ばーじにあすりむ |
「小次郎、今日の夕飯シチューでいいか?」 「ん?どうした?今日は先に帰るのか?」 「ああ、書類の方も一段落したしな。小次郎もたまにはちゃんとした料理を食べたいだろ?」 「ま、俺としては弥生の方を食べたいくらいだが・・・」 「な・・・ば、ばか。まだ他の所員がいるだろ!」 「おーおー照れちゃって。弥生ちゃん、かーわいー♪」 「・・・小次郎。私の手料理と鉄拳制裁、どっちを食べたい?」 「・・・手料理が食べたいです・・・」 「ふん・・・。そうだ、小次郎も一緒に帰れるだろ?だったら途中で・・・」 「悪い、ちょっと用事があってな。すまんが先に帰っててくれるか。すぐにオレも帰るから。」 「そうか。じゃあ先に料理を作って待ってるぞ。」 「ああ。すまんな。」 「フ・・・じゃあ家で。」 「あ、そうだ弥生!」 「なんだ?」 「シャワーは先に済ましとけよ♪」 バキ! −−−−−−−− 「ふぅ、仕込みはこれで良し、と。後はコンソメを・・・」 あれ? 切らしてるのか・・・。代わりになるようなモノも無いし・・・仕方ない、近くのコンビニで買ってくるか。 もうすっかり暗くなった道を独りで歩く。私が部屋に帰ったときはまだ夕陽が眩しかったのに・・・ (小次郎、遅いな。用事って一体何だろう?) ・・・ 用事・・・って・・・ 私の頭を苦い思い出が過る。小次郎がパパと一緒に風俗で豪遊したあの日・・・ 私は泣き疲れて目を真っ赤にしていたのに・・・ 明け方近くに帰ってきた小次郎は、よりにもよって妙に鼻にツンとくるソープを香らせて、 ぬけぬけと「おやっさんと張りこみしてた」と言った。 ・・・ ま、まさか。今日はすぐに帰るって言ったじゃないか・・・ ・・・でも、あの時も「すぐに帰るから」って・・・ (・・・) 「いらっしゃいませ〜」 (・・・) 「・・・20円の御返しです。ありがとうございました〜」 (・・・) イライラする。そんなときにふと、レジの後方にあるタバコの箱が目に付いた。 「・・・すいません」 「はい?」 「タバコ・・・お願いします」 「かしこまりました。どの銘柄ですか?」 (銘柄?) 「あ、そ、その・・・えーーーと・・・その緑のヤツを・・・」 「バージニアスリムですね?ボックスでよろしいですか?」 「え、ええ!ボックスを。」 「260円になります。ありがとうございました〜」 −−−−−−−− 気がつくと部屋に帰っていた。玄関に小次郎の靴はまだ見えない ・・・ コンビニの袋から緑の線が印象的な煙草の箱を取り出す。 どうしてタバコなんか買ったんだろ?今までパパが吸っているのを見ても、吸おうと思ったことすらないのに。 梱包を開けて中の一本を取り出す。独特の香り、いや「臭い」が鼻につく。 (パパ・・・こんなものを吸ってるんだ・・・) 恐る恐る口に咥えて火を・・・ ・・・火? ライターなんて私持ってない・・・ マッチ・・・はウチには無かったな。ガスコンロは・・・鍋が占領してるし・・・ 何か火のつくもの・・・ 目線を玄関に移すと「チャッカマン」が目に付いた。先月ママの墓参りに行った時に買ったヤツだ・・・ 1分後にはチャッカマンでタバコに火をつけようとする私の姿があった。今思えばひどく滑稽な姿だったに違いない。 「すーーーー」 ・・・ 「ゲホッ!げほっ!ゲホッ!!」 喉が苦しい。頭がクラクラする。パパはあんなに美味しそうに吸っていたのに。 (パパ・・・) ちょとだけパパに幻滅してタバコを消そうとする。 幸いパパがヘビースモーカーだから灰皿だけはガラスの立派なヤツがウチにもある。 (私には合わないな・・・) と思って火をもみ消そうとした瞬間。小次郎の顔が浮かんできた。 ・・・事務の景子クンの姿と一緒に。 「・・・こ、こ、じ、ろ、う・・・」 もみ消そうとしたタバコを口に咥えなおして再び吸い出す。 不思議と今回は煙にむせなくなった。が、今はそんなことに感動を覚えてる余裕は無い。 (小次郎・・・景子クンと・・・まさか事務所で・・・) 気がつくともう一本吸っている私が居た。 (私だって、事務所でしたことなんて無かったのに・・・) もう一本 (すぐに帰るから、とか言っておいて・・・あのバカ・・・) もう一本 (パパもパパよ!あんな風に小次郎を育てて・・・) もう一本 (しかも今はどこにいるかもわからないなんて・・・) もう一本 ・ ・ ・ 「小次郎の・・・パパの・・・ばかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 −−−−−−−− ガチャ 「ただいまー」 カギを開けて、「おかえり」とエプロン姿の弥生が駆け寄ってくるのを期待したオレだったが・・・ 「??な、なんだこのケムリ?」 空腹を満たしてくれるであろう心地よい香り・・・とは正反対の、ヤニの臭いが漂ってくる。 「まさかおやっさん、帰ってきたのか?」 が、そうじゃなかった。 ソファの方を見ると、おやっさんの灰皿を吸殻で山盛り状態にして、そして・・・ そして鬼のような形相でタバコを吸う弥生の姿があった・・・ 「た、ただいまー」 ジロ! 「や、弥生ぃ・・・オマエ、煙草吸うようになったのか?」 「小次郎!!」 「はい!」 「今まで・・・何してた?」 「え?いや、それは・・・グ」 「景子クンの胸はさそ大きかっただろうな!」 「・・・は?」 「事務所の机は固くなかったか?腰を痛めると大変だからなあ!」 「???」 (なんでコイツ、涙目になってんの?) と思う間も無く、高速の平手打ち(スパンク)がオレの頬を直撃する。 「バカ!スケベ!!変態!!!」 スパンクは一発ではなかった・・・言われの無いバリゾーゴンを浴びせられながら、 オレはただのサンドバッグと化していく・・・ 「バカ・・・バカ・・・」 ようやく弥生の手が止まる。下を俯き、涙をポロポロ流して、肩をワナワナ震わせていた。 「あのなぁ、弥生ぃ・・・」 「五月蝿い!」 「今日オレが遅くなったのはだなぁ・・・」 「ウルサイ!!ウルサイ!!」 「グレンからの連絡待ちしてたんだよ・・・」 「うるさ・・・!!?」 「事務所のTELじゃないとFAXが使えないだろ?」 「グレンってどこの女よ!」 「ば・・・あのなぁ、グレンだよ、グ・レ・ン。黒人の、情報屋の。」 「え・・・??」 「弥生の勘違いは毎度の事だが、まさかあのグレンと女を穿き違えるとはなあ・・・」 「!!じゃ、じゃあ・・・」 「調査リストに上がっていた○×商事の裏金疑惑の資料をヤツに依頼してたの。ほれFAX。」 オレが鞄から数枚のFAX用紙を取り出すと、弥生はそれをガバっと引っ手繰った。 食い入るようにそれを読む弥生。まさかそれに弥生の痴態の数々が鮮明に記されているわけでもあるまいに・・・ ・・・だとしたらグレン・・・ボーナスアップ間違いなし・・・ 「これ・・・小次郎・・・?」 「事務の景子チャンがどうしたって?彼女3日前から有給取って、彼氏と旅行に行ってる最中だろ?」 「あ・・・!」 「所員のことを把握できてないのは所長代理としては失格だぜ?」 「ご、ごめんなさい!小次郎!痛くなかった?」 弥生は赤く腫れ上がったオレの頬にそっと手を当てる。ひんやりとした感覚が心地よい。 「・・・痛い・・・ジンジンする・・・」 「ごめんなさい!私・・・ひどいことを・・・」 「いいよ」 「よくないわ!私、小次郎を・・・」 弥生をそっと抱き寄せる。胸の中で何度も「ごめんなさい」を連発して泣きじゃくる弥生。 こんな時、いつもコイツがたまらなく愛しくなる 「弥生・・・」 「小次郎・・・」 ぐぅ〜〜(※例の効果音で) 「・・・」 「・・・」 間違いない。今の音はオレのだけじゃなかった。 「メシ、出来てるか?」 「え?あ!コンソメ・・・」 慌てて鍋に向かう弥生。蓋を開けてコンソメの粒を2個ほど放りこんだ。 「ごめんなさい。今から一時間くらい煮込まないと・・・」 「じゃあその間に弥生でも食べるかな♪」 「・・・」 オレはもう一度来るであろうスパンクに備えるため身構えた。が、予想に反して弥生は小さくコクンと頷く。 「小次郎・・・」 向こうからの不意のキスだった。予想外の行動を取られた事も意外だったが、それ以上に・・・ 「フフ、ははは」 思わず笑い声が漏れる。どうしたの?という表情でオレを見つめる弥生。 「オマエ、煙草の味がするな・・・」 「あ、ご、ごめんなさい・・・」 改めて灰皿に山盛りになっている吸殻を見る。コイツが勝手に何を思い込んで、 どうして初めてのタバコを吸ったのか容易に想像がつく。 「タバコを吸う女なんて嫌い・・・よね?」 「いや・・・」 弥生の涙を拭ってやり、もう一度キスを交わす。 「シチューより美味いかもな」 「ひどい・・・まだ食べてもないくせに」 「どっちも、ちゃんと食べるさ」 「うん・・・」 シチューの香りが漂ってくる。鼻腔をくすぐるコクのある香り・・・でも今は、煙草の味が口の中で広がって行く・・・ |
四方山話(言い訳) |
再びどうも、talkでございます。 今回Yayoi's Detective Office25000ヒット記念& ワタクシの独断・偏見サイト、TalkShowの10000ヒット記念ということで、 この赤面小説第二段を書くに至りました。 氷室バカを自称する私としては珍しく小次郎-弥生モノに手ぇ出したわけですが、 いかがでしたでしょうか? どーしてもイメージの中で切なさが先行してしまう氷室モノに比べると、 珍しくほんわかしたモノが書けたのではと思っております。 ま、赤面モノに関しては相変わらずですが・・・ やっぱり弥生もいるからこそのEVEなんだなぁとしみじみ思う私でした。 読んでくださった皆様、「ああ、このバカには弥生もこんな風に見えるのね」 と思ってくだされば幸いで御座います。 |