今だけは


1年に1度しかないものってなんでしょう?
クリスマス?正月?
まぁそれもあるわね。でももう1つ、子供の頃は待ち遠しく大人になればちょっと嫌になるもの。
さて、なんでしょう?


「本部長♪」

「あ〜只今甲野は外出しております。御用の方はピーという発信音の後お名前とメッセージを」

「あのねぇ…目の前にいるじゃないの」

「ピー」

「ギロッ」

「コワイコワイ…何の用だね、まぁ大体察しはついてて恐ろしいけど」

そう言いながら本部長は目を瞑りながら軽く首を振る
その仕草からは、『できれば勘弁して欲しい』って感情が滲み出てるわね
しかーしそう甘くないのが世の中ってモンよ。

「今日はさて何の日でしょう?」

「えーーなんだったかな?はて知らないなぁ」

「私の誕生日よ。んもう、ボケるにはまだ早いわよ」

「分かってるよ〜、どうせプレゼントでもせびりに来たんでしょ」

「正解です。パチパチパチ」

「あ、やっぱり?何か賞品とかは?」

「そんなものありません、むしろ貰う方」

「トホホ…」

と言い、心底悲しそうに首を傾げる
今の表情はまさにお小遣いをねだりに来た子供を目の前にした父親といった感じだった
まぁ私は本部長の従兄弟でも隠し子でもないし、お小遣いなんて歳じゃないけど。

「…君くらいのお年頃になると誕生日は嫌になるんじゃないの?」

「あら、嫌でも来るものだったら嫌がるより徹底的に利用する方が効率的じゃないの」

「ポジティブだねぇ…はぁ」

「さあさあ!早く私に献上し給え甲野君」

「女王様かい君は…」

「ま、どうせ何も用意してないだろうから私直々にリクエストしてあげるわ」

「何が出てくるか心臓に悪いよ…。それにちゃ〜んと用意してありますよ」

できることなら勘弁してほしかったわりにちゃんと用意してあるみたい
渋々と胸ポケットへと手を伸ばす

「なんだ、手回しがいいじゃなーい」

「はい、どうぞ女王様」

そう言って私に封筒らしき物を差し出してくる。
なるほど、このまりな様がお気に召す物を選ぶ事が出来なかったので
物を買う予算をそのまま献上してくれる訳ね。

「ふふ、味気ないような気もするけど変な物貰うよりはよっぽど良いわ。アリガト♪」

封筒を受け取り中身を確認する
そんなにかさばって無いわね…んもう、ケチ。

「何が出るかな〜♪

 ……は?」


「な、なんだね?」

気が付けば声が少しビクビクして、横目でチラチラと私を見る本部長が居た
確信犯か。

「すぅ〜〜はぁ」

胸を張り、手を後ろにそらし大きく深呼吸…そして

「こんなものいらんわぁぁッ!!」

「わぁぁ、ドウドウ落ちついてちょ〜だいよ」

「このまりな様に『肩叩き券』っておちょくってるのかぁッ!」

自らの感情の赴くままに本部長の肩を掴み、思いっきり揺さぶってやる。

「ストップスト〜ップ!よく見たまえ」

「…何よ?」

「まぁまぁ、とにかく見て見て」

…渋々本部長から手を離し、床に落としていた封筒に調べる。
他に物が入ってるわけじゃない
じゃあこのふざけた紙切れかな…そう思い紙切れを手にとり書いてある文を読んでみた

『一枚で3回までご利用いただけます』

…と書いてあった。

「ね、お得だよ〜…じゃダメ?」

「ダメ」

「勘弁してちょうだいよぉ、今本当にお金が無くて困ってるんだよ。
 それに気持ちはいっぱい込めてるし物なら他の人にいくらでも貰えるでしょう?」

「お金無いだぁ?嘘付きなさいよ、ついこの前だって盛大にお酒奢ってくれたじゃない」

「その時に君があまりにも高いお酒をガンガン飲んだ所為だよ〜…
 まったく奢りだと思って盛大に飲んでくれたよね、僕は安物のお酒だったのにさ」

「う〜〜そう言われると弱いな。
 …でもそれだけぇ?」

「な…なんだね?」

「どうせプレゼントと言う名の貢物したんじゃないのぉ、香」

「すと〜っぷ!皆まで言わない」

「ほぉほぉ?図星ね」

「あ、いやその…か、家族サービスにちょこっと使っただけだよ」

「ソウナノネ、ナルホド」

「なによそのカタコトの日本語は…信じてないね?」

「勿論」

「ん、ん〜…まぁとにかくだね、僕の肩叩きって結構なものだよ。
 昔は肩叩き名人と恐れられたものだね〜」

「嘘ね」

「…ゴメンナサイ、少々大げさでした」

そう言ってうなだれる本部長を見てると、
なんだか私が加害者のような気がするほど…哀れだわ、何となく

無論、加害者という濡れ衣を着せられた悲劇の美女である私が。

「はぁ…まぁ確かにこの前羽目外し過ぎた私も私だからね」

これ以上いじめると本当に加害者になりそうなので巻き上げ…じゃない、
プレゼントはこれで妥協しましょ。

この後の言葉に期待してるのか、うなだれてた本部長はいつの間にかちょっと明るくなっていた。

「もうこれで良いわ」

「え本当?やったぁ」

「その代わり、私が良いというまでやり続けてね。今すぐに」

「ハイハイ」

「感情がこもってない、やりなおし」

「あのねぇ…」

  * * * *

「うーん本部長中々の腕前じゃない」

「お褒めにあずかり光栄の至り」

「よろしい」

今、私は私の肩を叩く従者…もとい本部長の椅子に座って肩叩き券を行使していたりする。

「今まで本部長がデーンっとふんぞり返っていた椅子に座って
 私を死地に送り込み自分はのどかにお茶してたりするであろう人物に肩を叩いて貰う…
 これはこれで良い気分ね」

「いやあのさ、僕はのどかにお茶なんかしてないよ」

「ほんとぉにぃ?」

「当たり前だよぉ…君と言う美しくそして優秀で上司冥利に限る部下が危険な目にあってるのに
 そんな真似は出来ませんよ」

「なーんか芝居っぽい言いまわしでサイアク〜金返せ〜」

「お金なんか払ってないでしょうに」

いちいち反応を返す本部長の肩叩きの腕前…は中々のものね
凝っている個所を的確にそして適度の強さで叩いてくれる
さらに時たま肩揉みに変化させたりと…自分でいうだけの腕前ではあるわ。

「あ〜結構気持ち良い。このまま朝までお願いしようかな?私は気持ちよ〜く眠って」

「やめてちょうだいよ、そんな長時間肩叩いてたら僕の方が肩凝りになるよ」

少しくたびれた口調の本部長。
もう付き合いはかなり長くなるけど、こんな風に肩を叩いてもらうなんて初めてね…って当たり前か。
肩を叩く、じゃないな。
そうじゃなくて…

「…今の状況、端から見たら仲の良い親子にも見えるかも知れないねぇ」

「親子ねぇ…」

…似たような事考えてた、か。

「でもまぁ、親子だったら逆に私が叩いてるんだろうけど」

「んじゃ変わってくれる?」

「ダメ」

「シクシク…」

可愛くも無い嘘泣きをする本部長。
可愛くは無いけど…嫌な気はしない。

「知ってるかい?肩を叩くってね…その人の疲れを少しでも癒せる事が嬉しいんだよ」

「そう?私にはただ面倒で疲れる作業にしか感じないだろうけど」

「まそれも否定はしないけどね。
 肩凝りだなって感じるときは、仕事とか、悩みとかで大変なんだなって
 親の肩を叩いてたときなんかよく思ったものだよ。
 自分に近しい人の肩を叩いて、その人の疲れを…ってさっきも言ったかな」

「ふぅん…」

「まりな君」

「なに?」

「君に言うのは今更な気もするけど、くれぐれも無理はしないでくれたまえよ。
 ミスも出来るだけしないで欲しい」

「仕事の話?んもう気が滅入る〜」

「そうじゃないよ。…僕に、君の首を切らせないでくれって言いたいんだよ」

「なにそれ?私がミスるとでも言いたいの?」

「だから違うでしょうまったく…僕個人の願いだよこれは。
 君とは本当に付き合いが長いからね。嫌な言い方をすれば情が移るには十分な時間だ」

「ほんとヤな言い方〜」

「あのね」

「良い言い方をしてよ?」

首を上に向け、少し後ろにある本部長の顔を覗き込む
その顔は…穏やかで、温かみのある、優しい表情。

「…良い言い方をすれば…君を失いたくは無い。仕事上の上司としても、僕個人としても」

「初めから、良い言い方をしてよねぇ」

「ハイハイ」

私の顔を見て、本部長は軽く微笑んだ。

「…ねぇ」

「なんだい?」

「今……私達って本当の親子に見えるかな」

ふと思った事を口にしてみた。
父親みたいなんて私自身考えた事も無い
今だってそうだ、バカみたいな考えだと思う

…それでも、言ってみたかったのは…なんででしょうね。

「……さぁってねぇ…どうだろうか。
 でもただ1つ言える事はある」

「なに?」

「それは、 僕はまだ君みたいな歳の子供が居る歳じゃ無いって事だねぇ」

「あ、言ったなこの!」

「イテテ!髭を引っ張らないでよ〜」

「本部長が悪い」

「なんでそうなるのよ」

「さぁ?
 …本部長、肩叩きもういいわよ」

「あれ意外…もう良いの?」

「ええ…代わりといっちゃなんだけど」

「なんだか怖いな…」

「私が肩叩いてあげるわよ」


「へ?」

「なにボケッとした顔してるのよ。
 このまりな様に肩を叩いてもらえるのよ、もっと嬉しがりなさいよ」

「…いや唐突だったものでね」

私は席を立ちすぐ後ろに立つ
そして、本部長はそのまま椅子へと腰掛けた。

「これでいいのかい?」

「ん…OK、それじゃ叩きマース」

「痛い!痛いよまりな君、もっと優しく」

「あ、ゴメン。肩叩くのなんて初めてだから。
 …これくらい?」

「それじゃ弱すぎだよ…もう少し力を、ああそれくらいだよ。
 …うーん、天上天下唯我独尊を地でいくあのまりな君に肩を叩いてもらうなんて、
 考えによっちゃ極上の贅沢かーもね」

「うるさいわよ〜?」

「イタイイタイ!」

めいっぱい力を入れてやると痛がる

でも、

痛めつけてられている方には恨みの感情ではなく

痛めつけてる方でも怒りや憎しみの感情でもなく

穏やかな…感情だった。

端から見たら、そして私からも多分本部長から見ても
他愛の無いやりとり。
私は多分、普通の家庭とかには居続ける事は出来ない性格だと思う。
だって私が育った、そして今広がっている環境は普通の家庭なんかとはまるで縁が無いのだから。

それでもさ…

一瞬だけ、ほんの一瞬だけ…そんな穏やかな関係を夢見ても…バチは当たんないわよね。



四方山話(言い訳)
えー、私のまりな感が最も出ているのがこの話になると思います。
そして同時に自分のまりな感が皆様とすこーし、いやかなりずれてるんじゃ無いかと
がらにも無く少し考え込んだ話でもあります。
実はあとがきを書いているのは出来上がってから数ヶ月経過していていまして
それまでまりな感の問題で放置しっぱなしになっていたもので御座います。
改めて見ると悪い出来じゃ無いとは思いますしそのまま「まぁ良いか」と思った訳ですが
やはりTFAプレイ直後に書いたのが災いしたかなぁ…
一種の反抗みたいな感じじゃないかと思ったり、思わなかったり。