いつの日も


夏の夕暮れ、それは四季の中で1番早い
日差しの暑さからは少しは開放されくたくたになりながらも家と帰る人々が行き交う
その中で…オレだけは家へと向かっていなかった。

とある場所、とある人がいる所へと、足を向けていた。
その場所に着き扉が開くと…

「お誕生日おめでと〜雄二君!」

「…唐突すぎ」

「え、そう?」

オレの言葉に意外そうな顔をするアホ…もとい杏子。

こういう場合状況を整理すべきなのかな。
夕方…と言ってももうかなり日が傾いていた時間帯、いきなり電話がかかってきたんだっけ。


(30分前)

「はいもしもし」

「雄二君!今すぐ私の部屋に来て」

「はぁ?

 ってもう切れてるよ…」


…はい、回想終了。

ったく、いきなり来いとだけ言って電話を切る、仕方ないので来てやったらこれだ
これで唐突じゃ無いと言えるやつがいれば是非顔を拝ませて欲しいな。

「あ、目の前にいたか」

「ん?」

「いや気にするな。
 で、誕生日?誰の?」

「雄二君」

そういわれ頭の中にある適当なカレンダーを使い、今日が何日だったか参照してみる
えーとおとといが8日だった記憶はある…から

「…あ、忘れてた」

「えぇ〜!雄二君たら自分の誕生日忘れるの?!」

「いや、別に今日が何日かなんて気にする生き方してないだけ。
 必要なのは何曜日か、後平日か休日か」

「そんなものかなぁ」

「そんなものそんなもの」

「あ、あれでしょ?平日だとハンバーガーが半額だからとか」

「杏子さぁ…そんな発想しか出来ないの?」

「うぅ…雄二君がいじめるぅ」

「人聞きの悪い言い方するなよ。

 それにさ、招待した客を玄関で立ち往生させて楽しい?」

「…あ、忘れてた」

「おい…」

  * * * *

部屋の中に入らせてもらう。
こう、気兼ねなく入れるのは何回も部屋を訪ねているから…なんてどうでも良いか。
だからという訳では無いけど、中に通されてすぐさま普段と違った異様なものに気がついた

『お誕生』
と書かれ飾られてる垂れ幕に。

「あれ何?」

「あ、いや…お誕生日おめでとうと書こうと思ったんだけど
 気がついたら3文字書いた時点で垂れ幕いっぱいに書いてしまってて」

…9文字書くスペースが3文字でうまるか普通?

「それで、買い足しにいこうかなって思ったんだけどよくよく考えて見ると
 こういうのあんまり好きじゃないかも、と思った訳ね」

と、杏子の言い訳を想像し先に言ってやった
案の定というか、ビックリといった表情が浮かぶ。

「すごーい正解」

「さらに続ければ買ったんだからこの際勿体無いので一応飾りつけた…と」

「……えへへ」

「笑ってごまかしても可愛くないぞ、ったく」

「あひっどーい、私は可愛いじゃない」

「へいへい、そうでございますね」

適当にあしらってやった。

「うぅ…傷つくよ」

適当にあしらわれたのが気にくわないらしい
少しふくれて、目元に指を添えて軽く泣くようなポーズを取る。

「あっそ」

多分泣き真似したら少しは慰めてくれるかととでも思ってたのだろう
そんなことするわけないだろうと分からないものかね

「もう…大声だして泣き出してやろうかな
 それでご近所さんに雄二君の悪い印象植え付けてやる〜」

オレの態度がお気に召さなかったようで、泣真似から少し拗ねたような表情へと変わる我侭お姫様。
こうしてるとコイツほんとに年上なのか…て思うな。

「好きにしなよ、実行したらいい歳した大人が情けない…と思われるだけだろうし」

「むぅ」

ふくれっつらだが、何やら楽しそうな杏子。
というオレも別に悪い気はしていないけど…それを口にも表情にも出しはしない。

「でなんの用?」

「え聞かないと分からない?」

「確認作業」

「ふぅん?
 …えっとね、今日は雄二君を驚かそうと思ったんだ。
 いきなり呼び出して、2人きりでパーティ開くの、きっと喜んでくれるし楽しいだろうなぁって」

さっきまでの拗ねた雰囲気からうって変わり満面の笑みへと変化する。
こうコロコロと表情が変わるのは見てて楽しいのだろうけど、付き合いが長いと逆に呆れる。

「あのさ、オレが都合悪かった場合どうするつもりだった?」

「え?いや考えてないけど」

「だと思った…」

呆れ果てたといった感じでそう言ってやる、てか事実呆れ果てた
どうせ『なによ〜悪かったわね』とでも反発してくるんだろうな
…やれやれ。


「でも、ちゃんと来てくれたじゃない」


「………」

思いもよらない言葉だった。
そう言った杏子の表情、仕草、雰囲気…全てに顔が熱くなる感覚を覚える
そして、オレの思考の中で杏子の言葉への答えが自然に浮かぶ

――だって…杏子の誘いを断る理由ないだろ――


だけど

「何にも用事が無かっただけ、偶々。これから突然は控えめに」

「…はぁい」

…思ってる事と言ってる事が違うじゃないか
なんでこう、素直じゃないんだろうなオレってやつは。

「なーに難しい顔してるのよ?今日はパーティなんだからほら笑って笑って」

「いきなりそう言われても…作り笑いとかは苦手」

「じゃ心の底から笑えばいいでしょ?」

「心の底から笑える理由が無い」

「ふむ…そっか」

そう言った後何やら考え始める。
多分オレを笑わす為にはどうすればいいか、でも考えてるんだろう。

「いないいないば〜」

「は?」

「べろべろば〜」

顔を両手が隠し、パッと開いて奇声をはっする。
さらに舌を出し両手をひらひらと…って

「赤ん坊あやすんじゃないんだぞおい」

「あ、やっぱダメか。うーん意外に効果的かと思ったんだけど」

「何考えてるんだよ、ったく」

「あ」

「なんだよ?」

「フフ、やぁっと笑ったね」

一瞬、その言葉の意味を理解出来なかった。
…でも少しづつ分かってくる
気付かない内に、笑ってたのかオレは。

理由は多分

「あまりにバカバカしいからだろ、杏子が」

「もう、ふんだ」

  * * * *

素直になる。
自分の気持ち、思った事感じた事を言葉や態度にして正確に相手に伝える
オレはそれが出来ない
いつも、思っている事と伝える言葉にギャップがあった
照れ屋だのシャイだのとよく言われるがただ単に天邪鬼なだけじゃないかと自分が嫌になる時がある。

反対に杏子は、思った事が殆ど顔に出る
何か後ろめたい事や言い難い事があれば一発で分かる程 良く言えば素直、悪く言えば単純
そんな有り様で諜報とやらの仕事に就けたんだからどうかしているとマジで思う
けれど、その性格を逆に信頼してたりするのも事実だったりするので人間の思考ってのは不思議だ。

「それでは雄二君の誕生日を記念して…拍手〜」

「…」

「…拍手は?」

「パーティというから何か用意してあるかと思ったら…シャンパンだけかよ」

「だって、夕飯食べてたら悪いでしょ?」

「だからってケーキくらい用意でき……ああ、そゆわけね」

視線の先には散乱したボールやら飛び散った生クリームやら小麦粉の惨状。

「うぅ…」

「片付けとけよ、まったく」

「だってぇ〜あんまり遅いと悪いかなって、これでも一生懸命片付けたほう」

「そうですか、それは御苦労様」

「ぜーんぜん気持ちがこもってないように聞こえる」

「込めてないもの」

「あ、成る程」

「いや納得する場面じゃ無いだろ…」

「あはは…まぁ、乾杯しましょ!」

取りあえずは乾杯の準備をはじめる為に封を開ける…この独特の緊張間がなんかな
ふざけて顔面を狙ったり思わず電灯を割ってしまったり、は男連中かガキのパーティくらいか。
実際は封を引き抜くようにすれば危険性は無いんだよな。
これが正規のやり方かどうかは知らないけど

「じゃぁ…乾杯しましょ?」

少しだけ泡立つ半透明な液体が2つのグラスに注がれて
お互いにお互いのグラスをそっと当てる

「かんぱーい」

「乾杯」

グラスが当たる
少し触れただけなのに、それは綺麗な音色を辺りに響かせた
静かな場所だからこそ際立つ音。
不思議と、どんな音楽よりも心に響くような気がした。

「…ああ!!」

「んだよ?」

「しまったなぁ…ノンアルコールじゃないやコレ…」

「平気さ、これくらい飲める」

「未成年はお酒飲んじゃダメ!」

「無礼講」

「うーんそだね、そゆことにしておこうかな」

単純なやつ…

いつもの事だが、その反応に呆れつつ…グラスに入ってる液体を一気に飲み干す
アルコールなんて飲む機会は少ないので、自分が強いのか弱いのかは知らない
が、とりあえず分かってるのはグラス一杯飲んだだけでクラクラしてきた事。

「おお、一気なんて凄いね」

「凄くない、ちょっとクラクラしてきた」

「ええ!大変、急性アルコール…」

「な訳ないだろ」

「あ、やっぱり」


その後続くのは、普段と変わらない他愛の無いお喋りだ
自分の周りの話
嬉しかった事
楽しかった事
笑った事
愚痴

とにかく色々
そのたびに杏子がおおぼけしたり、オレが注意したり…

こうしていると、思う事がある
オレと杏子は…世界が違う
変な意味じゃない、自分には自分の環境や人間関係…そういう意味で世界がある
これが同じやつなんてこの世にいない、だから誰とも世界は違う

悲観的に聞こえるかもしれないけど、そうじゃない
…だからこそ自分とは違う視点と世界を持った人の中に、自分がいる事が嬉しい
自分の世界の一番近くに一番大切な人がいて、
大切な人の世界の一番近くに自分がいるって感じれる事が幸せ…なんじゃないかと思う。

…何考えてるんだか、酔ったかな。

「どうかした?」

ふいに呼ばれる。
気がつけば杏子が心配そうな顔を見せていた

「いや…なんでもない」

「ホントに?」

「本当」

「そっか、なら良いよ」

そういって微笑みをくれる。
この笑いが“ただのアホ面”から“安心する笑み”に変わったのは…いつだったかな。

そして、自分がガキだと思い知らされるようになったのは…いつだったかな。

杏子は危なっかしいし、天然ボケの気はあるしで、オレはよくフォローにまわる
フォローするたび…本当にフォローされてるのはオレじゃないかって思うようになった。

オレはただ……強がって背伸びしてるだけで
本当は何にも出来ない子供に過ぎないんじゃないかって。

反対に一見危なっかしくても、なんとかやってってるのが杏子。
これでも大学はいいとこでだしオレなんかよりずっと大人だ。

当たり前
杏子は大人、そして…オレはまだガキ。

「…やっぱり何か考えてる。変だよ?雄二君」

ずっと黙りこくってたオレを暫く見ていたのだろう、今度は何か考えてると確信して訊いてきた。

「…なんでもない、ぼーっとしてただけ」

「嘘」

「…」

「何か考えてたよ…あ、言わないで!今度は私が当ててみせるからね」

暗くなりがちな雰囲気をふっ飛ばしたく思ったのか、明るい口調でそう言う。

「うーん…そうだなぁ…」

暫く考え込む

「眠くなってきた、とか?」

「…違う」

「じゃあ、お腹減ったな?」

「違う」

「…ケーキ食べたかったな」

「……違う」

「うーん…降参」

…もう降参らしい
くだらないことばかり思いつくもんだな
それとも…敢えて暗いものには話を持っていきたくなかったか。

「ダメだねぇ、雄二君ポーカーフェイスだもの、私には分かんないや。
 ホント敵わないなぁ、私より大人びてるしね」

「…本気で」

「ん?」

「本気でそう思ってるのか?」

「だって、ホントの事だもん」

「オレはガキだよ」

「ううん、立派立派」

「違うッ!!」


気が付けば大声を張り上げていた。

「どう…したの?」

杏子は驚いた瞳を向けてくる

「オレなんか精神的にも経済的にもまだまだ未熟だよ
 自分一人養ってけるかどうかも怪しいもんさ
 口は達者なくせに実は何も出来ないかも知れない
 それが…それが嫌なんだ」

「…」

「でも杏子は完全に大人じゃないか
 普段はぼけっとしてるけど、それでも大人なんだよ
 一緒にいると…引け目みたいなものを感じるんだ」

何を言ってるんだ…オレは。
そう思っていても口は止まらなかった
今まで思っていても口に出せなかった事が…一気に溢れて来て
杏子の顔を見ることが出来ずに、俯きながらオレは続けた

「自分がガキだから…杏子を本当の意味で支えれるかが不安だった
 対等の位置に立っていたいのに、立ててない気がしてならなかった
 …未熟なところとか、ガキっぽい部分とかがすぐに消えるとは思わない、けど…けど!

 もっと…しっかりした――」

最後は殆ど叫びだった

…でも叫んでしまう寸前、言い終わる前に、頭を包まれる感覚がする。

気が付けば…オレの頭は抱き抱えられていた

そのまま、杏子は何も言わなかった。ただ黙って、抱きしめてくれていた
オレも…何も言えなかった。

頭の中からはもう考えは消えていた
あるのは、

杏子のぬくもりと、心地良い心臓のかすかなリズム


「…いいんじゃないかな?それで」

徐に、杏子は口を開いた。

「まだまだ未熟で子供でいいんだと思うよ。
 だって、まだ完全な大人になりきれるわけないから」

「でも…それじゃ」

「ううん、これからなれば良いんだよゆっくり」

抱きしめてくれる手が少しだけ強くなる

「私だって、ちょっと前まで子供だったもん
 今だって子供の部分多いよ、誰だってそうじゃないかな」

「……」

「それが嫌だと思うから、思えれるから成長ってあるんだと思うんだ
 今までの自分が嫌だって思える人程成長してるんだと思う

 だから、ゆっくりと雄二君らしく…今はいればいいと思う。
 そうしてたら、近いうちに大人になれてるよ、多分ね」

「…最後の『多分』のせいで説得力に欠くな」

「う…ひっどいなぁ」

「事実だよ。

 でも…ありがとう」

「ふふ…今日は素直だね。どうして?」

「さぁ…なんでだろ…酔ってるからかな」

「そっか、じゃあ今度から毎日を無礼講にしようかな」

「お前…ちょっと前と言ってること逆だぞ」

「それが成長というものです」

「絶対違う」

杏子の腕から開放され、顔は元の位置へと戻る
そして、ゆっくりと口付けを交わす

シャンパンの味が…広がった。



四方山話(言い訳)
えーと……1つ前の「今だけは」と対になるようにしようかなと思い書いてみたやつです。
今だけと思うもの、いつもと願うもの。でも根底の感情は似たような…
という事で杏子とまりなが合ってるなぁって感じで原案が浮かんで
まぁ…いつのまにかこんなのになってました。
話の構成とかはなんとなくいつも同じだよなぁとは思いますが
段々路線変わってきてないかとかも思いましたね(^^;