振り向けばそこに最高の・・・



  清香、そっちの世界はどうだ?
  俺はとりあえず生きている。
  生きていると言うことは俺が追っていた事件も解決したということ。
  全てはお前が作ったネクタイピンのお陰だ。
  まあ、運良く探偵事務所に優秀な人材が入ったこともあるかな。

  正直、事件を追い続けたことで『得たもの』よりも『失ったもの』の方が多い。
  何より・・・愛するお前を失っちまったんだからな。
  京香の成長や晴れ姿を目にすることなく
  この世を去ることになってしまったお前には本当に申し訳ないとずっと思っていた。
  今頃は京香と親娘仲良く買い物なんか楽しんでいる歳なのにな・・・。
  俺を選んだばっかりに・・・そう自責の念に駆られる日々だった。

  だが、お前に謝ることができるのは
  志半ばで力尽きお前の元に行ったときか、
  それとも全てが終わったとき、そのどちらかしかないだろう、
  そう自分に言い聞かせてここまで生きてきた。

  そして全てが終わった。
  これでようやく胸を張ってお前に謝ることができる。

  スマン、清香。

   ・
   ・
   ・

  そうそう、京香は相変わらず元気だ。
  そろそろ良い相手でも見つけて欲しいものだが、
  まだまだ『上様!上様!』と時代劇に噛り付いているんで当分は無理かもしれん。

  ・・・最近、京香がお前に似てきたよ。
  料理をしているときの後姿なんてソックリだ。
  お前がそこにいるんじゃないか、って錯覚することもある。
  やっぱり親子なんだな。


 「お父さん、お花持ってきた。」

と、話題に挙がっていた張本人に声を掛けられた。
最愛の娘・京香が供える花を買ってきたようだ。
京香の隣には水の入った手桶を持った好青年・真神恭介。
2人の後方には京香が幼い頃にグズる京香と格闘してくれた氷室と、そして真神恭介の相棒・白石哲平。

墓石と向かい合って突っ立っている俺を他所に
好青年とその相棒は墓石を清め、京香は手際よく花を生け、氷室は線香の束に火をつけ始める。
長きに渡り謎に包まれていた事件を解決した報告という名目ではあるが、
在りし日の清香を知っている者もそうでない者も清香の為に集まってくれた。

氷室から火の点いた線香を渡された。

 「さあ、お父さん」

 「ああ」

俺は京香に促されて墓石の前へ進み、
汗ばんでいる手で握っていたため既に湿り気味の線香を香炉に供えた。

  ・・・こんなこと京香に面と向かって言うと怒られるんだが、
  組織に追われていたとき、絶対に奴らに負けてたまるかという気持ちがある反面、
  もしかするとお前の元へ行くいいタイミングかもしれないという気持ちも少なからずあった。

  だが・・・

墓石と向かい合っている俺を後ろで見守っている、京香、氷室、真神恭介、白石哲平。
ここからではみんなどんな顔をしてるか見ることは出来ない。
だが、いい表情をしていることだけは分かる。
事件の解決をお前と一緒に祝おうと集まってくれたのだから。

  なあ、清香・・・
  もう少し俺に時間をくれないか。

  残りの人生、京香と・・・そしてこいつらに捧げてみたくなった。

心の中で清香にそう伝えると俺は振り返った。
目の前に広がる4人の顔。
俺が思った通り、清香と祝うに相応しい最高の笑顔だった。

そのとき吹いた一陣の風。
色鮮やかな紅葉が宙を舞った。
冷たく堅い墓石は何も応えなかったが、これが清香の返答だと思う。

  ・・・ありがとう。
  土産話は沢山持っていくからな。



 

コメント(言い訳)
どうもZac.です。
今回は事件が解決して誠司所長が清香さんに報告に行く話を書いてみました。
私にしては珍しく短いですね。
そりゃもう呆気ないくらいです。

とりあえず、清香さんに報告するシーンが欲しかった、というのが一つ。
そして誠司所長に生きる希望を持ってもらうこと・・・と言うと大袈裟ですね・・・
要するに、事件が一段落したことで清香さんを前に弱音の一つでも吐きそうなところですが
(私の中では「清香の所へ行ってくる」と言い出し兼ねない程、清香さんのこと愛しているイメージがあります)
まだまだ所長には活躍して貰わなければいけないなあ、ということが一つ。
その切っ掛けとして、京香さん以下大勢の人間に支えられていることを実感し
また自分もその中に入って誰かを支えることで己の居場所を実感する
そんなシチュエーションを表現したかったんですね。

しかし、花弁とか枯葉とかを風に舞わせるのが好きだなあ、自分。
桜の花弁を舞わせたのはEVEの小説ですけど、
ワンパターンと言うか引き出しが少ないと言うか、
読み返して思わず苦笑してしまいました。