「なぜ???」                                 
 私の頭の中は真っ白になった。                         
「そうか!! さっき屋台で超激辛ラーメンを食べたから、無意識のうちにおなかを摩っ
ていたんだ。」                                 
                                        
 こうして私にかけられた疑惑は雪だるま式に膨れ上がっていった。         
 スリ、ビールガブ飲みの未成年、宗教に逆らう女性、未成年で妊娠した上、酒を飲む。
 数十人に取り囲まれてしまった私は、身動きが取れず、ただ泣くしか出来なかった。 
                                        
 そんな時、天使が舞い降りてきたかのような救世主が現れたのだ。救世主は、英語で通
訳をし、仲裁に入ってくれた。                          
 パスポートを見せて年齢確認、屋台で食べた超激辛ラーメンの話、そして私はタイ仏教
徒ではなく、日本の敬虔なクリスチャンだ、ということで話がおさまり、もちろんスリの
疑いも晴れ、予定通り夜行列車に乗ることが出来た。                
                                        
 おそらく10分間ぐらいの出来事であっただろう。けれども、2週間の貧乏旅行のうち
最も長い時間に、むしろ1年間ぐらい監獄の中に居た様に感じた、今までの人生で最も長
い時間だった。                                 
 でも「もうタイなんてうんざり」なんて思わなかった。救世主、警察官、駅員、野次馬
数十人に見送られチェン・マイへ向かった私は、恐怖体験をしたにも関わらず、暖かいも
のに包まれたような気がして、益々タイという国に魅了されていった。        
  

  
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