ではない。 つまり・・・だ。 「パシアはこの件が落ち着き次第・・・下方区に追放されることになるな。」 遠くを見るような目で、コミューンがその答えを言う。 そう、あまりに残酷な運命が─彼女を待っている。 こんなにも美しい旋律を奏でる少女が、1人で。 短い沈黙の後、リミテが口を開く。 「あの子を生かしたのは、私。 私はその責任を取らなければならない─」 コミューンも馬鹿ではない。わかっている。 リミテはいたいけな少女を見放して平静を保っていられるような人間でもないし、 彼女の立場上、私情を挟んでパシアに特別な措置を取らせることもできない。 そのようなことをすれば、彼女は査察官失格。リミテも下方区に追放されることになりかねない。 つまりだ。彼女は責任を取らなければならないが、責任を取ることができない。 リミテがうつむいて、肩を震わせる。 必死にその挙動を隠そうとしているが、抑え切れないようだった。 ─ギリッ。 唇を強く噛んだのが、コミューンにはわかった。 リミテの口の端から、俄かに血が流れ落ちる。 「私・・・自分のしてあげられることも考えないで─」 涙だけは何とか堪えている。それで精一杯の様子だった。 「コミュ・・・」 その想いが口にされるより前に、コミューンの手がリミテの肩を優しく抱いていた。 「俺が、引き取るよ─ 大丈夫、心配するな。」 CGWならば、多少強引なことをしても立場を揺るがすようなことは無い。 ライノラ帝郷区が許す限りではあるが。 そう、リューハがコミューンにしたように、私情を挟んで肩入れしてやればいい。 何より、コミューンもまた、パシアを己の傍に置きたいと思っていた。 コミューンの手は、リミテの体を強引に抱き寄せることも、放そうともしなかった。 ただただ、優しくそこに置かれているだけでいた。 リミテはうつむいていた顔を上げ、コミューンの顔を仰ぎ見る。 病室でパシアに見せていたのと同じ、やさしい目。 リミテの瞳の青が、潤んで形を崩す。虚ろに、弱々しく変化していく。 助けを求めるように、崩れ落ちる場所から、何かにすがるように。 溺れかけた子どもが、必死に水面に空気を求めるように─ コミューンの唇に、己の唇を重ねる。 「─ん・・・」 やわらかい感触。何に例えることもできない。 まぎれもなく、リミテの唇の感触。 桃花のやさしい香りと、血の味。 妖艶な組み合わせだった。 僅かに耳に入ってくる、ハーモニカの音色。 心に開いた穴を広げまいと、その穴を、自分の意思を強めることで埋めようとする音色。 パシアにとっては、仰ぎ見る空と、手に持ったハーモニカの音色がその糧。 コミューンの目の前にいる女性もまた、己の心の穴を広げないように必死なのだ。 その穴が、どのようにして開いたものかは察し得ないが─ コミューンはそれを拒否することなく、確かにリミテの心をつなぎとめていた。 コミューンがリミテの髪をやさしく撫でる。 リミテの心は次第に落ち着きを取り戻し、ふと自分のしていることに気がついた。 「・・・─っ!! ごっ、ごめんなさい!!」 唇を離し、半ば突き飛ばすような形でコミューンから離れるリミテ。 その頬が、赤らんでいるのがわかる。 「─いや、いいんだ。 それより、さっきより少しは落ち着いたか?」 少し意表を突かれたといった表情で、コミューンが言葉を返す。 「えっ・・・ええ。」 やはりまだ慌てた様子は抜けない。 しかし、先ほどの危うげな瞳は元の澄んだ青に戻っていた。 コミューンがそれを見て笑うと、リミテはまた更に顔を赤らめた。 世の友我らを 捨て去るときも 祈りに応えて 労わり給わん─ パシアの奏でるハーモニカの旋律が、終わりを迎える。 残ったのは、風音だけ。 「そうそう、ケースの中身を全部調べなきゃね。」 思い出したように、リミテが作業に戻る。 その様子に安心して、コミューンも作業を再開する。 コミューンがこちらを見ていないことを確認すると、リミテは自分の唇をそっと触った。 まだ先刻の感触が残っているのがわかる。コミューンも同じだろうか─ そんなことを考えながら、リミテは再びコミューンの方を見る。 作業を再開したコミューンは、黙々とボックスケースの中身を調べている。 「それにしても、何故こんな大量の資材がこんなところ─ っ!!」 自分の発した言葉と同時に、コミューンの表情が固まる。 ほぼ同時に、ボックスケースの蓋を閉じる。それも、かなり乱暴に。 「どっ、どうしたのコミューン!?」 その様子に驚いたリミテが、コミューンの許に駆け寄る。 パシアも、それに気付いた様子で、屋内に入ってくる。 悪い夢でも見たのかと思われるほど、コミューンの額は汗に濡れている。 「コミューン・・・大丈夫?」 パシアが心配そうに声をかけてくる。 そんなパシアを手で制して応えると、コミューンは数歩後ずさりをした。 コミューンが見たものは、遺物だった。 パシアが奏でた旋律と同じくして、旧世界から今の世界に遺された遺物。 コミューンの中で、少しずつではあるが、複数の糸がつながり始めていた─ 1本の線を成すべく。 ─ 忌むべきモノ 陰陽(インヤン)という言葉を知っているだろうか? この世界で最も絶対的な摂理であり、真理である。 誰かが生まれることを「陽」とするならば、誰かが死ぬことを「陰」と呼ぶ。 これらは世界に数等しく存在するものだ。 ─つまり、光と影の摂理。 旧世界から引き継いで奏でる、あのハーモニカの音色が「陽」の遺物だとするならば、 今、このボックスケースに入っているものは「陰」の遺物だろう。 世界を、今在る実態に追いやった直接の原因。 「コミューン─?」 リミテの声が、コミューンを悪夢の入り口から呼び戻す。 バランスを崩して崩れ落ちそうになるところを、リミテに支えられる。 「あ・・・ああ、すまない。 ─それより、ここから離れるんだ。」 やっとのことで注意を促すコミューンに、リミテたちは従った。 51階層の施錠をし、50階層に降りる。 階段を降りきるやいなや、コミューンがLM85を取り出して何やら弄っている。 リミテは、その様子を見て少しずつ不安が増していくようだった。 コミューンは黙っていた。 その胸の奥深く、悪夢と憎悪らしきものが芽生え始めている。 リミテの不安はさらに大きくなる。 コミューンは黙ったまま、管理室へと向かう。 リミテはパシアの手を引いて、慌ててコミューンの後を追った。 長官たちは、ひどく驚いた様子だった。 連絡通路爆破に伴う揺れに対しても驚いていただろうし、 つい先ほど部屋を後にした顔ぶれが、再度部屋を訪れたことにも驚いたかもしれない。 しかし、最も驚きだったのは、コミューンの取った行動であるに違いない。 コミューンは管理室に入るやいなや、長官の額に銃口を突きつけたのだから。 「コミューン─っ!?」 リミテもパシアも、驚きの表情を隠せないでいた。 コミューンの目は、カルナという人物について話していたときのように 酷く鋭いものに豹変していた。 「いくつか聞きたいことがある─ 嘘を言ったり、その他妙なことをすれば撃つ。」 排泄物を見るような目と、完全に見下した調子の声で告げる。 「リミテ・・・査察経過の書類を貸してもらえるか?」 長官の額に銃を突きつけたまま、コミューンが話しかける。 「えっ・・・?う、うん。 いいけど─」 リミテが、アタッシュケースを開けて書類を取り出す。 ─ダァン!! 乾いた音が、室内に響く。 「妙なことをすれば撃つと─ 言ったな?」 コミューンが念を押すように再度長官の額に銃口を向け、問いかける。 発射されたのは、マズルフラッシュだけの空砲。 先ほど銃を弄っていたのは、これだったのだろう。 どうやら長官は緊急呼び出しボタンに手を伸ばそうとしていたようだ。 コミューンはそれを見逃さなかった。 意識の警戒レベルが高まっている現在のコミューンにとっては、当然かもしれない。 リミテは少し落ち着きを取り戻し、調査書類をコミューンに手渡す。 コミューンがそれを開いた右手で開くと、そこには細々とした備品リストが 記載されており、その一番下に「全備品規定合格」とリミテのサインが直筆で書かれている。 ─それを、長官に突きつける。 「─ここに記載されているもの・・・つまり、リミテが調査した分は問題が無いわけだが、 ここに記載されているもの以外で、規定に引っかかるものが─あるな?」 コミューンが高圧的に問いただす。 ほんの少し間が空く。 ─ほんの数秒のことが、何分にも感じられる。 長官の額から汗が流れ落ち、ゆっくりと頷いた。 「51階層を・・・調べたのか。いろいろ、出てきただろう─?」 コミューンがリミテの様子をうかがい見ると、リミテが返答をする。 「ええ、いろいろ出てきましたよ・・・長官。 私が見たのは、規定の威力を超えた 銃器類や爆発物でしたけど。 コミューンが見たものはそれらとは程度が違ったようですね。」 リミテも徐々に冷徹な声色に変化する。 リミテにも、コミューンの考えがだんだんと判ってきた。 先ほど襲い掛かってきたエイン帝郷区の兵と思しき男たちの─ カルナという男の目的。 長官たちの目的もそうだが、「それ」の入手経路などを、 事前に調べておく必要がある。 「起爆信管入りの・・・プルトニウム燃料棒─しかも、200kg近くあるな。」 それは、場を凍りつかせるためには十分すぎる威力を持った言葉だった。 リミテの顔が一気に蒼白になったのが、見なくてもわかる。 リミテは口元に両の手を当て、信じられないといった面持ちでコミューンを見つめる。 「ご丁寧に起爆信管まで付けておいて、発電燃料とかいう言い訳はするなよ? お前らの使用目的はさておき、その入手経路は教えてもらおうか。」 プルトニウム─アクチノイドと呼ばれる放射性有毒物質の一種で、 見た目は白銀となんら変わりはないが、恐ろしい破壊能力と汚染能力を併せ持つ。 現在の汚染された大地を作った主な直接の原因の1つ。 旧世界では、各国が弾頭に搭載し、最終兵器として用いていたという。 その禁断の力を象徴するかのように名づけられた名前。 「プルトニウム(冥王の遺産)」 人間が手を出してはならなかった、異界への扉を例えるかのように。 200kgもあれば、この居住区塔は跡形も無く消し飛ばすことができるだろう。 ─それこそ、支柱破壊による倒壊などとは言わずに。 この塔丸ごと。 過去の悪夢を繰り返すつもりなのか、この愚かしい人間たちは。 コミューンの、拳銃を握る手に力がこめられる。 「─だめよ! コミューン!!」 リミテの叫びにも似た言葉で、コミューンはふと我に返る。 そうだ・・・撃ってしまったら意味がない。 憎しみに任せて行動することなど、自分の最も嫌う愚行の1つではないか。 憎悪は憎悪を生む。そう、わかっているはずではないか─ その迷いが、コミューンの反応を遅らせた。 リミテも、コミューンを制止することに気を取られていた。 事態に最も早く気付いたのは、他の誰でもない─ パシアだった。 パシアの淡紅色の瞳が一瞬で深紅に変わり、駆け出す。 「 ─コミューンっ!!」 16歳の少女が発揮し得る運動能力ではなかった。 一瞬で、コミューンの懐に飛びかかる。 その衝撃に、コミューンはバランスを崩してその場に崩れ落ちる。 ─カシャンッ・・・ パシアとコミューンに、生暖かいものが降り注ぐ。 これは─ 血だ。 見上げれば、額を撃ち抜かれた長官がそこに立っていた。 狙気─ かなり遠くからだ。 距離にして600mといったところか。 遠方─空中に、黒い点のようなものが見える。航空機のようだ。 すぐさま銃器をイメージに置き換える。 ─白い蛇、いや・・・ 狙撃ライフルから、何かに持ち替えたようだ。 その姿は・・・3つの頭を持つ狂犬。 先ほど見えた蛇は、尾となって顕れる。 ─地獄の番犬、ケルベロス。 それを実際の銃器に置き換えると・・・まずい。 コミューンはパシアの髪をそっと撫でると、言った。 「─ありがとうな、助かったよ。 ─リミテ、パシアを頼む。」 真剣な面持ちでリミテを見つめるコミューン。 それを察してか、リミテは頷いてパシアの手を引いて部屋の隅へ。 「─あと1つ・・・すまないが、銃をもう1回貸してくれ。」 どうやら、リミテの読み通りらしい。 ここで銃撃戦をするつもりなのだろう。 コミューンも、向こうも。 リミテは自分の拳銃を懐から取り出して、思いとどまった。 51階層でこっそり回収した拳銃・・・型式はラタリナモデル79、俗称LM79。 型こそ古いが、中身は規定違反である高密度液体火薬使用の撤甲弾だ。 それをポケットから取り出すと、コミューンに投げ渡す。 コミューンは右手でLM79を受け取り、初弾を装填する。 同じラタリナ・マイスターか・・・悪くない感触だ。 コミューンの血塗れた顔から、黄金色の目が浮かび上がる。 リミテは、パシアを連れて棚の陰に隠れる。 遠方にあった点が大きくなり、その形容をはっきりと顕す。 ヘリコプター。機動性を重視した、小型のものだ。 ケルベロス─つまりだ。 高速駆動機関砲・・・バルカン砲の掃射が、管理室を襲う。 ─ガシャガシャガシャァァン!! 窓ガラスが一気に割れ、室内のあらゆるものが撃ち抜かれ、弾痕が穿たれる。 地獄の番犬が発する咆哮を感じ取りながら、それをことごとくかわすコミューン。 その視界に、見覚えのある顔が映し出される。 ヘリの横腹にある入り口から機関砲を構える男の姿。 ─ある程度の予想は、していた。 緑色の長髪に、黄金色の瞳。 口元は歪み、コミューンをあざ笑うように。 「─カルナァァァァァァァ!!!」 返り血に濡れた顔で、咆哮を上げるコミューン。 コミューンの声が、カルナの耳に届く。 するとカルナもまた、表情を目一杯歪め、殺意を込めた笑みで応える。 「─コミューーーンッ!!」 機関砲を片手で持ち上げ、その銃口を再度コミューンへ向ける。 ─超高速で繰り出される銃撃・・・すべてが急所狙いの狙撃ともいえる攻撃。 それは、コミューンの知覚処理能力ギリギリのところですべてかわされる。 僅かな動揺が命取りになる状況。 拳銃を構える余裕も与えられない。 ─あちらの残弾は、まだかなりある。 そんな状況を見て悟ったのか、カルナの口元が笑みを浮かべる。 コミューンはそれに危機感を感じた。 自分が攻めたてられることより大きな苦痛。 ─比較にならないほど。 大切なものを奪われる苦痛。 ─銃口が、リミテたちの隠れた棚へと向けられる。 高速駆動機関砲の前では、それは遮蔽物とはなり得ない。紙切れ同然だ。 パシアの容姿に重なる影─ 眩しい笑顔。 安らぐ音色。 『お兄ちゃん─』 ─イヤだ。 コミューンの意識が、弾ける。 コミューンの黄金色の瞳が妖しい光を放ち、無意識に銃口が向けられる。 地獄の番犬・ケルベロス。 ─異界の犬ごときが、何をほざく。 リミテとパシアの、あの優しい2人の命を奪うというのか。 地獄へ、送り返してやる。 ─この手に宿る2匹の獣が。 死神の眼光に後押しされた2匹の狼が、地獄の番犬に襲い掛かる。 「─クレストオブクルツ!!」 噛み砕け。絶え間無い牙が、番犬の体を穿つ。 LM79のそれが、特に効いたようだ。 高密度火薬によって射出された弾丸の先・・・テフロンの弾頭が、 バルカン砲の銃身を抉り取ってゆく。 抉り取られ、形を崩したフレームに、LM85から発射された弾丸が襲い掛かる。 地獄の番犬は、一瞬で無惨に引き裂かれる。 機関砲としての機能は停止し、ただの鉄塊と化す魔獣。 それでもカルナ自身には、その牙は届かない。 すべて機関砲のフレームで受け止めたようだ。 ─カシャァン!! 空薬莢が床に散らばった後、数秒間睨み合いが続く。 憎悪の眼差しで見つめるコミューンと、侮蔑の笑みで見つめるカルナ。 互いの威圧感は、果てしなく強く、重い。 カルナの笑い声が、聞えたような気がした。 第7感の対生物干渉能力・・・テレパシーに似たようなものかもしれない。 カルナは、顔を傾け、あごでコミューンを指すような仕草を取った。 すると、カルナが窓から見える視界から消える。 コミューンは駆け出し、窓から下方を覗き見る。 ─いた。 ヘリコプターが、高速で下降している。 「カルナ・・・誘っているつもりか。」 低い声でそう言うと、コミューンは弾丸を込め直す。 その間にも、ヘリコプターはどんどん下降し、下方区との境目─暗雲の中に消える。 「コミューン─大丈夫?平気?」 「コミューン・・・」 リミテとパシアが隠れていた棚の影から姿を現し、コミューンの傍に寄る。 コミューンの目が、一瞬で優しい目に戻る。 コミューンは銃を2挺、ホルスターとベルトの間に差し込むと、 パシアを向いてしゃがみこんだ。 「大丈夫─ 今も、これからも。パシアは何も心配しなくていい。 俺が、パシアの兄さんの代わりになる。 俺にできることなら、何でも頼ってくれ。 パシアは・・・俺が守る。」 パシアの髪を撫でながら、決心したように誓いの言葉を告げる。 「えっ─」 急な言葉に、パシアは戸惑ったようだった。 そんなパシアを背に、コミューンは再び立ち上がって銃を手に取る。 弾倉を入れ替え、LM85を左手に、LM79をホルスターに。 ─そう、パシアを守る。 害をなそうと降りかかる火の粉は振り払うまでだ。 奴を・・・カルナを、放っておくわけにはいかない。 コミューンの瞳が、再び鋭く輝く。 「リミテ・・・パシアと、プルトニウムを─ 頼む。」 カルナたちの主目的はあの大量のプルトニウムで間違いないだろう。 現状で最も信頼できるのはリミテを置いて他にいない。 そう背中越しに伝えると、コミューンは前へ出た。 「コミュ─」 リミテの声は、途中で途切れる。 声で踏みとどまらせることが不可能だと知ったからだ。 コミューンの身体が、重力につかまって自由落下を始める。 ─高度12000m。 コミューンの無謀ともいえる追走が、幕を開ける─ ─ 深紅の死神 大きな風を受けて、空を走る。 己にぶつかる空気を、そう錯覚して捉えてしまいそうな速さ。 自由落下を始めて20秒少々─速度は限界点の200km/hに達する。 居住区塔の壁面を、駆け下りる。 頸絡の集中を解けば、完全に空に放り出されてしまう。 猛る心を抑えながら、ただ一直線に降りる。 2000mほど降りたところで、下方区との境目である暗雲が目前に迫る。 居住区塔の浄化区画には、大気浄化用のプラントが存在しており、 空気を取り込むための大型ダクトが設置されている。 ここに吸い込まれれば命は無い・・・ かといって、大きく飛び出しすぎれば支柱から大きく離れてしまう。 吸気ダクトを飛び越えて、ちょうど支柱部分に戻ってこられる距離─ コミューンは、壁を蹴る。 宙返りする形となって、吸気ダクトを飛び越える─ 蹴る力を加減しすぎたか、疲れているのか、僅かに距離が足りず、 吸気ダクトに吸い寄せられる。 ─ガンッ!! コミューンの身体が、宙に逆立ちしたような状態で静止する。 開いた右手で、ダクトの先端を掴む。 間一髪・・・だが、安心している余裕は無い。 コミューンは、自分をいさめ、気を集中させる。 「─迅っ!!」 錬気を右手から炸裂させて、外側へと飛ぶ。 右手を中心に回転するような形で、コミューンはダクトから脱出した。 浄化区画から下は、剥き出しの鉄骨。 先日使用したはしごが視界に入る。 コミューンは、幾重にも繋ぎ止められた鉄骨を足場に、作業用通路に侵入する。 ─外側からこんなにも簡単に侵入できる作りなら、特殊工作員がいれば 先日のような爆破作業は容易いだろう。 顔をしかめて、コミューンは急いではしごに向かう。 そこには、先日と同じ汚染大気によって地上が確認できない状態が広がっていた。 コミューンは一呼吸置くと、垂直に駆け下り始める。 視界の状態が段々と透け、2分ほど経ったところで地上が確認できた。 そこでコミューンはようやく駆ける足の力を逆方向に向け、ブレーキをかける。 しかし、着地するために充分といえるような減速は得られない。 何を考えたか、そこでコミューンは、大きくはしごを蹴った。 コミューンの身体は、空へと投げ出される。 そのまま地上へと落下─ することはなかった。 ライノラ帝郷区製のCGW制服の一部である黒いコートが、空中で展開し、 風を受けて一気にコミューンの落下速度が減速する。 それはまるで、パラシュートのように機能し、コミューンはゆっくりと地上に降り立つ。 2日連続で、その足が大地をしっかりと踏みしめる。 「おまえは・・・の・・・を・・・・・・のか?」 土を踏みしめると同時に、コミューンの頭に何かが語りかけてくる。 意識の集中を高めている今は、何となくわかる。 空耳ではなく、何者かがコミューンの意識に語りかけている。 カルナからのものではない。威圧的なものは感じられないが、何か大きな意識。 カルナは、コミューンの前方約50mにいる。 殺気が漲っていることもそうだが、落下中にヘリの姿を確認することができた。 コートが元に戻るとほぼ同時に、カルナが話しかけてくる。 「飛び降りたにしては、ずいぶんと遅かったじゃないか。 何か手間取ることでもあったかな? ・・・ふふ。」 言い終わると同時に、コミューンはホルスターからLM79を抜き、 そのグリップを右手に握る。 小馬鹿にしたような科白だが、カルナの気が殺意に満ち溢れていたため、 その言葉自体には腹が立たなかった。 カルナの右手には、大剣が握られている。 世界に2つと無い宝剣、─エルテ・サヴァーティ。 旧ラタリナ語で、「宿敵に、悪夢の苦しみを」という意味の名前。 その剣を振りかざすだけで、コミューンへの科白が省略できる。 半永久結合素子で精製された、金剛石にも似た輝きを放つ剣。 時折、薄い青の光が、美しく輝く。 その禍々しい名前とは明らかに矛盾するであろう、静かな気配を放つ剣。 神獣を思わせる容姿が、剣の気配・・・剣気からイメージとして感じ取れる。 はたまた天界を統べる大天使か。 対してコミューンの手には、2匹の狼。 ─後は、当人同士の力量による。 コミューンの力が、武器の差をどこまで埋めることができるか。 そこにかかっている。 コミューンとカルナが互いに、ゆっくりと歩き始める。 土を踏みしめる音が、暗く静かな荒野に鳴り、消える。 互いの距離が30mを切ったとき、互いの間に火花が散ったように見えた。 ─そう、感じられた。 ヘリの操縦士が、成り行きをじっと見つめる。 刹那、2人の姿が消える。 ─ガガァン!! 銃声と、金属音の二重奏。 剣を受け止めたLM85が、獣の咆哮─銃弾を放つ。 剣圧によって銃口がずれ、カルナに弾丸は届かない。 2人分の錬気爆発によって、土煙が舞う。 コミューンは剣を受け止めたまま、右手に握ったLM79をカルナに向ける。 カルナが瞬時に1歩退き、剣を構える。 それと同時の発砲。 通常弾とは比較にならない威力を持ったその弾を、サヴァーティの刃が両断する。 カルナの後方─積まれた瓦礫に2つ、弾痕が穿たれる。 カルナの口元がまた、コミューンをあざ笑うように歪む。 「CGWとはいい身分になったものだな。 まあ俺も似たようなものだが─ さあ、始めようかコミューン。 貴様の血で、この大地を赤に染めてやる。」 今のは、前座運動ということか。 ─確かに、コミューンが6年前に右目を失ったとき受けた斬撃よりも、 今の斬撃は遥かに軽いものだった。 とすれば、来るか─ カルナの本領、「神速剣術・斬鉄流」の秘剣。 コミューンは気を高め、2挺の銃に集中させる。 名前の通り、鉄をも両断する剣。ただ銃のフレームで受け止めたのでは、 そのまま押し斬られてしまう。 そして、剣速が遅ければ、慣性力によって斬る対象が後ろに力を逃がしてしまう。 超音速、光にも似た速さの剣を繰り出してくるのだ。 カルナの剣に、意識を集中させる。 カルナの剣と、己の手。そこだけに、意識を集中させる。 カルナが左掌をかざし、剣を鞘にしまうような構えを取る。 「斬鉄の─」 一閃。 荷電粒子砲を思わせる高速の一撃。 LM85のフレームが、高い音を上げてサヴァーティの刃を受け止める。 ─キィン!! カルナは目の前の光景を、目を見開いて見守っていた。 「─こちらの・・・番だな。」 コミューンの瞳が、カルナを見据えて煌めく。 クレストオブクルツ─短銃の絶頂。 目にも留まらぬ速さで複数の標的を撃ち落とす超人の技巧。 剣でそれらすべてを打ち払うことは極めて困難・・・不可能に近い。 コミューンの目が、カルナの身体あらゆる箇所を見据える。 ゆっくりと、処刑台のギロチンを引き上げるように・・・銃をカルナへと向ける。 「終わりだ、カルナ。 ─クレスト・オブ・クルツ!!」 言葉を完全に言い切る前に、弾丸を撃ち放つ。 右足と左腕、腹と右肩、心臓と左足、額と右手・・・ 1つに繋がった銃声が、響き渡り、空薬莢がコミューンの周囲に降り注ぐ。 弾倉の中身を残らず撃ち終え、コミューンは土煙の中に見た。 ─歪んだ、侮蔑の笑みを。 土煙の中から声が響く。 「ふっ・・・く、くくくくくくく─はははははははははははは!!!」 止めようが無いといった笑い声を上げながら、長身の容姿が浮かび上がる。 カルナは、すべての弾丸を打ち払った。 土煙は、打ち払った弾丸によるものだろう。 コミューンはその光景に愕然とする。 ─まずい。 こちらは弾切れだ。 弾倉交換する暇を、カルナが与えてくれるとは到底思えない。 笑い声を抑えると、カルナがまた小馬鹿にしたような口調で言い放つ。 「─こちらの・・・番だなあ? くくくく・・・」 先ほどの斬撃は、加減したものだというのか。─まさか。 ・・・まさか─ 「斬鉄の─ ・・・万閃。」 コミューンは見た。 例えるなら、剣の雨。 ありとあらゆる刃物を世界中から集めて、撒き散らしたら─ こんな光景を見ることができるのだろうか。 大天使の羽根が散り、舞い乱れるように。 両手に握った銃のフレームで、片っ端から撃ち落とす─できるわけがない。 6、7発打ち払ったところで、最初の剣圧がコミューンの体を襲う。 コミューンの集中した意識が、一気に外側へと拡散する。 『パシアは・・・俺が守る。』 『─感覚を掴んだか。 流石だ。』 『─いいじゃない。 私たち、こうして生きてるもの。』 『お兄ちゃん─』 記憶が駆け巡る。 パシアを─ 守る? 流石?・・・この俺が? 生きている? ─こんな状態が? 兄? ─こんな弱々しく、甘ったれた俺が? 俺に何かを守る力なんて、無い。 その力を手にするためなら、何でもできる覚悟で生きてきた。 ティル─ 教えてくれ。 君でも、この俺を責めただろうか─? 「お前は・・・この─」 誰かがコミューンの意識に語りかける。 「お前は、この大地を─ 愛する者か?」 わけがわからない。コミューンは思ったままを言葉にした。 「こんな情けない俺以外なら、誰だって愛してやるよ。 俺は、愛するものを守る力が欲しいんだ!! ─わかったらとっとと失せろこの気違いめ。」 気違い─ まさに今の自分がそうではないか。気が狂いかけている。 コミューンは自嘲の笑みを浮かべた。 「そうか─ やっと答えが聞けて何よりだ。お前の意識は狭く集中していたからな。 ・・・力が欲しいのなら、私を呼べ。 地に足をついてな。私の名は─クシュターゼ。 クシュターゼの、ヘルスティン。 俄かに信じ難いならば、少し力をやろうか─」 ─ 幻聴にしては、出来すぎている。 ヘルスティン・・・地獄の鉱石。 大天使を映し出すあの剣に対抗するために、 地獄に住まう悪魔の力を借りるとでも言うのか。 ─ つまり、悪魔に魂を売るに等しい行為なのだろうか? コミューンの意識が、理性が、揺れ動く心を制する。 刹那、別の言葉がコミューンの意識に侵入してくる。 『人は、生きる─ 大地だろうが、空だろうが、そこに望むものがあるのなら。』 ─その通り。 『俺は、力を手にする─ 天使だろうが、悪魔だろうが、それが望む力なら。』 コミューンの意識が弾け、眼前には無数の刃。 しかし、どういうわけか─ 恐ろしく遅い、いや─ すべての剣が止まっている。 コミューンは更に違和感に気付く。 視界が、いつもよりも数段広い。 ─右目。 コミューンの右目が機能している。 失明状態だった右目。 目の前の刃に映る、コミューンの右目。 深紅の瞳。 淡い紅だったものが、変化している。 「─これが、力・・・?」 そう、答えの無い問いかけをした後、刃が一斉に動き出す。 ゆっくりと加速し始める。 「 ──っ!!」 両手に持った銃のフレームで、脱出に必要なだけ剣を打ち落とす。 そこから剣の雨の降り注ぐ領域の外側へと駆け出る。 駆けながら、弾倉の交換を済ませる。 カルナは剣を振り切ったまま、ほぼ固まっている。 スローモーションで見ることができているのだろうか? ─否。 弾倉の交換をした銃に、初弾を装填する。 あっさりと、銃のスライドが動作する。コートも、重力法則にしたがって下に垂れる。 呼吸も、普通にできる。 コミューンの意とする領域だけ、通常状態に出来るのか─ コミューンがそんな疑問を抱いているうちに、加速は進む。 そして、剣の加速が終わった。 地面が1区画抉り取られたような状態になる。 恐ろしい威力だ─ しかし、当たらなければ意味が無い。 どうやら、時間制限つきの力らしい。 ─が、右目の視認能力は機能したままだ。 カルナが今度こそ、信じられないといった面持ちでこちらを見る。 「こちらの番だな─ カルナ!!」 再度、右目に意識を集中させる。 コミューンの右目が深紅の輝きを放ち、カルナを見据える。 深紅の死神が鎌を振り上げるようなイメージを、カルナは感じ取っていた。 ─先ほどのように、スローモーションのような状態にはならなかった。 ただ、コミューンの目に映る世界は、それまでとは明らかに異質なものだ。 知覚領域が、半端なく大きくなっている。 カルナが迎撃のために構える、剣の意思がわかる。 コマ送りの画像が、一気に頭脳で処理されるイメージ。 絶え間ない連続動作の指示が、コミューンの脳から筋肉へ、小脳から頸絡へ。 カルナの剣に、反応できる。 横薙ぎの剣に銃のフレームを乗せ、回転するようにかわす。 回転しながら、カルナに銃口を向けて発砲する。 カルナの神経も半端ではない反射を見せ、弾丸は柄で受け止められる。 弾丸速度の限界点か。 ─となると、接射しか無いわけだが・・・そこまで近づけてくれそうにない。 先ほどの領域支配にも似たものは、今はもう出すことが出来そうにない。 ただ剣を打ち払い、弾丸をカルナに浴びせようと試みる。 絶え間ない剣と銃とのぶつかり合いが、いつまでも続くかに思われた─ Right-Eye Reloaded...「鳴動」HUMAN of humans'' created by Wiz's 第1章へ第3章へ