『パラドックス』                                
                          text by R−KANA
                                        
 ウサギとカメが競争をした。                          
 もちろん、ウサギの方が足がはやいので、ハンディとして、カメの方が最初にスタート
を切ることにする。遅れてウサギもスタートする。                 
 さて、結果はどうなるだろうか?                        
 ウサギが寝てしまうとか、このカメが特別足がはやいという意地悪クイズとは違うので
答えは、ウサギはカメをあっさりと追い抜いていくということになるだろう。     
 ここでもう一つ、矛盾した考えが浮かぶ。                    
 ウサギがスタートした時、カメがいた位置にウサギが到達する。しかし、カメは遅いな
がらも進んでいるのだから、ウサギより前にいるはずである。次にウサギがカメがいた位
置まで来た時も、カメは更に先に進んでいる。これが延々と続くわけだから、ウサギは決
してカメに追いつけないことになる。と・・・                   
 これを「ウサギとカメ(正式にはウサギでなく、アキレスらしい)のパラドックス」と
いうのだが、どこかで聞いたこともあるかもしれない。               
                                          
 私がこのカメにウサギが追いつけない話に初めて出会ったのは、中学生の頃だった。友
人が教えてくれたのだが、その当時はいくら考えても、現実と食い違う理由がわからなか
った。すなわちパラドックスなのである。                     
 だが、このパラドックス、数学どころか、算数の知識で充分解釈できてしまう問題では
ないだろうか?また、それなら、いったい何がパラドックスを生じさせる原因になってい
たのだろう?                                  
                                        
 このパラドックスの理論上で、はっきりしている要素が二つある。         
 カメよりウサギのほうがはやいという、速度について。そして、カメが進んだ場所まで
ウサギが進むという、距離についてである。                    
 速度と距離・・・この二つを考えるともう一つ、必要であるはずの要素が自ずと見えて
くるのではないだろうか?                            
 そう、時間である。                              
 ウサギが後から追いかけるということは、カメを追い抜くまでにかかる時間が存在する
ことになる。                                  
 数秒でも、数分でも構わないが、ここではわかりやすいように10秒かかるとしよう。
そうした場合、パラドックスの理論上の話には9.9999・・・秒間においてという時
間制限が生じるのだ。                              
 時間の制限がなければ、ウサギはそのうちカメを追い抜いていくだろう。しかし、その