G線(ゲーセン)上の潤ちゃん



 ピコピコガガガガドキュンチャカチャカドキュンチャカチャカ

建物に入った瞬間、どう言葉で表現していいのか分からない音の群れが俺の耳に襲いかかる。
ジャズバンドの演奏者は周りの楽器の音に負けないよう、力強い演奏で自分の楽器の音をアピールすると聞くが・・・・・・
これはジャズバンドの演奏とは大きく掛け離れた、ただ大きい音が集まっただけの雑音だった。

 「恭ちゃん、あんまこういうとこ来えへんのん?」

雑音に思わず顔をしかめた俺を見て、哲平が苦笑しながら問い掛ける。

 「おそらく片手で数えられる回数しか来たことないと思う。
  俺、普段からゲームはやらないから。」

そう、今日は哲平と潤ちゃんと3人でゲームセンターに来ていた。
この雑音はゲームセンターに所狭しと置かれている、色とりどり大きさとりどりの機械が出しているものだ。

当初、ゲームセンターに入る予定は無かった。
元々はカラオケに行く予定で集まっていたのだが、
奈々子のバイトが延びるということで、少々時間を潰す必要が出てしまったのだ。
先にカラオケに入ると奈々子に怒られるし、かと言ってサイバリアに入って待つほどの時間があるかどうかは微妙。
他に時間を潰せる手段は・・・・・・と考えたとき、カラオケボックスに併設されているゲームセンターが目に入ったのだ。

 「私、ゲームセンターなんて初めて来ました。
  ホームセンターなら兄さんと来たことあるのですが。」

 「潤ちゃん、相変わらずオモロイこと言うなあ・・・・・・」

凄まじいボケをカマした潤ちゃんに哲平が妙な関心の仕方をする。
同じボケでも天然の場合は破壊力が違うことを改めて実感したようだ。

それはそれとして、潤ちゃんの境遇を考えればゲームセンターに来るのは初めてだろうなぁ・・・・・・。
浩司さんとホームセンターに何をしに行ったのかも気になるところだが。

 「哲平、ゲームセンターに入ったはいいけどこれからどうする?
  俺達はどうしていいのかも分からないぞ。」

いつまでも3人揃ってボーッと入り口に突っ立っている訳にもいかないので、
唯一この中で場慣れしてそうな哲平に判断を委ねる意思を示した。

 「うーん、さすがに2人とも殆ど知らんとなると・・・・・・適当に歩き回るしかないやろ。
  何かオモロそうなもん見つけたらオレが説明するわ。」

 「わかった。
  潤ちゃんもそれでいいよね?」

 「はい。」

こうして俺達は哲平を先頭にゲームセンターの奥へ足を踏み出したのである。

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

 「とりあえずコレなんてどやろ。」

入り口からほど近いところで足を止めた哲平は、
『ぬいぐるみ』やら『お菓子』やら『怪しい人形』やらの詰め込まれた大きな箱が並んでいるブースを指さした。
十数年くらい前には社会現象にもなったほどだから、さすがの俺でもこの機械が何物かは知っている。

 「UFOキャッチャーか。
  俺、聞いたことあるだけどやったことはないぞ。」

知っているとは言え、やったことはないけど。
だからひとまず哲平に見本を見せて貰いたいなぁ・・・・・・

 「UFOキャッチャー!?
  未確認飛行物体はゲームセンターにいたのですか。」

と思ったタイミングで、再び潤ちゃんのボケが炸裂した。

 「そうやで。
  かの有名な801のオッサンも商売上がったりや。
  な、恭ちゃん?」

 「しょうもないウソつくなよ、哲平。
  UFOキャッチャーは機械の中に入った『ぬいぐるみ』とか『お菓子』を
  UFOに似た形のクレーンで掴んで外に出してあげるゲームだよ。」

哲平も哲平でさぞかし当たり前のようにボケを返したので、自分の知っている範囲で正しい説明をしてあげた。
間違ったことを覚えてしまったら、何処かで恥をかいてしまうかもしれないのだから。

 「補足説明サンキュ、恭ちゃん。」

 「何も補足してないから。一から説明してるから。」

・・・・・・端っからまともなこと一つも言ってなかったくせに。
つか、801のオッサンは潤ちゃんにも分からないだろう・・・・・・。

哲平を相手にしてもこれ以上は無駄だと思ったので潤ちゃんに視線を移すと、
彼女は彼女で目をキラキラさせながらブツブツ何かを呟く、『誰がどう見ても怪しい』モードに入っていた。

 「どうしたの?」

 「ぬいぐるみ・・・・・・」

潤ちゃんが期待に満ちた目でこちらを見る。
・・・・・・ものすごーい、欲しい欲しいオーラを発していた。

 「恭ちゃん、ここが男の見せどころやで。」

哲平も潤ちゃんの欲しい欲しいオーラに気付いたのか、俺にやらせる気満々でけしかけてきた。

 「無茶言うなよ・・・・・・やったことないって言ってるだろう。」

 「そこは、なあ、愛のパワーで。」

 「愛のパワー・・・・・・」

ああ、そんなこと言うから潤ちゃんの目が更に輝きを増したよ。
ここまで反応されたのに俺がやらなかったら、哲平から一生のネタにされそうだ。
ついでに言えば、ぬいぐるみが取れなかったら取れなかったでまた一生のネタにされそうだ。

 「わかったよ。
  でも初めてだからあまり期待はしないで欲しい。」

俺は覚悟を決めてUFOキャッチャーの前に立った。
筐体の中には、ビックサイズの可愛らしいヒヨコのぬいぐるみが詰め込まれている。
・・・・・・はて、このぬいぐるみでいいんだろうか。

 「ヒヨコのぬいぐるみなんだけどこれでいい?」

 「はい、真神さんに取って頂けるのなら何でも。」

またそんなプレッシャーになることを言う。
ただ、潤ちゃんのその言葉に勇気を貰ったことも確かであり、我ながら何とかなりそうな気もしてきた。
哲平の言った通りここは男を見せてやるか。

   ・
   ・
   ・
  (中略)
   ・
   ・
   ・

 「ああっ!また!」

 「ヘタクソやなぁ〜、恭ちゃん。」

陽気な音楽に乗せて空のクレーンが元の位置へ帰ってくる。
投入した500円玉は3枚、クレーンを出撃させること8回、戦果なく帰還すること同じく8回。
しかも狙っているヒヨコは、その場からちっとも動いてくれない有様だった。
そもそも、ぬいぐるみを掴んで持ち上げられる気配がないのはどういうことだ。

 「これ、ちゃんと掴めるのか?」

 「アームのバネが弱いから無理やと思う。
  ヒヨコの脇の部分に隙間があるやろ、そこへアームを縦に挿し込まなあかん。」

・・・・・・そういうことは先に言ってくれよ。

 「哲平、残りの1回で見本を見せてくれないか。」

 「恭ちゃんが自力でどこまで頑張るか見たかったんやけど・・・・・・ま、ええやろ。」

俺が場所を譲ると、哲平はクレーンの前に立って腕組みをする。
そして、ブツブツ何かを言いながら筐体の中を真剣な表情で覗き込み始めた。

 「深くまでアーム挿さんとあかんから・・・・・・この方法しかあらへんよなぁ・・・・・・」
 「いや、転がす方が・・・・・・」
 「いやいや、重心の関係で奥に転がってまう・・・・・・」

何を言ってるのか俺にはサッパリ分からない。
分かるのは哲平が場慣れしているってこと・・・・・・こういうの得意そうだもんなあ、こいつ。

 「よっしゃ、この方法でいこ。
  待ってろよヒ〜ヨコちゃ〜ん。」

最後はル〇ン三世の物真似だろうか、
気合入ってるんだか入ってないんだか分からないこと呟きながら、哲平はクレーンを動かすレバーを力強く握った。

 「・・・・・・」

が、握ったところで何故か哲平の動きが固まる。

 「どうした?」

先程と明らかに様子が違うので何事かと尋ねてみると、

 「やっぱオレが指示出すから潤ちゃん動かして。」

なんと潤ちゃんにクレーンを操作させることを提案してきた。

 「えっ!私ですか!?
  そんな、無理だと思いますけど・・・・・・」

 「大丈夫や、オレの指示通りに動かしたら何とかなるよって。」

俺だって哲平がこんな提案するとは予想もしてなかった訳で、当の本人である潤ちゃんが驚くのも無理は無い。
いや、いくら哲平が指示を出すと言っても難しいのではないだろうか・・・・・・。

 「こういうんは自力で取る方が絶対ええし、おもろいやんか〜!
  しかも取れたら恭ちゃんに自慢できるて云う豪華特典付やで?」

哲平はもっともらしいことを言って更に潤ちゃんを煽る。
最後の言葉は余計・・・・・・というか、そう言われたら潤ちゃんは絶対にやりそうだ。

 「わかりました、やってみます。」

ほら、やっぱり。
なんかこのまま『自慢される展開』になりそうで怖いんだけど・・・・・・。

   ・
   ・
   ・
  (中略)
   ・
   ・
   ・

 「ふふふ、ヒヨコさんが取れました。」

 「よ、よかったね。」

インド人もビックリするであろう予想通りの展開が待っていた。
最後はクレーンのアームからヒヨコが抜けなかったため係員の人を呼んで判断を仰いだのだが、
ちゃんとキャッチしていることが認められ、無事ぬいぐるみを手に入れることに成功した。

 「真神さん、私でも取れました!」

そう言いながら潤ちゃんは嬉しそうにヒヨコのぬいぐるみを胸元でギュッと抱きしめる。

 「潤ちゃんもオレもやれば出来る子やもんな〜!」

 「はい、やれば出来る子、です。」

続いて哲平が潤ちゃんを褒めながら、手に持ったもう一体のヒヨコを俺に見せつける。

 「はいはい、どうせ俺だけスカですよー。」

二人に釣果(?)を自慢された俺は大人げなくイジケてみせた。
見せつける君達も大人げないんだからいいのさ。

ちなみに哲平の持っているもう一体のヒヨコは、アームに引っ掛かったお詫びにと、
店員がもう一クレジット入れてくれた分でキャッチしたものだった。
潤ちゃんのプレイが最後の一回だったので、本来なら哲平がプレイすることは無かったんだが・・・・・・。
つか、その一回でゲットしてしまう哲平も哲平だ。
お前が上手過ぎるんだよ。

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

 「ほんなら他も見てみよか。」

まだ奈々子からバイト終了の連絡が無いため、
他に時間を潰せるものがないかと再びゲームセンター内を歩き回る3人。
UFOキャッチャーブースを抜け、続いてガンゲームが並ぶコーナーも抜けようとしたそのとき、

 「おっ、あれなら潤ちゃんもできるんやないか?」

と言って哲平は力強く前方を指さした。
その指先を追ってみると・・・・・・そこには派手なライトをチカチカ光らせながら音楽を流している大きな筐体が一台。
真ん中に大きな画面、両サイドにピアノの鍵盤のようなもの7つとレコードプレーヤーみたいなもの1つ、
そしてその手前には『ここに立ってください』と言わんばかりの存在感を放っているステージが用意されている。

 「・・・・・・これは?」

 「『beatmaniaIIDX』。
  ま、内容を簡単に説明すると音楽を演奏するゲームや。」

へえ、音楽を演奏するゲームか。
もしかすると潤ちゃんが好きそうなゲームかもしれないな。

 「どのように演奏すればよいのですか?」

潤ちゃんも少し興味を持ったようで、哲平にその遊び方を尋ねた。

 「画面の上から四角いオブジェクトが降ってくるよって、
  一番下にきたときタイミングよく対応する鍵盤を叩いたらええ。」

 「そうは言うけど潤ちゃんには画面が見えないぞ。」

いくら潤ちゃんがピアノを弾けるからと言って、いくらゲームがピアノみたいな鍵盤を使うからと言って、
正しい弾き方を指図する画面の情報を認識できなければ難しい代物だと思うんだが。

 「確かに画面が見えへんと難しいゲームなんやけど、
  音と曲さえ覚えてしもうたら、充分可能やと思うで?
  潤ちゃんやったら普段からピアノやっとるし、音感もええし
  案外いいセン行くんとちゃうか?」

 「うーん、そうでしょうか・・・・・・。
  私にはちょっと難しそうに思えるのですが。」

いや、ちょっと難しそうなんてもんじゃないだろう・・・・・・。
要は演奏する曲と鍵盤の音を暗記しろと言ってるのだ。
いくら音楽に精通している潤ちゃんでもさすがに厳しいような気がする。

 「ま、適当に音鳴らすだけでもオモロイよ。
  自分が演奏してる気になればええんやから。」

 「適当に鍵盤を押すだけなら私にもできると思います。」

潤ちゃんもゲームの内容はやっぱり気になるようだ。
難しそうとは言ったものの、決して拒否する言葉を口にしていないところからその様子が窺える。

 「ただ、鍵盤だけやなくて皿・・・・・・っつーても分からへんか。
  ターンテーブルいうレコードプレーヤーみたいなんも触らなあかんのや。
  ほら、DJがグルグル回すやついうたら分かるかな。」

 「ダグ・ジェニングスさんがグルグル回すのですか。」

 「そうや。ヤツも期待されつつ意外に大型扇風機なところがあってん。
  ・・・・・・って、そりゃ元オリックスの外人選手やがな!」

・・・・・・もはや俺には分からないレベルの会話が繰り広げられていた。
潤ちゃんがボケて哲平がツッコんだことだけは分かるのだが。
ダグ・ジェニングス?オリックス?

 「なんで潤ちゃんがそんな微妙な助っ人外国人知ってんのやろ・・・・・・」

今の潤ちゃんのボケは、哲平にとってもかなりレベルが高かったようでしきりに感心していた。
『助っ人外国人』ってことは野球の話かな。
もしかすると浩司さんが野球好き、もしくは剛三氏が野球好きだったのかもしれない。

 「ま、とにかくいっぺんやってみよか。
  曲は・・・そやな、最初やし一番簡単なのがええかな・・・。」

 「よろしくお願いします。」

百聞は一見に如かず、いや潤ちゃんの場合は『一見』ではないんだが、
結局のところツベコベ言わずにまず遊んでみることが第一、という結論に達した。

 「足元きいつけてな。」

哲平は段差に躓かないよう潤ちゃんをエスコートしてステージの上に乗せてあげると、
潤ちゃんの手を取って鍵盤やレコードプレーヤーみたいなやつの位置を説明し始めた。

 「これが鍵盤。」

 「手前に4つ、奥に3つあるんですね。」

潤ちゃんは真剣な表情で哲平の説明を聞きながら、細く綺麗な指を流れるように動かして鍵盤の位置を何度も確かめる。
いかにもピアノを弾く人間って感じの指の動きだ。

 (結構やる気満々っぽいなぁ。)

まあ、ゲームで遊ぶ潤ちゃんを見るのも新鮮で面白いかもしれない。
ここは一つ後ろから沢山エールを送ってやろう。

・・・・・・と、何故か哲平が呆れたような顔でこちらを見ていた。

 「どうした?」

 「なにボケーっと突っ立ってるんや恭ちゃん。
  隣で一緒にやらなあかんやろ。」

 「お、俺も!?」

さすがにそれはご遠慮願いたいんですけど・・・・・・。
だが、

 「私も初めてですから一緒にやりましょう。」

潤ちゃんの眩しい笑顔とその一言が許さなかった。
言葉だけならまだしも、そんな期待に満ちた顔をされたらやらない訳にはいきません。
正直言って反則です、それ。

 (ああ、もうどうにでもなれ。)

俺はステージに向かって足を一歩踏み出した。

 ・
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 ・
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 ・


 −−−−−−−−−−
   PIANO AMBIENT
      5.1.1
     dj.nagureo
 −−−−−−−−−−


タイトルが表示され曲が始まった。

画面の上から流れてくる白と青の四角いオブジェクトとたまに流れてくる赤のラインが、
一番下に到達したタイミングで対応するボタンを押せばいいだけ、という非常に明解なルールである。
・・・・・・のだが、耳でルールを聞くのと実際にやってみるのではえらい差があるものだ。
哲平曰く、一番簡単な曲らしいのだが、

 ポロン、パロン、バビョン、ビロビロ・・・・・・

ちっとも上手く弾けない。
確かに上から落ちてくるオブジェクトは数が少ないし速度も遅い。
だが、そもそも鍵盤を上手く押せないのだ。

自分では押してると思っても、実際は鍵盤と鍵盤の間を叩いていたり、
自分ではすぐ隣の鍵盤を押したと思ったのに、実際は一つ先の鍵盤を叩いていたり、
全く演奏になっていないただの雑音を生み出してしまっている。

横にいる潤ちゃんの手元をチラっと見てみると、彼女も上手く鍵盤を叩けず四苦八苦しているようだった。
やっぱりいきなりピアノの鍵盤と同じようにはいかないらしい。
しかも彼女には画面が見えないため、音を鳴らすタイミングも随分と外しているみたいだ。

 ・・・・・・バイン、ボイン、ビヨヨヨーン

ようやく曲が終了した。
きちんと弾けたかどうかを表すステータスバーは、当然ながら二人とも最低の『2%』を指している。
俺と潤ちゃんが織りなす初めてのアンサンブルはホロ苦い結果となってしまった。

こんな有様では他の曲ができるとも思えず、2曲目も同じ『5.1.1』を選んだが結果は同じ。
何事にも向き不向きはあるものだが・・・・・・俺にはどれだけ頑張ってもできない代物に思えた。
逆に潤ちゃんは最後の方で鍵盤の位置に慣れた気配を見せていたから、案外向いているのかもしれない。
・・・・・・普段から音楽に関わっているんだから当たり前か。

 「どうやった?」

後方から眺めていた哲平が初プレイの感想を聞いてきた。

 「俺には難し過ぎるよ・・・・・・」

 「自分で弾いている感覚があって面白いですけど、
  私みたいに画面が見えないのは致命的ですね。」

俺と潤ちゃんの感想は明らかに方向性が異なった。
完全に諦めモード入っている自分に比べ、潤ちゃんの言葉は前向きというか対応策をなんとか模索しようとしている感じが窺える。
もしかするとこのゲームが気に入ったのかもしれない。

 「暗記しようと思えばできんことないと思うで。」

 「うーん、それも大変そうですよね・・・・・・。
  ところで真神さんの弾いていた音が正しい音だったのですか?」

 「あかん、恭ちゃんのは参考にならんわ。」

 「悪かったな・・・・・・。」

俺の演奏は問答無用でダメ出しされた。
そりゃ自分でもダメだと思うんだから言われても仕方ないと思うけど。

それよりも潤ちゃんの一言が気になった。
正しい音かどうか確認すると言うことは、本気でやるつもりなんだろうか。
頑張りやさんの潤ちゃんのことだから・・・・・・

 (いや、さすがの潤ちゃんでもこれは厳しいよ。)

どう弾けばいいのか譜面を暗記するのはピアノの演奏も同じだが、
ピアノのように鍵盤の音が常に固定されている訳ではないため、
鍵盤を叩いたときに鳴る音も暗記しなければならないからだ。

と、哲平がポケットから素早く携帯を取り出した。
彼の手の中でブルブル震えているのが見えたので、おそらくは奈々子からの連絡だろう。

 「おっ、奈々ちゃんからメール入ったで。
  なになに・・・・・・いまサイバリア出てこっちに向かっとるそうや。」

案の定、奈々子からのメールだった。
ようやくサイバリアのバイトが終わったらしい。

 「じゃあカラオケ屋の前にいるか。」

 「そやな。」

 「はい。」

カラオケ屋の前で待っていようという話になり、我々は色々と貴重な体験をしたゲームセンターを後にした。
俺にとってはできることなら忘れてしまいたい体験ばかりだったが、潤ちゃんが楽しそうだったからよしとしよう。

なお、ゲーセンを出るときに潤ちゃんが哲平に何かを耳打ちしていた。
このときは何を話しているのか、特別気にもしていなかったこともあり分からなかったが、
その真相は一週間後の同じゲームセンターで知ることになるのであった。

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それから一週間後。

 「まずは『5.1.1』をお願いします。」

 「了解。」

前と同じメンツ+奈々子を加えた4人は、再びゲームセンターにある『beatmaia IIDX』の前にいた。

 「でも、潤ちゃんが『ゲームセンターに行こう』って言うとは思っていなかったよ。
  しかも来てみたらニデラでしょ。」

 「先週、奈々ちゃんがバイト終わんの待っとる間にかくかくしかじかやってん。」

『今日はファミレスでも行こうか』と話していた矢先、
珍しく潤ちゃんからゲームセンターに行きたいと言ってきたのだ。

目的は先週プレイした『beatmania IIDX』へのリベンジ。
初めてプレイしたあの日、表情にこそ出ていなかったが内心は凄く悔しかったらしい。
それがピアニストとして譲れないプライドなのだろうか。

確かにその気持ちは俺にも分からないことはない。
だから、喜んで潤ちゃんにリベンジの機会を作ってあげよう・・・・・・と思うまではよかったんだが、

 「へえー、ニデラは奈々子もやるから今度一緒にやろうね。」

 「だったら今やっていいぞ。
  と言うか、何でまた俺がやらなければいけないんだよ。」

また俺がステージに上がっていることが問題だった。
できるんだったら奈々子が一緒にやればいいじゃないか・・・・・・。

 「そりゃなぁ、恭ちゃんが横におれば潤ちゃんも嬉しいやろし。」

 「それなら別にプレイしなくてもいいじゃないか。」

 「見習い男らしくないぞ!」

だが、哲平も奈々子もステージから下りることを許してくれなかった。
横に立っている潤ちゃんは、ニコニコしながら俺の方に嬉しそうな顔を向けている。
・・・・・・こんな顔見せられたら嫌だなんて言える訳がない。

 「ほら、曲が始まるで。
  恭ちゃん前向かなあかんよー。」

 「ああ、もうどうにでもなれ!」

俺は覚悟を決め、両手を鍵盤の上に置いた。

   ・
   ・
   ・
 (演奏中)
   ・
   ・
   ・

 「ふうっ。」

『5.1.1』を弾き終えた。

 パチパチパチ!

後ろで見ていた哲平と奈々子が、驚きの表情を見せながら拍手を送る。

 「なんや二人ともえらい上手なったやん!」

 「見習いもやればできるじゃん。」

3回目ともなると自然に身体が覚えているものなんだろうか、
かろうじてというレベルだが、俺にもなんとかクリアすることができた。
半ばヤケクソになったのが功を奏したのだろうか、自分でもビックリである。

 「ま、間違えずに弾けましたか?」

 「完璧完璧。恭ちゃんなんか目やないで。」

 「悪かったな、これでも頑張った方なんだよ。」

対する潤ちゃんはもっと凄かった。
フルコンボ−−−つまり一カ所も間違えずに弾いたのである。
簡単な曲とは言え、盲目の潤ちゃんが弾くのは普通の人が弾くのと訳が違う。

 「お見事だね。
  でもどうやって曲を覚えたの?」

 「あ、それはですね・・・・・・」

潤ちゃんは少し恥ずかしそうにその真相を打ち明ける。
要約するとこういうことらしい。

 ・サントラを聴いて曲を覚える
       ↓
 ・ゲームで素の状態(鍵盤を打たない状態)の曲を聴く
       ↓
 ・その曲の鍵盤の音を覚える
       ↓
 ・頑張って弾く

基本的に『Beatmania IIDX』は音を正確に鳴らさなければいけないゲームなので、
マスターの曲と何も叩かない状態の曲、そして鍵盤の音を覚えれば、盲目でも決してプレイできない訳ではない・・・・・・らしい。
勿論、そのためには並々ならぬ努力が必要になる訳だが。

で、その努力のためになんと潤ちゃんは、サントラとゲームとコントローラを用意したと言う。
先週ゲームセンターを出るときに哲平と話していたのは、
この練習に必要な機材(?)を揃える方法を聞いていたのだそうな。

 「ただし、音がはっきりしている曲でないと難しいですね。
  スクラッチの位置とかどうしても分からないところは兄さんに教えて貰いました。」

いや、それを暗記してしまうところが凄いと思う。
そして潤ちゃんにスクラッチの位置を教える浩司さんを想像すると、ちょっとだけ微笑ましかった。

 「潤ちゃんは他の人間より多く努力しなあかんねん。
  十分過ぎるくらい立派やで。」

 「そうだよ、見習いより明らかに上手いもん。」

 「ほっとけ・・・・・・」

 「ふふふ」

ゲームなんてやらないうえに音感があるとは言えない俺が、きちんと練習した潤ちゃんより上手い筈がない。
哲平や奈々子みたいな『何でも無難にこなせる器用さ』もないから順応が遅いし。
ただそれはそれとして、今回の潤ちゃんの努力は認めてあげないといけないと思う。
だから、

 「頑張ったね。」

と褒めながら潤ちゃんの頭を撫でてあげる。

 「ありがとうございます。」

対する潤ちゃんは、頭を撫でる俺の手に身を委ねて嬉しそうな表情でお礼の言葉を返した。

 「そや、イチャイチャしとる場合やない。
  FREEモードやからもう一曲選ばなあかんのや。
  潤ちゃん、次はどれがええ?」

 「それでは・・・・・・『V』をお願いします。」

 「なんやて!!」
 「マジ!!」

潤ちゃんの指定した曲を聞いて、オーバーリアクション気味に驚く哲平と奈々子。
漫画ならおそらく目が飛び出している絵を描かれているところではないだろうか。

 「それ、難しいのか?」

 「こと潤ちゃんにとっては、ムズいとかそういう括りで考えてええのかも分からへん。」

哲平曰く、『V』と言えば今でこそ高難易度の曲でも簡単な部類だが、
盲目の潤ちゃんが叩くには無理があるような代物らしい。

 「・・・・・・潤ちゃん、本当にいいの?
  奈々子でも安定するまで結構時間掛かったよ。」

 「この曲はヴィヴァルディ『四季』の『冬-Allegro non molto』ですからね。
  元はバイオリンメインの曲ですが、ピアノで弾いたこともありますので大丈夫だと思います。」

 「そういう問題やないと思うけどなぁ・・・・・・」

潤ちゃんの口から発せられる言葉に唖然としながらも、哲平は曲リストの『V』にカーソルを合わせる。

 「スクラッチはどないする?」

さすがにスクラッチは無理だろうと、哲平が念のため聞いてみたのだが、

 「勿論、皿も使いますよ。」

 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」

仰天の返答が返ってきた。
しかも『スクラッチ』を『皿』と言ったぞいま。

 「下手ですけど笑わないでくださいね。」

驚きで全く言葉も出ない俺達を余所に、軽く一声掛けて臨戦体勢に入る潤ちゃん。
鍵盤の上に置いた手の構えかたから、明らかに「やる気」が伝わってきた。

 (もしかして本当に弾けてしまうのではないだろうか。)

そんなことを考えながら俺は『V』を選曲する。


 −−−−−−−−−
   PROGRESSIVE
       V
      TAKA
 −−−−−−−−−


曲名が表示され待つこと数秒、いよいよ曲が流れ始め・・・・・・

 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ!!

 「ええっ!?」

たと思ったら、隣から猛然と鍵盤を叩く音が聞こえてきた!
反射的に横へ視線を向けると、そこには目を瞑りながら凄まじいスピードで指を動かす潤ちゃんが。
続けて後ろの哲平と奈々子を確認すると、2人ともだらしなくポカンと口を開けて彼女の演奏を見ていた。

 GREAT25...GREAT26...GREAT27...GREAT28...29...30...31...

しかも規則正しく上がり続けるコンボカウンター。
コンボもきっちり繋げている・・・・・・潤ちゃん恐ろしい子!!

 「真神さん、手が止まってますよ!」

 「む、むりですっ!!」

潤ちゃんは鍵盤を叩きながら、大音量に負けない大きな声で止まっている俺の手を指摘する。
当たり前だが俺なんて問答無用に落ちてくるオブジェの前になすすべもない状況だ。
『5.1.1』でも四苦八苦している人間にできる代物ではない。

もう諦め入った、というかこのまま続けると潤ちゃんの足を引っ張り兼ねないので、

 「俺が弾いてたら集中できないと思うから!」

と叫んで素直にステージを下りた。
試合放棄したみたいで格好悪かったが、今回に限っては懸命な判断だと思う。

そして俺は哲平の隣に立ち、再び潤ちゃんの画面に目を移した。

 GREAT70...GREAT71...GREAT72...GREAT73...74...75...76...

きっちり繋いでるよ!!
実は目見えてるんじゃないだろうか・・・・・・つか見えてるとしか思えません。

 「この曲はここからが楽しいんですよっ!!」

大きな声で嬉しそうに3人に向かって叫ぶと、潤ちゃんの指の動きは更に加速していった。

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

 チャッチャラチャチャチャチャチャチャ ジャーーーーーン

終わった・・・・・・ようだ。
滝のように流れてきた四角いオブジェクトは、もはや夢にまで出てきそうなほど凶悪なものだった。
俺には一生掛かってもできそうな気がしません。

程なくしてリザルト画面に切り替わる。
歓声のような声とともに、そこには『STAGE CLEAR』の文字が表示された。

 「スゲー・・・・・・。」

もうその一言しか言葉が出ない。
勿論、これは潤ちゃんが血の滲むような努力をしたからこその結果なのだが、
その前に彼女が天才ピアニストだということを改めて実感させてくれる美しさがあったのだ。

当の本人は、未だ唖然とした顔を並べた3人の方に振り向くと、

 「うーん、3ヶ所も間違えてしまいました・・・・・・。」

僅かに間違えた個所を本気で悔しがっていた。

 「そういう問題やないわ!!」

 ポカリ!

 「いたっ!
  何で俺を殴るかなあ。」

潤ちゃんの『クリアするのは当然』と言わんばかりの反応に、すかさず哲平が強烈なツッコミを・・・・・・俺に入れた。

 「オレに潤ちゃん叩ける訳ないやん。
  恭ちゃんは潤ちゃんの身代わり役。」

 「そんなムチャクチャだなあ。」

 「ふふふ。」

まあ、潤ちゃんを叩けないのは正論と言えば正論な訳で、
一応口では反論したものの、身代わりになるのは仕方ないと観念する。

 「でも奈々子ビックリしたー。
  まさか潤ちゃんが『V』できるとは思わなかったもん・・・・・・大変だったでしょ。」

 「曲の中で鍵盤の音が一定していないところが大変でした。
  小節ごとに分けて鍵盤の音と譜面を暗記して何度も練習して・・・・・・。
  ただ、知っている曲だったので思ったよりは楽だった気がします。
  本当は『蠍火』をプレイしたかったんですけど、こちらは原曲がないので今回は諦めました。」

 「思ったよりは楽って、コンティニューのピアニストは化け物か!
  それに引き換え・・・・・・

哲平はガン○ムのシ○アの声色を真似て(似てないけど)軽快なツッコミを入れると、
今度は哀れみの目を俺に向けて、

  ・・・・・・恭ちゃんは下手っぴやったなあ。途中で放棄したし。」

スッパリとダメ出ししてきた。

 「うるさい。
  譜面が分かってたって俺には弾ける気もしないよ。」

 「ふふふ、真神さんも慣れれば弾けますよ。
  私がマンツーマンで教えてあげますから。
  白石さん、申し訳ないですが真神さんの家にニデラをセットしてください。」

 「うそ!潤ちゃんがニデラって言ってる、ニデラって!」

 ・
 ・
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 ・
 ・
 ・

翌日、俺の部屋のテレビに初めてPlay○tation2が接続された。
そしてその横には馬鹿デカいアーケードスタイルコントローラが2台。
勿論、ゲームは『beatmania IIDX』のみである。

まさか本当に持ってくるとは思っておらず、大荷物抱えた哲平を玄関で迎えたときは一瞬何事かと思った。
つか、コントローラがあんなに大きいなんて反則だ。予想外だ。

 (まあ、潤ちゃんと一緒に遊べるからいいか。)

だが、それが甘い考えだと認識するのはそう遠い未来ではなかった・・・・・・。

潤ちゃんってば・・・・・・結構スパルタなのね。






用語解説
色々と難解な表現や表記があったので私なりに補足説明を加えておきます。

 ■ ピコピコガガガガドキュンチャカチャカドキュンチャカチャカ

  → ゲーセンの五月蝿い雰囲気を言葉で表現しようと思ったらこうなった。
    しかし『ピコピコ』って典型的なゲーム音だよなぁ・・・・・・今やそんな音出すゲームは皆無に等しいのに。
    物語の初っ端から筆者の引き出しの少なさが伺えるのは正直どうかと思う。

 ■ 『ぬいぐるみ』やら『お菓子』やら『怪しい人形』やら

  → 最近のUFOキャッチャーの景品にはビックリする。
    お菓子とかラーメンとか食べ物まで入ってるんだもんなぁ・・・・・・
    私が昔ゲーセンでバイトしてた時はそんなの入ってなかった。
    ただ、たまーにチョコレートが入っているのを見掛けるが、あれは熱で溶けてしまうと思う。
    UFOキャッチャーの中って意外に暑いよ。
    なお『怪しい人形』とは大きな男の子向けフィギュアのこと。

 ■ UFOキャッチャー

  → UFOの形を模ったクレーンをボタンとレバーで操り、筐体の中に入っている景品を獲得するゲーム。
    大概のゲームセンターには置いてあるのでご存知ではないかと。

 ■ ビックサイズの可愛らしいヒヨコのぬいぐるみ

  → 特にモデルとなるようなものはない。
    どのようなヒヨコかは読者の想像に任せる。

 ■ アームのバネが弱いから無理

  → クレーンのアームが物を掴む力は、アームの根元にあるバネの強さで決まる。
    これが弱いとなかなか物は掴めない。
    酷い店ではそもそもバネが入っていないことも。
    余程腕に自信がない限りその店ではやらない方が無難。

 ■ beatmania IIDX

  → コナミが出している音ゲーの一つ。
    アーケードでは14作目のGOLD、コンシューマでは12作目のHAPPY SKYが最新作(2007年6月現在)
    上から落ちてくる四角いオブジェクトに合わせ、タイミング良く鍵盤やスクラッチを操作して音楽を演奏するゲーム。
    鍵盤7つ、スクラッチ1つ、それを両手で忙しなく操作する姿は、素人の目から見ると「変態」に映るらしい。
    なお、詳しいゲームの説明はコナミの公式サイトやWikiを見るのが宜しいかと。

     【コナミIIDX GATEWAY】http://www.konami.jp/bemani/bm2dx/
     【beatmania IIDX Wiki】http://ja.wikipedia.org/wiki/Beatmania_IIDX


    何故このゲームを潤ちゃんがプレイするに至ったかと言えば、
    表向きな理由は「ピアノを弾く感覚に似ていると言えば似ているから」、真の理由は「筆者の趣味だから」。
    あと奈々子と哲平は普通にやってそう。奈々子は超上手そう。(←オフライン本の絵師・天龍みかど様と共通の意見)

 ■ 鍵盤にちゃんと音が割り振ってある

  → 鍵盤を叩くとちゃんと音が鳴るようになっているため、
    正しく弾かないと聞けたもんじゃない演奏になってしまう
    自分のレベルに合ってない曲をやると大概はそうなる。

 ■ ダグ・ジェニングス(D・J)

  → 1995年から1997年までオリックス・ブルーウェーブに在籍した外国人選手。
    本名は『ダグ・ジェニングス』だが、故・仰木彬監督の計らいで『D・J』と登録された。
    正直なところ決して優良外国人と言えるレベルの選手ではなかったが、
    2ヶ月連続月間MVPを獲ったり、4打席連続ホームランを打ったり、それなりに野球ファンの記憶には残っている。
    通算成績は 207試合 打率.246(601打数 148安打) 32本塁打 110打点 4盗塁

    潤ちゃんが何故『D・J』を知っているかについては、
    木原剛三が野球好きだったとかそういうことにしておいて欲しい(←あまりにも無責任)。

 ■ 5.1.1

  → ピアノを基調とした少々重苦しくとも美しいIIDXの名曲。
    9thから導入されたBEGINNERモードの充実により現在の認識は定かではないが、
    初代IIDXから『全くの初心者が鍵盤やスクラッチに慣れる為の曲』として引き継がれている・・・・・・と思う。
    勿論、IIDXを始めたばかりの頃は私もお世話になった。

    なお、IIDXでは楽曲毎に「NOMAL」「HYPER」「ANOTHER」とレベル分けされているが、
    (レベルの上下は ANOTHER>HYPER>NOMAL の順。)
    潤ちゃんが弾いているのは一番簡単な「NOMAL」レベルの5.1.1。
    「HYPER」になると若干難しくなる、というか甘く見ていると曲後半で撃沈する可能性大。

 ■ ポロン、パロン、バビョン、ビロビロ・・・・・・
 ■ ・・・・・・バイン、ボイン、ビヨヨヨーン

  → 実際こんな音は鳴らないが、失敗している雰囲気を出そうとしたらこうなった。
    『バビョン』と『ビヨヨヨーン』が個人的に好き。

 ■ 自分では押してると思っても、実際は鍵盤と鍵盤の間を叩いていたり、
   自分ではすぐ隣の鍵盤を押したと思ったのに、実際は一つ先の鍵盤を叩いていたり、

  → 操作に慣れるまでは誰もがこれをやるはず。私も同じだった。
    中には突き指する人もいるくらい・・・・・・なんて言ったらみんなIIDXを敬遠してしまうではないか!

 ■ ピアノのように鍵盤の音が常に固定されている訳ではない

  → 鍵盤7つ+スクラッチ1つしかないため、プレイヤーが鳴らす音はめまぐるしく変化する。
    ピアノのパートを鳴らしていたと思ったのに次の小節からリズムパートを鳴らす、みたいな。
    あと同じピアノの音でも小節によって『ド』を鳴らしたり『ソ』を鳴らしたりすることも。

    従って、本作中では盲目でもちょっと頑張ればすぐにできそうな感じで書いてしまっているが、
    実際のところ潤ちゃんが音を暗記するのはとてつもなく大変だと思われる。
    小節レベルで鍵盤とスクラッチの音を覚えなければならないのだから。

 ■ ニデラ

  → 『beatmania IIDX』の通称。
    IIDX → ツーデラックス → ニデラ(ツーをニと読んでデラックスの頭二文字を取る)と派生。
    『ニデラ』を『弐寺』と書くこともある。

 ■ フルコンボ

  → 最初から最後まで譜面通りに鍵盤を叩いてクリアすること。
    厳密に言うと譜面通りじゃなくともフルコンボは取れるのだが、
    上記認識でも問題はないため詳しい説明は省く。

 ■ FREEモード

  → いわゆる練習用モード。
    クリアしようがしまいが必ず2曲プレイすることができる。

 ■ V

  → IIDX 5thに収録されたヴィヴァルディの『四季』より『冬(Allegro non molto)』のトランスアレンジ。
    beatmaniaシリーズに数々の楽曲を提供してきたdjTAKA氏の代表作である。名曲。
    当時、殆どのプレイヤーが「なんじゃこりゃ!」と思うくらい難解な譜面でボス曲的扱いを受けたものだが、
    今や「比較的に簡単にクリアできる高難易度曲」みたいな位置付けになっており、
    『人間の適応能力って凄いなあ』と実感させてくれる言わば『思い出の曲』のような扱いになっている。
    とは言え、中級者レベルにとって未だ大きな壁として君臨しているのでその役割はまだまだ大きい。

    なお、ちょっと前の車のCMで同じようなトランスアレンジの『冬』が流れたが、
    多くのIIDXユーザは「『V』じゃねーか!!」と叫んだ・・・・・・に違いない。

 ■ 皿

  → スクラッチの通称。

 ■ 蠍火

  → IIDX REDに収録された楽曲。正式名称は『ピアノ協奏曲第1番”蠍火”』。これまた名曲。
    REDではボス曲的扱いをされており、数々のプレイヤーを撃沈させてきた。
    美しいピアノの旋律とアグレッシブな曲調は叩いていて楽しく今でも人気は高い。
    ちなみに筆者は初見(初プレイ)で何故かクリアしてしまい、
    「思ったより簡単なんじゃないの?」と思ったものの、それ以降全くクリアできなくなってしまった。
    まごうことなき『まぐれクリア』である。

    なお、当初はこれを潤ちゃんに弾かせようと思っていたが、
    一週間で弾けるようになるのは無理がありそうだったのでボツに。
    つか、ゲームではなくピアノで普通に弾いてしまいそうな気がする。

 ■ アーケードスタイルコントローラ

  → 家庭用beatmaniaIIDX用コントローラの一種。
    ゲームセンターの鍵盤とスクラッチをそのままコントローラにしました、みたいな作りがウリ。
    ゲームセンターとほぼ同じ感覚でプレイできるため、IIDXプレイヤー憧れの的だったりする。
    ただ、

     ・一般流通していない(コナミの通販サイトでしか買えない)
     ・値段が29800円とバカ高い(PS2の本体買ってもお釣りが返ってくる値段)
     ・サイズが大きい(小さいサイズの炬燵くらいの大きさ)
     ・叩くと音が五月蝿くて夜中にはまず使えない(結構大きな音でカチャカチャ鳴る)


    などの事情が付随するのでその敷居は思ったより高い。

    筆者は勿論購入済。そして嫁さんに怒られ済。
    いいんだ、これが有ると無いとじゃ大違いなんだから。
    【参考:事件でシャ!198回】http://www.yayoi-katsuragi.com/case/case_198.htm




コメント(言い訳)
どうも、Zac.です。
今回は「潤ちゃんと恭介がゲームに興じる」といった、原作の設定を考えるとあまり想像できない内容を書きました。
(恭介はMP本編で「ゲームとかやらない」と言っていたし、そもそも潤ちゃんは盲目。)
潤愛歌を読んだ方は御存知だと思いますが、
『自分がゲーム好きである以上、一度は仲良くゲームで遊ぶ恭介と潤ちゃんを書いてみたい』
と巻中コメントに書いたことを「実際にやっちゃいましたよ!てへっ。」という訳です。
従って、読んでいて違和感を覚える方が多かったかもしれません。

ただ、恭介はやる気の面でともかくとして、潤ちゃんはゲームによっては可能であると個人的には思っています。
アメリカの盲目の少年が格闘ゲームに興じる実例があるからです。
彼は『音声』や『打撃音』といった『音』を頼りにキャラクターを動かす&相手の動きを判断するそうで。
キャラクターを動かせるようになるまでの努力と根性、そしてハンデをはね返した強い精神力は
例えそれがゲームの世界だったとしても、同じ人間として尊敬に値するものでしょう。
自分が同じ境遇だったら・・・・・・おそらく無理だと思います。

また、過去にその少年が日本の格闘ゲーマーと対戦するというテレビ番組の企画があり、
そのときには日本の強豪達をほぼ完璧に退ける実力のほどを見せてくれました。
ただし、対戦に使用したゲームが日本では馴染みの薄い『モータルコンバット』だったので
逆に日本の格闘ゲーマーの実力のほどがどうなのか分からなかったところですが。
まあ、それを差し引いたとしても彼が凄いことは間違いないでしょう。

我らが潤ちゃんにも同じような強い精神力があるんじゃないか、いやあるだろうと。
そして同じゲームでも「音ゲー」なら努力のし甲斐があるのではないかと。
少なくとも他のジャンルのゲームよりは違和感ないと思います。
同じ音ゲーでも『キーボードマニア』の次に潤ちゃんができそうなのが『beatmania IIDX』ですし。
勿論、「音ゲー」が私の趣味ってのもありますけどね(笑)

とはいえ、やっぱり異色な話であることには間違いありません。
ここは異色なことを逆手に取って、普段は書けないノリで書かせてもらいました。
なので色々とグタグタでブッ飛んでいたと思います。特に潤ちゃんが。
・・・・・・でも、こういうのもたまにはいいかなー、なんて。

あと本作では『beatmania IIDX』の布教目的も含んでいます。
「潤ちゃんにも出来るんだからみんなやろうぜ!!」という私からの熱いメッセージを込めた・・・・・・筈なんですが、
その魅力を全く伝えきれてないというか、難しそうなところだけをクローズアップしてしまったというか、
これを読んで「よし俺(私)も!」と思う人は皆無なんじゃないかと、書き終わって読み返してみたら思いました。
つか潤ちゃんに『V』ができるのか?・・・・・・できる、潤ちゃんならできる!!(←本当かよ)
真面目な話、ゲーセンで醸し出している「初心者お断り」な雰囲気を何とかせないかんのですがねぇ・・・・・・。

面白いからみんなIIDXやろうぜ!(←もうヤケクソ気味)

なお、本作の執筆にあたって『画廊連合秘密本部』のごぢうり様に
哲平の台詞や関西弁など手取り足取り指導(赤ペン先生)して頂きました。
おかげさまで哲平が魂が吹き込まれたようになり、当社比3倍くらい素晴らしい作品になった手応えがあります。
本当に有難う御座いました。
この場を借りて改めて御礼申し上げます。