人間と酸素

酸素は呼吸によって体内に取り入れられ、血液によって各器官に供給されます。供給された酸素は頭脳の活動に使われたり、運動のエネルギーとして消費されます。体内の酸素消費量は、各組織によってかなりの差があり、全身の臓器・器官のうち最大の酸素消費者である脳は、その重量わずか1.4kgで体重の2%程度ですが、酸素消費量は、全身の約25%にあたります。反面、筋肉のように、酸素をある程度貯蓄できる「ミオグロビン」のような物質の持ち合わせがないため、酸素が供給されても一瞬にして使い果たしてしまいます。もし心臓停止などで血液が止まれば、脳の機能もその瞬間に止まり、意識不明で仮死状態に陥ります。

酸素は、地球上に最も多く存在する(クラーク数49.5)元素で、岩石や鉱物、水、空気の主成分です。1774年に「シューレ」と「プリーストリー」が独立で発見し、1781年に「ラボアジェ」によって酸素と名付けられました。単体は無色無臭の気体で、乾燥気中の無声放電ではオゾンを生ずる多くの金属や非金属、有機化合物と直接反応して酸化物をつくります。また、生物の呼吸に重大な役割を持っており、各種燃料の燃焼にも不可欠な物質です。工業的には液体空気の分留および空気の分別液化、水の電気分解でつくられており、科学工業などの製造原料として多量に使われるほか、高圧ボンベに入れて、酸水素塩や酸アセチレン塩として金属の切断や溶接、また吸入用に使用されています。

人間と酸素の関係

人間の第1のエネルギー源である食物は、消化器官のシステムを通過し、細かく分解されて栄養分となり、血液の流れに吸収され、最終的に体の全細胞に届けられます。そして、その食物燃料は「酸化作用」によって科学的エネルギーとなります。酸化に必要な酸素を集めるのは左右の肺であり、その酸素は血管網を通じて体内のすみずみまで運ばれます。このように個々の栄養分である栄養素が細胞から細胞へ、組織から組織へ、系統から系統へと受け渡しされる間に化学反応が起こり、エネルギーが変換されているのです。また、血液はこれらの過程で生じた老廃物を肝臓や肺を通じて体外に排出する役割も担っています。

人間は、体内のすみずみの細胞まで、休みなく酸素を送り続けなければ生きていけません。その働きをするのが心臓と肺であり、肺には約7億の細胞があるといわれています。細胞から血管に取り入れられた酸素は、心臓のポンプ作用で体内に送られます。心臓は生きている間拍動し続けますが、毎分70回として1日約10万回、80年間に換算すると約30億回も全身に血液を送り続けます。そして、そのエネルギー源は冠動脈から与えられる酸素だけなのです。つまり、血液を送り出す効率は心肺機能にとって死活問題なのです。運動不足や悪食などから生じる血中酸素濃度の低下は、細胞の働きを鈍らせ、やがてさまざまな成人病の原因となります。心肺機能を効果的にリフレッシュするには、濃度の高い酸素の補給を心がけることが大切です。

喫煙と酸素の関係

タバコの煙の中には多くの有害物質が含まれています。代表的なものとしてはニコチン、タール、一酸化炭素、シアン化水素などが挙げられます。一酸化炭素は酸素の200倍以上の力でヘモグロビンと結び付く性質持っています。肺の中に一酸化炭素の混じった空気が多いと、ヘモグロビンの酸素を運ぶ能力が低下します。また、酸素と結び付いたヘモグロビンが各組織で酸素を離すときも、一酸化炭素と結び付いたヘモグロビンがこれを阻害します。一酸化炭素は心筋や骨格筋のミオグロビン(ヘモグロビンに似たタンパク質で、酸素を受け取り筋組織中に貯蔵する役目を果たしていると考えられている)とも結合して、筋肉の呼吸を妨げます。

喫煙家は、一酸化炭素の影響で酸素の供給を妨害されているわけですが、1日に20本程度の喫煙者の場合、タバコを吸っていないときでも、血液中の一酸化炭素と結び付いたヘモグロビンの割合は3〜6%にのぼります。喫煙直後には、この数字が10%を越える場合もあるといわれています。非喫煙者の数値はせいぜい2〜3%ですから、いかにタバコが有害かがわかります。タバコには色々な刺激性の物質が含まれており、これらの刺激性物質が身体の中に入ると、反射的に気管支が狭くなり、十分な酸素を取り込むことができなってしまうのです。

アルコールと酸素の関係

アルコールと酸素には密接な関係があり、酸素は二日酔いの妙薬ともいわれています。適量の飲酒は身体によいとされていますが、アルコール摂取量が増えるほど、酸素の消費量が増加することになるので、酩酊状態というのは一種の酸素欠乏状態と考えられます。アルコールは体内で分解されて「アセトアルデヒド」などになり、さらに分解されて炭酸ガスと水に変わります。化学反応的にいえば、アルコール1分子を完全に分解するには酸素3分子が必要ということになります。酸素が不足するとアセトアルデヒドが体内に残留し、これが二日酔いの頭痛や吐き気、不快感の原因と考えられています。

酩酊状態に関する研究において、興味深い実験結果が報告されています。「健康な医学生20人に対して、30分間にウイスキー180ccを飲ませたところ、大部分の被験者の血中酸素飽和濃度(血液中にどれだけの酸素が溶け込めるかという量)が低下しました。また、飲酒後に運動負荷を与えると、全員の血中酸素飽和濃度が低下しました。しかし、20分間の酸素吸入を行うことにより、血中酸素飽和濃度の上昇をきたすことが確認されました」。この結果から酸素が低下した機能を回復させることが実証されています。

運動と酸素の関係

酸素は人間のエネルギーを生む生命の源です。そして、この酸素をいかに効率よく摂取・消費するかで、身体のエネルギー生産に大きな差が生じます。人間のスポーツ時の酸素摂取量は、通常の呼吸の約5〜10倍以上が要求されます。血管により各組織に運ばれた酸素は、エネルギー発生のための酸化源となり、その結果により発生した老廃物を酸化分解していきます。通常よりも多量のエネルギーを必要とするスポーツ時には、それに応じた多量の酸素量が必要になります。人間の疲労感は「グリコーゲン」から変化する乳酸の蓄積によるものといわれていますが、酸素は乳酸を炭酸ガスと水に分解する働きがあるのです。

酸素は肺から血液中に取り込まれ、体内の筋肉に供給されるため、運動後に酸素吸入を行うことは、筋肉の疲労回復に有効です。世界のスポーツ界では、すでに缶入りボンベなどで試合の合間や後に酸素吸入を行うことが広く行われています。これは疲労回復だけでなく、筋肉に早く酸素を送り込むことで老廃物の酸化分解を助け、試合中の事故や故障を防止する効果があるからです。

有酸素運動と無酸素運動

私たちの身体が働くためにはエネルギーが必要になります。このエネルギーには「有酸素エネルギー」(酸素がなければ発生しないもの)と「無酸素エネルギー」(酸素を必要としないもの)の2種類があります。酸素が発生しないエネルギーというのは、突発的な運動にすぐ役立つ反面、疲労素である乳酸が体内に蓄積されてしまうので、わずか1〜2分程度しか持続することができません。しかし、これに酸素が送り込まれると、乳酸が分解されて新しいエネルギーを生み出します。これが有酸素エネルギーなのです。酸素を運ぶ力の大きさを「有酸素能力」といいますが、この能力を高めると、スタミナや体力を長く保持することが可能になります。

体内に効率よく酸素を送り込むためには、何よりも心臓と肺の機能を高めなければなりません。そのためには、どんなトレーニングよりも有酸素運動(エアロビクス)が効果的といわれています。有酸素運動を繰り返すことで毛細血管が発達して血流がよくなり、その結果、血圧が下がり、コレステロールが取り除かれて心肺機能を高めることができます。

著名医学者語録

野口英世(医学博士) 「すべての病気は酸素の欠乏症である」

ヘンダーソン博士(コロンビア大学教授)「ガンは一酸化炭素の中毒が原因である」

オット・ワールド(ドイツ・ノーベル医学賞受賞)「ガンの原因は酸素の不足による」

ワール・ブルグ(ドイツ・ノーベル医学賞受賞)「ガンの発生原因は酸素の欠乏症による」

浅野牧茂(国立公衆衛生院室長)「酸素は血行をよくする働きがあり、動脈硬化を予防する」

菊池長徳(東京女子医科大学助教授)「高血圧の予防と改善に酸素は著しい効果がある」

谷本晋一(虎ノ門病院・呼吸器科部長)「喘息や疲労回復に酸素は著しい効果を与える」

吉藤高良(筑波大学教授)「酸素を十分に取り入れれば、肺機能を向上させる」

小山内博(元・労働科学研究所所長)「ガン細胞は酸素が不足した細胞に増殖、脳卒中・心臓病・動脈硬化・肝臓病・子宮筋腫などの成人病も酸素不足が最大の原因である」

ラオール・エストリボー(フランス・医学博士)「各種疾病の原因について個別的に研究してみれば、これら一切の疾病が一酸化炭素という毒素に原因することが知られるであろう」

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