駆けてゆこう、ここより向こうに



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        DoLL
     BMIIDX 10style

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 「奈々子!俺の順番抜かしただろ!」

 「えー、だって見習い入れるの遅いんだもんー」

 「わっはっはっ!」

一人一曲交代の暗黙ローテーションを無視して曲を入れる奈々子。
それを注意する俺、文句を言う奈々子、笑う哲平。
いつもの光景、いつものやり取り。
違うのは俺達のやり取りを聞いて笑っている潤ちゃんが隣にいることだった。

俺は今、カラオケボックスに遊びにきている。
メンバーはいつもの哲平・奈々子と、カラオケは生涯初めてだと言う潤ちゃん。
そもそも今回の発端は潤ちゃんとの会話だった。

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 「真神さん、普段はどんなことして遊ばれるんですか?」

 「うーん、相手がいない時は一人で家にいたり買い物に出たり、
  哲平や奈々子がいれば皆でカラオケとか行ったりするかなあ。」

 「カラオケ・・・真神さんは歌を唄われるんですね。
  皆さんの前で唄うなんて凄いです。
  私、人前だと緊張してしまうから・・・。」

 「いや、そんな大げさなことでもないよ。
  カラオケボックスっていう個室で歌うだけだから。
  聞いてるのも哲平や奈々子だし・・・
  あ、奈々子なんて曲選びに夢中で聞いてなんかいやしないかも。」

 「ううん、やっぱり凄いと思います。
  私、人前で歌ったことないので・・・多分音痴だから。」

 「じゃあ今度行ってみようか、哲平も奈々子も誘って。」

 「はい!
  初めてなので宜しく御願いします。」

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とまあ、こんな感じで潤ちゃんとカラオケへ行く約束をしたのである。
哲平と奈々子は誘ったら二つ返事でOKだった。
2人とは頻繁にカラオケに来るし全くもって問題はない。

客観的にみて大勢の前でピアノを演奏する潤ちゃんの方が凄いと思うけど。
まあ、人前で声を出す出さないはまた別なんだろうな。

その潤ちゃんは俺達の歌にニコニコしながら耳を傾けているだけ。
さっき「歌わなくていいの?」と聞いたら、
「ここに居るだけで十分過ぎるくらい楽しいですから」という返事が返ってきた。

 「永遠と引き換えに〜♪」

チャララララララララン

パチパチパチパチ!
曲の終了と同時に潤ちゃんの拍手。

 「奈々子さん凄く上手です。」

 「ありがとう潤ちゃん。
  見習達は全然拍手してくれないから嬉しいよ。」

と奈々子が我々への嫌味をチクリ。

 「まあまあ、俺ら奈々ちゃんの歌が上手いのは百も承知なんや。」

返す刀で哲平がフォローを一言。
よく分からないけどとりあえず説得力がある。
続いて俺・・・ではなく哲平の登録した歌が始まった。


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    MONKEY SCIENCE
    −SIAM SHADE−

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 「ほな、次は俺の美声を聴かせてやるさかい。」

 「・・・あ!哲平まで俺の順番抜かしたな!!」

 「わっはっはっは!恭ちゃん遅いんやもん。」

と御丁寧にマイクを通して高笑いを響かせ、
歌が始まると一転して自分の世界へと没頭していった。

 「哲平ちゃん、いつも渋い選曲だよねー。」

 「奈々子、この歌知ってるのか?」

 「うん。
  SIAM SHADEの5枚目のアルバム、2曲目の歌だよ。」

正直なところいつも哲平が歌う曲はあまり耳にしたことがない。
アーティストは分かっても曲を知らないというケースが多かったりする。
どうもシングルカットされていないアルバム収録曲らしいのだ。

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パチパチパチパチ!
曲の終了と同時に潤ちゃんの拍手。

 「潤ちゃんおおきに。」

哲平は額の汗を拭いながら清々しい表情で潤ちゃんの拍手に応えた。
・・・どうも魂込めて歌ったらしい。
哲平が本気を出すと発汗度合いが微妙に変わる。

 「哲平ちゃん、同じアルバムの『警告』は歌えないの?」

 「そいつはまだ練習中や。
  次に聴かせてやるよって。」

 「じゃあ、これが歌えれば完璧だね。」

哲平はアルバム曲を全制覇するつもりらしい。
対する奈々子は奈々子でどんな曲でも対応できるのが凄いと思う。
今時の高校生というのはあれがデフォルトなのだろうか。
少なくとも友達の奏ちゃんを見る限りそうは思えないのだが・・・。

 「ほい、恭ちゃん」

哲平が使ってたマイクを俺に投げてきた。
それを慌てて受け取る。

 「さて、ようやく俺の番か。」

 「真神さん、頑張ってください。」

普段、哲平や奈々子には言われない励ましの言葉。
そもそもプロでもない俺達にとってカラオケで歌うことは
ただ楽しむだけのものであって頑張るとかそういった必然性は無い。
でも潤ちゃんに言われると頑張って歌おうって気にさせられる。

 「うん、頑張るよ。」

そう返事をすると曲の配信が完了した。


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      夏の終わり
     −森山直太郎−

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 「見習い、流行りの曲ばっかり。」

 「仕方ないだろ、好きなんだから。」

折角潤ちゃんに勇気付けられたのにいきなり出鼻を挫かれた感じだ。
別に流行りの曲だっていいじゃないか。
そう開き直って歌い始めた。

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パチパチパチパチ!
曲の終了と同時に潤ちゃんの拍手。

 「真神さん、やっぱり上手です。」

絶対に他の2人にしたときより大きな拍手。
同時に俺に向けられる可愛らしい笑顔。

 「いや、その、ありがとう。」

 「わー、見習い照れてる照れてるー」

あーもう奈々子の奴、ここぞとばかりに冷やかしやがって。
だけど見透かされたのが少し癪だったから

 「そうだよ照れてるよ。悪いか。」

と、開き直ってやった。
好きな女の子に誉められて嬉しくない奴なんていないし
なにより潤ちゃんに笑顔で祝福されて照れない訳がない。

 「あーあ、俺が誉めても全然照れてくれへんのになあ。」

何故かしょんぼりする哲平。

 「お前と潤ちゃんじゃ雲泥の差。」

 「哲平ちゃんフられちゃったね。」

 「しゃあないなあ、相手は潤ちゃんやもんなあ・・・」

また奈々子も一緒になってそういうことを言う。
だから俺達はあらぬ誤解をされるんだって・・・。
潤ちゃんだけには誤解をされないよう今のうちに話題を変えよう。

 「そうだ、潤ちゃんも一曲歌おう。」

 「そや、そろそろ時間も2時間やし。」

カラオケは2時間で取っておいたんだけど
どうも今日は混雑しているようで延長はできそうにない。

 「い、いえ、私は、その・・・」

 「潤ちゃん、奈々子が登録してあげるから、
  どんな曲が歌えるか口ずさんでくれるかな。
  サビの部分だけ歌える、とかでもいいからね。」

 「うん、奈々子なら守備範囲広いから分かる曲多いと思う。」

暫く俯き加減で考え込んでいる様子だったが、
勢いよく顔を上げ意を決した眼差しをこちらに向けた。

 「では・・・タイトルが分からないんですけど、
  『チャチャチャ〜ララ、チャ〜ララ、チャララララ〜』という曲ありますか。」

一同、聞き慣れたフレーズに目を見合わせる。
これは恐らく春日野唯ちゃんが歌ってる歌だ。

 「唯ちゃんの歌でしょう。
  それなら登録されてるよ。」

と言って奈々子はリモコンを操作し始めた。
曲リストは・・・全然見ていない。
コイツ、もしかして番号暗記しているのか!?

 「はーい、入れたよ。」

早!
リストを見て一つ一つ番号を確認しながら入れるの俺とは訳が違う。

 「これ、有名な曲なんですか?」

 「今大人気の曲やからなあ。」

曲の配信が終わり前奏が開始された。

 「実はかなり恥かしいのですが・・・
  みなさん笑わないで聴いてくださいね。」

そう言って潤ちゃんの歌が始まった。

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パチパチパチパチ

潤ちゃんの歌が終わった。
所々歌詞を間違えたり歌えないところがあったけど、
音程を外したりテンポが狂ったりするようなことはなかった。
何より透き通るような綺麗な声に驚いてしまった。
少し練習すればかなりのレベルになると思う。
これは音楽センスの違いだろうな。

 「潤ちゃん、上手いよ。
  奈々子びっくりした。」

 「いえ、そんな・・・」

 「そやそや、恥ずかしがることなんかあらへんて。
  ホンマに上手かったんやから。
  ・・・ほら、恭ちゃんからも言ってやらな。」

と、俺に振る哲平。

 「いや、綺麗な声だったよ。」

 「・・・」

顔を赤らめる潤ちゃん。
そのやり取りを見てジト目ニヤニヤ顔でこっちを見る哲平と奈々子。
うわ、何か言いたそうでしかも何を言いたいか一目で分かる態度。
ここは早いうちに話題を振らないと何言われるか分かったもんじゃないぞ。

 「と、ところで何でこの歌を知ってるの?」

 「あ、兄さんがよく聴いてるんです。
  この歌ばかり流してるからいつの間にか歌詞を覚えてしまいました。」

一同、顔を見合わせる。
浩司さんがアイドルの歌を聴く姿を想像できない、そんな顔だ。
しかし、ここでふと我に返った奈々子が一言。

 「もしかすると潤ちゃんに合わせて選曲してるのかもしれないよ。
  少しでも同じ世代の子達と情報を共有できるように
  潤ちゃんくらいの年代に人気のある曲を聴かせてるんじゃないかな。」

そうか、その可能性も十分に有り得る。

 「そやな。
  顔はごっついけど優しいもんなあ、浩司さん。」

 「哲平、顔がごっついは余計だろう。
  でも優しいのは本当だから多分そうなんだろう。」

と、一同は浩司さんの心温まる配慮に納得した。
潤ちゃんのためにアイドルのCDを買いに行く浩司さん、
その妹想いの行動は心の底から尊敬できる。

そんな尊敬の念が募った矢先、

 「そうなんでしょうか。
  一緒に聴いているとき歌を口ずさんでいるので
  やっぱり好きなんじゃないでしょうか。」

潤ちゃんの衝撃的な真相が告げられた。

 「・・・う、歌うんや。」

 「はい。」

一同、顔を見合わせる。
全員唯ちゃんの歌を熱唱する浩司さんを想像したに違いない。
その次の瞬間、狭い部屋に特大の笑い声が響いた。

 「え、え??」

不思議な顔で俺達の方を見つめる潤ちゃん。

 「わっはっはっはっはっは!!
  ごめん、潤ちゃんが悪い訳じゃないんだ。」

 「浩司さんやろ。
  もっと演歌とか聴いとるイメージやったもんで。」

 「兄さんは演歌は聴きません。
  若い女性の歌を聴いていることが多いですね。」

・・・浩司さん実はそんな趣味だったのか。
意外や意外、と言うよりは完全にイメージと違う。
もしかすると出演する歌番組などは欠かさずチェックしてるのだろうか。
プロモーションDVDは欠かさず購入しているのだろうか。
妄想が徐々に膨らみ、俺の頭の中の浩司さんは単なるアイドルオタクと化していた。

 「しかし意外やなー。
  兄さんのアイドルは潤ちゃんだけかと思とったわ。」

 「あーもうダメー、一生懸命振り付けとか練習してるの想像したら・・・」

 「おい奈々子、そんな想像力を誘発するような爆弾発言するな。」

もはや俺達の笑いは簡単に収まりそうにない。
そんな俺達を他所にきょとんとしていた潤ちゃんだったけど

 「ふふふ」

徐々に頬が緩んでいき、つられるように一緒に笑いはじめた。

こうして潤ちゃんにとって初めてのカラオケは全員の爆笑で幕を下ろした。
浩司さんにはちょっと悪いことしたけど・・・。


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後日談。

あれから潤ちゃんは新しいハンディレコーダを買ったみたいだ。
浩司さんから真相を聞いたところ、
ハンディレコーダにはあの日のカラオケの内容が録音されていて
毎日何度も何度も嬉しそうに聴き直しているらしい。
レコーダの最大記録時間は2時間、ちょうどカラオケで遊んでいた時間になる。

今まで友達と外に遊びに行くことが出来なかった潤ちゃんにとって
みんなでカラオケに行ったこと、
何よりみんな目が不自由なことに気を使わず普通に接して遊んでくれたことが相当嬉しかったようで、
俺達と遊んだことを浩司さんに延々と語ったそうだ。



なお、このことを奈々子に話したらこう返ってきた。

 「えー、そんな録音データ消しなよ。
  だってこれからはもっともっと一緒に遊んで楽しい想い出一杯作るんだからさ。」





 

コメント(言い訳)
どうも、Zac.です。
今回は我々にとって比較的身近な日常を題材に書いてみました。
作中でも「恭介と哲平と奈々子でカラオケに行く」という話題が出てましたので。
・・・カラオケ、行きますよねみなさん?

勿論、潤ちゃんをメインにすることは忘れていません。
どれだけ潤ちゃんを幸せにしてあげられるか、意固地なほどに追求してみたいので。
恭介とラブラブするのも幸せの一つなのですが
こういった日常生活における何気ない遊びというのも幸せだと思います。
特に潤ちゃんにとっては。

しかしながら浩司さん、かなりの汚れ役です。
完全なる私の妄想とは言え、アイドルの歌を熱唱する浩司さんはちょっとアレだったかも。
本来は「潤ちゃんくらいの年代に人気のある曲を聴かせてる」というエピソードのみ考えていたのですが
これじゃあ主役は浩司さんになっちゃうなあ、と急遽導入した次第です。

なお、本作中で歌った歌はまあそれなりに妄想して選んでいます。
あんまり歌謡曲に詳しくありませんので偉そうなこと言えませんが
一応私が妄想するMPキャラのカラオケ選曲傾向はありまして・・・・

   恭介−どちらかというと流行の歌を中心に歌う
       主にTVCMや有線で流れるヒット曲を好む
       シングルカットされている曲が多い
       「曲は知ってるけど題名知らない」という歌が多かったりする
       今で言えば森山直太郎とかB'zとかになるのかな

   哲平−どちらかというと流行に囚われず好きな歌を歌う
       シングルカットされてないアルバム収録曲を好む
       自分の好きなアーティストならびに歌が収録されてないケースが多い
       流行りの歌には若干弱い
       SIAM SHADEとかJanne Da arcとか好きそう

 奈々子−オールマイティ
       新旧共々満遍なく歌える
       男女関係なく歌いこなす
       アムロから浜崎まで鉄壁の守備範囲

   (おまけ)
   京香−時代劇主題歌 ←ベタだなあ

私が流行の歌を中心に歌うのが哲平ではなく恭介だと思った理由は
テレビなりインターネットなりのメディアへ接する機会が多いだろうから。
あとサイバリアなど有線が流れてそうな店への出入りも多そうですし。
何気に有線って強力なんですよね。
私も松屋の有線でかなりヤラれました。
あ、哲平も流行の歌を歌えるとは思いますよ。
ただどちらかというと気に入ったアーティストをとことん追及しそうな感じがします。
恭介と哲平に関しては私と逆にイメージしている人も多いのではないでしょうか。
奈々子は・・・多分こんなもんでしょう。

そんな訳で哲平はSIAM SHADE、恭介は森山直太郎を選択。
ただし、奈々子に関しては最近の若い女の子向けの流行歌を知らないので
横にサントラが転がってた縁もありBMIIDX10thの『Doll』を選びました。
(というか、いくら知らないからってこの曲はみんな分からんだろう・・・)
いや、正直言うと若い男の子向けの流行歌も知らないんですけど。
森山直太郎をギリギリ知っているくらいです。

みなさんのMPキャラカラオケ持ち歌妄想は如何でしょうか?