何気ない日常 其の二


<Scene 1>

 「姉さん、上手いですね。」

 「そうか?直に慣れるさ、シリアも。」

キャベツを千切りにする弥生の包丁さばきに、シリアは釘付けになっていた。
ナイフをあれだけ自在に操る彼女が、包丁を使う事が苦手なんて意外な話である。
やはり、勝手が違うものなのだろう。

 「やってみるか?」

 「えっ?私・・・?」

弥生から包丁を差し出されたシリアは、戸惑いながらもそれを恐る恐る受け取った。

料理自体、正直言って苦手であった。
しかし、「お姉さんが隣で教えてくれる」そんな些細なことが、
シリアにとっては嬉しくてしょうがなかった。
そう、孤独な時間があまりにも、あまりにも長かったのだ。

 「じゃあ、ちょっと難しいが豆腐を切って貰おうかな。」

弥生は冷蔵庫の扉を開け、豆腐を取り出した。

 「豆腐は手のひらに乗せて、賽の目のように切るんだ。
  縦方向は力を入れ過ぎると自分の手まで切ってしまうから、
  ゆっくりと落ち着いてやるんだぞ。」

豆腐の切り方を身振り手振りを交えながらシリアに説明し、

 「じゃあ、手を出して。」

弥生はシリアの手を掴み、その手のひらへ豆腐を落とした。

女としての幸せ、いや、人としての幸せが何であるのか。
シリアは、それが「姉と料理をする」という
普通の姉妹ならおそらく経験しているだろうことで実感していた。

油断すると崩れてしまいそうな物体に少々戸惑いながらも、
嬉しさの涙が零れるのを堪えながら、弥生の指示通り、豆腐に包丁を入れていった。

<Scene 2>

「じゃあ、デザートを作るか。」

弥生は調理器具が散乱状態になった台所を片づけながら、
隣で調理器具を拭いているシリアに次の作業を伝えた。

 「デザートって何を作るの?」

 「ババロアだ。・・・何かこの名前に引っかかる所があるんだが・・・まあ、いいか。」

ババロアと伝えられた瞬間、シリアの目は大きく見開かれ、
見るからに「幸せ〜」といった表情に様変わりした。

 「嬉しい〜!私、甘いものに目が無いんです!!
  姉さん、早く作りましょう!」

 「おいおい、そんなに焦るなよ・・・」

台所の片づけの途中であったが、
半ばシリアに押されるような形で冷蔵庫の前に連行された。
洗い物途中の弥生の手は『ジョイまみれ』であったため、
シリアに材料となる品々を取り出すよう指示した。

 「わあ、この『みかん』ブランデー漬けなんだ〜!
  わざわざ酒に漬けるなんて、これ、姉さんの趣味でしょう。」

 「まあ、それもあるんだがな。
  小次郎の奴が好きなんだ。ブランデー漬け。」

弥生は小次郎の名前を出してハッとしたが後の祭り、
シリアは好奇心旺盛に目を輝かせながら、お姉さんへ質問の嵐を浴びせ掛けたとさ。

やっぱり、人の恋愛ってのは彼女にも気になるようで・・・。

<Scene 3>

 「いただきま〜す」

小次郎を含めた3人がテーブルを囲み、一斉に箸を手にした・・・・と思いきや、
テーブルに並べられた豪華な料理をよそに、なんとシリアはババロアから手をつけ始めた。

 「こら!何故ババロアから食べる。
  シリアの主食はババロアかっ。私達の分が無くなるだろう。」

弥生にとっては前代未聞の行為に、思わずツッコミを入れた。

 「だって、楽しみだったから。」

少し申し分けなさそうな顔をしつつも、
おねだりをするような目つきで、ババロアを食べることの許可を訴えた。

 「まあ、いいじゃないか。
  俺の分はいらないから、好きなだけ食べろよ。」

そんなシリアの表情を見てか、小次郎が助け船を出した。
弥生は「仕方ないなあ」と呟きながらも、小次郎の意見に同意した。

シリアは満面の笑みを浮かべ、口いっぱいにババロアを頬張った。
それは、弥生にとって、いや姉にとって微笑ましい光景であったに違いない。

      * * * *

結局、シリアは弥生の分のババロアまで取り上げてしまい、
更に全ての料理を平らげてしまった。

 「有り難う、姉さん。そして、兄さんも♪」

 「ゴホゴホ!!」×2

お礼の言葉はちゃ〜んと忘れていなかったようで・・・。

おわり



四方山話(言い訳)
私、最初はそんなに好きなキャラではなかったんんですよ、シリアって。
でも、最期の「ね・・・・。私のお姉さんのこと、聞かせて・・・・。」
と源三郎に訊ねたシーンで、印象がガラリと変わりました。
うーん、ちょっと幸せにしてあげたいかな、と。

シリアが普通の女性として生きていたら、社交的で皆に好かれる存在になるような気がします。
礼儀正しいと言うか、しっかりしてると言うか。
ゲームでのイメージは全然ありません。
弥生も良いお姉さんになるんだろうなあ。

あと、シリアは甘いものが大好きではないかと思います。
それも、甘いものを目の前に出されると嬉しくてしょうがないくらいに。
私のイメージ的にはピンとくるんですよねえ。
ギャップ王故に、ギャップを無理矢理作りだそうとしているのかもしれませんけど。

幸せな姉妹、ゲーム中で見る事は絶対に不可能なので、
こんなのもまあいいかなあと思いますが、いかがなもんでございましょう。