その想いを未来へ…何時までも


    (注)ロストワンの後日談です。
       ネタバレを含みますので
       ロストワンをクリアしてから見る事をおすすめします。


僕は時々、自分の立場が嫌になる。

ただ、事の成り行きを見守る事しか出来ないのだから。
現場に出ている部下達がどんな危険な目にあっても、助けてあげる事は出来ない。
助言やバックアップは出来ても・・・。

まりな君は、2人の少女を助ける事が出来なかった。
杏子君は着任早々、大きな事件に巻き込まれた。
そして・・・見城君。

彼は、一体どんな気持ちだったのだろう?
何を思い、何を考え、何を残したのだろうか?

    * * * *

 「・・・まったく。
  殺人容疑者が出たと思ったら、本物の殺人犯まで出すとはな。
  甲野君・・・一体君は、部下にどういう教育をしているのかね?」

そう言った男は、
人の弱みを見つけた子供のように、他人の不幸を楽しんでいるように、僕に話し掛けてくる。
おっと、男なんて言ったらいけないか。
一応、僕よりお偉いさんだからね・・・。

僕は、お偉方達に出頭を命じられていた。
『LOST ONE事件』において殺人の容疑がかかった杏子君と、
実際に殺人を犯してしまった見城君の存在は、
内調の存続問題に関わる失態だから、だそうだ。

・・・実際の所は、僕を筆頭とした内調を大人しくさせる絶好の機会と思ったからだろう。
僕達、いや僕は嫌われ者だからね。

 「・・・何でも、桐野捜査官は殺人の容疑がかかった時、外国へ飛んだそうじゃないか。
  君達の内の誰かが、協力して彼女を逃がしたのではないかね?」

うーん、以外に鋭いなー。

 「桐野捜査官に、君は大層期待を寄せていたらしいな。
  だが、結果はこうだ。
  これで、君には見る眼が無い事が証明されたな」

・・・よく言うよ。杏子君のお陰で僕達は助かったみたいなものなのに。

 「まあ、桐野捜査官は良いとしよう。
  だが・・・見城捜査官はそうはいかん」

 「インポートタワー、ジェネシス・シーワールド爆破、及び望月生物学研究所所長、望月正雄の殺害。
  仮にも内調・・・国家公務員を名乗る者にはあってはならない失態だ」

  ・・・。

 「あのような男を採用したのが、そもそもの間違いだな。
  桐野捜査官だってそうだ。容疑がかけられたのも、実際に罪を犯す可能性があるからだろう?
  だから疑われた。
  内調は、いつから犯罪者育成所になったのだね?」

・・・・。

 「まったく、恥さらしもいい所だ。
  あのような者達が私達と同じ職だったと思うだけでも、腹が立つよ」

 「死んでくれたのが不幸中の幸いだったな。
  生きて帰って来ても、迷惑だからな」

 「ああ、桐野捜査官にも、即刻退職してもらわないとな」

 「当然、上司である君にも責任は取ってもらうぞ」

 「そうだ!我々の顔に泥を塗った責任は取ってもらうぞ。甲野君」

・・・・・。

 「何とか言ったらどうだね?」

・・・・・・。

 「何も言えぬか。・・・まあ、当然だろうな。君もあの面汚しと同類だろうからな!」

 「・・・あのような? 面汚し・・・ですと?」

 「何だ、何が言いたいのだね?」

 「・・・では、お聞きしたい。
  あなた方は、あの2人の何を知っているというのですか・・・!」

 「何、だと?聞いていなかったのかね。
  桐野捜査官は殺人容疑、見城捜査官は・・・」

 「何も知らないでしょうッ!!
  あの2人がどう思い、どう行動し、どう生き抜いてきたかを!!
  どんな思いで、ワクチンを砂漠から持ち帰ったか!
  どんな思いで、殺人を犯したか!
  どんな思いで、見城君が死んでまで作ってくれた道を、杏子君が歩いたかッ!!
  どんな思いで、杏子君に全てを託して、見城君は死んでいったか・・・!!

    何も・・・何も知らないでしょう!!あなた方はッ!!」

 「な・・何を・・」

 「泥を塗った!?面汚し!?死んで良かった!?
  あの2人の事を、何も知らないで・・・2人に対して、そのような・・・!

    そのような失礼は発言は謹んで頂きたいッ!!」

 「・・・失礼する」

僕は、あっけに取られている奴等を無視し、その場から去った。

    * * * *

僕は、見慣れた自分のオフィスに戻り、座り慣れた自分の席へ座った。

 「はぁ〜〜〜・・・やってしまったよ・・・。
  これでクビ確定だな・・・。
  僕には家族だっているのに・・・」

 「ほーんと、やばい発言だったわね」

 「・・・まりな君、いつからいたんだね・・・心臓に悪い登場の仕方しないでくれる?

    それに、どうしてやばい発言だったって知っているの?
  まさか盗み聞きしていたのかね・・・」

 「ピンポーン!大正解。さっすが本部長」

 「おいおい・・・」

 「・・・でも、かっこ良かったわよ」

そう言ってまりな君は、私に微笑んでくれた。
・・・天使の笑みなのだか、悪魔の笑みなのだか・・・。

 「・・・あんな事を言っておいてなんだけどね。
  僕だって、実は何にも分からないんだよ。
  2人がどう思い、どう行動し、どう生き抜いてきたか・・・なんてね。
  特に・・・見城君は」

 「・・・」

 「僕はね、見城君が罪を犯したなんて・・・まだ信じられないんだ。
  見城君は良い奴だった。
  まりな君とは全然違うタイプだったけど、
  その働きぶりは、まりな君を見ているようだった。
  丁度、杏子君のようにね。
  2人とも、タイプは違ってもまりな君の教え子だよ・・本当に。
  見城君は将来、きっとまりな君に匹敵する・・・良い捜査官になっていたと思うよ、絶対ね。

  そしてね・・・。
  ひょっとしたら、見城君が罪を犯したのって・・・僕の所為じゃないかって思うんだ」

 「どうして?」

 「インポートタワーの爆破ね・・・あれは、
  見城君がずっと苦しんでいたから、その苦しみを少しでも無くしたかったから、
  だから起こしたものじゃないかって・・・思うんだ。

  そしてその苦しみは、日頃の内調の仕事にも、少しは出ていたような気がして・・・。
  いや、出ていたはずなんだ。

  ・・・それを、僕は気付いてやれなかった・・・。

  部下が苦しんでいるのを、僕はただ黙って、黙って・・・気付かずに見ていただけだったんだよ!

  ・・・上司失格だよね、僕は」

 「本部長・・・」

 「これでクビになるのは、むしろ好都合だったのかも知れない。
  これ以上、見城君のような思いをする人を出さない為にもね・・・」

 「それは違うわよ」

 「・・・どうしてだね?」

 「私ね、本部長ほど・・・上司に向いている人っていないと思う。少なくとも私の知る限りはね。
  部下を、そこまで心配してくれる人なんて、そういないわよ。

  そしてね・・・もし本当に、本当に見城と同じ思いをする人を出したくないのなら、
  本部長は内調を辞めちゃダメよ。
  見城と同じ思いをする人を増やさない為には、その仕事を辞めるんじゃなくて
  その仕事を続けて、自分自身が同じ思いをする人間を減らす努力をするしかないのよ。

  辞めて・・・他の人にその役目を預けちゃダメなのよ」

その言葉を聞いた時、私は2人の少女を、思い出した。

そうか・・・まりな君も、同じ思いをしたんだったな。

守れなかった人が・・・救う事が出来なかった人が・・・いたんだったな。

 「見城は、道を作ってくれたわ。
  杏子には、ワクチンを届ける道を。
  本部長には、見城と同じ思いをする人を、これ以上出さないようにする道を。

    杏子は、その道を進んだわ。
  だから、本部長も・・・進むべきだと思う。
  見城の死を、無駄にしない為に・・・ね」

 「まりな君・・・君も、進むのかい?
  彼女達が残してくれた、その道を・・・逃げずに」

 「もちろん、それくらいの事しか、私には出来ないからね」

 「・・・そうか・・・
  その通りだ。

  無駄にしちゃ・・・見城君に申し訳が立たないね」

 「そゆこと」

 「・・・よーし!頑張るか!!
  どんな事があっても、僕は内調を辞めないよー!意地でもね!!」

 「そうそう、その調子よ。まだ弱るほど歳を取ってないでしょ?」

 「そうそう、僕はまだ若いんだからねー。
  ・・・よーし!ここは1つ、現場復帰でもするかな?」

 「ちょっとー。歳を考えなさいよねー」

 「・・・まりな君、さっきと正反対の事を言っていないかい?」

 「あーら。何の事かしら♪」

 「まりなく〜ん・・・」

僕は時々、自分の立場が嫌になる。

ただ、事の成り行きを見守る事しか出来ないのだから。
現場に出ている部下達がどんな危険な目にあっても、助けてあげる事は出来ない。
助言やバックアップは出来ても・・・。

でも、その助言やバックアップで部下の危機も減らせる事だってある。
彼等が、安心して捜査出来るように僕は、僕にしか出来ない事をする。

これは僕の、君に対する単なる罪滅ぼしなのかもしれない。
君が僕に示してくれた道は、偶然出来た・・君はこれっぽっちも考えていなかったものかもしれない。
でも・・・それでも僕は、君みたいな人をもう二度と出したくは無い。
だから、僕は進もう、この道を。

見城君・・・僕は、君に誓おう。
君みたいな思いをする人を、これ以上出さない努力をする事を。

それが、『上司』として、僕が出来るただ1つの・・・でも最大級の事なのだから。

END



四方山話(言い訳)
シリーズ通して出ている、『ダンディ中年』こと甲野三郎本部長。
そのかっこ良さに惚れて書いた小説です。

いつも軽いジョークを飛ばす愉快な本部長。
でも実際は・・・と思って書いてみました。
やっぱ、本部長も人間ですから色々と苦悩しているんだろうなぁ、と。

1番書きたかったのは、「そのような失礼な発言は謹んで頂きたいッ!!」です。

『部下であるまりな、杏子、見城を心から大切に思っている部下思いの最高の上司』
それが本部長だと、そう思うからです。

しかし、私が書くと見城が偉大な人に見えるのは・・・気のせいか。気のせいだろう(笑)