何気ない日常 其の三 |
<Scene 1> 「ただいま」 「おかえり・・・って何だ弥生、そのデカイ弁当箱みたいなのは。」 帰宅した弥生の両手には何か未知なる物体が抱えられていた。 「ああ、まりなから借りてきた。 プレイ・・・ディアとか何とかって名前のゲーム機だ。」 弥生の両手に抱えられた物体は、 何を隠そう、今や老若男女が楽しんでいるゲーム機だった。 実際はバンダイ発の幻のゲーム機『プレイディア』ではなく、 みなさん御存知の『プレイステーション』である。 「法条が?あいつ、ゲームなんてやるんだ。」 小次郎も弥生も、ゲームとは普段全く縁の無い人間である。 テレビCM等でそれらしき物は眺めたことがあるが、見向きをした例がない。 「今日初めて薦められたんだが、これがなかなか面白いもんでね。 まりなは別のがあるって言うんで、丁度良いから借りてきた。」 「どうせ法条にいいように遊ばれて悔しくなったんで、練習しようと借りてきたんだろう。」 「う・・・」 −−−−−−−事の経緯はこうである−−−−−−− まりながあまりにも楽しそうにゲームをしているのを見て、 そんなに楽しいものなのかと聞いてみたのだが、 まりなの「やってみるのが一番手っ取り早いんじゃない?」という一声で 人生において初めてゲームのコントローラーを握ることに。 ゲームはよりによって対戦格闘ゲーム。 容赦なく連続技を決めてくるまりなに当然適うはずもなく、一方的にやられるばかり。 しかし、何しろ負けず嫌いの弥生である。 何度も勝負を挑み続け、死闘(?)すること4時間、 とうとう「もう勘弁して」とまりなのほうから折れる始末。 納得しない弥生に、 「本体ごと貸すから彼氏と一緒に練習しなさい。」 と宥められ、喜んで借りてきたという訳である。 でも、一番の要因は、 「彼氏と仲良く対戦ゲームなんて羨ましい。愛の絆もこれで深まること間違いナシよ。」 とまりなが弥生をそそのかしたからなのであるが・・・。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「ま、まあ、そんなことはどうでもいいだろう。 兎に角面白かったんだ。小次郎、お前にも付き合ってもらうぞ!」 「しょうがねえなあ・・・」 相変わらず強引に小次郎を引き込もうとする弥生。 小次郎の性格を考えると本来は嫌がるようなことなのだが、 まりなにいいように遊ばれる弥生を想像すると何となく可愛く思えてしまい、 弥生が満足するまで付き合うことにしたのであった。 「ところで、これはどうやって繋げるんだ?」 「・・・俺も知らんぞ。」 <Scene 2> 苦労の末、無事テレビに繋げた2人。 CD-ROMをセットして電源を入れ、いよいよゲーム開始。 「どれにしようかなあ・・・」 「あ、おれさまはこの可愛い女の子にしよ〜っと。」 キャラ選択画面で迷う弥生を尻目に、 小次郎は早々とキャラを決めてしまった。 「あー!何で女なんて使うんだ!!」 「何が悲しくてムサ苦しい野郎なんて選ばなきゃならないんだよ・・・」 ゲームのキャラとは言え、何か負けたような気がして悔しかった弥生は、 『女キャラを使うな』という理不尽な要求を出してきた。 「いいからお前はこのゴツい奴にするんだ!」 「弥生〜、お前なあ頼むからもっとマシなの選んでくれよ・・・」 弥生が指名したのは、いかにも投げキャラ〜な上半身裸の大男だった。 しかし、あまりにも小次郎が嫌そうな顔をしたので、それは勘弁してあげることに。 「解ったよ、じゃあこの老人。」 「このゴツい奴よりはいいか・・・」 渋々と弱そ〜な老人を選択する小次郎。 「それじゃあ私は・・・この端正な顔立ちの美青年にするか。」 人の事を棚に上げておきながら、 自分はちゃっかりと小次郎も羨む程のカッコイイ男の子を選んでしまった。 「あ〜!きったねえ!!自分だけ俺様レベルにカッコイイ男を選びやがった!」 「うるさい!私はいいんだよ!!」 「そんな無茶な・・・」 トホホ・・・なんて理論なんだろう・・・。 <Scene 3> 「くそっ!何で勝てないんだ〜!!」 「はっはっは、小次郎とは出来が違うんだなあ!」 もう何十回と対戦した事だろうか。 当然、2人共ゲームに関してはド素人(対戦格闘なんて尚更)なので、 まりなとか熟練者から見ればかなり低レベルな戦いを繰り広げているのだが、 小次郎と遊ぶ前にまりなと対戦していたことが糧になっているからなのか、 それとも弥生にそれがしの隠れた才能があるからなのか、 何度やっても小次郎は弥生に勝つ事ができなかった。 弥生と同じく負けず嫌いの小次郎である。 最初は乗り気じゃなかったものの、勝てないことが悔しくて次第に熱くなっていた。 「大体なんだよこの爺さん!動きが遅いわ、たまにギックリ腰になるわ!」 「ぼやくな、小次郎。お前も年をとったらこうなるかもしれないぞ。」 まだ正確に狙って出す事は出来ないのだが、 弥生は入力が簡単な必殺技なんかも出せるようになっていた。 こうなるとどうしても差が出てしまうのは仕方ない。 実際、こういうのは小次郎の方がすぐに適応できそうなものだが、 どうもゲームに関してはそうもいかないみたいである。 「どうした、もう一回やるか?」 優越感有り有りの態度で小次郎を挑発する弥生。 勿論、そういった態度に出る事で小次郎が更に熱くなると見越しての挑発である。 しかし、弥生にとって予期せぬ返答が小次郎から返ってきた。 「んー、もういいや。これ以上やっても勝てなそうだし。 なんか時間の無駄に思えてきたんでね。」 「えっ?」 一瞬にして弥生の顔が不安と困惑の混じった顔に変わった。 まさかここで諦めるとは思っていなかったからだ。 それよりも、お互い探偵業に忙しい日々を送るが故に2人の時間があまり持てない中、 こうやって2人っきりでテレビを前にして遊ぶ事で少しでも同じ時間を共有できることが 何とも言えず幸せに感じていた弥生には、ゲームを止める事は非常に辛い事だった。 「・・・」 コントローラーを握った手は力なく膝の上に置かれ、 肩を落として寂しそうな目をする弥生。 勿論、そんな表情の変化を見逃す小次郎ではない。 「ははは、そんなにガッカリするなよ。 折角の休みだろ、他にやることは一杯あるじゃねーか。 ・・・でも、寂しそうな弥生の表情・・・なんか可愛かったな」 「なっ!!」 一瞬にして弥生の顔が真っ赤になる。 2人の時間をもっと共有したい、これは弥生だけではなく小次郎も思っていたことだった。 普段は小次郎の前でさえ見せる事のない弥生の表情、 2人きりのプライベートな時しか見せない弥生の素の表情。 そんな愛しい人間の本当の姿を感じる事が出来る時間を大切にしたいと思うのは 何も弥生だけではないのである。 「こ、こじろう・・・」 「ん?」 小猫のように小次郎の元へ擦り寄る弥生。 嬉しさを言葉で伝えるのが恥ずかしく、態度で表現するそんな弥生の姿も愛しかった。 もう、言葉はいらない・・・ ガチャ! 「はろはろ〜!」 しかし、そんな2人の世界は一瞬にして切り裂かれた。 「ま、まりな!!」 慌てて小次郎の元を離れる弥生。 小次郎も流石に顔を赤くしてまりなから視線を外した。 「そろそろ上達した頃かな〜と思って対戦しに来たんだけど・・・ んもう、御取り込み中だったのね。」 まりなは呆れた表情で2人を眺め、そして踵を返す。 「ま、私に止める権利は無いからいいんだけど、 ドアに鍵くらいはかけておきなさい。」 「あ・・・」 バタン! まりなが出て行った後も暫く沈黙が続いた。 それも何分続いたのだろうか、恥ずかしさを振り切るように小次郎が話し掛けた。 「・・・もう1回、やるか?」 「あ、ああ」 再びコントローラーを持つ2人。 こうして、2人の時間は過ぎて行った・・・。 おわり |
四方山話(言い訳) |
ZEROではまりなが「ゲーム好き」という設定で、 そして、弥生に「ゲームやらないの?」と聞くシーンがありました。 このやり取りを見て、 「弥生がゲームやるとしたらどんな感じだろうなあ」 と考えたのが始まりでした。 本当は小次郎の方がゲームは上手そうなんですけど、 弥生の寂しげな顔へ持っていく展開にしたかったのがありまして、 この辺はちょっと自分のイメージを崩して書いてみました。 あと、まりなの台詞がちょっと私には難しかったですね。 彼女の話し方が(というより言葉の選び方って言うのかな?) ちょっと妄想するのに苦労しました。 もっとまりならしい良い言い回しが沢山あると思います。 (やっぱ、愛の違いかなあ??) 恥ずかしながら私の実生活においても 「2人で仲良くゲームをやって過ごす」 というシチュエーションに憧れていた為、なんかシンクロする部分があるんですよ。 まあ、肩を寄せ合う展開は別にいいんですけど・・・。 余談ですが、2人がやっているゲームはPSのギルティギアという格闘ゲームです。 (弥生は「カイ」、小次郎は「クリフ」を選んでいます。) 御存知の方はピンときたのではないでしょうか。 ちなみに、ACやDCで続編が人気稼働中でございます。 我がサイトではEVEメインにも関わらず、ギルティギアの話題で盛り上がる事もしばしば。 格闘ゲーム好きの方は、機会があれば是非プレイしてみて下さい。 面白いですよ。 |