朝ご飯はなんですか?




いつも通りの朝がやって来た。
いつものように起き上がり、朝食を食べ、身支度を終え、職場へと行く・・。

・・ああ、今日は休みをもらったから仕事は無かったな。
今日の予定は特にないし、どうするかな・・。
こんな風に考え、行動し、一日が過ぎて行く・・。その繰り返し・・。

・・の、はずだった。

 「・・ん?なんだ?」

何か音がする・・。それも、かなりうるさい。
聞き覚えはある。この音は確か・・電話の音だ。
そんな事すら分からないとは、まだ寝ぼけているのか・・。
少しボーっとする頭を押さえ、俺は電話に出た。

 「はい、もしもし」

 「はろはろー。元気してる?陽一君♪」

誰だ?俺を名前で呼ぶ奴なんていたっけ?

そうそう、自己紹介がまだだったな。俺は見城陽一。内閣調査室の調査員だ。
体は大きいが気は小さい、血を見るのが苦手で、外面と内面にギャップがあると言われた事がある。
とても真面目でフットワークが軽く、優秀だと上司に誉められた事もある。

だが、所詮俺の代わりなんていくらでもいる・・。
・・俺は誰に自己紹介をしているんだ?
やはり寝ぼけているようだ。

 「ちょっと〜、返事くらいしたらどうなの?」

そうそう、忘れてた。俺の事を名前で呼ぶ、誰だか分からない人物の電話に出てたんだった。

 「失礼ですが、どちら様ですか?」

 「私の事を忘れたの!?そんな悲しい事言わないでよ、見城」

そういえば、どこかで聞いた事のある声だ。どこだっけ?
聞き覚えのある女性の声で、いきなり「はろはろー」なんて言う知り合い・・。
・・まさか。

 「もしかして、まりな先輩ですか?」

まりな先輩とは、内調での俺の先輩だ。
任務達成率99%という凄腕で、現在は教官をしている。
だが、まりな先輩がここに電話してくるわけがないだろう。
人違いだろうか・・?

 「ピンポーン!大当たり」

 「でも悲しいわ。この親切で美しい先輩の事を忘れてしまうなんて・・」

・・やはりまりな先輩だ。

 「仕方ないじゃないですか。俺の事を陽一君なんて呼ぶ奴に心当たりが無かったんですから」

 「あら、ここにいるじゃない?」

 「さっきのが初めてでしょう?」

 「そうだったかしら?」

 「そうですよ。まりな先輩は俺の事はいつも見城と呼んでいるでしょう?」

 「そんな細かい事は気にしないの。女の子に嫌われちゃうぞ」

 「・・はあ」

 「で、どうしたんですか?俺に電話なんて」

 「ああ、そうそう。そうだったわ」

 「見城君」

いきなり声の感じが変わった。なにか深刻な用なのだろうか

 「朝ご飯、食べた?」

 「え?」

 「だから、朝ご飯食べたかって訊いてるの」

 「・・いえ、まだ起きたばかりですから」

 「そう・・ならいいわ」

 「今すぐ本部ビルに来てちょうだい」

 「何かあったんですか?」

 「詳しくは来てから話すわ。いいから早く来て」

 「分かりました」

俺は電話を切った。
一体何があったのだろうか?
とにかく、本部ビルへ急いで行かないとな。

  * * * *

 「・・来たわね」

 「はい、ところで、一体何があったんですか?」

 「あれ?見城君じゃないか?」

後ろから声をかけられたので振り返るとそこには甲野本部長が立っていた。
この人は俺の上司にあたる人だ。
内調一の切れ者だそうなのだがそうは見えないんだよな・・。

 「どうしたのかね?確か君は、今日休みじゃなかったかね?」

 「そうだったんですが、急にまりな先輩に呼び出されまして」

 「はろはろー。本部長」

 「まりな君、何かあったのかね?」

 「そうそう。そうなのよ」

 「見城君」

 「はい」

 「朝ご飯、食べに行かない?」

 

 「・・え?」

 「だから、朝ご飯よ、朝ご飯。breakfast」

 「いや・・何かあったんじゃないんですか?」

 「そうよ。朝ご飯にあなたを誘っているのよ」

 「じゃあどうしてここに呼び出したんだね?」

本部長がまりな先輩に訊いた。
それは俺も知りたかった。

 「だって、ここが一番分かりやすいじゃない?」

 「だからって、何もここを待ち合わせ場所にしなくてもいいじゃないかね?」

もっともな意見だ。

 「いいじゃない。減るもんじゃないし」

 「どうして俺を朝ご飯に誘う気になったんですか?」

実は、俺に密かに好意を抱いていて・・。
・・それはないな。まりな先輩は年上趣味だしな。

 「あら、別に不思議な事じゃないじゃない。
  綺麗で心優しい先輩が、可愛い後輩に朝ご飯をおごる・・。普通じゃない?」

 「心優しいかどうかは分からないと思うけどね」

 「なにか言った?」

 「いや・・何も言ってないよ」

心なしか、本部長の顔が青ざめた気がした。

 「と、言うわけで、行くわよ。見城」

 「まさか断るわけ、ないわよね?」

 「お供させていただきます」

俺も本部長のように、まりな先輩に逆らうという恐ろしい事はしないでおく事にした。

 「うん。それでこそ我が後輩」

 「でも、本当におごってくれるんですか?」

 「割り勘よ」

さらっと言われた。

  * * * *

 「それでね〜。その娘はマシンガンを弾が無くなるまで打ち続けても一発も的に当たらないのよ・・」

 「そ・・それはスゴイですね」

 「でしょ〜?これは一種の才能よね」

まりな先輩はコーヒーを片手に、俺に色々な話(というより愚痴)を言い続けていた。

 「でも驚いたわ」

 「何がです?」

 「だって初めて見たもの。朝、喫茶店に朝ご飯を食べに来てステーキを注文する人なんて。店員もビックリしてたわよ」

・・でも、喫茶店のメニューにステーキがある店も、俺は初めて見た。

 「でもそれがその屈強な体の秘密なのね・・」

 「・・良し!これから君を『モーニングステーキ』に任命する」

 「なんですか?それ」

 「朝にステーキを食べるから、あだ名はモーニングステーキ。分かり難かった?」

 「・・やめてくれませんか?」

 「あら?嬉しくないの」

 「・・正直、あまり嬉しくないです」

 「そう、でも返品は受け付けないわよ」

相変わらずだなこの人は・・。

 「ところで、まりな先輩」

 「なに?」

 「どうして俺を食事に誘う気になったんですか?」

 「さっきも言ったじゃない。先輩が後輩を誘うのは普通じゃない」

 「本当の所は?」

 「・・う〜ん。私、今日は休みで、予定が無くて、そしてなんとなく見城の事を思い出して・・」

 「つまり、暇だったからですか?」

 「そうなるかも知れない」

 「・・はあ」

やはりそういう理由か・・。
まあ、なんとなくそんな事だろう思った。
朝ご飯に誘うのは、誰でも良かったわけか・・。

でも・・俺は少し期待していたのかも知れない。
誰かが・・他の誰でもない『俺』を必要としてくれる事を・・。
まりな先輩にも、例え暇つぶしでも、他の誰かでなく『俺』を必要としてくれる事に・・。
でも、真相はそうじゃなかった。誰でも良かったんだな・・。
いつも、俺の代わりはいくらでもいるんだ。

 「・・嘘よ」

 「え?」

 「あなた、図体はでかいけど、気は弱いし、血を見るのが苦手だし、正直心配してたのよ」

 「だから、元気にしてるかな〜って・・」

 「まりな先輩・・」

 「ま、暇なのも本当よ」

そう言ってまりな先輩は笑った。

驚いた。

本当の真相は、俺の予想していたものでは無かった。
俺が期待していた事とも少し違うが、
まりな先輩は他ではない『俺』の事を心配してくれてたんだ・・。

  * * * *

 「う〜ん。お腹いっぱい。美味しかったわ」

 「まりな先輩」

 「ん?」

 「今日は、どうもありがとうございました」

本心から、そう思った。
俺の事をそこまで心配してくれてたとは、正直思わなかったから。
だから、とても嬉しかった。

 「な〜に言ってるのよ。あなたは私の教え子みたいなものだからね。これくらい当然よ」

 「・・そうですか」

 「そうよ」

 「・・感謝します」

 「だから、当たり前の事だって」

 「それでも、嬉しかったですから」

 「そう?良かった」

 「じゃあ、俺はこれで。今日は本当にありがとうございました」

そう言って俺はまりな先輩に礼をし、その場から帰ろうとした。

・・・が、

 「甘いわよ、見城」

 「え・・?」

 「私は今日暇だって言ったでしょう?今日は一日をかけてあなたの弱点を無くす為に特訓よ!」

 「と・・特訓?」

 「そう・・。まずは血が苦手なのを直すためにスッポンの生き血を一気飲みよ!」

 「その次は献血よ!自分の血が抜かれていくところを目を逸らさずに見続けるのよ!」

 「世のため人のためになる事をし、さらに可愛い後輩の特訓にもなる・・。
  う〜ん、我ながら素晴らしいアイディアだわ!」

 「そ・・それはちょっと・・」

 「そして、あなたの年下趣味をなんとかしないとね」

 「俺は別に年下趣味じゃ・・」

 「嘘ね。女の勘が、あなたが年下趣味だと私に訴えかけているわ!」

 「勘って・・」

 「女の勘は当たるわよ」

 「まりな先輩だって、年上趣味じゃないですか」

 「年上趣味はいい事よ」

 「そんな無茶苦茶な・・」

 「そうね。献血の後は見城のために年上の良さを心ゆくまで語ってあげるわ」

年上の良さと言うより中年男性の良さの間違いじゃないだろうか?

 「さあ、行くわよ!!」

そう言うと、まりな先輩は嫌がる俺を引きずりながら歩き出した・・。

こうして、見城の不幸な休日は過ぎて行くのだった・・・。



四方山話(言い訳)
どうもクライドです。
初めて小説を書きました。場所の説明とかが全然ないですね。これは小説ではないかも知れません。
難しいんですよ・・。すみません。

この話ですが、ロストワンで、まりなが見城の事も杏子くらい心配していると小次郎に話した所があって、
それが深く心に残っていたので、こんな事もあったかもな・・。と、書いてみました。

書いてみて改めて思いましたが、文字で誰かに何かを伝えるのは本当に難しいですね。
この前、現役の小説家の方にお話を伺ったのですが、
「誰かに見せるための文章を書いてるか?」と訊かれました。
・・書いてませんでしたね。自分が書きたいものしか書いていませんでした。
だから小説は、読みやすく、分かりやすく書いてみたつもりですが、
まだまだ実力不足で分かり難いと思います。すみません。精進します。

色々と矛盾点があるとは思いますが。
これはクライドという人物が思った、見城という人物とまりなという人物の一面だという事で許してやって下さい。

それと、見城の年下趣味説はフィクションです。多分・・。