光を |
「ちょっと恭介、私はいつになったら義姉さんになるのよ。」 「はあ!?」 私の唐突な質問に恭介は『意味が分からない』といった素っ頓狂な声をあげた。 「だから、いつ『義姉さん』になるのかって」 「だって、成美さんはもう・・・」 はあ、やっぱり意味が分かってない。 「あんたバカ?そんなの分かってるわよ。 私が言ってるのは潤ちゃんのこと。」 「あ、いや、それは・・・」 質問の意図を明かした途端、 瞬間湯沸し機のように顔を真っ赤にしてうろたえる。 「そう・・・まだ先ってことなのね。 いい恭介、どんな女性だっていつまでも待たされたら愛想を尽かされるわよ。」 「そんなこと言われたって・・・ 俺はまだ半人前の探偵だし、収入もそんなにある訳じゃないし、 潤ちゃんを養っていける自信がないから。」 もう、何処まで真面目なのよ恭介は。 「あのね、ある程度のリスクを背負う覚悟で『俺についてこい』くらい言えないの? 万全の状態で結婚するカップルなんて多くないものよ。 後は御互いの愛情でカバーしていくものなの。」 「はぁ・・・」 相変わらず冴えない表情。 ま、ここでいきなり気持ちを切り替えられても調子狂うけど。 もうこれは御姉さんの説教タイム確定ね。 「ただでさえ潤ちゃんの拠り所は『恭介』で占めている割合が大きいの。」 「そんなの分からな」 「うるさいわね! 同じ女として分かるのよ、そのくらい。」 ピシャリと抑える。 言い訳なんて言わせないんだから。 「あのね、恭介と会っているときの潤ちゃんの表情は明らかに違うの。 安心して全てを委ねている、そんな素敵な表情よ。」 「・・・」 「それが逆にプレッシャーになるのは分かるわ。 でも、恭介は潤ちゃんのことどう想っているのよ?」 まあ、答えは分かっているんだけど。 ここは説教のネタを絶やさないための誘導尋問。 基本的に素直で単純な恭介だから簡単だわ。 ましてや恋愛話ときてる。 普通の話題じゃ手強かったりするけど、 恋愛のことになると可愛いくらい手の平を返したように疎くなるのよね。 「それは・・・好きだよ」 「そうよね。 潤ちゃんだって恭介のこと好きだと思う。 でも好きだったらプレッシャーに感じることないじゃない。 自分の前でだけ見せてくれる素敵な表情なんだから嬉しいと思わなきゃウソよ。」 本当は恭介がプレッシャーになっているポイントとは違うんだけど。 これも同じように誘導尋問よ。 「成美さん違うんだよ、それは嬉しいんだ。 そうじゃなくて・・・」 「そうじゃなくて?」 「潤ちゃんは俺の容姿や顔や動きを自分の目で見た訳ではないんだ。 だから自分が潤ちゃんが思い描く人間なのか。 本当に潤ちゃんに相応しい人間なのか。 ちょっと自信が無いんだ・・・。」 やっぱりそんなことだろうと思った。 模範解答中の模範解答ね。 「ふうん、あんた潤ちゃん信じてないんだ。」 「いや、そんなことはない!」 「じゃあ、潤ちゃんは人を見る『目』がないと思ってるんだ。」 「・・・」 「確かに視力という意味での『目』では見えないでしょう。 でもね恭介、人間には心の『眼』だってあるのよ。 彼女・・・潤ちゃんはね、恭介を心の『眼』でしっかり見ているの。 それを受け止めてあげないなんて・・・ 恭介を一生懸命見ている彼女を侮辱していることになるわよ。」 恭介はグウの音も出ないという感じでシュンとしてしまった。 ちょっと言い過ぎたかもしれないけど、 鈍くて自分に自信過剰にならない恭介にはいい薬よ。 恭介の性格が決して悪い訳じゃないけど、 状況によっては叱咤激励しないといけないと思う。 「ま、もう少し自分に自信を持ってもいいと思うわ。」 「そうかな。」 そうよ、貴方は自分が思っているより立派な人間。 そして立派な男よ。 「あーあ、はやく『義姉さん』と呼ばれたいなぁ。 だって子供の頃は呼ばれそびれちゃったし。」 「わ、わかりましたよ。」 ふふ、これで少しは前向きになるかな。 探偵としては大胆で積極的な性格してるのに 女性になると消極的になるんだから面白いものよね。 「私が光を取り戻したように 潤ちゃんにも光を取り戻させてあげて。 それが出来るのは恭介、貴方だけよ。」 「それは・・・」 「バカね。 恭介が私に光を取り戻させたのと同じようにすればいいのよ。 具体的にどうすればいいのか、それは貴方が考えなさい。」 ま、相変わらず鈍い弟だこと。 目が見えるようになることが『光を取り戻す』ではないのよ。 彼女の心を恭介で一杯にすること、彼女の人生を恭介と一緒に歩ませること これだって立派な『光を取り戻す』ことなの。 自分の愛しい相手と一緒にいられるんだから。 自分の大切な人が側にいてくれるんだから。 『成美義姉さん』・・・か。 潤ちゃんに言われると嬉しいでしょうね。 恭介に出来ない筈が無い。 だって、私の光を取り戻した自慢の弟なんだから。 |
コメント(言い訳) |
どうもZac.です。 今回は潤ちゃんとの結婚に向けて今一つ足を踏み出せない恭介を励ます成美さんという話です。 恭介の相手は潤ちゃんと完全に決め付けた上での話なので 恭介×潤のカップリングに賛同できないとちょっと読むのが辛い作品かと思います。 成美さんと潤ちゃんには『光』がないという共通点があります。 光を恐れていた成美さん、そして光の無き姫の潤ちゃん。 境遇は違いますが同じ光を失っていることから 成美さんは潤ちゃんに対して特別優しいような気がするんです。 そして、潤ちゃんの幸せを何より願っていると。 あと、小さい頃に「お姉さんになるのよ」と言われて叶わなかったこと、 (まあ、実際に叶ってはいるんですけど) 成美さんの人生の中で一番幸せだったであろう時間の楽しみにしていた夢を 再び取り戻した幸せな時間の中で叶えてあげたいなあとも思いまして。 恭介も真面目で恋愛には鈍い人間ですから こうやって背中を押してあげる人がいるだろうなと思いまして、 その相手を誰にしようか考えた場合、やっぱり『光』繋がりで成美さんだろうなあ、と。 書き上げてみるとどうも説教臭い成美さんになってしまい、 もうちょっと言葉少なに伝えたいことを伝えるかなあと思わなくも無いです。 「私の成美さん像は違う!」という方、申し訳ありません。 |